―――友哉―――
霞と袁術・張勲を連れて虎牢関に戻った友哉は、二人を保護することになったいきさつを霞に説明していた。あの後、あっという間に連合軍は壊滅したが、袁紹の姿はどこにも見つからなかった。ここまで無傷で来ていた二軍は合計十五万も残っていたが六割の約十万は死亡、残った五万は他の連合軍に吸収された。
つまり連合の残存総数は十五万、とはいえこちらにも一万程の損害が出ている。残ったのはたったの三万五千。いまだに敵の数はこちらの五倍。攻城戦には三倍の数が必要というのはクリアしているということだ。
しかし、いま火急の問題は・・・
霞「理由はわかった。確かにこんなガキんちょを殺すのはあかんと思う。でもこいつが敵さんを連れてきたんはどうしようもない事実や。そんなんが詠っちあたりにばれてみいや、一発で殺されてまうで」
――たしかに、霞さんの言っていることは正しい。でも、俺にこの二人を殺すことも見放すこともできない。
友哉「もしそうなったら俺が全力でかばいます!二人の責任は全部俺が負います!」
袁術「主様・・・」
張勲「友哉さん・・・」
霞「うぅ・・・。そないに本気なんか。そんなら・・・でも何もなしで許すんはあかん。うーん・・・(ニヤッ)」
――霞さんが何か考えてたみたいだけど、今絶対笑ったよね!?面白いとかでもなく不敵な笑みってやつだよね!?絶対何か企んでるよね!?
霞「よっしゃ決めた!友哉が今日うちと一緒に寝たら許したるわ!」
友哉「はあ!?」
袁術「なんと!?」
張勲「やっぱり種馬だったんですね!?」
――いまなんて?一緒に寝る?霞さんと俺が一緒に寝る?
霞「ほんなら今すぐ寝るで!うちの部屋までついてきい」
友哉「・・・(ボッ)」
霞が沸騰した友哉を連れて(引きずって?)部屋から出て行くのを袁術と張勲の二人はただただ見守っているしかなかった。
袁術「な、七乃。妾はどうすればよいのじゃ」
張勲「どうすればいいんでしょうか・・・」
袁術・張勲「・・・はぁ」
――――――
―――霞―――
霞の部屋。要塞の一室ということもあり、将軍の部屋でも決して広くない。武具を入れる棚一つに一人寝るのがやっとの寝台がようやく入る程度だ。その棚には今は飛龍堰月刀だけではなく、六振りの刀が置かれている。
霞「なにしとるん?はよう入りいや」
部屋の入り口で立ち尽くしている友哉に、寝台の自分の隣を叩き呼ぶ。
友哉「・・・」
霞「もうええからはよう来いや」グイッ
友哉の手をつかみ布団の中に引きずり込む。
――うちかて恥ずかしいんやからな
友哉と霞は互いに見つめあう態勢になる。暗くてたがいに見えてはいないが頬を赤く染めている。
霞「なんか言うてえな」
友哉「・・・(ハッ)」
友哉の正常な思考が帰ってくる。
友哉「その、ありがとうございます」
霞「ええんや、ええんや。どこまでも友哉は謙虚やな」ムギュ
友哉の頭を胸に抱きこむ。すると当然友哉はその感触を頭で感じるわけで・・・
友哉「★■※@▼●×っ!?」
胸に圧迫されてまともな言葉にすらなっていない。
霞「いっぺんこうしてみたかったんや」
友哉「もがもが・・・ぷはっ」
友哉は胸から顔を脱出させじっと見つめてくる。どこまでも透き通った蒼色。その後ろにどんなものが隠されているのかは到底図り知ることができない。でも、だからこそ友哉のことを守ってあげたい。
霞「うちな、友哉がきてくれて感謝しとるんよ。うちにもやっと守りたいもんができたんやって。もちろん月っちたちもうちの守りたいもんやけど、全然違うんや。さっきうちの鼓動聞いたやろ。なんでやろ、友哉とおるといっつも胸がどきどきすんねん」
友哉の髪をすくように頭をなでる。戦場だから風呂に入ることはできないのに、とても綺麗で手触りのよい友哉独特の蒼色の髪。友哉はもともとは黒い髪だったといっていたけれど、この髪が友哉によく似合っていてみんな大好きだった。
霞「うちには友哉がどんなもんを抱えとるんかはわからん。でもな、少しはうちらを頼ってくれてもいいんやで。みんな友哉のことが大好きで、守りたいんや」
友哉「・・・」
霞「友哉?」
友哉「・・・すぅ」
返事がないと思っていたら友哉の寝息が聞こえてくる。
--なんや寝とったんかいな。まぁええわ、今日は友哉を独り占めできるんやからな
霞「ん?」
友哉の手が背中にまわされ抱き返してくる。
友哉「・・・お母さん」
霞「なっ/////////」
--お母さんて。うちはお母さんよりも・・・(ブルブル)あかん、今日はもう寝よ
二人はそのまま抱き合って眠りへと落ちていく。二人の胸元には月光に照らされて蒼と紫の勾玉が煌いていた。
次の朝起きてみると、なぜか寝台の上に恋が増えていたのはいうまでもない。
―――孫策―――
遥か前方、おそらく虎牢関があるだろう場所より少し手前の空が明るんでいる。はじめは日が昇ったのかとも思ったが、まだそんな時間ではない。それに日が昇る方向は違う。それはつまるところひとつの意味に収束する。
孫策「はやさは、『力』か・・・」
周瑜「まったく困ったものだな、あの天災君も・・・」
いつの間にか隣に冥林が来ていた。私と同じように遠く虎牢関を見やっている。
孫策「でもますますやっぱり欲しくなっちゃうわ」
周瑜「確かに見事に虚を突いた策、それにあの行動力に加え武もそこそこあると聞く。人手不足のわれわれとしてはのどから手が出るほど欲しい人材ではあるな」
孫策「ほんとにそれだけかしら?」
私と冥林は幼いときからの親友だ。相手の気持ちぐらいすぐにわかってしまう。
周瑜「フフッ、さてどうかな?」
――もう、冥林ってば素直じゃないんだから。でも私はそんな冥林が大好きなんだけどね♪
周瑜「私も雪蓮のことが好きだぞ?」
孫策「お互い考えてることは筒抜けってことね」
久しぶりに二人で笑いあう。この戦が始まってからこんな時間はほとんどなかった。ただ単に冥林が忙しかっただけなんだけど。
孫策「でもあの子には感謝しないといけないかもね」
周瑜「そうだな。袁術を討ち取るところまではさすがに予想できなかったな。だがこれでわれら孫呉の宿願がかなうということだ」
孫策「母さまは私をほめてくださるかしら?」
黄蓋「戦の途中で気を緩ませているようではまだまだ堅殿に認めてはもらえんじゃろうな」
ふわぁ~と豪快なあくびをしながら祭がこっちに歩いてくる。やっぱり戦に体が疼いて目が覚めてしまったのだろう。私もその同類だからそんな気持ちはよくわかる。
孫策「はーい。祭も体が疼いたんでしょ?」
黄蓋「似たもの同士といったところですかな。それにしても董卓の軍はなかなかにやりよるのう。いくら袁家の兵といえども、あの兵数差で圧勝してしまうとは。これはなかなか楽しめそうじゃ♪」
孫策「よね。私も楽しみ♪」
周瑜「まったく。気が昂ぶるのはいいがその手に持っている徳利は私に預けてもらおうか」
孫策「うげっ。やっぱ冥林にはばれてたか。アハハーOTL」
文官である冥林にはこの昂ぶりは理解できないだろう。これは武人にしか理解することはできない。私のそれは孫家の血も相まって人より激しくなっちゃってるから、いっつも冥林のお世話になってるんだけど。
――ありがとね、冥林
周瑜「そう思うならその酒を置いていけ」
孫策「だから心を読まないでってば。ぶーぶー」
私の、孫策伯符の一日がこうして始まっていく。
――いつかあなたとまた話ができる日を待ってるわ、天城友哉・優しい天災君
袁紹・袁術を叩いた後、遅れて劉備・孫策・曹操など主要な面子が虎牢関を攻めてきた。さすがは鉄壁の要塞。やってくる敵の大軍を苦もなく撃退することができる。
そんなことが毎日続き、戦況は事実上硬直していた。そしてそんな日々が続き一ヶ月がたとうとしてい日の朝の出来事。
―――友哉―――
友哉「んーーーっ」
眠たい目をこすりながらとりあえずのびをしてみる。こちらの世界に来てからずいぶん長いが相変わらず朝に弱い。当然目覚まし時計なんてものはないわけで、会議に遅刻することもしばしば。
カンカンカンカン・・・・
外から鐘の音が聞こえてくる。この要塞では伝達の音は二つある。ひとつは敵襲を知らせる銅鑼の音。もうひとつは緊急事態を知らせる鐘の音。今聞こえているのは間違えなく鐘の音であるがため緊急事態ということになる。
――なにがあったんだろう?とりあえず外に出ないと
すぐに愛刀を腰に装備して部屋を出る。するとそこで目にしたものは・・・
そこかしこからあがる火の手だった。
つづく
あとがき
皆さんこんにちは。
いつも読んでくださってありがとうございます。
cherubです。
今回初めてあとがきを書きました。
もうひとつ初めてというのが今回の書き方です。
普段と少し変えてみたのですがどうでしょうか?
ほかの方の作品を読んでいて自分も取り入れてみようと思ったのですが・・・
これについての感想をいただけたらと思っています。
よろしくお願いします。
次は久しぶりの友哉の戦闘シーンを書くつもりです。
気長にお待ちください。
good-bye
Tweet |
|
|
4
|
0
|
追加するフォルダを選択
どうもお久しぶりです。
更新遅れて申し訳ありません。
なかなかまとまらなくて・・・
今回は今までとは少し違う書き方をしてみました。
それでは第十七話ごゆっくりお楽しみください。