一刀が目覚めて、しばらくの時が過ぎた。
そんな時、三国から手紙が来た。
内容を要約するとこうだ。
―――三国の和平の功労者である北郷一刀が目を覚ましたと言う情報を聞いた。改めてお礼をしたいので、お食事会でもしましょう。三国の主要な武将たちが集まるので、是非、来てください。
斗詩たちにしてみれば、色々と一刀のことで心配をかけていたので、ぜひとも参加しようと思っていた。今現在、町の経営をしながら生活出来るのも、三国の恩賞なわけであって、そのお礼を改めて言うべきだとも思っていた。
しかし、眠りから覚めた一刀にしてみれば、初対面である。しかも、相手は三国の王。会う前からかなり緊張していた。
―――そして今、一刀、斗詩、猪々子、七乃は招待された王宮の廊下を歩いていた。
麗羽と美羽はどうしたかと言うと、美羽が雪蓮と会うことを全力で拒否したためお留守番である。麗羽は付いてきてもよかったのだが、美羽を一人で留守番させるわけもいかなく、麗羽も一緒に留守番することになった。
ともかく、その一刀たち四人は食事会の会場でもある広間に行く途中であった。
一番前を歩く一刀は緊張のあまり、表情が固かった。
そんな一刀を見て、斗詩はくすり、と笑った。
「緊張し過ぎですよ。みなさん、とってもいい人ですから」
「で、でもさ?お前たちが書いてくれた物語だったら、俺、かなり失礼なことしてるじゃないか。だからさ、気が重くて・・・・」
そう。一刀は初対面とはいえ、その人たちに一体、どんなことをしたのかを斗詩たちが書いてくれた物語を読んで理解していた。しかし、斗詩たちが主観で書かれた物語だったので、本当は一刀にメロメロになっている三国の武将たちのことは微塵も書かれていなかったのだ。
なので、一刀が知っていることと言えば
呉の王、孫権に、王様失格だと罵った。
蜀の王、劉備を殺そうとした。
魏の王、曹操に喧嘩を売り、魏の兵士や武将たちを巻きこんで大暴れをした。
それしか知らない一刀にとっては、叱咤どころか、首をはねられても文句は言えないと思っていた。だから、もしかして食事会といいながらも、自分の公開処刑なのではないか、と内心びくびくしていた。
「さて、つきましたよ」
「あ、あぁ」
「あ、そうだ。一応、前の一刀さんとは違うとは手紙で書きましたけど、あまり期待しないでくださいねー。気を強く持ってくださいねー。何があっても逃げ出さないでくださいねー」
「・・・・は?」
ギィ、と斗詩が扉を開けた。
広間には大きなテーブルが置かれ、そして椅子が並んでいる。
開かれた扉に広間の中に居た全員の視線が集まる。
「どうも、お久しぶりです」
「ようやく来たわね。斗詩、猪々子、七乃、久しぶりじゃない」
「あ、やっほー、斗詩ちゃんたちだー!」
「久しいわね。七乃、そしてそっちは顔良たちね。話は聞いているわ」
斗詩の挨拶に返事を返したのは、呉の王雪蓮と、蜀の王桃香、そして魏の王華琳だった。それを皮きりに、他の武将たちも親しげに挨拶をした。
「一刀!」
その中で挨拶よりも先に、一刀の姿を見つけて抱きついてきた子が一人。蓮華だった。
いきなり抱きしめられた一刀は当然、驚く。本人にしてみれば、初対面の子に抱きつかれたのだ。しかも、相手は可愛い子。
「あ・・・・えと・・・・」
「一刀!あのね、今日ね、お料理作ったの!」
「あ、そ、そうなんだ」
「うん!後で一緒に食べようね!」
「あ、あぁ・・・・えっと・・・・・」
「一刀?」
「あ、えと・・・・俺さ、記憶がなくてさ、君が誰だか知らないんだけど・・・・」
きょとん、と不思議がる蓮華。そこでようやく、一刀の顔が以前見たような怖い雰囲気ではなく、どちらかと言えば優しい雰囲気であることに気がついた。そして、初めて見る髪形に、蓮華は思わず見とれてしまう。
「・・・・・(ぽっ)」
「えっと・・・・」
「一刀。その髪型も似合うよ・・・・」
「あ、ありがと・・・・えっと・・・・それで、君は誰?」
「忘れてしまったの!?酷い・・・・・」
「あ、いや、だって・・・・」
「私とあんなに散々遊んだくせに!一刀は私のこと、ただの遊び相手にしか思ってなかったのね!」
「あ、遊び・・・・?」
「そうよ!散々、私と遊んだくせに・・・・・ぐすん」
涙目になって、押し黙る蓮華に、一刀は嫌な汗をかいた。
本当はただその言葉通り、一緒に遊んだだけなのだが、一刀は当然知らない。さらに言えば、いきなり抱きついてきた女の子、そして「遊び」と連呼する、その二つのキーワードから、嫌な想像をしてしまう。
「私は孫権。真名は蓮華よ。あなたが王である私を女にしてくれたんじゃない!」
「お、女にした!?」
「えぇ。そうよ、初めてで戸惑う私を強引に連れ出して・・・・そして初めてにも関わらず私は楽しんでしまって・・・・・それからと言うもの、毎日遊んでいるのよ!」
「お、俺のせいで・・・・そんなことを・・・・・えっと、孫権」
「蓮華よ。それで一刀、責任を取って、これからも私と遊んでくれるわよね?」
「あ、でも、俺には斗詩たちが・・・・」
「・・・・・一刀?だめ・・・・・なの?」
「うっ・・・・・」
「一刀と遊びたい。だめ?」
「あ、いや・・・・・そうだ。確認だけど、子供なんていないよな?さすがに、子供を見捨ててはいないだろ・・・・俺は」
「何言っているの?子供、いっぱいよ」
「!?」
蓮華の言葉の意味は、子供と一緒に鬼ごっこをしたりして遊んでいた、と言う意味だったが、一刀にとっては蓮華と遊びで付き合い、そして子供がいっぱい出来た、と捉えていた。
思わず頭痛がする一刀。
「と、斗詩・・・・・」
すがる思いで斗詩を見つめる一刀。
斗詩はそんな一刀ににっこり、と微笑んで
「あら、私が知らない間にそんなに遊んでいたんですね。あ、だから昨日の夜もベッドの上であんなに手慣れたようだったんですね。納得」
「違う!俺は知らない!」
「ふーん。別にいいですけどぉ・・・・・・あ、家に帰ったら新しい籠を買わないと。今、家にある籠には、さすがに人一人を詰め込むことは無理だから」
「籠!籠で俺に何するつもりなんだよ!」
にこぉぉ、と微笑む斗詩に、一刀は思わず泣きそうになる。
――その後、止めにはいった雪蓮たちに誤解を解いてもらい、そして改めて挨拶をした一刀たち。
そして次は蜀の面々と挨拶をすることになった。
「えっと。改めて、北郷一刀です」
「・・・・・?」
「あの・・・・・」
「あ、ごめんなさい。私は劉備、桃香って言います。一刀さま」
「あ、はい・・・・・あの、前はごめんなさい。なんか、俺、酷いことをしたみたいで・・・・」
「・・・・・・(ぐすっ)うわぁぁん!月ちゃぁん!一刀さまがよそよそしいよぉ!私、嫌われちゃったのかな?うわぁぁん!」
いきなり桃香は傍に控えていた月にすがりついた。
「と、桃香さま・・・・・一刀さま?どうなされたのですか?」
「あ、いや、だから俺は記憶が戻って本来の俺に・・・・・」
「いつもみたいに罵ってくださっていいのですよ?」
「罵る!?いつも!?」
「そうですよ。一刀さまが私たちを罵ってくれたお陰で、武将さんたちはもちろん、メイドである私も心機一転、新しい自分に目覚めたんです」
「Mに目覚めた!?」
「私たちはいつも、一刀さまの怒声に元気づけられていたんですよ」
「どM!?」
「ちなみに、お守りとして、一刀さまの下着を神棚に飾っています」
「どMじゃない!ただの変態だ!」
「へぅ・・・・変態だなんて・・・・興奮してしまいますぅ」
「やっぱりどMだ!」
「じ、じつは恥ずかしながら・・・・・・今日は下着、履いているんです・・・・・へぅ(ぽっ)」
「恥ずかしがるとこが違う!っていうか、いつもは履いていないのか!?」
「へぅ、そ、そんな・・・・・そんなの当然じゃないですか!見損なわないでください!どれだけ濡れた下着を洗ってきたと思っているんですかぁ。それぐらい、私だって学びますよ!」
「怒るところが違うよ!いつも下着履けよ!」
「と、桃香さま!一刀さまのご命令ですよ!みなさーん、一刀さまが下着を履けとおっしゃいましたぁー」
「わざわざ大声で叫ぶことかよ!」
「え、どうしよう・・・・・今日は一刀さまと久しぶりに会うから、下着の代わりにおむつ履いてきたのに・・・・」「あらあら、女陰の蜜で濡れた下着を見たいだなんて・・・・一刀さまはいやらしいですわ」「な、なるほど、一刀さまは濡れた下着が見たいのだな・・・しかし、今日は私も履いていないのだが・・・・」「愛紗ちゃん履いてないの?ふふーんだ。実は、私は履いてるんだよー。月ちゃん、一緒に一刀さまに見てもらおうよー」「はい。桃香さま」
一刀の前にたち、少し恥ずかしそうな表情をしながらスカートを捲る蜀の王とそのメイド。
一刀はふらふら、と後に控えていた斗詩に視線を向けた。
そんな一刀に斗詩はまたもや良い笑顔。
「ふーん。一刀さんって、濡れた下着が好きなんですか。あ、だから昨日の夜は服を着たまま私を可愛がったわけですね、納得」
「違う!少しは俺をかばってくれよ!」
「ふーん・・・・・あ、そうだ。家に帰ったら新しいお箸を買わないと。さすがに。人に刺したお箸でご飯食べるのはいけないよね」
「お箸で俺に何するつもり!?あと、お箸で人を刺す方がいけないよ!」
―――その後、土下座をして斗詩たちに止めてもらい、どうにか大事にはならずに済んだ。
すでにぼろぼろの一刀だが、まだ魏が残っている。
「ふふ、大変ね。北郷一刀」
「あ、あぁ、まぁな。えっと、君は?」
「私は華琳よ。確かに、あの時の一刀とは様子が違うようね。でも、それはそれで良い目をしているわ・・・・・うん。私の友としてどうなったか不安だったけど、合格よ」
「友?何のことだよ」
「知らないならいいわ。でも、これだけは言わせて・・・・・私は今、自分の幸せを手に入れたわ。ありがとう。あなたのお陰よ」
「??何のことだが分からないけど、それは俺のお陰じゃないよ。それは華琳が手に入れようとして頑張ったから手に入れたんだ。だから、それは華琳、それは自分自身の力だ」
「・・・・ふふ、なるほど、口調は変っていても言うことは変らないわね・・・・そうだわ。あのね、貴方にお礼を言いたいって子が居るのよ・・・・流琉、季衣」
「「はい」」
華琳に呼ばれてやってきたのは季衣と流琉。
「あの・・・・軍曹」
「軍曹!?」
「軍曹のお陰で、胸が大きくなりました!ありがとうございます!軍曹!」
「え、何それ怖い。俺、何かしたの?」
「サ―・とても激しい運動してくださいました・サ―」
「え、なんで軍隊のノリなの?それに激しい運動って・・・・」
「ちょっと軍曹!」
戸惑う一刀に追い打ちをかけるように現れたのは、ネコミミを被った軍師、桂花だった。
「私も毎日やっているのに、胸が全然成長しないんだけど!」
「あ、そんなの知らないし・・・・・」
「しかも季衣と流琉に胸を越されるなんて・・・・・どうしてなのよ軍曹!私にだって、あれだけ激しい運動させたくせに!」
「え、何俺。記憶喪失の時の俺って変態だったの?な、七乃・・・・助けてくれよ・・・・」
一刀がすっかり浪費した気力を振り絞り、七乃に振り返ると、そこにはにこぉっと笑った七乃が居た。
「へぇ。一刀さんは激しい運動をさせて胸を大きくしてたんですねー。へぇ、胸が大きい子が好きなんですねー。あ、だから昨日の夜は斗詩ちゃんが眠った後に私の部屋に来て激しい運動をして、私の胸を大きくしようとしたんですねー。納得」
「・・・・・へぇ。昨日は私の日だったのに、あの後に七乃さんの部屋に行ったんですか・・・・・・ふーん」
「あ、いや、斗詩。違うんだ。厠に行こうとしたら、七乃に連れ込まれて・・・」
「そうでしたっけー?最後なんて、もうやめてって泣いて懇願しても止めてくれなかったので、すっかり忘れてしまいましたー」
「ふーん。七乃さんにはそれぐらい激しくしたんですかー・・・・・・あ、そう言えば、家に帰ったら新しい硯(書道の道具)を買わないと。さすがに、人を殴った物で字を書いたら、きっと字が汚くなってしまいますからね」
「硯で人殴るほうが人間汚いよ!ってか俺は何上手いこと言ってんだよ!」
「斗詩ちゃーん。墨はいいんですかー」
「大丈夫だよ。だって・・・・・ほら、そこに赤い墨があるから」
「やめて!虚ろな目をしながら俺を指差さないで!」
―――その後、嫉妬した猪々子に一発殴られてから、猪々子が斗詩と七乃を説得してくれたおかげで、その場はおさまった。
そしてようやく、挨拶が終わり、和やかな食事会をすることとなった。
わいわい、がやがや、と三国の武将たちと斗詩たちが仲良く食事をする中で、一刀は一人で寂しそうにご飯を食べていた。
本人からしてみれば、全員が初対面なのだ。しかも関係が不穏。和める筈がなかった。
「一刀・・・・」
「あれ。蓮華?どうかしたの?」
「うん・・・・あのね・・・・・あーん」
傍によってきた蓮華が箸で食べ物を掴み、それを一刀の口元に持って行く。
「あ、いや・・・・」
「あーん」
「だから・・・・」
「あーん?」
「あの・・・・」
「あーん・・・(´・ω・`)ガッカリ」
「あぁ、分かった。あーん!」
ぱく、と食べる一刀。残念ながら、味は分からなかった。
「蓮華さま。今お使いになった箸を回収いたします」
そう言って、今度は月と詠が近寄ってきた。詠の手には箸が一杯入った箱を持っていた。
「あのさ、その箸は何?」
「あ、あの・・・・・もちろん、一刀さまが使った箸ですよ」
「え、もちろんって何それ怖い。そう言えば、何故か一度使った箸が新しい物になってて不思議に思ってたけど」
「おかげでこんなにもいっぱいですぅ」
「ちなみに・・・・それを何に使うんだ?」
「へぅ・・・・」
「分かった。言わないでいい。頼むから言わないでくれ」
月はにっこり、と笑みを残して、蓮華が一刀に食べさせた箸をちゅぱちゅぱ咥えながら仕事へと戻った。
「・・・・はぁ」
「あら、楽しんでないようね」
「華琳・・・・。俺、知らない間に凄いことをしてたんだな・・・・」
「そうよ。だって、三国の王に喧嘩を売り、そして五瑚の精鋭を打ち破ったんですもの」
そう言って、一刀の隣に腰を下ろす華琳。一刀にとっては、唯一心休まる相手である。
「貴方は覚えていないかもしれないけど、貴方のやったことは、歴史に名を残すほどの功績よ。だから誇りに思いなさい」
「確かにそうかもしれない・・・・でも、それをやったのはもう一人の俺だし、それに斗詩たちのお陰だ。だから、俺は違うよ。でも、俺はずっともう一人の俺を覚えておこうと思う」
「そうね。それがいいわ」
しばらく沈黙になる。
それぞれ酒の入った杯をちびちびと飲んでいく。
「ねぇ、一刀。あなたがよかったら、魏に来ないかしら?」
「魏に?何をするために?」
「貴方の知識を、大陸中で活用するためよ。そうすれば、より豊かになると思うわ」
「なるほどな・・・・・でも、悪いけど遠慮するよ。俺は今の斗詩たちとの暮らしが好きだからな」
「・・・・・そう」
「斗詩たちはさ、目を覚まさない俺をずっと待っていてくれた。だから俺は、もう二度と寂しい思いをあいつらにさせたくないんだ。だからさ、今みたいに斗詩たちとずっと静かに暮らしていきたい」
目を覚まさない一刀をずっと傍で待っていた斗詩たち。
もし、一刀が斗詩の立場であったら、途中で心が折れていたかもしれない。でも、どれほど寂しくても、傍に居てくれた斗詩たちに一刀は感謝していた。そして、感謝以上に斗詩たちを愛していた。
「そ。でも、もし疲れたりしたら魏に来なさい。歓迎するわよ」
「あぁ。その時は頼むよ」
「ふふ、それじゃあ、浮気したくなったら、いつでも来なさいな」
そう耳元で呟いて、華琳は再び宴会の輪の中へと入って行った。
一刀は頬に感じた華琳の吐息のあとをそっと手で撫でて、一人静かに微笑んだ。
「・・・・・・・・」
ゾク、と寒気がした一刀は後ろを振り返った。
そこには、にっこり、と笑みを浮かべる斗詩と七乃が無言で一刀を見つめていた。
「・・・・・・ふーん。あれほど色々な女の子に手を出しておきながら、次は華琳さんですかー」
「へぇ。魏でもそんな仲良くなるようなことをしていたんですね。ふーん」
びくり、と感じた殺気に振り向くと、そこにはにこぉと笑う七乃と斗詩。
「あ、いや、あのさ、これは友人としてのことでな・・・・」
「別にいいですよ。嫉妬なんてしてませんから。だって、一刀さんは私たちが大好きだって知ってますから。えぇ、私たちだけしか見ませんよね?他の雌犬なんて、ゴミみたいなものですよね?」
「斗詩、目、目の色が死んでる。何か違う自分に目覚めようとしてるぞ」
「何を言っているんですか。私、今はとっても気分がいいんですよ。どれぐらい気分がいいかと言うと、今なら一刀さんのお尻をお箸で刺して硯で頭を殴ってその死体を籠に詰めて山奥に埋めることを苦労とも思わないぐらい気分がいいです」
「さっきのが全部混ざってる!?七乃!お前なら分かってくれるよな!」
「分かってますよー・・・・・斗詩ちゃん。一刀さんは、山ではなく長江の魚の餌にしてほしいらしいですよー」
「むしろ最悪!?嫌だ!痛いのは嫌だ!」
「一刀さん!あなたにお仕置きする私の心の方が痛いんですよ!?・・・・・あ、すみませんが、月さん。月さんが集めて持ってるそれ、貸して頂けますか?・・・・・えぇ、ちょっと穴という穴に詰め込もうと思いまして・・・・・」
「嘘だ!絶対楽しんでるぞこいつ!」
「あ、いえ、違います。一刀さんの下着じゃなくて・・・・あ、でも下着は後でくださいね」
「俺の下着も集められてた!?そして何故、今下着を持っていた!?」
「いいえ、だから湯のみではなくてですね・・・・・あ、湯のみでもいっか。きっと入りますよね」
「更に状況が最悪!?妥協するなよ!」
「全く。斗詩ちゃん。流石に酷いですよー。もっと優しくしてあげないと、本当に一刀さんに愛想を尽かされてしまいますよー」
「な、七乃・・・・お前が天使に見えるよ・・・・・」
「亞莎ちゃん。あなたの作ったゴマ団子を貰えますかー?・・・・えぇ、一体、一刀さんの穴にどれぐらい入るか試してみたいもので・・・・・」
「どっちもどっちで酷い!?」
「大丈夫ですよー。食べ物は粗末にしません・・・・・ほら、一刀さんの穴に入ったゴマ団子は、月さんたちが食べてくれるそうですからー。あ、桃香さんたちも食べます?どうぞどうぞ」
「ちょっと待てよ!変態を通り過ぎて狂ってるよ!」
「えぇ。そうです。みんな、恋に狂っているんですよー」
「そんないい意味じゃないよ!」
「あ、蓮華さん。一刀さんと遊びたい?そうですねー、では、一刀さんの穴に色々な物を刺して、一刀さんが「アッーーーー」と叫んだら負け、と言う遊びをしましょうかー。題して『一刀さん絶対絶命』」
「何そのリアル『黒ひげ危機一髪』・・・・・・って、ちょっと待て、絶体絶命?危機一髪すらなかった!手遅れだ俺!・・・・・・・あのさ、斗詩、七乃、お前たちが嫉妬してくれてるのは嬉しいよ。でもさ、度合いが過ぎると流石にアレだし、折角の宴なんだが、楽しもうよ。大丈夫、お前たちの行動は愛があることは俺にもちゃんと伝わってるから」
「え・・・・愛?」
「愛?何を言っているんですかー。ただ私たちはボロボロになった一刀さんを見たいだけですよー」
「嘘!愛ないの!?斗詩!お前はあるよな!愛、あるよな!」
「あ、愛?愛ですよね・・・・・えぇ、あると言えばあるような、ないと言えばないような・・・・えっと・・・・・ありますよ、愛」
「何その気の使い方!お前にも愛はなかったんだな!」
「あぁ、愛ですね。ありますよ。この前、買ってきました。新品です」
「買ってきた!?」
「えぇ。肉まんを買ったらオマケでついてきました。愛」
「やす!愛やす!」
「あ、でも、本当は愛、ありますよ。だって一刀さんを虐めることに躊躇いがありませんから・・・・ほら『愛って何だ。躊躇わないことさ』って言うじゃないですか」
「何故お前がその言葉を知っている!?」
「だから、私には愛があります。えぇ、愛だらけですよ」
「つまり躊躇いがないと!?」
その後については多くは語らない。
何故なら、一刀は若かったからだ。一刀は過去を振り返らない。
―――若さって何だ・・・・・・・振り向かないことさ。
―――帰り道、ボロボロになった一刀と斗詩たちは馬に乗って家へと帰っていた。
「どうでしたか?一刀さん」
「ハイ。トテモタノシカッタデス」
「あはは、兄貴はボロボロだなぁ」
「まぁ、無理もないですけどねー。そうだ。お留守番している美羽さまたちのために、何かお土産でも買いますか?」
「そうだね・・・・・って、一刀さん?」
一刀は立ち止って、少し考え込むように俯いていた。斗詩は少しやり過ぎてしまったかな、と不安になったが、一刀は笑顔で答えた。
「俺がさ、記憶喪失になった時にこんなにも多くの人に助けてもらったんだなって思ってさ・・・・・なんか申し訳なく思って」
「一刀さん・・・・そんなことないんですよ?それと同じぐらい、一刀さんはみなさんを助けているんですから」
「でも、それは俺であって俺じゃないんだからさ・・・・なんか、ずるいよな。俺。本当はもう一人の俺の手柄なのに、俺が横取りしたみたいでさ・・・・」
「一刀さん・・・・・でも」
でも、その一刀さんは間違いなくあなたと同じなんです・・・・・と、言葉を続けようと口を開きかけた時、
「だから・・・・・・だから、俺はもう一人の俺の分まで、お前たちを愛そうと思うんだ」
力のこもった目でそう告げる一刀。
記憶のない過去に悩み、罪悪感に胸が締め付けられていても、それでも一刀は前を見て進もうとしていた。それはあのワイルド一刀と同じ。
過去を見ても、どうしようもない。今に立ち止っても、何も変わらない。だから、前を見て歩く。
「・・・・・あはは、やっぱりですね」
「何が?」
「やっぱり、私の惚れた男性なだけあって、とても格好良いです。ね?文ちゃん」
「そうだな。兄貴は前であっても、今であっても格好良いと思うよ」
「そうですねー。とっても逞しい男性ですねー」
「・・・・・ほ、ほら、早く行くぞ」
一刀は少し照れたように歩みを進めた。
斗詩たちはそれを見て笑い、そして後を追いかけた。
「あ、一刀さん。格好良い台詞を言ったからと言って、話は終わりませんよ?昨日、七乃さんの部屋に行ったこと、きちんとお話しましょうね。大丈夫、華琳さんから夜の営みの道具を借りてきたんです。たまには、攻守交代しましょうか」
「・・・・・・・・・・・・えっ?」
END
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お久しぶりです。
みなさんは地震は大丈夫でしたか?僕は無事だったのですが、実家が東北地方にありまして、地震の被害を受けてしまいました(´Д⊂グスン幸い、家族は無事だったのですが、その他が大変で・・・・・
最後に、被災を受けた方々には心からお悔やみ申し上げます。
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