No.212441

漆黒の守護者~親愛なる妹へ14

ソウルさん

もう少しで完結かな?

2011-04-19 19:03:36 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2169   閲覧ユーザー数:1910

 以前から症状はあった。咳こむ度に血を吐き出し、自分の余命が迫っていることにも気づいていた。今は味覚が危うい。黄泉の死神との契約が及ぼす結果がこれだ。五感と身体を犯す病。完全に死神の趣味と性格による契約だったが、苦しみを耐えている間は生きながらえることができる。振り返れば期限付きの契約。あくまで余命を延長してもらっただけでしかないのだ。家臣たちには病のことしか教えていない。もちろん黄泉の死神については一言も口にしていない。頭まで病によって異常になっていると思われたくないからな。ただ、聖と琥珀は気づいているようだ。聖は仙人、黄泉の死神と精通している可能性は十分にありえるし、琥珀に関しては人間離れした勘を持ち合わせているからな。

 

 袁紹の討伐して数日、劉備が入蜀したと斥候からの情報が入った。劉璋は私腹を肥やす暗愚だと噂されているだけに劉備の入蜀は容易かったはず。ただ蜀の統一までにはまだ時間がかかるはず。新入りがいきなり王として君臨し、周りの諸侯がそれを認めるはずがない。つまりは凡愚のあつまり。黄忠と厳顔という劉璋に仕えている将は優秀らしいが、素直に劉備の配下になるかと言われると頷けない部分もあるだろう。彼女たちもにも志はあるだろうし。

 

「呉と魏は牽制かつ互いの国力の向上に力を入れている。蜀は統一に必至。馬騰は異民族の侵攻を防ぐので手一杯で統一どころではない。後はちらほらと弱小諸侯が息を潜めていますが、大国の前には無力と思われます」

 

俺の自室で七乃は簡潔に纏め上げた情報を説明してくれている。明国では部隊の他に文官も分類している。外交や国内による内務に軍部といった感じだ。七乃には外交の文官を纏め上げる文官長の役職についてもらっている。ちなみに美羽はその補佐役。以前と反対の関係になっているが、二人も文句はなくやっている。

 

「馬騰の西涼軍と同盟を組もうと思うけど、二人の意見を聞きたい」

 

七乃と官渡の戦いで仲間になった紅に訊く。

 

「西涼軍の騎馬隊は確かに強力ですし、北方の憂いもなくなりますから賛成です」

 

「私も七乃と同じ考えです。馬騰を筆頭に娘の馬超に馬岱、部下には韓遂や鳳徳といった猛将もいますからかの者たちから力を借りられるのは有益かと」

 

否定する要素は何ひとつない。かつて曹操が韓遂と鳳徳に裏切らせて馬騰に攻めかかろうとしたらしいが、寸前で二人は再び馬騰側についたことで防衛に成功した。その後は関係を築き直して順調に話が進んでいる。そもそも韓遂の裏切り工作も西涼軍の策略だという話でもある。真意は定かではないが。

 

「ただ同盟を組むにはそれ相応の理由、あるいは代償が必要かと」

 

「こちらから文官、軍師の貸し出しを条件に話を持ち出す」

 

西涼軍の唯一の弱点は優れた軍師が不在なこと。今までは圧倒的な騎馬隊で敵を退けてきたが、成長した魏国の大軍に無策での勝利は厳しい。

 

「なるほど、それは良策ですね」

 

七乃と紅は笑顔で了承した。

 

 七乃と紅が自室を後にして、俺は背中を背もたれに大きく預ける。双眸を挟んだ中心を摘みながら見上げる。視界がぼやけて天井が霞む。

 

「味覚の次は嗅覚か………」

 

両方とも完全に失ってはいないが時間の問題だろう。後の視覚・聴覚・触覚も時間の問題か。それ以前に体がもつかも微妙だけど、急がないといけないか。

 

「入るぞ、主」

 

一言口にしてから聖が入室してきた。

 

「どうした聖?」

 

「……治療の話だ。良い医者をみつけたのじゃが」

 

俺の症状に気づいた聖は毎日のように治療を進めてくる。

 

「無駄だよ。この症状は医者では治せない。無論、仙人にもな。それはお前が一番よく知っているんじゃないのか?」

 

俺の言葉に聖は苦虫を噛み潰したかのように表情を歪ませた。

 

「………それでも私はお主を死なせとうはない」

 

「お前の優しさは嬉しいけど、人の命は有限なんだからいつかは別れることになる。それが早まっただけ。お前と知り合って長い月日がたったけど、この関係がさらに続けばなおさら悲しみは大きくなるだけさ」

 

聖の頭を撫でながらそう言い残し、部屋を去った。

 

「主は……大事なことはいつも一人で決めてしまう。もう少し、私たちに頼ってくだされ……」

 

聖の悲しみは誰もいない部屋にただ消えていった。

 

 西涼に俺と紅と七乃と壬の部隊で赴いた。あっさりと陣営に入れてくれたのは俺たちを信頼している証拠か、舐められているのか。

 

「お初お目にかかります、曹臨と申します。此度は忙しいなか時間を割いていただきありがとうございます」

 

建前の言葉を紡ぐなか、馬騰は品定めをするかのように俺から視線を外さない。歴戦の勇将が持つ独特のオーラ。華琳とは違った覇気を纏っている。

 

「此度の同盟内容は事前に目を通している。されど曹臨殿の人柄がわからないままでは首を縦にふることはできかねます」

 

何より義と忠誠心を大切にする馬騰ならではの発言か。

 

「ではいかようにすれば?」

 

「我々と模擬戦をしてもらいます」

 

明国の結束力を図るつもりか。結束力は王の忠誠と義に直結しているとは思えないけど、あながち間違いないと思う。

 

「わかりました。では準備をさせます」

 

こちらとしても最強騎馬隊との経験はのちのちの戦いで力となる。それに将の力量を持つ副将や兵を発掘できるかもしれない。目星の副将もいるしな。陣幕を後にして準備にとりかかった。

 

「翆、蒲公英も準備を始めなさい。もちろん虎鉄と飛鳥もよ」

 

「御意」

 

娘の翆と蒲公英、それに韓遂の虎鉄と鳳徳の飛鳥も陣幕から出て行った。

 

「あの目、久々に身震いしたわ。曹臨……面白い男だ」

 

陣幕でただ一人、馬騰は高笑いした。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
20
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択