―――友哉―――
虎牢関は燃えていた。外壁はもちろんのこと、関内部までもが燃えている。
――どうなっているんだ!?敵襲か!?
そんなことを考えていると頭上から何かが降ってくる。俺に当たることはなかったがそのソフトボールほどの大きさの物体は地面に落ちて割れてしまう。音からするに陶器だろう。しかし問題なのはその中から飛び散った液体だ。俺はそれを指につけにおいをかぐ。
――油!?これが火事の原因か!となるとやはりこれは敵による火計!
そんな間にもあちこちに同じような油の入った陶器が降ってくる。そこへ大量の火矢が飛来し一気に火の手が挙がっている。兵たちは慌てふためき虎牢関内は混沌と化していく。
――とりあえず恋達と合流しないと!
各人の部屋や作戦室などを探し回るが姿は見当たらない。そんなことをしている間にもどんどん火の手は回り負傷者の数は増えていく。一応砂をかけたりして火を鎮火しようとしているがまさに焼け石に水が如く、勢いは収まるところを知らない。
一人の兵士がこっちに向って走ってくる。
兵士「天城将軍!陳宮様よりの伝言です!すぐに部隊をまとめ門へ集合、そのまま敵陣を強襲し撤退するとのことです!」
兵士は関内を走り回っていたのだろうか、体中が煤で黒ずんでおりところどころ火傷を負っているようだ。
友哉「了解しましたと陳宮さんに伝えてください」
俺の言葉を承服しもと来た方へと走っていく。その後ろ姿を見ている暇もなく俺も自分の役割を果たすため走り出す。
――この虎牢関は諦めるということだろうな。それもやむなしか・・・このまま洛陽に撤退するつもりだろうか。そうなってもらえればこちらとしてはありがたいが、いかんせん敵が多すぎる。ここで少しでも減らしておかないと
部隊を集結させ門へと集合するとそこには恋・霞・莉空がそれぞれの部隊に命令を出していた。
ねね「遅いのです!」
友哉「ごめんなさい。さっきまで寝てたもので」
すぐにねねが批難しに走ってきた。そこで俺はねねから現在の状況と今後の方針を聞く。
――やはりここを捨て洛陽へと戻るか・・・
俺の読みは当たっていた。これであの作戦を実行できる。しかしその前に敵をできるだけ減らしておかなければならない。そのために俺は自分の部隊を鼓舞し戦場へとむかう。
友哉「者ども聞け!我らは敵の奇襲を受け現在非常に劣勢に陥っている!この業火で死んだ者も多くいる!しかし我々は違う!この業火の中を生き延びた者たちだ!我らは火の加護を受けたのだ!恐れるものは何もない!散って行った者たちの魂と火の加護を背負い敵を食いちぎってしまえ!全軍出撃!!!!」
「「「「「「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ」」」」」」
―――趙雲―――
目前には赤々と天を染める紅蓮の業火に包まれた虎牢関。兵たちは策の成功を喜び称え合っている。この策のためこの一ヶ月単調な攻めしかできなかったため、喜びもまた大きくなる。
諸葛亮「上手くいってよかったでしゅ」
――かむ姿もなかなかにいじらしい・・・
この策を考え付いたのがこの諸葛亮こと朱里だ。まだ幼さを残したその外見にはそぐわぬ智謀をもった我が軍の筆頭軍師である。ただ上がり症というのが玉に瑕ともいえる。
趙雲「さすがに朱里の考えることはなかなかえげつない。して、これからどうなると見る?」
諸葛亮「はわわ、それは私よりも雛里ちゃんの方が」
鳳統「あわわ、敵がとると考えられる策は二つ。一つはこのまま虎牢関を捨て洛陽に戻ること、もうひとつは構成に打って出てそれから関を捨てて洛陽に戻ることでしゅ」
趙雲「やはりこの状況ではもう虎牢関にとどまるということは考えられぬか。どちらにせよ我らは攻めてくると考えて動くべきだろうな」
諸葛亮「はい。桃香様にはもう戦闘準備を伝えてあります」
趙雲「私はどうすればよいのだ?」
鳳統「星さんは鈴々ちゃん・翠さんと一緒に呂布さんをとめてください」
――ついにあの呂布と相見ゆることができるのか
趙雲「愛紗はどうするのだ?」
鳳統「華雄さんを攻めてもらいます。遊撃部隊である張遼さんは無視して、天城さんは孫呉のかたが相手にするそうです。ただ・・・」
そういいかけて雛里の表情が曇ってしまう。どうやら何か腑に落ちないことがあるようだ。
趙雲「どうかしたのか?」
鳳統「曹操さんの動きがまったくわかりません」
曹操軍。現在の連合においておそらく最大の戦力を誇っているだろう。それなのに今回はその動きがない。何かをたくらんでいるのか、それとも洛陽のために戦力を温存しているだけなのか。さまざまな考えが頭の中に浮かんでは消えていく。
――考えても仕方ない、か・・・
「「「「「「オオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ」」」」」」
紅蓮の業火の中から雄たけびが上がり、門から大量の董卓軍の兵士たちが走り出してくる。その様子はまるで・・・
趙雲「地獄の亡者だな。それでは私は天下無双をとめて見せよう、我が槍にかけて!」
槍を片手に敵陣へと走り出す。目指すは最も強い威圧感の『深紅の呂旗』。途中で鈴々・翠たちと合流、敵を蹴散らしながらただ只管に奔走する。
しばらく走ると人をまるで人形のように人間を宙に飛ばす少女を見つける。呂布奉先。その武は天下無双と謳われ、一人で三万をも倒してしまうというまさに一騎当千を体現したような人物。しかしその少女の印象はそんな肩書きは似合わない。
趙雲「お主が呂布か?」
戦闘体勢をとり警戒しながら、人を玩具のように切り伏せていく少女に問う。
呂布「・・・誰?」
趙雲「我が名は趙雲!我が主劉備様の命によりてお主の相手をさせてもらう」
張飛「鈴々は張飛なのだ」
馬超「あたしは馬超だ」
呂布と思われる少女が戟を構え直すと、雰囲気が一変する。全身がしびれるような殺気。怒り、憎しみ、敵意さまざまなものが渦巻いている。ここまで気おされるのは正直初めての体験だ。
呂布「・・・お前たちも、恋の邪魔するの?・・・恋を、友哉を傷つけるの?なら全員殺す!」
趙雲「いざ参る!」
自分の最速ともいえる突きを連続で繰り出す。並みの将では絶対によけられない、だからあたることはなくともかする程度はするだろうという自信があった。しかし、そんな自信は三国無双の前では無意味だった。
呂布「・・・遅い」
すべてをいとも簡単によけられてしまう。その戟で防ぐことは一度もないままに。最後の一撃は間違いなく人生で最速の突きだったと自負できる。しかしそれを呂布につかまれてしまった。そのまま愛槍・龍牙を投げられる。あまりのことに手を放すこともできず体ごと投げ飛ばされてしまう。
張飛「次は鈴々なのだ!!」
鈴々は私と違い速さではなく力で押していく戦い方だ。突きではなく薙ぎ払いを得意としている。やはり鈴々も最高の力を込め、上段から思い切り蛇矛を振り下ろす。愛紗でさえまともに受けることをしないその破壊力。
ガキンッ!
趙雲「なんということだ!?」
鈴々の蛇矛を呂布の戟が受け止めている。しかもその戟を持っているのは右手のみ、つまりその攻撃は片手で十分だということだ。
呂布「・・・弱い」
張飛「にゃ!?(ボコッ)グエッ!ゲホッ、ゲホッ!」
趙雲「大丈夫か!」
蛇矛を戟で払いのけ、空いていた左手で鈴々の腹に強烈な拳撃が打ち込まれる。その衝撃を後ろに受け流すこともできずその場で崩れてしまう。下手をすると肋骨を折っている。
馬超「次はあたしだぁ!!しゃおらぁぁぁ!!!」
翠は技を重視する。流れるような突きと払いの連続技を繰り出すが、やはり呂布の前ではすべてが無意味。そのすべてを戟で受け流されてしまう。
馬超「なに!?」
呂布「・・・お前も、弱い」
一つ一つの攻撃から攻撃に移るわずかな隙、私たちから見てもほとんどわからないその間に呂布は戟で翠の足を払うとそのまま倒れようとする翠の脇腹にこれまた強烈な蹴りを入れる。
馬超「グアッ!!」
幸いにも翠は受身を取れた。鈴々ほど心配はないだろう。
馬超「化け物かよ、こいつは!」
張飛「全然敵わないのだ」
――こんな奴を相手に私たちは勝てるのだろうか?
今までここまで戦場で敗北を身近に感じることはほとんどなかった。しかしこのままでは・・・
ジャーン、ジャーン、ジャーン
銅鑼が三回鳴り響く。どうやら連合の銅鑼ではない。ということは・・・
呂布「・・・今日はもうお終い」
呂布はそういい残して馬にまたがり関の方へと帰っていく。三人ともその後姿をただただ黙ってみているしかできなかった。みな心中は同様に己の無力感を感じている。
―――夏侯惇―――
夏侯惇「ハハハッ!!私の勝ちだ!諦めてさっさと我らに降れ!」
目の前には武器を失った敵将・張遼。そして奴を囲むように、私・秋蘭・季衣・流琉・凪・沙和・真桜。奴の武器は私の横の地面に突き刺さっている。なぜそうなったかだと?そんなの当たり前だ!私と秋蘭の連携に勝てるものなどいるはずもない!
奴が悔しそうな顔をしている。まぁ当然だろうな。遊撃部隊として動いていたつもりが、いつの間にか我らに周りを囲まれていたのだからな。さすがは桂f・・・いや、軍師なのだ、これくらいできて当たり前だ!
夏侯惇「さっさと答えんか!お前は我らに降るのか、降らないのか!」
まぁここまできたら答えはわかっている。あいつも私と一緒で戦いが好きだというではないか。なら負けているところにいても意味がない。勝っているところ、素晴らしい華琳様の元へ来るのが当たり前だ。なんせこの私でも絶対にそうするからな!
(にやにや)
おっといかんいかん。つい華琳様に褒美をもらうところを想像してしまった。まぁこれで今夜の閨も確じt・・・
張遼「断る!」
夏侯惇「!?」
奴は今なんと・・・なんと言ったのだ!?
夏侯惇「もう一度いってみろ!」
張遼「せやから断る言うてんねん」
夏侯惇「断る!!」
張遼「はぁ?自分なに言うてるん?」
こいつは何を言っているのか。あの素晴らしい華琳様の元で働けるのだぞ?董卓軍にいる理由なんてないじゃないか。
夏侯惇「だから、断r「春蘭!」・・・華琳様?」
曹操「張遼、あなたがこの誘いを断る理由は何なのかしら?」
いつの間に来ていらっしゃったんだろう?華琳様が私の後ろに張遼に声をかけられる。
張遼「うちもちょっと前までならのんどったかもしれん。せやけど今はちゃうねん!うちにも本気で守りたいって思えるもんができたんや。せやからあいつが戦っとるうちは、うちは降ることはせん!」
曹操「そう。これもあの『天災』の影響なのかしら?フフッ。まぁいいでしょう。あなたには捕虜になってもらうわ。いろいろ聞きたいこともあることだし丁度いいわ。じゃあ後は頼んだわよ、秋蘭?」
夏侯淵「はっ!この者を捕らえ、牢の中に入れておけ!」
数人の兵士が張遼に手枷をつけ連れて行く。これでここでの私たちの目的は達成できた。むぅ、できれば私はあの飛将軍と一戦交えてみたかったのだがな・・・これも華琳様のためだ、我慢しよう。
ジャーン、ジャーン、ジャーン
銅鑼が鳴り響く。どうやら敵が撤退するようだ。また逃げるのか。鬱陶しい。今すぐにでも叩切ってやりたいが華琳様のお側を離れるわけにはいかん。やはり我慢しよう。
・・・?なんだか今日は我慢してばかりではないか?
―――関羽―――
交戦を初めて間もなく私は激戦地の真っただ中にいる。敵はかの猛将華雄の部隊らしい。うわさ通りの強者ぞろいだ。私の兵もかなりの強さだと自負しているが、徐々に押され始めている。
華雄「見つけたぞ!!よくもこの前は散々私を罵倒してくれたな!!」
関羽「華雄か。ちょうど私も骨のある奴と仕合いたいと思っていたところだ」
二人の闘気がぶつかり合い全身がしびれるような感覚に見舞われる。
華雄「おりゃぁぁぁぁあああああ!!!」
戦斧を上段から振り下ろしてくる。全体重を乗せたその戦斧を両手で支えた堰月刀で防ぐ。
関羽「グゥッ!!」
――重い!なんという重さだ!
関羽「次はこちらの番だ!!」
横薙ぎに一閃する。しかしそれは戦斧で受け止められる。
華雄「なかなかやる!口先だけではないということか!楽しめそうだ!」
関羽「とことん死合おうではないか!」
何合も打ち合う。しかし両者の武は全く以て同等。ちょっとした拍子にどちらかに軍配が上がってもおかしくない。何合が何十合に変わり、始めてからはや四半刻(三十分)が経とうかという時、ついにこの勝負が結末を迎える。
右上段から左下段に向かって打った切りが、華雄によって思いっきりはじき返されてしまう。重心は後ろに移動してしまい上体がのけぞってしまう。
華雄「もらったぁぁぁぁあああ!!!!」
そのまま華雄が返す刀で切りこんでくる。バランスを崩されたままでは到底よけることはできない。華雄の顔に勝利の喜びがにじみ出ている。
関羽「まだだぁぁあああ!!!」
はじき返されたときに受けたモーメントをそのまま利用し左下段から堰月刀の柄の先を華雄めがけて振り上げる。作用点が重い戦斧の刃である華雄と軽い柄である上に先ほどのモーメントが加わっている私。速度で勝っているのは・・・
華雄「ぬぐぅぅ!!」
私だ。そのまま華雄の顎に命中し乱れた華雄の攻撃を難無く柄で受け止める。
関羽「はああぁぁぁ!!」
振り上げた堰月刀を今度は振り下ろす。
ザシュ!!
意識が朦朧としている華雄にこの一撃を防ぐすべはない。肩に私の堰月刀が深く突き刺さる。
華雄「グアアッ!!」
関羽「お前の負けだ華雄!さぁ何か言い残すことはあるか?」
華雄「・・・クソッ!!」
関羽「無いようだな、それならば・・・とどめだぁ!!」
私はとどめを刺すべく堰月刀を天高く振り上げる、しかし・・・・
ピカアアァァァァァッ!!!!!!
あまりのまぶしさに目を瞑ってしまった。
暫くして、漸く光が収まり視覚が正常に機能しだす。
関羽「・・・なっ!?」
するとそこには先ほどまで肩から血を流し、ひざを突いていたはずの華雄の姿はなかった。
つづく
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黒天伝・第十八話。
cherubはあさってから試験なので暫く離脱します。
いい成績をとって帰ってくることを祈っていてください!