No.205501

一刀の記憶喪失物語~袁家√~最終回

戯言使いさん

さて、長く続いた袁家√の最終回です。
みなさん、長い間お付き合い頂きありがとうございます。最後ということで、少し長いですが、ここまで来たら、最後までお付き合いくださいねー。

最後に僕からのメッセージがあるので、そちらも見てくださいねー。お願いします。

2011-03-07 12:49:09 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6914   閲覧ユーザー数:5614

 

 

 

「―――分からない」

 

 

華陀が顔を伏せてそう言った。何故顔を伏せたのかと言うと、それは目の前にいる3人の顔をみることが出来なかったからだ。別に何か悪いことをしたわけではない。ただ、落ち込む3人を、見るのが辛かったのだ。

 

その3人とは言うまでもなく、斗詩、七乃、猪々子だった。

こうして4人が対面しているのは斗詩たちの家。4人の目の前におかれたお茶が湯気をたてていた。

 

今日は定期的に華陀が一刀の様子を見に来る診察日だった。

と言っても、一刀の身体が悪いわけではないので、華陀に出来ることは限られていた。

 

 

「強制的に目を覚まさせるために針も打った。でも、全く効き目はない。すまないな」

 

 

華陀の言葉に七乃と猪々子はため息を漏らした。そのため息はけして華陀に呆れたわけではなく、どうしようもない、と言ったような諦めに近いため息だった。

 

 

「・・・・どうして・・・・・ですかね」

 

 

斗詩がぽつりと呟いた。

 

華陀からしてみれば、一刀よりも斗詩の方が医者としては心配だった。明らかな虚無の瞳。生きる希望を失いかけている目だった。

 

 

「あと何日、私は一刀さんを待って入ればいいんですか・・・・あと何日、私は一刀さんの眠った世界で生きていればいいんですかね・・・・・」

 

 

「が、顔良・・・・えっとだな・・・・・」

 

 

「分かっていますよ・・・・私、絶対に一刀さんの傍にいるって決めたんです。だから、絶対に諦めませんよ・・・・」

 

 

そう言う斗詩ではあるが、瞳の色は死んでいる。

 

華陀も何かしてあげたいと思うが、一刀の症状に関しては全く分からなかった。

 

 

「北郷は天の国の住人なんだろう?もしかしたら、天の国の住人にしかかからない病魔がいるんじゃないのか?」

 

 

「あ、いえー。一刀さんが言うには、ここから未来の世界から来たらしいですよー。もっとも、この世界にも色々とおかしいことはあるらしいですがー。でも、この世界の人とは身体の作りは全く同じだと思いますよー」

 

 

七乃が華陀の質問に答えた。まだ病気なら、華陀にも治せないことはなかったが、こうなると八方ふさがりだ。

 

 

「そもそも、北郷が記憶喪失になったのは、乱世を鎮めるためなんだろう?そしてその願いが叶ったら、一刀は元に戻る筈・・・・ずっと俺はそう思っていたんだが・・・・」

 

 

「なーなー、華陀のおっちゃん。兄貴が眠るのって、身体と精神の差をなくすためだって言ってたじゃんかよー。なら、まだ差が戻ってないってことなのか?」

 

 

「いや、確かにそう言ったが、確信があったわけじゃないし、可能性があるなら、一刀が元に戻りたくないと願っているのか・・・・・あと文醜。おっちゃんは止めてくれ」

 

 

「元に戻りたくないっておかしいですよー。だって、記憶喪失になっていたわけですから、本人からしては、ただ目が覚めるってことと同じですよー」

 

 

「じゃあ、何かが違うんだろう。元に戻るには何かが欠けているってことじゃないのか?元の一刀と今の一刀には何かが欠けている・・・・・?はぁ、わるいが、全く思いつかない」

 

 

うーん、と頭を傾げて悩む3人。

そもそも、一刀がのこの世界にきたのだって、納得がいく説明なんてできないのだ。それこそ、神様のような全知の存在しか分からない。

 

 

 

 

「・・・・・・あ」

 

 

 

 

 

 

その時、今まで黙って下を向いていた斗詩が顔をあげた。

突然声をあげた斗詩に視線が集まった。

斗詩は焦点の定まらない瞳で、ぶつぶつと呟いている。

 

「『欠けている』もの・・・・・・『欠けている者』・・・・・・・・『欠けている物』」

 

 

 

 

どん、と斗詩が椅子を倒す勢いで立ちあがった。立ちあがった斗詩の瞳には先ほどとは違って色がともっていた。

 

 

「そうだよ!一刀さんは『元』に戻ろうとしてるんだよ!」

 

 

「えっと・・・・斗詩ちゃん?」

 

 

「そうだよ!『今』の一刀さんになくて『元』の一刀さんにあったものがあるじゃないですか!」

 

 

「今って・・・・寝てる兄貴のことか?それとも、あの兄貴?」

 

 

「今は今だよ文ちゃん!寝てる一刀さん!」

 

 

あははー、と喜び舞う斗詩に七乃と猪々子は逆に怖くなった。あまりの絶望的な状況に可笑しくなったのではないか、と心配に思った。

 

 

「あ、あの・・・・斗詩ちゃん?」

 

 

「そうと決まればさっそく行動だよ!七乃さん!文ちゃん!」

 

 

「えっと・・・・私は何をすれば?」

 

 

斗詩におそるおそる聞く七乃に、斗詩は久々に見せるとびっきりの笑顔でこう言った。

 

 

 

 

 

「欠けている者を連れてきて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とある村の宿屋兼飲み屋にて

 

 

「おい!こっちの料理はまだかよ!」

 

 

「も、もう少し待てないのかしら!?」

 

 

「こっちに水持ってきてー」

 

 

「わ、分かったのじゃ」

 

 

そこには、給仕服に身を包む、麗羽と美羽の姿があった。斗詩や七乃たちと別れて、すでにどれほどの月日がたったのだろうか。今現在の二人は、健気にも給仕として働いていた。

 

当初は仕事などしたくないと我がままを言っていた二人だが、あの変態は七乃や斗詩たちとは違い、かなりのスパルタ教育をした。

 

 

まずは飢えさせた。働かなければ、水の滴、米の一粒すら与えないといい、本当にその通りにした。それにより、二人はしぶしぶと働くようになった。

 

 

だが当然、我がままな二人。仕事ではいつも問題ばかり。なのであの変態は問題を一つ起こすことに、変態の変態による変態のための罰を与えることにしたのだ。具体的な内容は伏せておくが、常人であれば一回で悟りをひらけるほどだとだけ、言っておく。

 

 

「ぐふふ、あの二人もマシになってきたわねぇ」

 

 

一人、カウンター席で酒を飲む筋肉ムキムキの変態。風体はアレだが、七乃との約束は忠実に守っていた。

 

 

ギィ、と飲み屋の扉が開いた。

 

 

「いらっしゃいですわ。勝手に空いてる席に座りなさい・・・・・・あれ、あなたは・・・・」

 

 

「な、七乃じゃ!七乃ぅー」

 

 

飲み屋の扉を開いて現れたのは、二人と別れた時と何の代わりのない七乃。ただ、一つだけ違うとすれば、手袋は外し、左手の薬指には指輪がはめられていた。ちなみに、その指輪は一刀に買ってもらった指輪だ。

 

 

「お久ぶりですー美羽様。麗羽さま」

 

 

にっこり、と笑う七乃。その久しぶりの笑顔に美羽は泣いて喜ぶばかり。七乃を抱きしめると、泣き続けた。

 

 

「な、七乃!わらわはもう我がままを言わぬ!だから戻って来てほしいのじゃ」

 

「ちょ、ちょっと斗詩さんと猪々子さんはいらっしゃらないの!?」

 

 

再会を喜ぶ美羽と、少し寂しそうな麗羽。

 

七乃は給仕服を着て仕事をしている二人を見て、それぞれ成長したのだなと、ちょっと安心したあと、カウンター席で一人飲む変態を見つけた。

 

 

「どうも、変態さん。お世話になりましたねー」

 

 

「あらあら、張勲ちゃんじゃなーい。久しぶりねぇー」

 

 

「私のことは七乃でいいですよー。っと、そう言えば、あなたの名前を知りませんでしたねー。教えてくださいな」

 

 

「いいのよ、あたしのことなんてねぇーん。それよりもぉ、ずいぶんと変わったじゃないかしらぁん。・・・・あらぁ、その指輪・・・・・北郷一刀に買ってもらったのかしらぁ?」

 

 

「そうですよー。でも、肝心の旦那様はおねむなんですよー。それで、このお二人を引き取りにきましたー」

 

 

「ぐふふ、ようやく鍵をみつけたようねぇー」

 

 

「鍵?・・・・そう言えば、どうしてあなたは私や一刀さんの名前を知っていたんですか?それに、誰も知らない私と一刀さんだけの約束も知っていた・・・・もしかして、あなたはすべてを知っているんじゃないですか?一刀さんが記憶喪失になったことも、全部」

 

 

ちょっとだけ疑うような、それでいて確信を秘めた視線でその変態を睨む。しかし、その変態は不細工な笑みを浮かべて答えた。

 

 

「今回のあたしはぁお助けキャラみたいなものなのよぉ。でもぉ、その役目をお終いみたいわねぇ」

 

 

そう言って、その変態は立ち上がると、出口へと歩いて行った。

 

 

「ちょっと待ってください!何にも質問には答えてないですよー。それに「きゃら」って何ですか?」

 

 

「そうねぇ・・・・じゃあ、一つだけ教えてあげるわよぉ。人格が違っても、その人は間違いなくその人。自分じゃない自分を知ることにより、本当に自分になる・・・・・そうすれば、皆でハッピーエンドを迎えられるわ」

 

 

「はっぴーえんど?いえ、それより、何ですか、その自分じゃない自分とか」

 

 

「ぐふふ。ないしょよ。北郷一刀・・・・・ご主人様と幸せにねぇ」

 

 

そう言って変態は消えてしまった。

 

七乃はすぐさま後を追いかけたが、その変態の姿は何処にもなかった。

 

 

「七乃・・・?」

 

 

不安そうに見つめる美羽が、七乃の服を掴んでいた。

 

七乃は一度だけため息を漏らすと、美羽と麗羽ににっこりと微笑んだ。

 

 

「すみませんが、お二人は急いで出掛ける準備をしてください」

 

いきなりのことで、疑問符を浮かべる二人。

 

七乃は何処か自信ありげに、言い放つ。

 

 

「一刀さんの元へ行きますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りましたー」

 

 

 屋敷へと戻ってきた七乃。そして麗羽と美羽。

 

七乃の声に斗詩と猪々子が急いで玄関へとやってくる。

 

 

「おかえりなさい!七乃さん」

 

 

「おう!待ってたぜー」

 

 

「はい。頼まれた『者』を連れて来ましたよーって、二人とも、どうしたんですー?」

 

 

斗詩と猪々子の二人は、目にくまを作っていた。しかも服の所々は墨で汚れていた。しかし、二人とも疲れた様子は全くなく、逆に元気だ。

 

 

「あら、斗詩さん。猪々子さん。主の私を放っておいて、こんな屋敷に住んでいるなんて、ずいぶんと偉くなりましたわねぇ」

 

 

二人を見て悪態をつく麗羽。その相変わらずぶりに、斗詩と猪々子は思わず笑みをこぼす。

 

 

「ちょっと!何を笑っていらっしゃるのかしら!?」

 

 

 

「ぐだぐだうるせぇですよ!」

 

 

「そうだぜ!黙ってろよ馬鹿!」

 

 

 

 

 

いきなり怒鳴る二人に、流石の麗羽も美羽も黙る。もとい、怯える。

しかし、七乃だけは何故か懐かしい気持ちへとなった。一瞬、二人があの一刀とダブって見えたのだ。

 

二人は「はっ」と気がついたような表情になり

 

 

「あ、ご、ごめんなさい。思わず口調が・・・・」「いや・・・・ちょっとな・・・」

 

 

と、謝った。

 

もし普段の麗羽なら「何たる無礼!」と怒鳴るところだが、一度、見捨てられたこともあり、逆に二人の今の怒声に怯えてしまった。

 

 

「麗羽様も美羽ちゃんもよく来て下さいました」

 

 

「さっそくだけど、兄貴の部屋に行くぜ」

 

 

「えっと・・・・・お二人の『欠けた物』は出来たんですか?」

 

 

そう。七乃が二人を迎えに行っている間、斗詩と猪々子の二人は『欠けた物』を作ると言って、部屋に閉じこもってしまったのだ。

 

 

「はい。徹夜続きでしたが、どうにか私たちの分は終わりました。後は七乃さんの部分だけです」

 

 

「私の部分?」

 

 

「はい。でも、きっと七乃さんなら頭がいいので、すぐに出来ると思いますよ。だから、さっそく一刀さんの部屋に行きましょう!」

 

 

そう言って、斗詩と猪々子は一度自室に戻り、そして七乃たちを引き連れて一刀の部屋へと訪れた。

 

 

 

 

 

一刀の部屋の前についた斗詩たち。部屋の中は相変わらず静寂だ。

 

しかし、いつもなら重苦しい雰囲気で開ける扉が、今日は期待に溢れた気持ちで開け放つのだった。

 

部屋の中に入ると、一刀がいつものように静かな寝息をたてたまま寝ていた。

 

 

「あの・・・・斗詩ちゃん?もうそろそろ、どういうことなのかを教えてくれませんか?」

 

 

七乃が少しだけ戸惑った声で聞いた。

 

七乃は斗詩の言葉に従い、あの後すぐに麗羽たちに迎えに行ったので、斗詩と猪々子が徹夜で何をしていたのかも分からなかった。

 

斗詩は七乃ににっこり、と微笑み一つの紙の束を取り出した。

 

 

「竹管にしようとも思ったんですが、どうせなら、ずっと長く読みたいですからね。だから奮発して紙にしました。すべてが終わったら本にしようと思います」

 

 

「それを作るために徹夜をしたんですかー?」

 

 

「はい!お陰で頭がくらくらしちゃって・・・・さっきも、思わずあんな口調になっちゃって・・・・えへへ」

 

 

「はぁ・・・・それで、何なんですか?それ」

 

 

「はい。どうぞ」

 

 

斗詩が手渡した紙の束を七乃が受け取り、そして少し読む。

 

 

「これは・・・・・」

 

 

「元の一刀さんにあって、今の一刀さんにない物・・・・・七乃さんは何だと思いますか?」

 

 

 

「それは・・・・きっと、美羽様と麗羽さんじゃないんですか?最初は私たちを含めた6人で旅をしていましたから」

 

 

「はい。正解です。それが『欠けた者』です。でも、もう一つあるんですよ!『欠けた物』が!」

 

 

七乃が斗詩の言葉にうーん、と悩む。斗詩と猪々子はにこにこしながら、答えを待っていた。

 

 

「えっと・・・・元の一刀さんは、何か欠けていた訳ではないですよね?だって今の一刀さんの『欠けた物』を探していたわけですから」

 

 

「はい!最初の一刀さんは『何も欠けていなかった』んですよ!『何も失ってなかった』んです!」

 

 

『失っていなかった』の言葉を強調する斗詩に、七乃は更に考え込んだ。

 

 

確かに、最初の一刀は何も失っていなかった。そしてその後に記憶喪失になり、今までの記憶を失った。そして、その記憶喪失の人格が消え、今は前と同じ一刀になっている。人格だけで言えば、今眠っている一刀は、前の一刀と同じなわけであって、あの強気の一刀ではない。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・あ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで七乃は気がついた。

 

そして、目が光輝いた。それは確信をもったような、そんな目だった。そして再び先ほど受け取った紙の束に視線を戻した。そして、自分の推理が間違っていないことを確認する。

 

 

「あぁ!そうでした!分かりました!」

 

 

斗詩と猪々子は笑顔になり、そして七乃もそんな二人に笑顔を向ける。

 

 

 

 

 

「元の一刀さんは、何処も欠けていなかったですねー。『記憶』も『思い出』も」

 

 

 

 

 

「でも、今眠っている一刀さんは、記憶を失い、別の人格になって、そして元に戻ったんです」

 

 

 

 

 

 

「そう。元の兄貴には記憶や思い出は何も欠けていなかった。でも、今の兄貴は記憶喪失になっている間のことは何も知らない・・・・・つまり、欠けている物ってのは・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「記憶を失った時の記憶!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――前の一刀にあって、今の一刀にないもの。

 

 

それは、まず旅の仲間であった二人、麗羽と美羽だった。そもそも、一刀がこっちの世界に来て最初に出会ったのが、袁家の二人なのだ。それから記憶を失って別れるまでずっと一緒だった。それが、まず欠けた者だった。

 

 

そして次の欠けた物。

 

 

それは、記憶。

 

元の一刀は至って普通。記憶も思い出もある、普通の人間だった。しかし、記憶を失い、そして天命を全うするために、産まれたもう一人の一刀がしばらく生活することになった。

だが、こうして天命を全うし終えた一刀の人格が消え、そして元の持ち主である、本来の一刀に戻った。

 

 

 

だが、本来の一刀に戻っても、絶対に自力では手に入れられない物。欠けている物。

 

 

 

 

 

 

 

それは、自分が自分でない時の記憶。つまり、記憶喪失になっている時の記憶だけは、どれほど頑張っても手に入れられない。なぜなら、そもそも本人からしてみれば、経験すらしていないのだから。つまり一刀は自分が眠っている間の記憶だけが、欠けていて、不完全な状態であったのだ。

 

 

 

 

 

だから、斗詩と猪々子は一刀のその時の記憶を作ることにしたのだ。

 

記憶喪失になってからの一刀とのことを。麗羽と別れたことを。村で盗賊と戦ったことを。三国に行き、戦争を再び起こしたことを。敗兵村で五瑚と戦ったことを。そして、一刀が眠ってしまったことを。すべてのことを一つの物語として書き上げたのだった。

 

 

 

「だから!だからこれを作ったんですねー!?これは私たち3人でないと作り上げることの出来ない物ですねー!」

 

 

「はい!七乃さんは大丈夫ですか?何だったら、私たちみたいに紙に書きますか?」

 

 

「大丈夫ですよー!さぁ!早くやりましょう!」

 

 

「あ、あの・・・・私には何のことが分かりませんわ・・・・?」

 

 

「わらわもじゃ・・・・」

 

 

完全に蚊帳の外の麗羽と美羽。

 

しかし、斗詩たち3人は全く気にせず、一刀のベッドの元へと移動し、そして椅子を準備して座った。これから、少々長い話になるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀さん。聞こえていますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄貴はさ、兄貴の知らない間に、大陸を平和にしてんだぜ?知らないだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからー、私たちが教えてあげますよー。斗詩ちゃんと猪々子ちゃん、そしてこの私、七乃だけが知っている、物語」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで、3人はお互いに顔を見合せて、そして一緒に一つの物語の題名を言った。

 

 

 

 

 

その題名は、何の変哲もない。何の捻りもない、ただの事実をそのまま書いただけの物語にふさわしい題名だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一刀さんの」「兄貴の」「一刀さんのー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「記憶喪失物語!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴくり、と今まで微動すらしなかった一刀の手が、ほんの少しだけ動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

「こうして、北郷一刀と顔良、文醜、張勲と敗兵村の兵士たちは、大陸を平和にしたのでした。その後、記憶を取り戻した北郷一刀は、三国の見たこともない人たちに追われることとなりましたが・・・・・いや、本当に怖かったよ・・・・だって、知らない人がいきなり抱きついてくるし、それに握手しただけなのに下着を履き換える変態もいたし、それに胸がどうとか騒いで、俺のことを軍曹とか言うネコミミもいたし・・・・・っと、すまん。とにかく、北郷一刀とその愛した女たちは末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし・・・・・・・ほら、どうだった?」

 

 

 

部屋の一室に、若い男とまだまだ幼い少女が3人、仲良くベッドに腰をかけていた。

 

おかっぱの少女はその男の膝の上に座り上機嫌だった。それを活発そうな少女と、幼いながらもしっかりしていそうな少女が羨ましそうに見ていた。その光景からその若い男はその少女たちから好かれていることが分かる。

 

 

「おとーさん格好良い!何度読んでも面白いよ!」

 

 

おかっぱの少女はにこっと笑い、その男の顔見た。その笑顔に男も優しい笑みを返す。

 

 

「あっはっは、だろ?でもな、お父さんは全く覚えてないんだよねー」

 

 

「でも、今のおとーさんは格好悪いよー」

 

 

「そ、そんなことないぞ!『惚れた女を守るために、刀を握るぐらいの強さはあるんだよ』・・・・どうだ!お父さん、格好いいだろ!」

 

 

少しだけ声色を変えてその物語の台詞の一つを演じる。しかし、どこか無理がある。

 

 

「ぜんぜーん」

 

 

「うぅ・・・・」

 

 

その仲のよさそうな会話を聞いていたせいか、活発そうな少女が少しむくれた顔をする。

 

 

「おとー!それよりあたいと遊ぶ約束だろ!」

 

 

「そうだったな・・・・全く、お前はおかーに似ちまって・・・・もっと、女の子らしくしなさい」

 

 

「いやなこった!」

 

 

そしてその光景を見ていた、頭のよさそうな少女が控え気味にその男の袖を掴んだ。

 

 

「お父様―。今日は私とお勉強ですのー」

 

 

勉強、と言いながらも、少女はただその男と一緒に居たかっただけなのだが、なかなか素直に言うことが出来ない。だが当然、男だってそんなことは分かっていた。

 

 

「よし!今日はお勉強なしで、お前も外で遊ぼうな」

 

 

「いやでーす。お母様が言っていましたのー。「勉強しないと、お父様みたいになりますよー」ってー。だから勉強するんですのー」

 

 

「だったら私は勉強しないもん!おとーさんみたいになるもん!」

 

 

「あたいもー」

 

 

「別に私はお父様みたいになりたくないですのー。でも、お父様はだらしがないので、私がお父様のお嫁さんになって、支えてあげますのー」

 

 

「あー、ずるいよー」

 

 

3人の少女はそんなことを言いながらきゃっきゃと騒ぐ。

 

 

その光景を見ていた男。そしてその3人の少女の父親でもある、北郷一刀は改めて幸せだな、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

がちゃ、とドアが開いた。

 

 

そして部屋に入ってきたのは3人の女性。3人とも若いが、どこか大人な雰囲気を纏わせる美女だった。その3人とは斗詩、猪々子、七乃だった。

 

 

「ただいま帰りましたー。一刀さん、子供のお世話、御苦労さまです」

 

 

「おかーさん!」

 

 

おかっぱの少女が斗詩に抱きつく。斗詩はその少女の頭を優しく撫でてあげる。

 

 

「おう!肉まん買って来たぜ!兄貴も食べるだろ?」

 

 

「おかー!食べる食べる!」

 

 

活発そうな少女は猪々子の元へ。と言うよりも、お土産の肉まんを欲しているらしい。

 

 

「一刀さーん。娘たちと仲良く遊んでいましたかー?」

 

 

「お母様―。私がきちんとお父様の面倒を見ていたのでー、心配いりませんのー」

 

 

生意気なことを言う少女は、自分の母親ににっこりと微笑んだ。七乃はも笑顔を返し「御苦労さまですー」と頭を撫でてやった。

 

 

やっぱり、母親には敵わないかぁ、と一刀は思いながら、3人に挨拶を返す。

 

 

「三人ともお帰り。あれ?麗羽と美羽は?」

 

 

「あの二人なら、まだ働いてますよ。ほら、あの二人って、町の経営とかは全然駄目ですから、代わりの仕事として定食屋で給仕をしてるじゃないですか。だから、まだまだ忙しいらしいですよ」

 

 

「あの二人が真面目に働いてるのって、ホント意外だよな・・・・」

 

 

「あらあら、でも、それは一刀さんのお陰なんですよー?一度、あの二人を見捨てることになったのも、一刀さんのせいですしね。二人とも、結構寂しかったらしいですからー」

 

 

くすり、と笑う七乃に、あははーと皆が笑った。

 

 

「だから覚えてないんだって・・・・・。はぁ、まぁいいや。ほら、三人とも、手を洗ってから食べるんだぞ」

 

 

「「「はーい」」」

 

 

素直に返事をして洗い場へと行く姿に、微笑ましい気持ちになる。

 

 

斗詩は一刀の手に持っている、かつて自分たちが書いた物語の本を見つけた。その本はすでに何十回と愛読された物で、少々古くなってしまっていた。

 

 

「うふふ、またあのお話を読んでいたんですか?」

 

 

「まぁな。俺が覚えてないって言っても、これは俺なんだからな・・・・・そのワイルドな俺を忘れないためにも、俺はこれからもこれを読むよ」

 

 

「わいるど?」

 

 

「えっとだな・・・・気が強いみたいな感じだ」

 

 

「なるほど。それより、一刀さん。一刀さんは約束を守ってくれましたよね」

 

 

「約束?」

 

 

「はい。そのワイルド一刀さんとした、約束なんですけどね」

 

 

「あぁ。別にあれは約束でも何でもないけどな」

 

 

「??」

 

 

 

 

 

 

「だって、俺は記憶を失う前からおめぇらに惚れてんだからよ。だからここで、もう一つ約束してやんよ・・・・俺は、これからもおめぇらを愛して、そんで娘を守るってよ・・・・だから、黙って傍にいろ」

 

 

 

 

 

 

少しだけ目を細めて、力強く言う一刀に、斗詩たちは思わずキュン、とときめいてしまう。

 

 

「一刀さん・・・・・・」

 

 

「なんちゃって!どうだ?似てた?」

 

 

 

あははーと照れくさそうに笑う一刀に、今度は冷めた視線。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

「あれ?三人とも?」

 

 

 

「あれですね。もし、ワイルド一刀さんのままだったら、きっと私は胸がドキドキしすぎて早死にしてしまうので、今の一刀さんでいいです」

 

 

 

「あたいもー。兄貴は兄貴のままでいいやー」

 

 

 

「そうですねー。これぐらい馬鹿じゃないと、扱いにくいですからねー」

 

 

 

「お前ら酷いぞ!」

 

 

 

「あはは」

 

 

 

3人は口ぐちにそう言いながらも、相変わらず一刀のことが大好きだった。それは一刀も分かっていて、ある意味、何も言わずに伝わる最高の関係が築けていた。

 

 

斗詩たち3人と一刀の間には、今までの関係を変えるようなことがたくさんあった。最初はただの旅の仲間。そしてある時は主、そして恋人に・・・・・そして今は、夫婦。

 

 

でも、それは外から見た関係だ。

 

 

今も昔も、斗詩や猪々子や七乃にとっては、一刀は恋する相手であり、その感情は夫婦と言った、落ち着いた物ではなく、まだまだ内心は恋する少女のように激しいものだった。

 

 

「あ、でもさ、さっき言ったのは本気だぞ?」

 

 

一刀が立ち上がり、娘たち同様、洗い場に行こうとドアを開けた所で、3人に振り向いた。

 

 

「はい?」

 

 

 

「・・・前から大好きだよ。これからも傍にいてくれよな。斗詩、猪々子、七乃」

 

 

そう言って部屋を出ていく一刀の後ろ姿は、かつて共に旅をしたあのワイルド一刀のように凛々しく、それでいて今の一刀のような優しさがこもっていた。

 

 

―――やはり、あの一刀は一刀の中に確かにいる。

 

 

斗詩たちは3人で笑いながら、愛しいあの人の元へと駆け寄っていく。

 

 

 

 

 

 

「はい!大好きです!」

 

 

 

 

 

 

 

「おう!これからもよろしくな!」

 

 

 

 

 

 

「私も大好きですー!」

 

 

 

 

 

 

 

HAPPYEND

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作者コメント

 

 

 

 

さて、みなさん戯言使いの初の長編&シリアスの物語、『一刀の記憶喪失物語~袁家√~』はいかがだったでしょうか?

 

今までは短編コメディばかり書いていたので、正直戸惑うばかりで、そして途中ではネタがなくて、長い間音沙汰がないこともありました。本当に申し訳ありませんでした(´Д⊂グスン

 

 

ですが、こうして最終回を迎えられたのは、みなさんの温かいコメント、応援メッセージのおかげです(´∀`*)ネタに詰まって、手が進まなくなった時は、いつもみなさんの言葉を読み返して、元気を貰っています。

 

まだまだ青二才の抜けない戯言使いですが、これからもみなさんと楽しく過ごしていきたいなと思います。

 

 

これからの活動に関しては、まだ決まっていません。しばらくは、不定期に『雛里のラブラブご主人様計画』を更新していこうとは思いますが、もしかしたら、また何か大きなことをやるかもしれません。その時は、ブログに書きますので、よろしくお願いします。

 

それでは、駄作ではありましたが、最後までお付き合い頂きありがとうございました。

 

これからも、よろしくお願いします(* ^ー゚)

 

 

ps、一刀の記憶喪失物語~袁家√~に関しての感想、助言などがありましたら、気軽に応援メッセージ、もしくはメールをください。それを糧にさらなる努力につとめます。

 

 

 

 


 
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