袁紹は失墜した。名家と多大の兵力も英傑の前には意味をなさなかった。名家故に自らを驕り、実力を見誤った。袁紹一人が凡愚で暗愚であったことがすべての敗因に繋がるとは言わないが、彼女に進言する将も少なからずは存在した。現にその一人が俺の前に跪いている。碧眼の瞳に深紅の髪。ミニチャイナを纏い、豊満な胸がしっかりと出ている。
「田豊殿、縄はきつくありませんか?」
立場上、敵だった将を縛ることもなく陣営に置いておくわけにはいかなかった。
「私より斗詩の縄を解いてもらえないでしょうか?」
自分より他人の安否を気遣うお人よしという噂は聞いていたが、自分の命の危機でも変わらない。それは既に信念とも呼べる覚悟。
「……枢、二人の縄を解いてやってくれ」
二人の背後で護衛にあたっていた枢は縄を得物で斬って解放させる。
「二人には選択肢がある。ここで死ぬか、俺の配下となって逝くかだ」
「……我々に選択肢などありません」
田豊の言葉に顔良も頷く。
「しかし、逝く、とういうのは?」
選択肢がないことには顔良も納得するが、言葉の端々にある不吉な言葉が頭から離れずにいた。
「配下になるというのは命を預け、逝く覚悟があるのもだけが口にすることができる言葉だ」
信念、覚悟があるからこそ人は生きていける。
「勘違いされて困るが、逝く覚悟を持てということであって実際に死んだら駄目だからな」
そんな事で死なれたら目覚めが悪すぎる。
「……顔良と申します。真名は斗詩。斗詩とお呼びください」
「田豊です。真名は紅。この頭脳、命を我が君に捧げます」
二人は頭を下げて平伏し、明国もとい俺に従うことを誓約した。
袁紹軍の残党が降伏したことで明の兵力は格段を増した。指揮する将も確保した。文醜を味方に引き込めなかったことは予定していた計画から外れたが、行方不明なら諦めるしかない。人員を割いて探索するには時間も惜しいし、何より危険だった。
「ごほごほ!」
行軍の後方を進軍していた俺は咳が止まらずにいた。それを見兼ねて琥珀が近寄ってくる。
「大丈夫か、翡翠」
「……あぁ」
口元を手で拭うと血が手の甲に付着していた。
「琥珀、呉の動きはどうだ? それと劉備の動向も……」
これほど時間に憤りを覚えたことはなかった。命は有限。だけど俺のそれはあまりにも短すぎる。
「呉は静寂を保っている。国力を高めているのだろう。劉備は平原を去り、蜀へと進んでいるらしい。魏がそれを追撃中。曹操は劉備が秘めている魅力に危機感を覚えていると見て間違いないかと。それよりもお前は休んだ方がいいのではないか?」
「休んだところで治るものでもないさ」
その後も咳は止まることはなかったが、どうにか国へと帰還した。
わかりやすい伏線を張りすぎて結果が見えて始めているかもしれませんが、これからもコメントよろしくお願いします。
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最近、話が微妙になってきている気がします。