―――詠―――
虎牢関に詰めていた友哉たちが帰ってきた。報告では敵の火計によって関はほぼ全焼。一回攻めて帰ってきたらしいが減らせたのは一万がやっと。恋・霞・莉空・友哉が完全に敵将に抑えられたらしい。対するこちらの被害は二万。残存は連合が十四万、こちらが一万五千。緊急に召集して何とか二万。
どうしろって言うのよ。もう何やっても勝ち目がないじゃない!唯一の望みは恋。友哉も無傷だが恋には及ばない。幸い敵は虎牢関を燃やしたため暫くは攻めてこないだろう。しかしこれ以上の戦力強化は絶望的。この戦力で何とかあの『作戦』まで持ち込まなければならない。
友哉「すいません、詠さん」
詠「まったく、どうするのよこれじゃどうしようもないじゃない」
分かっている。友哉だって・・・いや友哉が一番つらいのは分かっている。でも私は誰かにぶつけないと、誰かに支えてもらわないと立っていられない。いつの間にか私は、私たちは友哉がいないとだめになってしまっている。
詠「まぁ、どうせ何か考えてるんでしょ?」
友哉「えぇ。まぁ一応ですけどね」
苦笑いする友哉。こんな顔をするときは大抵自分を犠牲にするときだ。普段ならすぐにでも止めるんだけど、今はとりあえずでも聞くしかない。
友哉「洛陽での決戦は野戦にしてください。五千だけ城の防衛に回してください。敵が予定数まで減ったら『作戦』を決行してください。無理だったら全滅したらでお願いします」
詠「全滅したらって!?アンタ死ぬつもりなの!?」
友哉「いえ、俺は多分助かっちゃいます。偶然なんですけど、孫策と契約してましてこの戦いが終わったら呉に行くことになってるんです。だからたぶんですけど孫策が何とかしてくれると・・・」
詠「呉に行く!?・・・はぁ」
さっきから驚愕の事実を突きつけてくる友哉はやっぱり苦笑い。悩んだ末の、もしくはどうしようもない状況だったのだろう。これも自分たちのことを想ってのことだと分かるから責められない。
詠「分かってるんでしょうね。全滅ってことは・・・」
友哉「はい、わかってます・・・」
一転して暗い表情に変わる。友哉は私たちの中で最も兵士たちと仲がよかった。この決断も友哉が一番つらいはず。だから私は友哉の決心を、決意を無駄にすることはできない。これまでの戦いで私たちのために散っていった兵士のためにも・・・
詠「分かったわ。なら絶対に予定数まで減らしなさい!減らさなかったら許さないんだから!」
友哉「了解。じゃあ俺は準備してきますね」
詠「生きて帰ってきなさいよ、馬鹿・・・」
部屋を出て行く友哉に向かって聞こえないようにそう呟く。友哉にもらった勾玉をギュッと握り締めて・・・
―――莉空―――
莉空「すまなかったな」
友哉「莉空さんが無事ならそれでいいんですよ。そんなことより今はゆっくり休んでくださいよ」
洛陽の城の医務室。私は肩をざっくり斬られたせいで寝台に寝ていなければならない。次々に月達が見舞いに来てくれて、今は友哉が見舞いに来てくれている。あの時友哉が助けてくれなければ今ここにはいられなかっただろう。
友哉「莉空さんが勝てなかったら俺も勝てませんでしたし」
友哉との実力はほぼ互角で良き好敵手でもある。でも申し訳ないのはそれだけじゃない。
莉空「それだけじゃない。次の戦いにも出られなくなってしまった」
他のみんなが命をかけて戦っているときに自分は一人こうしてじっとしているだけ。それが一番悔しい。
友哉「・・・絶対に護って見せますよ。月達も街のみんなも、もちろん莉空さんもですよ(ニコッ)」
莉空「友哉・・・////。絶対に、帰ってこいよ」
友哉「はい、約束です」
いつも見慣れた友哉の笑顔。だが今日の笑顔はどこか憂いを含んでいる。恐怖なのかそれともただ疲れているのかは判らない。
莉空「約束か・・・なら誓いの・・・くくく口付けを・・・・・・(ボソッ)」
友哉「え?何ですか?」
後半は濁したため友哉には聞こえなかったらしく顔を近づけてくる。
好機だ!これを逃せばもう二度とこんな好機はめぐってこない!私は何を恐れる!猪突猛進が私の数少ないとり柄じゃないか!
チュッ
少し体を起して友哉の唇を奪う。だがこんな状態で体を起こせば当然・・・
莉空「っつう!」
友哉「え!?って駄目じゃないですか、ちゃんと寝てないと/////」
莉空「あ、あぁ/////」
友哉が一瞬たじろいだように見えたがすぐに冷静になって私を寝かせる。だが私は見逃さなかった。友哉の顔が赤くなっているのを。
あぁ、紅潮している友哉も・・・
友哉「それじゃあ俺は明日の準備してくるんで失礼します。ちゃんと体休めてくださいよ?」
莉空「わかっている。友哉が帰ってくるのを待ってるからな」
友哉の後ろ姿をこの目に焼き付ける。また見れることを願いながら
―――恋―――
ワンワンッ
恋「セキト」
友哉「しばらくはお別れだね」
友哉と家でみんなのご飯。もうすぐこの近くで戦う。だからしばらく会えない。敵の方が多い。でも恋がみんな護る。友哉も、月も。
ワフッ
友哉がセキトを撫でてる。セキトもうれしそう。
恋「・・・んふぅ」
恋も撫でられた。友哉に撫でてもらうと気持ちいい。
友哉と恋はおなじ。だから分かる。友哉、今つらい。何でかはわかんない。だから恋が一緒にいる。
恋殿ぉ~~~
友哉「恋、そろそろ帰ろう。ねねさんも呼んでるし。それに詠さんに怒られちゃうよ?」
恋「・・・(コクッ)またね、セキト」
友哉と一緒に家をでる。しっかり手を握る。
友哉「頑張ろうね、月達のために」
恋「恋も頑張る。友哉のために」
すぐに敵が来る。今までで一番おっきい。
―――月―――
月「あれは・・・友哉さん?」
日が落ちてあたりは真っ暗に静まり返っている。月がふと城壁の上に視線を向けるとそこには見慣れた人影。
月「友哉さん」
友哉「?月さん、こんばんわ」
月「こんばんわ。どうしたんですか、こんなところで?」
友哉「べつにどうということはないんですけど・・・なんとなく、ですかね」
友哉さんはそういって待ちの外のほうを向く。私もその視線を追っていく。友哉さんの見つめる先にあったのは連合の夥しいまでの数の天幕。煌々と明かりがともっている。
月「いよいよ明日ですね・・・」
友哉「はい・・・」
友哉さんの表情は晴れない。いつもより沈んでいるように見える。
月「怖い、ですか?」
友哉「!?」
月「いいんですよ、今日ぐらい。私を頼ってもらっても。誰にも言いませんから」
そっと友哉さんを抱きしめる。すぐに嗚咽が聞こえてくる。
友哉「・・・(ひっぐ)・・・こわい、です・・・みんなが・・・(ぐすっ)一緒に、訓練したみんなが・・・(ぐすっ)・・目の前で、死んでいくのは・・・俺は、何にもできなくて・・・」
月「!?」
予想外だった。この人は明日自分が死ぬかもしれないのに、人のことを想って泣いているのだと。自分の無力さを嘆いているのだと。こんな人だからこそ私は惹かれたのかもしれない。
月「大丈夫です。今日は泣いてもいいんです。だから、明日からしっかり胸を張って、その人たちのためにも堂々と生きていきましょう」
ついに友哉さんが声を出して泣き始める。友哉さんが涙を流すのを見たことはあったが泣いているところを見るのは初めてのことだった。
あれからどれほどの時がたっただろうか。友哉さんは私の中で泣き続けた。しかし今はもう普段の様子に戻っている。
友哉「ありがとうございました」
月「いえ、私にできるのはこんなことぐらいですから」
友哉「明日、絶対に計画を成功させて見せますから。恋と二人で還ってきます!」
月「絶対に、ですよ?」
友哉「はい!」
黒く染まった空を仰ぐ。そこに輝くのは数多の小さな光のみ。やさしく大地を照らす月の姿はどこにもない。そんな新月の夜だった。
―――霞―――
霞「アカン、絶対にあの二人に手ぇ出したらアカン」
曹操「なぜなのかしら?」
ウチは曹操に捕まえられて今は連合の軍議で見世物にされとる。集まっとるんは劉備・曹操・孫策。それとそれぞれの軍師が一人二人。あとは劉備ん所の『天の御使い』。
霞「友哉が暴走したら、みんな死んでまう。みんなや」
周瑜「それは『天災』だから、ということか?」
劉備「さすがにこの数ならそれはないんじゃないのかな?」
曹操「面白いじゃない。我が覇道に華を添えるのにうってつけだわ」
北郷「ところで、天城と呂布は生け捕りにしたところが貰うって事でいいのかな?」
孫策「いいんじゃない?まぁ、行くかどうかは本人たち次第だと思うけど」
曹操「こちらもそれで異論はないわ」
孫策「(悪いわね。天災君はもううちと契約済みなんだけどね♪)」
こいつらは友哉の恐ろしさをまったく理解しとらん。あん時、友奈が出てきたときでさえ恋とおんなじぐらい強かったっちゅーに、あれを超えるとなると・・・ほんまに一人で皆殺しにしてまうかもしれん。
それにそないなことを思い出したら友哉は壊れてまう。絶対に壊れたらアカンで友哉。
手枷のつけられた手で胸の勾玉をそっと握る。一番好きな人の無事を祈って。
つづく
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第二十話
『決戦前日』