No.216586

真・恋姫無双 EP.71 雷雲編(2)

元素猫さん

恋姫の世界観をファンタジー風にしました。
楽しんでもらえれば、幸いです。

2011-05-14 00:07:41 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4877   閲覧ユーザー数:4513

 七乃は書簡を抱えて、廊下を歩いていた。目的地は執務室だったが、ふと気になって中庭の方から回り道をすることにした。最近は風がいる事もあり、美羽を構う時間が減っている。それだけ仕事が溜まっているので、助かる部分も多いのだが、やはり寂しい気持ちもあった。

 

「美羽様、この時間なら中庭ですよね」

 

 こっそりその姿を見て癒されようと考えた七乃は、見つからないように柱に隠れながら中庭を覗く。だがいつもの場所に、美羽たちの姿はない。

 

「お部屋に戻ったのでしょうか?」

 

 仕方ないと諦めて行こうとした時、風の姿が目に飛び込んで来た。ちょうど、美羽の部屋の方から歩いてくる。声を掛けようとした七乃は、咄嗟に身を隠した。

 そっと覗き見ると、侍女が何かを風に手渡している。言葉を交わしているが、声は聞こえない。

 

(あの侍女は……)

 

 見覚えのある顔に、七乃は不安を覚える。宮廷内に他の豪族たちから送り込まれた者が居ることは、すでに承知していた。情報収集が主な目的で、敵勢力というわけでもないので特に排除はしていない。あの侍女もそうした者の一人で、七乃の記憶では雷薄と繋がっているはずだ。

 

(雷薄が風さんに?)

 

 侍女として接触しただけなのか、他の意図があるのか。七乃はしばらく様子を伺った。やがて侍女は去り、残った風が何か手紙のようなものを見ている。

 

(どうしましょうか……?)

 

 一瞬迷ったが、美羽に危険が降りかかる可能性を見過ごすことは出来ない。思い切って七乃は、風に近づいた。

 

「こんにちわ、風さん」

「これは七乃様。美羽様ならお部屋ですよー」

「お昼寝ですか?」

「はい。少し前まで中庭でご本を読んで差し上げていたのですが、眠ってしまわれたのでお部屋に運びました」

「ありがとうございます、風さん」

「いえいえ……」

 

 

 何気なく会話をしながら、七乃は今気がついたように装って風の手に握られた紙に視線を向ける。

 

「どなたかから、お手紙ですか?」

「侍女さんから受け取ったのですが、誰からかはわかりません」

「わからない?」

「はい。門番さんに渡されたようで……」

 

 七乃は、風の言葉を聞き逃さないように注意しながら、その表情の伺った。だが、その顔からは何も読み取ることは出来ない。眠そうな顔で、感情すら不明だ。

 

「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

「いいですよー」

 

 手紙を受け取って見るが、何も書かれてはいない。

 

「白紙ですね?」

「そうですねー」

 

 裏返してみるが、やはり何も書かれていない。七乃は、その紙を風に返した。

 

「不思議な手紙ですね?」

「悪戯かも知れません」

「そう……ですね」

 

 その場は頷き、七乃は風と別れて執務室に向かう。歩きながら考えた。

 

(何かの暗号? それとも特殊な方法でしか読めない手紙とか?)

 

 可能性はある。手紙は恐らく、雷薄からだろう。あの侍女が、わざわざ門番から受け取るわけはない。もしも本当に門番が手紙を受け取ったのなら、まず、自分にも知らせが来るはずだ。ましてや宛名もない手紙を、調べもせず渡すことなどない。

 

(買収されていなければ、ですがね)

 

 七乃の中で、風の存在がグレーゾーンへと移行してゆく。疑いたくはないが、信じるに足るだけのものがまだない。不安ばかりが、大きく膨らんだ。

 

 

 一刀たちが診療所を訪ねると、呂蒙が出迎えてくれた。

 

「ご無沙汰してます、呂蒙さん」

「あっ……北郷さん」

 

 呂蒙は持っていた書物を机に置き、小走りで一刀たちの元にやって来た。

 

「この前は慌ただしく出て行ってすみません」

「いえ、それはいいのですが……そちらも大変だったようですね」

「あれ? 知ってたんだ」

「はい。旅の商人さんに聞きました。北郷さんが身を呈して曹操様をお助けした美談、すごく感動しました」

「ははは、そんな良い話じゃないけどね」

「あっ、そうですよね。北郷さんは右腕を無くされてしまったわけですし……」

 

 そんな話をしながら、一刀はふと皆の距離感に気付いた。自分は呂蒙のすぐそばで話をしているが、霞と三匹の猫たちを抱いた稟がずいぶん離れた所で立ち尽くしている。

 

「どうしたの? 久しぶりの再会なんじゃ?」

 

 もっと懐かしがるかと思ったが、どうもよそよそしい気がする。思い出してみれば、ここで生活をしていた間も、呂蒙とはあまり関わることがなかった。

 

「稟たちはともかく、霞はずっとお世話になってたわけだし……」

「ウチはほとんど寝てたし……呂蒙は、何や怖いねん……」

 

 霞にしては珍しく、怯えた感じで稟の袖を掴んだ。

 

「あう……私は昔から、目つきが悪いとよく子供に怖がられていたのです」

「まあ、確かに目が鋭いよね」

「どうしても見ようとして目を細めてしまうんです」

「うーん……」

 

 一刀は腕を組み、首をひねって考えた。友好の第一歩は呼び方から、ということで互いの真名を交換し、自分の事も一刀と呼ぶように言い聞かせたのである。

 

 

 孫堅の墓所の前で、祭は小さく息を吐いた。

 

「このような形で、ここに来ることになるとはな」

 

 蓮華たちは雪蓮の行方を捜しているが、祭は冥琳の指示で暗殺者を追っていた。犯人の何かを探るため、現場に足を運んだのである。

 

「ふむ……明命」

「はい、ここに!」

「策殿が立っていたのは、この辺だな?」

「はい!」

 

 祭はまず、射手がどこから狙ったのか、その場所を特定することにした。

 

「見張りがあの辺に居て……あそこは枝が少し邪魔じゃのう」

 

 自分が射るならどこからか、祭はそれを考える。そしてある場所が、条件から浮かび上がった。

 

「あそこから狙ったのですか?」

「そうとしか思えん。じゃが並の腕では、届くことも出来んじゃろうな」

「では」

「間違いなく、かなりの遣い手じゃろう。おそらく自信もあったはず……そうでなければ、とてもこのような場所から狙おうとは思わん」

 

 勝負は一度きり。外せばすぐに、追い打ちを食らうのだ。

 

「儂の記憶では、これほどの腕を持つものはわずかしかおらぬ。じゃが、そのいずれも暗殺など行うようには思えんのじゃが……」

「可能性があるのでしたら、当たってみましょう」

「そうじゃのう」

 

 祭は頷き、かつての主の墓所を寂しげに眺めた。


 
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