No.200146

真・恋姫無双~妄想してみた・改~第三十八話

よしお。さん

第三十八話をお送りします。

―白装束の侵入―

開幕

2011-02-07 00:08:21 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:4284   閲覧ユーザー数:3324

 

 

 

「隊長、危ないっ!!」

「なっ!?」

 

声と共に凪が俺を突き飛ばし、城門入口に向かって拳を振り上げる。

ぶんっ、と空ごと叩き割るような鈍い腕の振りが一閃すると、同時に空を斬るような鋭音がそれを迎え撃つ。

数瞬、遅れて聞こえてきたのは甲高い金属音と短い悲鳴。

それに呼応するように辺りから悲鳴が溢れ出した。

 

「うわああ!? な、なんだよこいつら、楽進将軍を一撃で!? お、お助けえぇ!!」

「敵だ、敵が攻めてきたんだ!! 余計な真似をしたばかりに逃げ遅れちまった!」

「凪ちゃん!」

 

慌てて態勢を立て直し、状況を確認しようと振り向けば、さっきまで隠れていた茂みまで吹き飛ばされ、横たわる凪の姿とその横に全身を隠すような白い衣装を纏った――

 

 

 

「白装束!?」

 

 

 

そこには祭司のような出で立ちで真っ白な服装を身につけた人間が直立不動のまま武器を構えている。

言葉と同時に久しく感じていなかった憤りを胸に去来し、無意識にきつく歯を噛み締める。

 

奴らはこの世界に俺が来て間もない頃、洛陽で月と詠を人質に取った忌むべき存在。有無を言わせぬ物言いと妖術を使い、世界に騒乱の種を蒔いた謎の集団だ。

 

(なによりも、袁紹軍を裏から支配する左慈の私兵が何でここまで!)

 

凪を吹き飛ばしたであろう白装束がゆっくりと布で巻かれた槍を掲げると、その後ろから次々と同じ服装の人間が城門に殺到し、飛び込んでくる。

視認出来るだけでも、数は三十人程度。少なく見積もっても二十は下らない人数。

どいつも顔をマスクのような布で覆い、似たような体型で区別がつきにくいが正面のこいつだけ明らかに雰囲気が違う。

倒れ伏せた凪に構う様子もなく、ただ一人だけ違う槍の得物を後方高く掲げ、掬い上げるように穂先をこちらに向けている。

 

「……」

 

無言であっても、焼け付くように漂ってくる気当たりは間違いなく強者の証……。少なくとも凪、思春クラスの実力者だろう。

危機感が嫌な汗とともに背筋を這い回り、脳が警鐘を鳴らす。

 

(ここで乱戦になれば誰かが必ず傷ついてしまう!)

 

ほとんど反射で刀を鞘から抜き放ち、慌てる三人組と二喬を庇うように前に出た。

 

「ここは俺に任せて城内に逃げるんだ!」 

 

言いながら刀を峰側に持ち替え、白装束と対端する。

 

「っ! ……お姉ちゃん、行くよ!」

「小喬ちゃん!? 北郷様を置いていくなんて……それにあの件を伝えておかないと!」

「今はここにいたって邪魔になるだけよ! そこのボンクラ、城の中に逃げるわよ!」 

「ひ、ひいいぃぃ!!」

 

声を掛けられ、はっとした三人はわき目も振らず駆け出し、二喬がそれに追随する。

 

(小喬、理解が早くて助かるよ)

 

回り込もうとしていた何人かの白装束が逃げる五人に追い縋ろうと体の向きを変えた。

 

「そこっ!」

 

その一瞬の隙を狙ってこちらから斬りかかる。

八双の構えのまま縮地、思春程とはいかないが稲妻めいた速度で一の太刀を浴びせて一人目を撃破、相手が迎え撃つ前に二の太刀、三の太刀で側の白装束を仕留める。

 

 

 

 

 

 

「おおぉぉぉ!!」

 

逃げる彼女達から白装束の注目をこちらに移そうと叫び声を上げ、更に追撃を敢行。

恋のような荒々しさで横殴りに刀を振り抜き、強引に二人纏めて吹き飛ばす。

ここまでやれば敵もこちらに対処せざるを得なく、横から隙間を縫うように白装束が迫る。

だが、気を抜けば容赦ない反撃がある事を身を持って理解していた俺は油断なく、

攻撃が当たる前に回し蹴りで相手を蹴散らした。

次いで、横薙ぎ、裏拳、逆袈裟、膝打ち……。

卑弥呼や女性陣に鍛えられた動きを余すことなく発揮し、全方位から迫り来る敵を無理なく対処していく。

俺はこんな時の為に自分を鍛えてきたんだ。ここで引くようなマネはみせられない。精一杯の実力を発揮するんだ。

 

「よし、これぐらいの実力なら持ち堪えられる。沙和! 君は凪の安全確保に行け。彼女を回収して円陣を組まれる前に脱出するんだ!」

「で、でもでも隊長一人残すなんて――」

「急げっ!!」

「う、うぅ……分かったの……」

 

短く、わざと突き放した口調で先を促す。

持ち堪えれるなんて大風呂敷を広げた以上、ここで弱気な姿勢は見せられない。

弾かれるように泣きそうな顔で表情を引き締めた沙和は双剣を携え、敵の包囲に突撃して突破口を開いた。

 

(凪、沙和……無事に逃げ遂せてくれよ)

 

不安を無理矢理押さえつけ、白装束達から距離を取り様子を伺う。

今の攻防で十人程数は減らしたが如何せん数の差は圧倒的だ。

様子を見るように静かになった槍の白装束に向かう。

八双に構えた姿勢で浅く呼吸をしながらこいつらがなぜここまで来れたのか、疑問が浮かんだ。

 

まさか袁紹軍のやつら、休息も取らないまま攻撃を仕掛けてきたっていうのか?

それにしては西門から異常を知らせる警報は出たばかりで各方角に放った物見からも合図は出ていない。

 

(単独潜入? この一団だけで? 目的は一体?)

 

白装束は無言のまま、この場を後にしようとしている凪達を無視して円を描くように隊列を組み、俺への包囲が完成する。

少なくともこっちに用があるのは間違いないな。

いつでも動けるように周囲に気を張り巡らせて呼びかける。

 

「おい、左慈の手先であるお前達が何でここにいる! 目的はなんだ!」

 

左慈最大の目的が俺を苦しませる事である以上、直接命までは狙ってこないはず。だとしたら他に狙いがあるはずだが、そこまでは推測できない。

 

「……」

 

無言の回答。

まあ、返事は期待してなかったけど。

以前会った時のように機械染みた受け答えしか出来ないこいつらに質問しても無駄だったか。

なら、とりあえずはこの場を切り抜ける事だけ考えるようと、握る指に力を込めたところで街の方に円陣を組んでいた白装束が動きを見せた。

割れるように左右へと囲いをずらし、ゆっくりとこちらに向かってくる一人の人物。

そいつは姿こそ他の連中といっしょだが、何かを担ぎ、目の前にいたやつと同等かそれ以上に覇気を漂わせながら指揮を執っていた白装束と並び立った。

 

 

 

「――えっ?」

 

 

 

担がれていたのは一人の女性。

気を失っているのか、それとも万が一の事態が起こったのか身動き一つしていない。

ボロボロの服に赤い髪、触覚のように伸びた毛がだらりと垂れ下がり、生気が感じられない。

呻き声一つ上げない彼女に何かがあったのは確実。掬われるような不安からあらん限りの声で叫んだ。

 

 

 

「恋っ!!」

 

 

 

天下無双で知られる恋が傷一つ無い白装束に掴まっていた……。

 

 

 

 

 

 

「な、なんだこやつは! なぜ私と秋蘭、甘寧の三人掛かりでこうも苦戦するのだ!!」

「油断するな、姉者。隙を見せれば矢が飛んでくるぞ」

「その通りだ、夏侯惇殿。とはいえ、このままでは街の中に入れんのは事実だな」

 

~平原の街、西門前~

 

本陣を突破された春蘭達はすでに勝敗が決しようとしている戦いの指揮を華琳、蓮華両名に任せ、謎の集団に追い縋った。

セキトを駆る恋は真っ先に追跡を成功させたが、部隊の立て直しをしてから追撃を開始した三人の前にはその動きを阻もうと白装束の一団が待ち構えていた。

 

「……」

 

終始無言。

語る舌は持たないと主張しているかのようにもくもくと春蘭達を迎え撃つ。

 

「相手の戦力が未知数である以上、ここは一刻も早く街に向かわねばならぬというのにこいつは手強過ぎる。秋蘭殿、貴殿の矢でアレを抑えてはおけぬだろうか?」

「……そうしたいのは山々だが、その為にはもう一人の厄介な相手を無力化してもらわねば、対処できないな」

 

過半数を占める謎の白装束は彼女達の敵ではない。

ただ、たった二人の雰囲気の異なる白装束が鉄壁のように街への帰還を阻んでいる。

一人は門に佇み、押し寄せる兵士をものともせず、幾度と無い攻撃を全て捌き切る白装束。

もう一人は街の中に身を潜め、並み居る人垣を縫うように矢を放つ白装束。

突出した実力を持つ両者によっていまだ恋以外の応援が街中へと送る事が出来ず、住人の避難が完了していない今、被害がどれほどまでに及ぶのか想像もつかない。

 

「くそっ! 早くしなければ街の連中らが危ないではないか! そこを退け!」

「……」

「言っても無駄か……ここは城内の凪達を信じて確実に対処するべきだな。出過ぎるなよ、姉者」

「秋蘭! そんなことではあいつが!」

「……うむ。さらりと本音が出たのは可愛いらしいが、姉者が傷ついて悲しむのはあいつだ。控えておくべきだ」

「ぐ、むぅ……」

「惚気は構わんが、両名とも気を抜くなよ。へたを打てば怪我ではすまんのだからな」

 

思春が呆れたように注意を飛ばし、剣を構えて何度目とも分からぬ交戦に身を投じる。

 

(――北郷はヤワではないからな)

 

無言の信頼を胸に今出来る事に専念する思春。

 

 

 

西門前には背丈を大きく越える槍を持つ小柄な白装束とその奥に控える弓の名手がいる。

顔は分からない。だが、どこかで感じた事のある違和感が確実に積み上がっていった。

 

 

 

 

 

 

「……貴方様に、御用が……あります」

 

後から現れた白装束は他の人物と違い、はっきりとした口調で喋りかけてきた。

女性の声か? ようやく聞こえた声はくぐもってよく聞こえないが音域はそれなりに高い、体格を見るによっぽどの事が無い限り男ではないだろう。

ようやく話の通じる相手が出てきた事は少しだけ幸運だ。それ以上にとんでもない不運を持参してきたようだけど。

 

「俺に用件かい? 随分物々しいけど名前だけでも聞かせてくれないかな」

 

大切な人を傷つけられた怒りを押さえつけ、油断無く間合いを計る。

 

(少し近づかれただけで威圧感が跳ね上がってくる……。まるで春蘭や恋クラスを相手にしてる時みたいだ……)

 

何時の間にか滲み出た汗を頬を伝い、緊張の渦に巻き込まれていく。

 

「そう睨まないでください……。私は貴方様に危害は……あぁ、“これ”が気になるのですね。……ふふっ、相変わらずお優しい方……」

 

ちらりと恋に視線を送り、女性が薄い微笑みを見せる。

 

「……恋をどうするつもりだい。事と次第によれば、俺は君を許さない」

「……大丈夫です。今は、命まで奪うような真似は致しておりませんよ。確認してくださいませ」

「うわっ!?」

 

ぶんっ、と、投げやりに放り投げられた恋をなんとか受け止める。

強大な力を持つ恋であっても女の子であるせいか、華奢な体重が両腕に伝わってきた。

 

「恋! 恋っ!! 返事をしてくれ!」

 

敵の攻撃は予想されるが、構わず呼びかける。

すると謎の女性の言うとおり、微かな反応と息遣いが伝わってきた。

 

(良かった……! まだちゃんと生きてくれてる!)

 

安堵が胸を満たし深く息をつく。

長坂橋の時にように身を千切られる感覚がじんわり思い出される。

震える手足に鞭を打ち、恋をそっと地面に横たえて恋を倒したであろう女性と向き合う。

 

「目的はなんだ……。俺に用があるなら、俺だけを狙ってくれ。この子達には手を出さないでほしい」

 

怒りと懇願が入り混じった口調で話しかけても女性はなぜか笑顔のまま表情を変えない。

槍の白装束を手招きすると耳元で何やら話しかけている。

 

「……」

 

どうやら序列でもあるのか、無言で頷く槍の白装束が大人しく後ろに下がっていった。

 

「――お強くなられましたね。随分と見違えました……。少しばかり……休息が足りていないようですが」

 

こちらの言葉が届いていなかったのか、淡々と、有無を言わせないように女性は語り出す。

 

「やはり、ご無理をなされておいでなのですね……あぁ、可哀想な御方。私であればそのようなマネなど一切……させませんのに」

 

謡うように呟く様な口調にゾワリと、全身の毛が逆立った。

自然と愛刀を持つ手に力が篭る。 

 

「愛しい……愛しい我が君。偽りの、騙された、虚偽の中で生きておられるのですね……。お救いしたい……。あぁ、私の手でこそお救いしなければ」

 

なぜか見ていられない。その一念が去来する。

ひどく胸が締め付けられ、さっきまでの憤りが場違いだったかのように萎縮していく。

何時からか、幽鬼のように佇む彼女の片手にはすでに得物が握られている。

 

(あれは……偃月刀か?)

 

柄の部分まできつく包帯が巻かれ、装飾の類や物の程度は分からないがかなりの業物なのだろう、鋭い気当たりが武器そのものから伝わってくる。

先の先。

後手に回れば押し込まれる。

感じたことの無い脅迫観念に突き動かされ、今までの訓練で導き出した動作手順が頭を疾走し、格上相手に最適な攻撃手段を導き出した。

 

「はああぁぁぁ!!」

  

絶叫し、大上段からの袈裟斬りを見舞い、続けざまに右、左、右と切り返しと胴斬りを織り交ぜて一気に攻勢をしかける。

 

 

 

 

 

 

(くっ、なんで俺はこんなにも焦っているんだ!?)

 

なぜ、彼女からも千切られるような感覚を受けるんだ!

旋風のように連撃を放っても腕に響くのは鈍重な金属からの痺れのみ。一撃すら彼女には届いてはいない。

 

「くっ、らああぁ!」

「!?」

 

その、攻撃が通じないという相手の隙を狙って思考外の足刀蹴り。訓練で培われた反射で攻撃を加える。

避ける動作で僅かに態勢を崩したところに刀を寝かせ、追撃の突きを繰り出す。

だが、それすらも柄の部分で逸らすように受け止められた。

なんて見切りだ。姿勢が崩れた程度じゃびくともしない。

刀が弾かれる寸前、咄嗟に飛び退き距離を取る。

 

「……お見事です。どなたかに師事されていましたか? 随分……動きに冴えがありますね」

 

やっぱりこいつも別格だ。動きの切れが違いすぎる。

覇気に当てられたせいか、腕も不自然に重くなってきた。

精神から来る疲労感に脚ががくつく。

責めあぐね、すり足でほんの少しだけ後退すると突然、伸びのいい叫び声がこちらに向かってくる。

その声を聞いた女性が始めて不快感を露わにした。

 

「……邪魔を」

「――退いていろ、北郷!!」

 

叫びは城の方から。

黒髪に一房の白髪が印象的で熱血な性格をした蜀の武将。

突如現れた魏延が俺を押し退け、宙を舞うようにジャンプ。謎の女性目掛けて大金棒を打ち下ろす。

 

「おおりゃあああ!!」

 

ガツンっと、空気ごと振動させ、内臓に直接響くような振動音が響き渡る。

超重量の一撃は確実に白装束に命中した。

 

「なっ!?」

 

が、謎の女性は渾身の一撃であろうそれを“片腕”で持った偃月刀で止めてみせた。

 

「未熟。一撃受けられたからといって気を抜くは愚の骨頂。――ふんっ!」

「うっ、くうぅ!!」

 

受けた偃月刀を揺り動かし、先端に柄を添えると金棒ごと魏延を地面に向かって押し込んでいく。

なんとか持ち堪える魏延だが、その圧倒的な膂力で地面が陥没、今にも押し潰されそうになっている。

その様子に煮えくり返るような思考よりも反射が勝り、彼女の元へ駆け寄ろうとしたところで三度、こちらの動きを遮るように叫びが響き渡った。

 

「お動き召されるなよ! お館様、焔耶!!」

 

大太鼓のような大音量で撃ち出されるのは彼女の代名詞である轟天砲の乱射。

連装式によって高速で打ち出された矢が地面を次々と抉り、強襲者達を襲う。

数発は城側の白装束を撃ち据えたが、偃月刀の白装束と槍の白装束は最低限の距離分だけ後ろに跳び退る。

 

「心配になって来た甲斐がありましたな。……さぁ、お館様。ここは我らに任せ、恋とともに後方にお下がりください」

 

酔の文字を描いた大きな肩当を揺らしながら歩み寄る。

 

「ぐっ、桔梗様の言う通りだ、貴様は下がって怪我人の世話でもしていろ」

 

ふらつく足腰でこちらに歩き、身構える魏延と再装填した轟天砲を掲げてみせる厳顔さん。

二人とも同じように俺の前で壁になろうとしている。

 

「こやつが何者かは存じませぬが、戦いとあれば我らの役目。お早くお逃げ下され」

「……駄目だ。やるなら三人でないとこいつの相手は出来ない。周りの白装束も襲ってこないとは限らないだろ」

 

さっきまで固唾を飲むように静観していた他の白装束から微細な殺気が伝わってくる。

どうやらこちらに援軍が加わった事で敵対心を煽ってしまったらしい。

一触即発の空気が流れる最中、中央に位置しているあの白装束が溜息をついた。

 

「……残念です、が、ここまでですね。……三人と事を交えるつもりはありません。不本意ではありますが、最低限の目的だけは……果たさせて、もらいます――」

「消えた!?」

 

ぶんっと、掻き消えるように白装束が高速移動。白い残像だけを残して目の前から消失した。

目で追うことは出来ても体を追いつかない。

突然、体が宙に浮き、襟元を掴まれぐいと引っ張られた。その先には謎の女性。俺は瞬く間に彼女の間合いに引き寄せられてしまった。

 

 

 

 

 

 

厳顔さんも魏延もすぐには反応できず、その場で目を疑う。

眼前まで一気に迫られた俺には為すすべも無く、抵抗すら出来ない。  

引き伸ばされる時間の中で自分の死を予感し、

 

「――むぐっ!?」

 

やられた。とそう思った瞬間、訪れたのは予想外の感触、唇に触れる生暖かい湿りが押し付けられ呼吸が止まる。

素早い勢いもそのままにむき出しの地面目掛けて押し倒された。

どさりと砂埃が巻き上がり、彼女の顔がアップになる。

いや、それだけじゃない。異変は如実に現れ、熱いうねりが俺を蹂躙する。

 

なぜか刺客は絡めるように舌を捻じ込んできたのだ。

 

「ン……はァっ……れろぉ……」

 

官能の吐息。

歯茎の裏まで嘗め回すように艶かしい舌が這いずり回る。口内を犯し尽くすようにねっとりと、丹念に。

 

あまりの事態にこの場にいる全員の動きが止まった。

 

(なんだ!? なんでこの人は俺にキスしてくるんだ!?)

 

衣装のせいと逆光が強くて顔はわからない、それに頭がぼうっとして次第に焦点すら合わなくなってきた。

 

「こ、のぉっ! 下郎がぁぁ!!!」

 

この異常事態に正気をいち早く取り戻した厳顔さんが轟天砲を撃ちこみながら突っ込んでくる。

 

「おおおぉぉぉ!!!」

 

砲に据え付けられた大剣を掬い上げるように敵へ打ち上げる。

俺のすぐ横で突風。吹き荒れる刃が殺意を持って真上を通過していった。

 

「ふっ」

 

それは嘲笑か。それとも跳ね上がった時に漏れた声なのか。

天を仰ぐように倒れこんだ俺の視界に飛んでいく彼女が映った。

 

「なんじゃあやつは。まるでこちらの動きを熟知しているような動きではないか」

「!? 桔梗様、あれを!」

 

呟き、警戒する厳顔が顔をしかめていると、突然、魏延が門の外を指差した。

どうも白装束全員が一斉に逃走を図っているらしいが、その先に予想外の存在が映る。

赤い毛に筋肉隆々とした体躯。巨大ともいえる体には以前、過去のいたころとは似ても似つかない面構え。

 

馬中の赤兎、セキトが四方から縄で押さえつけられ、拘束されている。

白装束は複数の人間で押さえつけてはいるが、嫌がるセキトは今にもその戒めを解き放とうとしているが槍を持った白装束が飛び乗ると事態が一変した。

あれほど暴れていたセキトが徐々に動きを大人しくし、やがて従うように槍の白装束と謎の女性を背に乗せる。

 

「……では、後ほど見えましょう。その時こそ……誰が貴方様に必要なのか……しっかりと判断してください」

 

一言投げかけ、撤退していく白装束達。

セキトの脚ならば街の包囲を楔を打ち込み、突破するのも容易だろう。

敗北感に包まれていると、ひどく辺りが静かになった。

 

強かったな……。厳顔さんの腕を持ってしてもまたも攻撃を見切られ、回避されてしまった。

あれじゃあまるで、戦神か軍神クラスの動きじゃないか。

袁紹軍にあれほどの人物がいたなんて予想外だったな

 

霞む視界で瞼も重くなってきたのか、気が抜けた体では意識が保てなくなってきた。

ぐるぐるとかき回されたように頭が淀み、力が入らない。

 

 

 

 

 

 

「お館様? どうなされた!?」

 

その異変に気が付いた厳顔さんがこちらを覗き込み、慌てたように魏延が駆け寄ってくる。

 

「お、おい、しっかりしろ! 目を覚ませ! 貴様に何かあったら桃香様が……くっ、返事してくれよっ、お館!!」

 

まどろむ意識の外で魏延の呼ぶ声が聞こえる。

たぶん、だけど体に異常はないだろう。頼むからそんな泣きそうな顔をしないでくれよ。……そういうのホント苦手なんだ。

加えて頭の中、揺れる思考も一大事みたいだ。

脈打つ鼓動が今にも止まりそうになるくらい弱く振動している。

やがて目を閉じているのに関わらず視界が白く染まり、眩しい光に包まれた。

 

 

 

 

 

あぁ、なんで――

 

 

              ―――フランチェスカの風景が蘇るんだろう。

 

 

 

<つづく>

【続☆恋(れん)姫無双】

 

 

 

前回までのあらすじ。---------------------------------------

 

 

「かずとぉ♪ うちが稽古したるからなー♪」

「はい! お願いします! って恋の前でそのことを言ったら――」

「稽古ダメ、絶対」

 

 

とある国のとある王様、“呂布奉先”という人を怒らせて、もうケムリも出ないほどにオシオキされてしまった一刀。

呂布奉先の真名は“恋”。その可愛らしい真名とは裏腹に、激情を内に秘めた人物である。

 

 

------------------------------------------------------------

 

ちなみに恋は、「国よりも何よりもまず一刀」と豪語するほどの一刀スキスキ王でもある。

国を顧みず、一刀に溺れてしまっている王を見かねた(※9割嫉妬です)ちんきゅ大臣が、

隣国である『尻デッカ王国』の王である“孫権仲謀”と、恋の寵愛を一身に受ける“北郷一刀”を無理やり婚姻関係に結ばせようとしたが、『尻デッカ王国』の元王である“孫策伯符”が、

 

「妹が私よりも先に結婚するなんてありえなーい! ぶーぶー! いぐぅぅぅ!!」

 

と、恋に密告した為にちんきゅ大臣の企みが露呈してしまい、この世界に五十二枚しかない“伝説の婚姻届”のうちの一つ、

“蓮華×一刀”を恋が破ってしまった!ちんきゅ大臣は恋に一週間無視され続け、耐えられなくなったちんきゅ大臣は一刀と恋の婚姻を認めたとか。

 

(ちなみにさり気なく“雪蓮×一刀”の婚姻届を雪蓮が持っていたり、本物の“蓮華×一刀”の婚姻届を蓮華が持っていたりと、尻デッカ王国の面々は意外と抜け目がなかったりする)

 

 

 

そんなこんなで、今日は式当日。

二人を祝福するかのように、天気は快晴。

 

黒いタキシードを着飾った恋と、純白なウエディングドレスを着させられた一刀が、

台に乗ったちんきゅ大臣の前に並んでいる。

 

「ねぇ、これ逆じゃない?」

「………………一刀きれい」

「恋もカッコいいよ……ぽっ」

 

そして誓いの言葉。

 

「ごろごろにゃーん以下略なのです!」

「誓う」「誓います」

 

「ちんきゅ、ちんきゅ、ちんきゅっきゅ! 以下略でありますぞぉ!」

「誓う」「誓います」

 

そして、ついに誓いのキスに……!

 

「…………一刀」

「……恋」

 

二人、顔の距離を近づけて……!

 

 

 

―バタァァァァンッ!!

 

 

 

「ちょぉーっと待ったぁー♪」

 

「その結婚、少し待ってくれるかしら」

 

「ほ、本物の婚姻状は私の尻の間に挟んであったのだ!!」

 

「初めて見たときから、実は目をつけていたのよねー♪」

 

 

 

大きな音を立てて開かれる扉。

そこには『みんななかよし真理教』の教祖、モモ・カオリと、『品のある乳帝国』の帝王、曹孟徳。

さらには『尻デッカ王国』の王である尻デカと、元王のフリーダムがおったのじゃ……!

 

 

どうなる!?恋と一刀は無事に結婚できるのか!!

 

 

 

 

 

 

 

「……ん……ちゅっ……れろっ……ちゅっちゅっ」

「「「「「や、やめてー!?」」」」

 

 

 

 

結婚できそうです。

<このお話は本編とは関係ありません>


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
38
4

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択