No.213949

真・恋姫†無双~恋と共に~ 番外編 そのぜろ

一郎太さん

番外編という名の本編。

2011-04-29 00:23:27 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:13371   閲覧ユーザー数:8853

番外編 そのぜろ

 

 

 

時刻は夜。

とある街道沿いの、とある街。その中のとある宿屋のとある一室に4つの影があった。部屋の中央に置かれた卓の上には、火のついた燭台が置かれ、卓を囲む4人を薄らぼんやりと暗闇の中に浮かび上がらせる。

 

「それではこれより、緊急会議を始める」

 

低い声を発したのは一人の男。彼は卓に両肘をつき、両手の指を組んで顔を半分隠している。ただでさえ蝋燭の灯りで不気味な影は、いっそう不安を掻き立てる。

 

「えぇと、緊急会議、って議題は何なのですか?」

「わからないのか、『ミス・フレイバー』」

「ふ、触れ…射場………?」

 

初めてされる呼び方に、彼の左隣に座る、問いかけた少女は首を傾げる。その意味するところもわからない。

 

「ただのコード・ネームだ。気にするな」

「こぉど…寝ぇ夢?」

「我が国に伝わる、神聖なる議事の際に使用される呼び名だ。ここにいる3人は、会議においてコード・ネームの使用を命じる。理解できたか、『ミス・フレイバー』?」

 

嘘だけどな。彼は心の中で付け加える。

 

「えぇと…なんとなく………」

「という訳で、司会進行はこの俺、『ミスター・ソード』が担当する。…どうした、『ミス・ウィンド』?」

 

『ミスター・ソード』と自称した男が3人を見回すと、卓の反対側の金髪の少女が手を挙げた。

 

「いえ、風の…いえ、わたしの『こぉどねぇむ』を聞こうと思っただけですのでー。もう大丈夫です。おにーさんに『ミスター』という接頭語がついて、わたしたちに『ミス』という接頭語が共通するという事は、音から判断するに、男性と女性を表すようですねー」

「そうだ。流石は我が軍師だ。『ミス・ドール』とどちらにしようか迷ったのだが………まぁ、いい。そして最後の一人は『ミス・スリーピング』だ。このコード・ネームが示すように、彼女はすでに眠っている。………起きるんだ。『ミス・スリーピング』」

「………ん、朝?」

「いや、まだだが…会議中に寝るのはいただけない」

「………がんばる」

「いい娘だ」

 

『ミスター・ソード』は、眠い目を擦りながらも姿勢を正す『ミス・スリーピング』の頭を撫でる。

 

「………で、なんの会議、一刀?」

「「「………………」」」

 

なんか台無しだった。

 

 

 

 

 

 

「というわけで会議を行なおうと思うんだが………はい、風君」

「あぁ、もう『こぉどねぇむ』というのは止めたんですね」

「あれ以上続けるとグダグダになりそうだったからな。それで、なんだ?」

 

『ミスター・ソード』もとい、一刀は手を挙げた風に視線を向ける。恋は、瞼は開いているものの、虚空を眺めて眠そうにしている。

 

「はい。何の会議をするんですか?」

「その質問に答える前に、こちらから質問だ………我々の最近の状況をどう思う?」

「えぇと、どう思うとは?」

 

一刀は香にも視線を向け、彼女も素直に疑問を口にする。

 

「そのままの意味だ。こうして旅を続けてはいるが、俺にはひとつ気がかりがある」

「気がかり、ですか………」

「ふむ…最近恋ちゃんに女の子の日が来ない事ですか?」

「………………マジ?」

 

風の言葉に、一刀は急に素に戻る。姿勢は崩さないものの視線は風、香、恋と行ったり来たりしており、動揺が窺える。

 

「冗談です。おにーさんはまだ童貞ですので」

「………そういえば童貞でしたね」

「…恋たちの、次の道程はいったい何処へ………むにゃむにゃ」

 

寝言にまで童貞と蔑まれ、一刀は組んだ指に顔を埋める。このうえなく恥ずかしい。

 

「まぁ、その話は置いておくとして」

「おいておくんですか?」

「うるせぇよ。という訳で、最近の俺達なんだが………落ち着きすぎていないか?」

 

一刀は気を取り直して会話の軌道を元に戻し、先を続ける。落ち着きすぎている。そう言われれば確かにそうだ。反董卓連合もとうの昔に解散し、諸侯は善政をしようと努めている。実際に今いるこの街でも、太守や役人からの締め付けが弱まったという噂は何度か耳にした。

 

「えぇと、いい事じゃないんですか?」

「そですねー。恋ちゃんは相変わらずいっぱい食べますが、その食費を差し引いても路銀に余裕はありますし、賊も風たちが出る間もなく官軍が動いていますからー」

 

香は思ったことを口に出し、風は冷静に近況を分析する。だが、一刀はそうは思っていない。彼は大仰に首を振ると、もう一度最初の姿勢を作り、口を開いた。

 

「そうじゃない…そういう事ではないんだ………」

「「………?」」

「………zzz」

 

2人は同じように首を傾げ、恋は夢の世界に8割方旅立っている。

 

「そうじゃないんだよ。思うんだが………最近の俺達には、お笑い要素がないんじゃないか?」

 

一刀の発言に、2人は思わず耳を疑った。

 

 

 

 

 

 

2人が何も言わない事をあえて無視し、一刀は言葉を続ける。

 

「本来はさ、俺と恋の旅は基本的にお笑いがメイン………主題なんだよ。

例えば月と出会った時は、俺と恋とセキトは自分たちの空腹ですら笑いに持っていき、見事月の城に招待される事となった。城にいる間も、華雄や霞がちゃんとオチをつけてくれていたんだ。

その後南蛮に向かった時は、南蛮の民の存在自体が、それはもうお笑いだった」

「………美以たち、可愛い」

 

いつの間に起きたのだろうか。恋が合いの手を入れる。

 

「あぁ、可愛かったな。

で、次は孫策のところだ。あそこは基本的にお笑い要員が多いように思える。孫策はもとより黄蓋に、陸遜……はちょっと思い出したくない」

 

一刀は、書庫での出来事を思い出し、ぶるぶるっと身体を振るわせる。美人に犯されそうになる機会なんぞ、まずありえないが、それでもその経験をしてしまった一刀の心にはまだトラウマが根付いていた。

 

「俺と恋が城を出る前日には送別の宴を―――ささやかだが―――開いてくれたんだが、周瑜がすべてを持っていってしまった」

「………風と出会ったのはいつ頃ですか?」

「あぁ、そのすぐ後だよ。俺と恋は長沙の街を出て、賊に追いかけられている風と稟を助けた。稟、ってのは曹操のところにいる軍師の郭嘉だ。知ってるか?」

「いえ…」

 

ところどころ解説を入れながら、一刀は香にも話を振る。

 

「風と稟ともしばらく陳留まで旅をしたが、2人ともお笑い要素には事欠かなかった。風がボケをかまし、稟が鼻血を噴く。今では懐かしい光景だが、それでも立派にお笑い要員としての役目を果たしていたんだ」

「おにーさんは風をそんな目で見ていたのですか?」

「………睨むなよ」

 

ジト目で睨む風から視線を逸らしながら、一刀はさらに続ける。

 

「華琳―――曹操な。華琳のところは人が多い分お笑いも増えた。夏候惇と楽進と許緒は天然だし、李典と于禁はボケを担当し、楽進によるツッコミを謳歌していた」

「桂花ちゃんは?」

「荀彧か…彼女は性癖がギャグだな。まぁ…将棋ではしっかり落としてくれたが」

「ギャグ?」

「お笑いの事だ」

 

うっかり現代の言葉を使ってしまって、香に問われる。すぐに説明をすると、彼女も理解したように頷いた。

 

「連合の時は、まずあの戦自体がギャグとしか言えなかったよ。なんで5倍もいる相手と戦わなくちゃいけなかったんだ、っつーの」

 

思わず漏れる本音を、風と香は聞き流す。

 

「で、香を引き抜いてからは香がギャグ担当として―――」

「ちょっと!私はお笑い要員だったんですかぁっ!?」

「気づいてなかったのか?」

「気づいてなかったのですか?」

「………どうしようもない………むにゃむにゃ」

「………ひどいですぅ」

 

今度は香が3人から虐められ、卓に突っ伏してしまうが、誰もそれを慰めようとはしない。しばらくの間、その部屋には香の嗚咽だけが響いていた。

 

 

 

 

 

 

ようやく香も復活し、ここからが本題だ、と一刀は前置きをして口を開く。

 

「という訳で、これからしばらくは、『お笑い強化月間』として旅をこなしていきたいと思う」

「どういう訳ですか、もぅ………」

「いまだに凹んでいるこの処女は放っておくと―――」

「はぅっ!?」

「―――放っておくとして。風よ、何かいい案はないか?」

「風もまだ穢れを知らないのですが………」

 

いつもの如く半眼で見つめながらも風は眼を閉じて考える。

 

「………風ちゃん、どうですか?」

「どうだ、風?」

「………………………………………………ぐぅ」

「………寝ちゃってます」

「寝てないですよー」

 

これをツッコミと言ってしまえば、世の中の状況説明はすべてツッコミになってしまう。一刀から何もつっこまれず、香の無才能のツッコミに、風は諦めて眼を開けた。

 

「とりあえず言えることは、やっぱり香ちゃんはボケ担当ですねー。ツッコミなんて期待できません」

「そうだな」

「えぇと、ひどいですぅ…私だって……」

 

2人の辛辣な言葉に、香はうな垂れる。

 

「だったらこれから俺か風がボケを入れるから、何かツッコミを入れてみろよ。それがおもしろければツッコミ担当として採用してやらなくもない」

「えぇと、頑張ります!」

 

いつも一刀や風には酷い事を言われてからかわれているのだ。一度くらいは自分が優位に立ってみたい。香はそう願い、一刀の提案を受け入れた。一刀は少しの間どんなギャグを言おうか考えていたが、ふと目を開いて風に向き直った。

 

「………そう言えば、その頭の人形、最近喋らないな」

「そう言えばそですねー。死んじゃったのでしょうかー?」

「えぇっ!?風ちゃんの頭のやつって飾りじゃなかったんですか!?」

「………おにーさん」

「何も言うな………香、やっぱりお前にはツッコミは無理だ。これからも変わらずそのまま生きてくれれば、それだけでギャグになるから。というか、俺達がギャグに持っていってやるから安心しろ」

「そんなの嫌ですよぉっ!!?」

 

結局、この4人の中での役割分担が変わることはなさそうだ。恋が不思議ちゃん系ボケ担当、風が正統派のボケ担当、香は天然ボケ担当。ツッコミは一刀のみである。比率的に少々厳しい気がしなくもない。

 

「別のものも突っ込んで欲しいのですけどねー」

「何のことかわからないな」

「ほら香ちゃん。打てば響くというのは今のことを言うのですよ。おにーさんは性格的にこういった事を言っても狼狽える事はないので、こんな風に躱しつつ風のボケを盛り上げるという応用技術を使っているのです」

「えぇと………ごめんなさい。やっぱり私にツッコミは無理そうです」

 

やはり変わる事はなさそうだった。

 

 

 

 

 

 

「とまぁ、これからどこに行くにしても、俺たちのやる事は変わらない。真面目に旅をしていてもいずれ飽きるからな。これからはギャグ満載でいこうと思う」

「むにゃ…でも、作者のセンスは……正直、微妙………むにゃむにゃ………………」

「扇子?」

「いや、いまの恋の寝言は、才能という意味だ。流石だな。ギャグパートで行こうと思った端から、電波を受信したらしい。これぞ不思議ちゃん系ボケの真髄だ」

「おにーさんも大概おかしな人ですけどねー」

「どこがだよ」

 

適度にツッコミを入れつつも、方針が決まって一刀は満足そうだ。

 

「さて、それじゃぁそろそろこの会議も終わるとしようか」

「そですねー。風も、そろそろ永眠しそうです」

「安心しろ。桃源郷の扉の直前で引き戻してやるから」

「相変わらずおにーさんは『さでぃすと』なのです。風は桃源郷よりも、風のいまだ穢れを知らない秘密の扉をおにーさんに開けて欲しいのですが」

「風ちゃんがやらしいです………」

「風。ギャグはギャグでも、そっち系は控えるようにしてくれよ?」

「にゅふふ、保障はできませんー」

 

方針が決まった途端、風も飛ばしている。さて、これから先、どのような旅路になる事やら。

 

 

 

 


 
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