No.208067

真・恋姫†無双 外史の欠片 -刀音†無双- 第1話 始まりの日

ネムラズさん

こんばんは、本編がようやく開始と相成ります。

この物語の一刀はどういった人物なのか。
そんな部分を書き連ねつつ、二人の出会いまでが今回のお話となります。

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2011-03-25 19:28:43 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:2482   閲覧ユーザー数:2081

※注意※

この作品には以下の点が含まれる可能性があります。

 

 

・作者の力量不足によるキャラ崩壊(性格・口調など)の可能性

 

・原作本編からの世界観・世界設定乖離の可能性

 

・本編に登場しないオリジナルキャラ登場の可能性

 

・本編登場キャラの強化or弱体化の可能性

 

・他作品からのパロディ的なネタの引用の可能性

 

・ストーリー中におけるリアリティ追求放棄の可能性(御都合主義の可能性)

 

・ストーリーより派生のバッドエンド掲載(確定、掲載時は注意書きあり)

 

 

これらの点が許せない、と言う方は引き返す事をお勧め致します。

 

もし許せると言う方は……どうぞこの外史を見届けて下さいませ。

第1話  始まりの日

 

 

友人達と共に博物館へ行ったあの日から数ヶ月後、季節は冬の真っ直中。

数日前に聖フランチェスカ学園の終業式を終えた一刀は、現在鹿児島に居た。

両親と共に里帰りしていたからであり、彼は久々に対面する祖父と剣術の修行に励んでいたのである。

 

「ほお、前より構えが様になってるな。あっちでもサボらずしっかりやってたみたいだな?一刀よぉ」

「当たり前じゃないか、まだ爺ちゃんから一本取ってやるって約束を果たして無いだろ?」

「かぁ、そんな腕で儂から一本取ろうなんざ十年早いわ。お前の孫の顔見る方が早いんじゃないか?」

「悪いけど子供どころか誰かと付き合った事も無いんでね……くそ、言ってて空しくなってきた」

互いに模造刀を高く掲げ深く腰を落とした蜻蛉の構えを取った姿勢のままじりじりと動きつつ、隙を伺いあう二人。

軽口を叩いている様であっても目は相手を見据え、僅かな挙動も見逃さぬと言わんばかりである。

そしてほんの僅かに祖父の動きが止まったのを見て取り、一刀は勢いよく前へ踏みこむ。

 

「今日こそ一本、取らせて貰う……ぜっ!」

「は……甘いわ!!」

しかし祖父が動きを止めたのは一刀の踏み込みを狙っての演技だったのだろう。

勢いよく振り下ろされる模造刀を身を反らして避けると斬撃を避けられ体勢の崩れた一刀へ、

模造刀を振り下ろし……ぴたり、と首の後ろに刃を当てた時点で手を止めた。

 

「ほれ、また儂の勝ちだな。あんな誘いにまんまと乗る様じゃ、まだまだ負ける気がせんなぁ。

午前の稽古はこれで仕舞いだ。午後からは門下生も来るからな、しっかり掃除しておけよ」

「分かったよ……あ~、やっぱり焦り過ぎたか。くそ、今回こそ行けると思ったのに」

呵々と笑う祖父に悔しげな顔を向けつつも、終了の合図として一礼し模造刀を竹刀袋に仕舞うと、

学園の剣道場と比べればやや狭いとは言え、それでも十分な広さを持つ道場の掃除に掛かる。

 

冷え切った水の温度に身を震わせつつ、明日こそ一本取ってやると意欲を燃やしながら。

 

 

 

門下生達が帰宅し、再び道場に一刀と祖父の二人だけとなったのは日も沈みかけた夕刻。

祖父と一刀は向かい合うと一礼し、無言のまま竹刀を構える。やがて祖父はじりじりと位置を変え始めるが、

一刀はその場を動かない……否。一手目が来るまでは動く事を許されていないのだ。

 

「今日の仕上げだ、一刀。全部とは言わねえが……一手でも多く防げよ?」

祖父が言い終えると同時に、大きく踏み込み竹刀を上段から顔面めがけて振り下ろす。

一刀も竹刀をあわせ直撃を防いだ、と思った瞬間祖父が大きく身を捩り胴を払いにかかり。

竹刀で受け直撃を回避し、祖父が横を通り抜けると同時に振り返れば迫り来る切っ先。

見えていても竹刀で突きは受けきれない、慌てて顔を横へ剃らせば頬を風が掠める。

このまま棒立ちになっていれば良い的になり、体勢の伸びきった突きならば追い打ちは難しい。

即座にそう判断して一刀は後方へ飛びすさると竹刀を正面に構え……小手を狙う切っ先を打ち払う。

 

午前の稽古とは違い、威力ではなく速度と連携を重視した嵐の様な攻撃、それを必死に防ぐ事。

無言のまま繰り出される攻撃は剣道の試合と異なり全身を狙ってくる為少しも気が抜けない。

体力が消耗してくればやがて防ぎ切れなくなり竹刀が容赦なく体を打擲、更に消耗が加速する悪循環。

息が上がり、腕が震え……やがてがくりと膝が崩れた所に一撃を貰い、一刀は冷たい床へと倒れ込んだ。

 

「大分動きが目についてきてるじゃねえか、その調子だ。とはいえこれくらいでへばってる様じゃまだまだか。

攻撃を見る目は良いんだ、後は体力と判断力を付けりゃあいっぱしの腕前になるだろうよ。

……じゃあ儂は先に帰ってるからな、夕飯喰い損ねたくなきゃ早めに掃除して来いよ」

汗だくで荒い呼吸を必死に整える一刀とは対照的に、額に浮いただけの僅かな汗を拭って祖父が言い、

振り返る事なく道場を後にした。静まりかえった道場に響く己の荒い呼吸音だけを聞きつつ、一刀は思う。

 

――――帰るまでには必ず目に物見せてやる、と。

そうして修行の日々はあっという間に過ぎさり、翌日には両親と共に戻る事となったその日。

「一刀、ちょっとこの地図の店まで行ってこい。前に何度か行ったから道は覚えてるだろ?」

「前に模造刀頼んだ店?それなら覚えてるけど……爺ちゃん、良い物って何だよ?」

「行けば分かるさ、ほれ。店に着いたら店主にこいつを渡して置いてくれ」

「何これ、封筒にしては分厚いし……何かの書類か?」

「まあそんなもんだ。ついでに今日は稽古も休みにしておく。のんびり街でも見て来たらどうだ?」

 

普段は少しでも稽古の時間に遅れようものなら凄まじい怒気を発する祖父の物と思えない言葉に、

一刀は内心混乱しながらも頷き、指示された店へと向かった。

なおその際の格好は私服ではなく真っ白な光沢を持つ聖フランチェスカ学園の制服である。

理由は久々に会う相手に晴れ姿でも見せてやれという祖父の言葉であった。

確かに都会の方の学園に行くと言ったきりで、入学が決まった時に制服を見せてくれと言われていた。

ならば丁度良いだろうと言う事で一刀は制服のまま街へ出たのである。

 

……無論、真っ白な制服は目立つ事甚だしい。この辺りの学校の一般的な制服は黒か紺、

中には茶色や緑の系統もあるが白色は非常に目立っており、注目を集めている。

恐らく冬期の補習か何かなのだろう、纏まって歩く学生達とすれ違った時は凄まじい視線を感じた。

どこの制服だろう、等という声も聞こえてきたので下手に質問攻めにされる前にと足を速める。

それが功を奏したか予想より早く指定された店へ到着、出迎えてくれた初老の店主の感嘆の声を聞きつつ、

まずは祖父から預かった封筒を店主に渡した。店主は一つ頷くと少し待つようにと言い店の奥へ消えていく。

特にやる事も無いため時間潰しも兼ねて店内を見て回る事にする一刀だったが……。

 

「相変わらず色々なのが置いてあるな……この店」

店内には模造刀や木刀、竹刀を始め長刀や弓矢、剣道の防具や胴着などの武具から、

軍略物や偉人の伝記などの書物、サバイバル用らしい手斧や大きなリュックサック、非常食等々。

軽く目についた物だけでも整合性が無く混沌とした品揃えであり、向こうの方には酒瓶が並んでいる。

所謂何でも屋と言う物だろうかと感心しながら店内を見て回り、ふと視界に入った物の前に足を止めた。

 

「これって……銅鏡か?前に博物館で見た奴に似てるな」

そこに飾られていたのは今にもひび割れそうな感覚を覚える一枚の銅鏡。

覗き込んだ際に照明の光を反射したのか光り輝いた気もしたが、今は何ともない。

不思議に思いながら銅鏡を手にとり眺めていると店主からこちらへおいでと声が掛かった。

思考から抜け出した一刀は銅鏡を手にしたまま店主の待つカウンターへと向かっていき……。

 

「これ、頼まれてた分だね。ハイ、これ証明書……無くすと厄介だから大事に保管しておく様に」

「証明書?……は?何だこれ、もしかして真剣!?」

手渡されたのは、簡単に言えば刀剣所持許可の証明書……銃刀法が施行されている現代において、

真剣を所持する場合に必要となる証明書の様な物であり、それが己の手の中にある事に混乱する一刀。

 

「北郷の爺様の頼みだったからね、頑丈な打刀に脇差のセットさ。砥石と打ち粉用の粉はサービスしておいたよ。

他にも色々詰めてるから後で確認しておくと良い……ん?おやおや、その鏡に興味があるのかい」

未だ頭の中が混乱でぐちゃぐちゃになっている一刀の様子を軽くスルーしつつ店主が銅鏡に視線をやって問いかける。

 

(畜生、爺ちゃんと言いこの店主と言いこの辺の人はみんなこんな感じなのか……?)

世の不条理に嘆きつつも一刀は頷き、銅鏡をカウンターに乗せて店主に話し出す。

 

「実はあっちに居る時に博物館でこれとそっくりな鏡を何枚も見たんですが……これって一体何なんですか?」

「これは邪馬台国で使われていた品物らしい、と言うのは分かっているんだがね……正直、詳しい事は分からないんだ。

近くの遺跡から出てきたのを買い取ってくれって言われてね。ほら、裏に漢文で文字が書いてあるでしょう」

そう言われて胡散臭いと思いながらも銅鏡の裏を覗いてみれば、半分程かすれて居るが幾つかの文字が読み取れた。

魏、邪……国、卑弥呼、一……などなど。魏の文字があると言う事は、三国志の時代かなとぼんやり考える一刀。

ふと脳裏に浮かんだ博物館での不思議な展示品の数々を連想し、苦笑が漏れる。

 

「それも使い道もないし歴史的価値みたいなのも無いって言われてねぇ……そうだ、ついでだしそれもあげるよ」

あからさまに不要品を押しつけられてないか、と疑問を抱いたが一応礼を述べて一刀は銅鏡を荷物に入れる。

荷物を入れてあるのは祖父が注文したこの店で特注しているリュックサックらしく、普通の物に比べ非常に大きかった。

 

 

「じゃあ帰り道には気をつけて……爺様にもたまには顔を出してくれと伝えておいてね」

人の良さそうな笑顔を浮かべる店主に見送られ、一刀は家路についた。

そして、その夜。彼は姿を消した。

まばゆい光に包まれた様な気がして、ふと目を開けると眼前には広々とした荒野が広がっている。

理由はよく分からないが木にもたれかかって眠っていたらしく背後を振り返ればうっそうと茂る森。

そして自分は何故か聖フランチェスカ学園の制服を身に纏い、傍にリュックサックと真剣が置いてあった。

 

「何だこれ……まさかまた爺ちゃんの変な修行じゃないだろうな……」

幼き頃の思い出が蘇る。ある日目覚めたら森の中でした、な10年前のある日や、

着の身着のままで強制山籠もりを課せられた5年前のあの日など。おかしい、目が熱い。

泣きたくなる気持ちをぐっと堪えて悲しい思い出を振り払い改めて辺りを見回すが……。

 

「ここ、どう見ても家の近くじゃないよな……一体どういう事なんだ?」

考えてもさっぱり分からない、下手に動くと危険かも知れないが留まっていても事態が好転するとは思えない。

ならば動いた方が建設的だろうと考え、一刀は立ち上がると周囲を見渡す。

すると左手の方には街道らしき物が見え、右手の方には壁に包まれているらしい何かが見えた。

目をこらせば屋根の様な物や炊事の煙らしい物も僅かながら見て取れる。

 

「あっちに行けば誰か居そうだな、ならまずはあそこを目指してみるか」

周りに置かれた荷物を拾い、遠くに見えた場所へ向かい歩き出す一刀。

不安はあったが同時に好奇心もあった。未知なる物を知るのは、楽しい。

心のどこかでそんな考えが浮かんでくる自分に気付くと、ふと笑い出したくなった。

僅かに引きつった様な表情で考えるそれには、現実逃避の意味もあったのかも知れない。

辺りに誰も居ないならば少し遊んでみても良いだろうと、模造刀を腰へ吊し紐で固定。

更にリュックサックの荷物を漁り、中から出てきた短刀を制服のポケットへ忍ばせる。

流石に日本刀は銃刀法に触れると考えてリュックに吊したままであった。

そうして気楽な足取りでのんびりと町の方へと向かい歩き出した。

 

遠くに見えていた街へ近づいて行くにつれ、朧気だったその外観がはっきりと見えてくる。

(ひょっとしなくても、あれは城壁か?おいおい、幾ら何でもあり得ないだろ……?)

そう、一刀の目に映るのは街を取り囲む様にそびえる巨大で堅牢な城壁。

現代日本に住まう者であれば恐らく目にする機会の無い代物である。

余程の過疎地にでも連れて来られたかと思ったがそれにも限度がありすぎる。

幾ら何でも電柱や車の轍が存在しない街道なんてあり得ない、そう一刀は判断する。

 

「だったら此処はどこだって言う話になるんだよな……漫画やゲームじゃあるまいし、目覚めたら知らない世界だなんて、

そんな非現実的な事があるわけないし……ん?あれ……?」

ぼやきながらも歩を進める彼の目に、街の方から走ってくる小柄な人影が映る。

ジョギング等というレベルではない全速力で走ってくる人影は……背後に3つの人影を従えている。

否、これは……。

 

(え……誰か、追われてる!?)

気付いた時には腰の模造刀の柄に手を掛けていた、何故かと疑問に思う間も無く理由を悟る。

なぜならば3つの人影は、手に日光を照り返す物……剣を持っていたからだ。対して小柄な人影は何も持たない。

強盗や通り魔と言った言葉が脳裏をよぎり、柄を握る手に力が籠もる。

 

 

そうして一刀は一切躊躇う事無く前方へと駆け出し……。

 

「……お前等、何のつもりだっ!!」

小柄な人影の前へと飛び出すと、追跡者達から庇う様に立ちはだかり声を張り上げた。

背後で立ち止まった気配を感じるが視線は前方に固定し、こちらを警戒する様に睨め付ける3人を睨み返す。

かなりの敵意を感じるがこの程度ならば呑まれる事もないと判断しつつも油断無く周囲を見渡す。

 

(気迫なんかは前に喧嘩ふっかけてきたチンピラと同じくらいか?他に仲間がいると厄介だな……)

以前剣道の試合の帰りに喧嘩を仕掛けてきた若者達と争った事を思い出す。

叩きのめした後に理由を問い質せば「あの元お嬢様学校に通ってるのがムカついた」と答えられ、

思わず過剰防衛に発展しそうになった事は忘れたい記憶だ……と。

 

「邪魔する気か、兄ちゃんよぉ。そいつは俺達の獲物だぜ?」

「あ、後から出てきた癖に生意気なんだな」

「お?アニキ、こいつの剣や服、見た事無いものですぜ。一緒に剥ぎ取っちまいましょうよ」

正面の男達が下卑た響きの声で打ち合わせながらこちらにも剣を向けてきた。

追い剥ぎか、はたまた強盗だろうか。昔の山賊なんかがこういう奴らっぽいよな、と考えて。

 

「お前等の様な連中に渡す物なんか無いな、とっとと消えろ。そうすれば見逃してやる。

それとも、3人纏めて襤褸屑になりたいか?」

背中のリュックサックを地面に落とすとすらりと鞘から模造刀を抜き払い、正面に向ける。

最早此処が現代でも日本でも無いのだろうと、相手が本物の……刃を持った剣を所持している事で確信した、

ならば身に掛かる火の粉は振り払わねばならない。そう考え一刀は模造刀を抜いたのである。

会話から、こちらの格好が得体の知れない物に見えれば退いてくれるかもしれない、との期待もあった。

 

「ああ!?なめやがって……生かして置いてやろうと思ったが気が変わった。チビ、デブ、ぶっ殺しちまえ!」

「わ、分かったんだな!」

「おう!ひゃはは、死にやがれオラァっ!!」

だが目論見は外れ、やる気と殺気を全開にして3人が襲いかかってくる。

こちらに距離を詰めてきていたのはチビと呼ばれた小男だ、片手の剣を大きく振りかぶっている。

しかしまともな練習をしていないのだろう、袈裟懸けに振り下ろされる刃の軌道があっさりと読めた。

殺気が籠もっている分それに呑まれ、萎縮してしまっていれば危険だったかも知れないが……。

 

「うちの爺ちゃんに比べりゃ亀みたいな早さだっ!」

予想通りの袈裟懸けを模造刀で受け止めると刀身を傾け滑らす様に受け流す。

驚愕の表情を浮かべるチビと呼ばれた男へ肩から体当たりし、後方へ仰け反らせる。

体勢が崩れたチビの眉間に、振り抜く様に斬撃。模造刀故に切断こそ出来ないが、

鋼の刀身を勢いよく叩き付けられてチビと呼ばれる男は後ろへ倒れ込むと顔面を押さえ転げ回った。。

 

「次……っ!」

賊の動きが止まった隙を見逃しはしない、即座に体勢を立て直すとデブと呼ばれた巨漢へ向かい駆ける。

図体が大きい分動作は鈍いと見て取ったが、やはり予想通り。ただその腕力は予想以上であったが。

横薙ぎに振るわれる剣を避けバックステップ、その着地の瞬間を狙い上段から真っ向に切り下ろしてくる。

だが腕を振り上げていた動作からそれを見て取った一刀は相手の左側へと回り込む様に移動し……。

 

「小手ぇっ!」

利き手らしい右手首を狙い模造刀を勢いよく叩き付ける。狙いは相手の攻撃に対し直角に。

手のツボに攻撃が上手く決まれば腕が痺れて戦闘不能に持ち込める、そう判断しての一撃は功を奏し、

デブと呼ばれた巨漢は苦しげな呻き声を上げて、剣を取り落とした。

それでも両腕を振り回して掴みかかって来ようとした為、素早く相手に近づくと相手の衣服を掴み……。

 

「……寝てろっ!」

おぼつかない相手の足下を払うと同時に、もう片足を軸として大きく身を回転。

背負い投げの要領でデブと呼ばれた巨漢を地面に叩き付けた。

すかさず倒れた相手からバックステップで距離を取り、模造刀を構え直す。

チビと呼ばれた男は未だに転げ回り、デブと呼ばれた巨漢は目を回して倒れ伏している。

 

「何だと!?テメエ巫山戯た真似を……っ!?」

驚愕の表情を浮かべ、動こうとした相手……恐らくアニキと言う男に向け模造刀を突きつける。

 

「まだやるのなら、次はお前が地面に転がる事になるぞ?」

一刀は出来る限りの威圧感を込めた、普段よりも低い声で恫喝する。

その声には容赦などしない、という強い意志が込められていた。

ぐぐ、と苦しげに顔を歪ませていたアニキだったがふと何かに気付いた様に走りだした。

自棄になって仕掛けてきたか、と攻撃に備え構えた一刀の脇を素通りして……アニキは大声で笑い出した。

 

「ギャハハ、動くなよ!こいつが見えねえか!おら、武器を捨てやがれっ!!」

振り返った一刀の目に映ったのは剣を突きつけられて硬直している幼い少女の姿。

恐らく最初に追っていた相手に気付いたのだろうが……この状況は、不味いと焦りが生まれる。

 

「まだ逃げて無くて助かったぜぇ?ギャハハハハ!おら、とっととその武器を捨てろやっ!

さもなきゃこのガキの命はねえぞっ!!」

男の手に力が籠もり、少女が身を竦ませる。選択肢はなかった、一刀は地面に模造刀を落とす。

 

「へへへ、そうだ……舐めた真似してくれやがって。たっぷり礼をさせて貰わないとなあ!?

そのまま棒立ちになってな、すぐ首を切り落としてやるよ。そこでぶっ倒れてるチビとデブの分もなあ!」

勝利を確信したのであろうアニキが下卑た笑みを浮かべ、少女に剣を突きつけたまま近づいてくる。

だがその視線は首だけに向けられている……そしてまだ子分の二人は起きていない。

ならばと一刀は制服のポケットに片腕を入れると、中にしまっていた短刀を握りしめ……。

 

「オラ、くたばれや……っ!?」

アニキが目の前で剣を振りかぶり、横に振り抜いた瞬間身をかがめて斬撃を回避。

ポケットから取り出した短剣を抜き払うとアニキの手の甲へと突き立て、同時に蹴りを放つ。

蹴りの勢いの反動を利用して短剣を抜くと同時に、体をくの字に折り曲げ力の抜けたアニキの手から

捕らわれていた少女を抱き寄せる様に奪い返す。

 

そして苦悶の声を上げるアニキの首へと短剣の刃を当て……。

 

「次は、無い。消えろ」

先程より更に低い声で、宣告する。

 

アニキは悲鳴を上げると血の気の引いた顔で走り出し、ようやく回復したらしいチビとデブも続く。

短刀を構えたまま周囲を伺う事数分。どうやら退散したらしいと判断し安堵の息が漏れた。

 

 

「行ったか……あ、悪い。大丈夫だったか?」

と、少女を抱き留めたままだった事に気付くと、謝罪と共に安否を確認する。

 

「ううぅ……こ、怖かったのです……!」

少女は余程怯えていたのかそれとも緊張の為か、制服を掴んだままがたがたと震えている。

落ち着くまではこのままの方が良いかと思い、しばらく少女を抱き留めたままで居る事にした。

これが、二人の出会いであった。

第1話、始まりの日をお送り致しました。

今回は冒頭も冒頭、文字通り主人公とヒロイン、二人の出会いまでです。

……うん。ちゃんと出会ったから看板に偽りはないですよ?

次回はヒロイン視点からの同じ時間軸のお話となる予定です。

 

さて、この作品における一刀の強さは、原作よりも少々強化されていると行った所です。

武将格には敵いませんが、それでも多少手こずらせる事が出来る程度の力量は持ち合わせております。必殺技などは持ち合わせませんが装備品や持ち物、技術で多少強化されているとお考え下さい。

 

なお、次回は冒頭で注意書きがあった通り、バッドエンドも掲載予定です。

バッドエンドは基本的に後書きの後ろ、最終ページに掲載予定なのでダメな方は後書きで止まる様にお願い致します。

 

それでは、またいずれ。


 
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