No.200014

『舞い踊る季節の中で』 第109話

うたまるさん

『真・恋姫無双』明命√の二次創作のSSです。

 袁紹軍が徐州に攻め入った事を聞いた桂花は、急いで集めれるだけの情報を集めて行く。
 そんな中、また信じられない様な情報が飛び込んで来た。 孫呉が領地にまで入ってきた五倍以上の袁紹軍を追い払ったと言うのだ。
 その事に桂花は集めれるだけ集めた情報を両手に抱えながら、筆頭軍師の権限でもって緊急招集をかける。

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2011-02-06 12:18:23 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:15364   閲覧ユーザー数:10222

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』 -群雄割拠編-

   第百〇九話 〜 始まりの舞いに繋ぐ想い 〜

 

 

(はじめに)

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

       :鋼線(特殊繊維製)と対刃手袋(ただし曹魏との防衛戦で予備の糸を僅かに残して破損)

   習得技術:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(本人は無自覚)

        気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)、食医、太鼓、

        神の手のマッサージ(若い女性は危険です)、メイクアップアーティスト並みの化粧技術、

        

  (今後順次公開)

 

 

 

【最近の悩み】

 

 何でバレたんだろう?

 頭を捻りながらも、俺は筆を動かす。

 俺が今書いているのは、本来俺の仕事ではなく、突然ふと湧いたやらなくてはならない事。

 ……まぁ言わば、保身のための作業だ。

 内容的には彼女達のためになるので文句は欠片もないが、その事が脳からどうしても離れない。

 事の起こりはこうだ。

 

「御主人様、私にまでありがとうございますね」

「いいよ。 七乃にだけ無いと言うのも俺が嫌だったしね」

「明命さんのも可愛らしかったですけど、此方は此方で落ち着いた意匠が上品で良い感じです」

「其れに関しては店の店主や職人のおかげだよ。 俺が書いた意匠図には其処までなかったからね。 あの人達が皆のために意匠を凝らしてくれた気持ちは大事にしないとな」

「そうですね。今度会ったらお礼を言っておきます。 それにしても天の国には、意匠に凝った色んな物が在るんですね」

「ああ。 意匠だけでは無く機能性にもこった物が多く在ったよ」

「お嬢様や翡翠さんの鞄はまさにそんな感じでしたよね」

「ああ」

「きっと、天の国ではああいう鞄を子供達がしているんでしょうね」

「ああ。 此方で言う私塾に行く時に………まて、今なんて言った?」

 

 七乃の言葉につい反射的に答えていた俺は、向こうの世界の情景を思い出しながら、俺はとんでもない問いに答えを言ってしまった事に気が付く。

 背中に冷たい汗が流れるのを感じながら顔を上げると、其処にはニコニコと本当に心底楽しそうな笑みを浮べた七乃が俺の反応を楽しむかのように。

 

「ああ、やっぱりそうだったんですねぇ。 お嬢様と翡翠さんの鞄を背負う姿を見る御主人様の様子からもしかしてと思ったのですが、やっぱりそうだったんですか〜。 ふ〜ん、これは良い事を聞いちゃいました♪」

「まて、今のは言葉のあやで・」

「翡翠さんに其れが通用すると思いますか?」

「う゛っ……」

 

 七乃の言う通りまず通用しない。

 と言うか、それ以前に翡翠や明命には知られたくない。 その子供の鞄を恋人に付けさせるような変態だなんて思われたくないからだ。 ……いや、今更何を言うかと言われても、やはり俺なりの見栄がある訳で。

 

「ああ、もちろん黙っていてあげますよ」

「助かるっ」

 

 七乃の言葉に、ちょっと意外と思いつつ感謝の言葉を反射的に告げるが、やはり七乃は七乃であったわけで……。

 

「ただ、翡翠さんに鞄を背負ったまま御主人様を誘惑して見せては、と勧めてみるだけです」

「それ、もっと不味いからっ! 俺を犯罪者にする気かっ!」

 

 うん、失敗だった。

 思わずランドセル姿の翡翠に誘惑される想像をしてしまい。 まるで通学中の小●生とスルような錯覚に堕ちい、どうしようもない背徳感を覚え、つい全力でそう叫んでしまった。

 いやだって、幾ら●学生にしか見えない様な外見の翡翠だと言っても、その実年齢は俺より上と分かっているから問題はないと言っても、さすがにランドセル姿の翡翠と行為に及ぶのは色々な意味で不味すぎる。 こう、唯でさえ二股かけていると言う常識を逸した俺の理性の箍が、別の意味で崩壊されそうな気がしてならない。

 そんな訳で、七乃に更にその鞄をしている年齢層の情報を渡してしまった俺は、自らの自分の首を締めた訳で……。

 

「交換条件は?」

「あっ、別に脅している訳では無いので、そんな気を使わなくても良いですよぉ〜。

 御主人様のためですから♪ でも、どうしてもと言うのなら……」

 

 俺の言葉に七乃の提示した内容は、俺の知っている服や装飾品の衣装を、暇な時に書き溜めておいて欲しいとの事。 内容としては大した事ないし。 俺としても書いておけば、何時か翡翠や明命の時に使えるので了承した訳だが、翡翠にもバレ無かったのに、どうしてバレたのだろうかと頭を悩ますばかりだ。

 何にしろ、どうせ書くならば楽しまなければと、俺は翡翠や明命だけではなく、美羽や七乃にも似合いそうな服や装飾品を中心に書いて行く事にした。

 やっぱり女の娘達がワイワイとはしゃぎながら、着飾っているのは見ていて楽しいしね♪

 

 手始めに、明命にはエプロンドレス。

 翡翠には大正浪漫風に女学生と言うのも良いかも♪

 美羽には御姫様系やアイドル系の服も似合いそうだけど、ユニクロ系も似合いそうだ。

 七乃はバスガイドみたいな服を着ていたから、制服系を着せてみるかな。

 体操服は全員似合いそうだな。 こうスパッツも良いけど、昔ながらの体操服が特に♪

 

 むろん実際に着せる訳では無く絵や想像だけの事だけど、それを楽しめない程俺は枯れていないつもりだ。

 あっ、夏になったら水着を書くのも良いなぁ。

 ………って、何で最初に浮かんだのがスクール水着なんだ?

 及川じゃあるまいし、俺は其処までマニアじゃないぞ(汗

 

 

 

華琳(曹操)視点:

 

 

「それは確かなのね」

 

 私の確認の言葉に桂花は頷きながら、更に詳細の報告をし始める。

 それはとても大雑把で断片的なものだけではなく、明らかに出任せ染みた内容もあった。 報告としてはとても王である私に聞かせれるようなものでは無い。

 現に、周りの何人かの文官だけではなく武官達も、おおよそ桂花らしくない報告に耳を疑い目を見開いている者も居る。

 桂花とて、本当はこんな事はしたくなかったでしょう。 ……でも桂花は敢えてそれをした。

 まだ情報を整える前の生の情報のままで私の耳に入れたその意味。

 ……そう、貴女もこれを好機と見るのね。

 

「もういいわ。 せっかく貴女が情報の整理と真偽の確認を取る時間を惜しんでも稼いだ時間を、これ以上無駄にする訳には行かないわ」

「華琳様…」

 

 私の言葉に桂花は処罰される覚悟をしていた顔を、一瞬で花のように輝かせて私に熱い視線を送ってくる。

 可愛い娘。 そして強い娘。

 良いわよく見ていなさい。

 貴方が私を主と選んだ事を後悔なんてさせない。

 麗羽が動いた。

 私の方ではなく劉備の方に。

 そして、見事徐州を手に入れた。

 ……でも。

 

「稟、今の各砦の準備の進捗状況は?」

「はい。真桜が筆頭になって砦の補強や各種の工作をしていますが、現在約七割ほどですが、八割まで持って行けるでしょう。 それと例の新兵器は既に完成しており、本人から大将を驚かせたるで〜と伝言を預かっています」

「では残りも急がせなさい。 風、物資の確保と補給路の選定はどうなってるの?」

「此方は六割と言う所ですね〜。 でも此方は多少時間が余裕があるので、稟ちゃんと同じく八割まで持って行けます」

「春蘭、兵の調練状況はどうなっている?」

「はっ、兵の一兵に至るまで華琳様の兵士である事を叩き込みました。 ……ですがその分通常の調練はかなり遅れております」

「構わないわ。 私の兵と言う者がどんなものかをその身と魂に刻みつけてあるならば、今回はどうとでもなるわ。 大切なのは、全ての兵士に我が兵士である誇りを持たす事。 後は春蘭、秋蘭、貴女達の勇猛さがそれを補ってくれるわ」

「我が大剣にかけて」「我が弓にかけて」

 

 終いの揃った声と気魄が、玉座の間に居る人間全ての魂を奮い起こさせる。

 常在戦場の心を呼び覚まさせられる。

 もうここは戦場よ。

 これでもまだ寝ぼけているようなら我が槍の錆にしてあげるわ。

 麗羽、貴女は此方が準備がまだ整っていないと思っての事だろうけど、それは逆に貴女達の準備が整っていないと言う事を示しているのよ。

 ならこの好機を見逃す気は無いわ。

 袁家の莫大な財力を背景にしてきた貴女には、戦の準備も整わずに仕掛けるなんて考えれないでしょうね。

 でもね。 戦で準備が整うと考える方がおかしいのよ。

 でもあなたはそう言う相手ばかりを相手にしてきたの、ならそれをやり返されても文句は言えないわよね。

 彼我戦力差は五倍以上。 逆ならばともかく、この戦力差で此方から待ってあげる義理は無いわ。

 麗羽、貴女がしてきた事。 今度は私がしてあげる。

 

 

 

「皆の者聞けっ! 時は満ち。天の時が我が頭上に輝いた。

 

 我が領土の兵全ての兵に命ずる。 治安に必要な兵力を残し、全てを集結せよ。

 

 今こそ、北の覇者たる袁紹を討ち、我等魏が河北の覇者になる時が来たっ!

 

 曹孟徳の名に於いて、今此処に大号令を発するっ!」

 

 

 

蓮華(孫権)視点:

 

 

「奴等は思惑通り、此方の引っ越しのゴタゴタを突いて反旗を翻すようです」

 

 人通りの少ない回廊を歩きながら、思春が私にだけ聞こえるような特殊な発声方法で、私に不穏な動きを見せる一族達の状況を報告してくれる。

 自己の保身だけを考えるあまりに、先が見えなくなった愚か者達。

 ……だが、そうなってしまったのは我等が罪。

 我等が弱みを見せたが故に、我等を頼ったものに不安を与えてしまったのが原因。

 だけど、そんな事で揺らぐ訳には行かない。

 我等が求める未来はまだ遥か先にあるとは言え、此処まで一緒に歩んで来た者達のためにも…。

 そして我等の未来のために夢を託して眠りについた者達のためにも…。

 

「そうか…、ならば予定通り恥知らず共を纏めて叩き潰すだけの事。 兵の準備は霞と祭に任せて、思春は残りの工作を頼む」

「はっ」

 

 孫呉の未来のために踏み潰した命、……そして踏み潰して行く命のためにも、我等は決して足を止める訳には行かないのだ。

 

「明命がいない分負担を掛けるが頼んだぞ」

「……恐れながら明命は慣れぬ外交の上、あの軟弱者の御守りをしている事を思えば、この程度の事など苦労と言えません。 では私はこれにて」

 

 思春はそう言って、足音どころか衣擦れの音一つさせずに足早に去って行く。

 脳裏に残った彼女の後姿に私は力強差を感じ、私は自然と心が落ち着き目元を緩めてしまう。

 ……だが、いつまでもそんな感傷に浸っている暇は今の我等には無い。 私の足はやがて自分の執務室に辿り着くと。

 

「どうやら、そちらは上手く事が運んだようですね」

 

 仕事の能率を図るために、急遽部屋の隅の方に設けた机で仕事をしていた冥琳が、私の帰りをそう迎えてくれる。

 今更私達二人の前に、無粋な作法など不要。 其処に想いがあればそれで充分。 家族と言うのはそう言う物。 私は冥琳に簡単に街の有力者達との会合の場の結果を伝える。

 この建業の街は、我ら孫呉にとって本拠地と言える街だけど、配下の者を残して居たとは言え長らく留守にしていたのは事実。

 その為に街の有力者との会談をこまめに行い、親睦と調整を図る事にしたのだが……。

 

「深月(魯粛)達が頑張っていたと言うのもあるけど、一刀の懸案した策のおかげも大きいわ」

 

 私の言葉に、冥琳もその事を否定はしない。

 曹操の攻撃のおかげで拠点を春寿城から建業に映す事になり、先日此方に引っ越してきたわけだが、数年ぶりに見た建業の街の代わり様には、私ばかりか報告を細かく聞いていた冥琳さえ驚きの声を上げさせるほど見違えていた。

 一町毎に在る警備の詰所と巡回警備兵によって民は安心して商売を行い。 混乱を引き起こす原因にもなっている露店は、暗黙の元の決まり毎によって賑わいはしていても整然としていた。

 街は綺麗に清掃されており清潔さを保っている。 糞尿など何処にも落ちていない所か、馬のこぼして行く糞すらも我先に回収して行く者が居る程だ。

 この街の規模こそ洛陽には遠く及ばないものの、街の美しさは大陸一かもしれない。

 そしてそれ以上に民の活気と笑顔に溢れた様子は、自信を持って大陸一と言える。

 

「北郷の天の知識は認めましょう。 ですが、それを成して見せたのは深月達です」

 

 ああ、分かっている。

 此処まで持ってくるのに、かなりの無理と負担を深月達に、そして民達にも負担を掛けた事は。

 幾ら天の知識とは言え、最初はかなりの反発もあったであろう。 それを深月達や時折此方に来て調整をしていた翡翠が街の顔役達を説得して共に築いてきたのだろう。

 

 

 

 

「……だからこそ信頼を得る事が出来た。 そしてその信頼を、先の見えぬ愚か者の行動によって失う訳には行かない。 絶対にな」

「その通りです。 留守中は私が責任持ってこの街をお守りいたします。 出陣は予定通り十日後で?」

「いや五日後だ。 予想より早く動き出しそうだと先程思春から報告があった。 出来るな?」

 

 この事態ですら読んでいたと言わんばかりに、冥琳は四日で準備を終わらせれると力強い返事を返して来てくれた。

 思春にしろ冥琳しろ、本当に力強い。 私も何時までも新米王だなんて甘えた事は言っていられないわ。

 王になりたてなんて事は、将はおろか民には何の関係も無き事。

 彼等にとっては、新米だろうが何だろうが、自分達を守る王に違いないのだから。

 それにしても……。

 

「本人は何時も通りのつもりの様だけど、思春は随分と張り切っていたわ」

 

 私の言葉に、冥琳は小さく、そして優しげに笑みを浮べながら。

 

「何だかんだ言いながらも嬉しいのでしょう。 北郷が酒宴での言葉を覚えてくれていた事が。 そしてそれが孫呉の危機を救う手になっている事が、北郷に認められたようで嬉しいのでしょうね」

「そうね。 本人は絶対に否定するけど、それは間違いないわ」

 

 私も冥琳につられるように笑みを受べてしまう。

 思春の意外とも言えるかもしれない一面に。

 だけど思春らしい可愛らしい一面に、私は嬉しくなる。

 本人は明命が一刀に付いて行っていない分、張り切っているつもりなんでしょうけど、それだけじゃないって事は思春を良く知っている物からしたら一目瞭然よ。

 だって、あんなに活き活きとした思春は初めてだもの。

 そんな私に冥琳は笑みを崩す事無く、内政に対する報告をし始める。

 

「此方の方ですが、予定に少々狂いが出ました」

「何か問題でも?」

 

 わざわざ報告する以上、それなりの事なのだろうと気を引き締めなおして聞く私に、冥琳は僅かに声に出して笑いながら。

 

「問題と言えば問題ですね。 なにせ穏と亞莎が張勲に悲鳴を上げさせられているのですから」

「えーと、それってどういう意味なの? とても笑えるような内容には思えないのだけど……」

「私にとっては嬉しい悲鳴と言うだけです。 予定の狂いと言うのは順調しすぎて、予定を前倒しにせざる得なくなってきたと言うだけの事です」

 

 そう苦笑を浮かべながら、冥琳は私に穏と亞莎が何故悲鳴を上げているのかを話し始める。

 

 

 

七乃視点

 

 

 これとこれとこれ、殆ど条件反射的に瞬時に内容を確認しているものの、敢えて時間を掛けて一文字の隅々まで見ながら、朱色の墨をその紙の上に細い筆で乗せて行く。 だけど幾らゆっくり見た所でそれで稼げる時間などたかが知れている訳で…。

 

「採点終わりと。 …今回も春霞さんの勝ちですよ♪」

「やった」

「ぬぉぉぉ〜〜っ。 ま、また負けたのじゃ」

 

 私の言葉に一喜一憂する二人を笑顔で見守りながら、二人に間違えた所をよく確認して、何故間違えたかをきちんと考えるように言います。 直ぐに間違えた事を間違えたまま覚えないように確認させる事で、その事柄に興味を持たせたり、思考を深くさせる訓練になったりします。

 よく私塾ではそう言うのは家でさせますが、それは多くの生徒を見るために、効率性を重視せざる得ないためにそう言う手段を取りますが、生徒側からしたら此方の方が逆に能率が上がります。 何より後でなんて事をやっていたら、その事に対する興味を失ってしまいますから。

 そう訳でそんな競い合う様に勉強する二人を見守りながら、私は机の角に在る砂時計に目をやると丁度砂が落ち切る所でした。 私は体内時計が狂っていない事を確認しながら。

 

「そう言う訳で、そちらはどうなっています〜」

「あ、あのもう少しお待ちください。 あっ、此処凄いです。 こんな細かい所にまで気が付くなんて」

「無茶言わないで下さいよ〜。 処理すべき事が多すぎて追いつきません」

 

 私の言葉に、それぞれ違う意味で悲鳴を上げる二人に、私はさらに追い打ちをかけるように。

 

「無茶なんて一言も言ってませんよ〜。

 御二人が死ぬ気で頑張ればギリギリやりきれる量なのですから、それが終わらないのは終わらない理由がある訳です」

 

 呂蒙さんはより必死さを表し、陸遜さんは悲鳴を更に上げながら手元の書簡と策の想定と展開に思考を集中させます。 そしてそれに合わせて御二人を少しでも助けようと、数人の御付の文官がより慌ただしく動き出します。

 実際、まだ軍師になって日が浅い元武官の呂蒙さんはともかく、陸遜さんの能力ならば充分に余裕で終わる量です。 陸さんはすぐ横に思考が脱線し趣味に走るから無駄が生まれるんです。

 より多くの思考を処理したり、展開の枝葉を広げる訓練には良いので趣味に走る事そのものは否定しませんが、何事も過ぎれば無駄になります。

 

「美羽様〜。此方の人達はもう少し時間が掛かるようですから、今のうちに御茶の準備をしましょう。 慣れない思考に頭を休ませるのにちょうど良いでしょう」

「うむ」

「あっ、私もお手伝いします」

 

 そう言って美羽様と春霞さんは勉強の手を止め、御茶の準備を手伝ってくれるために席を立ちます。 そんな二人を引き連れて部屋を出るのですが、その時に。

 

「ああ、私達が戻ってくるまでに終わらせておかないと、御二人の茶菓子は美羽様達にあげちゃいますから頑張ってくださいね。 あっ、むろん他の人達のはありますから安心してくださいね。

 今日の御菓子は、先日御主人様の茶館時代にお店で出した茶菓子の調理法を記した本が出てきましたから、この街では食べられない一品ですよ〜」

 

 私の言葉に一瞬仕事も忘れて、歓声の声をあげる女性文官達。

 そして呻き声を上げながらも、手の速度を速める呂蒙さんと陸遜さんを横目に、私達三人は今度こそ部屋を出ます。

 

 

 

 

かちゃかちゃ

 

 容器の中身を掻き回す音が厨房に響く中。

 粘りのために掻き回す事に悪戦苦闘している美羽様に自分なりのコツを教えていた春霞さんが、美羽様の手元から目を離し。

 

「あの、忙しいようでしたら、私達の勉強は別に屋敷の方でも構わないのですが」

 

 春霞さんらしい気づかいで、そう言って来てくれますが、私はそんな彼女に問題ない旨を伝えます。

 幾ら孫呉の政に手を貸す事が出来るようになったとは言え、私と美羽様は孫呉が憎んだ宿敵であった事に違いありません。

 本当に政を動かす訳には行かないんです。

 私に任されたのは渡された膨大な情報を元に建策し、挙がった問題を解決すべく策を考える事です。

 私が建てた策をあの二人が検討し直し、実際に動かして行く訳です。

 問題なのが情報を処理する能力が、あの御二人より私の方が優れているだけの話なのです。

 別に私自身が軍師や文官としてあの二人より優れているとは考えていません。 ただその方面に関しては私の方に一日の長があると言うだけの話です。

 事務処理能力だけを言うのなら。 私やあの御二人より、二人を手伝っていた文官達の方が優れているように……。

 それに私と美羽様には、孫呉の内政意外にする事がたくさんありますし、一時的とは言え孫呉の内政に深くかかわりあっても双方にとって、益する事より生まれる出る問題の方が大きいです。 ならば周瑜さん達が求める以上の事をしないのが一番良いのです。

 

「のぉ七乃。 此れで良いのか?」

「ええ、後はそれを此方の生地に入れて、表面をならしたら水で冷やして固めるだけです。 仕上げは私がやりますから、美羽様達は生地がそのまま入るお鍋と、その鍋がそのまま入るお鍋を出してくださいね」

 

 そうして干酪洋点心を冷やしながら、私は御二人にこれが終わったら、新居の片付けをするようお願いします。

 美羽様だけだと心配ですが、春霞さんや霞さんの配下の方が手伝ってくださるのならば安心です。

 今私と美羽様は、翡翠さんと明命さん、そして御主人様のため新たに建てられた御屋敷に、霞さんと共に住んでいます。 霞さんたち義親娘の為の屋敷もあるのですが、今は屋敷の主達が留守にしているため、私と美羽様の護衛と言う事もあって、その様な事になっています。

 以前天の国の建築技術の話が出た時に、御主人様に冥琳様が書かせた物を元に試験的な意味も含めて作らせたようですが、職人達の技術や意匠を凝らせたあの屋敷は、見るものが見れば驚くでしょう。

 派手な装飾などは一切廃しながらも洗練された意匠が住む者に、そしてその屋敷を訪れる者に安らぎを与えます。

 通常の屋敷の三倍と言う柱や補強材。 屋敷の頑強さは土台の施工にまで及び、壁や床の中には断熱材と言われる物が埋め込まれ。 他にもこの世界で再現できる様々な天の技術が屋敷に施されました。

 特に昔から不浄とされてきた厨房やお手洗い場は、その言葉が一掃される程綺麗なものになり、特に座式のお手洗いは、服を汚す事無く用を済ます事が出来る上に、溜め置きした水で流すと言うその発想は清潔さを保つだけではなく、匂いすらも大きく和らげました。

 

 それに汚物そのものも、街の政令で定期的に回収し、一カ所に集めています。 正確には僅かなりとも御金を払って汚物を買い取らせています。 そのおかげで街は一気に綺麗になり、おかげでこの街で病に掛かる者は激減したとの事です。

 汚物を利用する。 本当に天の国は信じられない発想をするものです。

 牛や馬の糞を乾燥させて燃料にするのは今までもありましたが、それを畑に撒くだなんて誰が想像すると言うのです。

 むろん、そのまま撒く訳ではありません。 藁や草と混ぜて発酵させて使用するのですが、昨年にそれをした土地の食物の育成は、明らかにそれを施していない土地と違うようです。 実際この目で見た今も、あんな事であれだけ力強く育つとは信じられない気持ちです。

 実際使用量や時期などまだまだ問題はありますが、少しずつならばほぼ問題なく確実に収穫量を増やせる事が現状でも確信が持てる程です。

 人の出す汚物は、そう言う意味ではとても良い肥料になるそうですが、牛や豚と違って十年は寝かせないといけないとの事。

 食料の確保。産業の発展。病の対策。民との信頼関係の強化。その上街の景観が良くなった事治安まで良くなっているようです。

 たった一つの事で、幾つもの大問題を解決してしまいました。

 実際、この街を雪蓮さん達の代わりに治めていた魯粛さんや、それを支える多くの人達の努力のおかげでしょうけど。 民にとって御主人様の知識が齎せた恩恵と、その御主人様を抱える孫家の信頼は決して無視できるものではないでしょうね。

 おかげで、袁家が……と言うかあの腐った老人達が支配していた時を思えばとてもやりやすいです。

 今此処に居なくても、御主人様はこうして私達を、そして孫呉を導いてくれています。

 

 

 

 

「そろそろ固まったでしょうから、あちらで美味しく戴きましょう。 昨夜試作で作って見ましたが、とっても美味しいですよぉ。 霞さんも酒の肴にはならないけど美味しいと言ってくれましたし」

「ぬぉっ! 何時の間にっ。 何故妾をその時に呼んでくれぬ」

「義母様…狡い」

「試作なのですから仕方ないですよ。 それに霞さんもお二人を起こすのは可愛そうだと言ってましたし」

 

 御二人の膨れる可愛い顔が見たくて、ついバラしてしまいます。

 これで夜仕事から帰って来た霞さんは、二人に責められて困った顔をするでしょうが、それも良い思い出になるでしょうね。

 一度で二度美味しい。 あぁ〜、頬を膨らませるお嬢様、と〜〜っても可愛いです♪

 むろん普段は大人ぶっていても、こう言う時は年相応の可愛さを見せる春霞さんも可愛いですけどね。お嬢様の可愛さには誰も敵いません。

 

 さてと、美羽様達が御屋敷に戻られましたら、二人を徹底的に鍛えなければいけませんね。

 今までは御二人の能力や癖を見るために観察していましたが、もう大体分かりました。

 今までまで周瑜さんと言う大きな傘と、翡翠さんと言う堅強な石垣で守られて甘やかされてきたあの御二人に、本当の政と言うものを教えてあげなければいけません。

 一つ一つの小さな凌ぎ合いを、広い目で見ながら組み合わせて行く事を。

 相手の嫌がる事をどうやって見つけて行くかを。

 敵対する相手に最も有効な手段。

 戦を引き起こさせないギリギリの処で相手の力を少しずつ奪って行く。

 相手が力を得られないように、その供給路を削って行く。

 端的に言えば嫌がらせ。

 これが政では一番重要な事なんだと。

 

 だから御主人様、早く帰って来てくださいね。

 皆さんが帰って来るまで、御二人の悲鳴で我慢しておきますから。

 美羽様も私も、御主人様無しでは、生きて行く事が出来ないのですから……。

 

 明命さん頼みます。

 御主人様の心を、どうか守ってあげてください。

 そして、支えてあげてください。

 幾ら御嬢様と私が想おうとも、それを成す事が出来るのは貴女だけなのですから。

 

 

 

 そう、今はまだ……。

 

 

 

あとがき みたいなもの

 

 

 こんにちは、うたまるです。

 第百〇九話 〜 始まりの舞いに繋ぐ想い 〜を此処にお送りしました。

 

 さて今回は場面を変えて話を描いてみました。

 とうとう官渡の戦いに向けて動き出す魏軍。 この外史では、正史通り袁紹を打ち破る事が出来るのか? 今後の展開を楽しみにしていただけたらと思います。

 さて、次回辺りは、きちんと明命のお話を書く予定ですので、読者の皆様心待ちにしてくださればと思います。 でも今思えば、前回の内容に今回の話をくっつけておけばよかったなぁと、少し反省しています。

 

 それにしても一刀は皆の手で育てられていますねぇ〜。 変な方向に(w

 

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。

おまけ:

 

 

作者「今日のゲストは、良い娘は絶対真似してはいけ無い相手、覇王曹孟徳の名で知られる、華琳さんです」

華琳「凡人に私の真似は出来ないでしょうけどね」

作者「いや、できても真似しちゃいけないと私は言っているんです」

華琳「へぇ〜、それはどう言う言う意味かしら」

作者「言っても無駄なので言いません。 そんな事はさておき、我等が主人公北郷一刀をどう思いますか?」

華琳「敵ね。 この私に王たるものを何たるかを示す程の事が出来る程の英傑よ。 むろん、それ程の人間だもの。 討ち破った後には配下に加えるつもりよ」

 

作者「男嫌いで知られる貴女が? あの、一刀は男なんですけど」

華琳「あら、あなたは能力の優劣に男も女もあると言うつもり?」

作者「いえ、そう言う意味では・」

華琳「私は能力に秀でた者を。 何より高潔なる魂の持ち主を愛するわ。 そう言う意味ではあの男は、私に愛されて当然の事。 あの男も私に愛でられる事になるのだから幸せよね」

作者「相変わらず自信過剰と言うか、高慢と言うか・」

華琳「言わないわよ。 より高みに在る者がそれを成すのは当然の事。 あなたもこの世界の上に立つ者ならば覚えておきなさい」

 

作者「私は上に立つなんて意識はこれっぽっちもありませんよ。 ただこの世界を愛しているだけです」

華琳「其れに行動力が加わっただけよ」

作者「う〜ん、この世界の一刀が大人しく華琳さんのモノになるとは思えないのですが」

華琳「王の意思に配下の者の意思なんて関係ないわ。 私の物になる気が無いのならば、私の物にして見せるだけの事。 それも楽しみの一つよ」

作者「明命や翡翠に勝つ自信があると?」

華琳「無論あるわ。 でもあの男相手ならば、別の手で私の物にして見せるわ。 その為に真桜に開発させたんですもの」

 

作者「って、華琳さんそれはっ」(汗

華琳「そう、男の印よ。 しかも真桜特製の絡繰で"氣"を用いて自在にうねらせたり、回転させる事が出来るわ。 試しに桂花で試したけど、最初は後ろでスル嫌悪感のあまりに本気で嫌がっていたけど、最後には自分から求めていたわ」

作者「……あの、何度も言うようですが一刀は男なんですけど」(汗

華琳「あら、男に使って悪いなんて決まりはないわ。 あれほど女装の似合う相手ですもの。 それを使わない手はないわ。 こう男としての屈辱に塗れながら、男としての誇りを私の手で捻じ伏せられ、私に染め上げられて行く快感に打ち震わさせる。 ふふふっ、今から考えただけでもゾクゾクするわ」

作者「だぁぁぁぁっ、そう言う所が良い娘は真似しちゃいけないって処なんですっ! 一刀逃げてぇぇぇ〜〜〜〜〜っ!」

 

 

華琳「あら、知らないの? 覇王からは逃げられないと言う事を」

 

 


 
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