城内・一刀の部屋
「朝の出来事」
一姫がやって来たあくる日の朝、愛紗は一姫を起こしに来た。
「一姫様、朝ですよ。」
コンコン
「一姫様?」
コンコン、コンコン
何度ノックしても返事はない。
「一姫様?入りますよ、失礼します」
愛紗は一姫に与えられた部屋に入るが其処には誰も居なかった。それどころか寝台にも誰かが寝ていた形跡も無かった。
「ま、まさか…」
愛紗はそう呟くと振り返り駆け出した。あの部屋に。
バターン!
一刀の部屋の扉を蹴り飛ばし、中に駆け込むと案の定其処には一姫が居た、かろうじて寝間着は着ていたが寝台の中で一刀にしがみついて寝ていた。
一刀は既に起きていたらしく青い顔をして部屋に駆け込んで来た愛紗を見上げていた。
「は、はははは…あ、愛紗さん?こ、これは、その…ご、誤解なんです!!」
「ナニガデスカ?」
愛紗の眼は既に光を宿しておらず黒目に白目が浮かんでいた。
「うう~ん。えへへ、お兄ちゃん」
一姫は未だ寝ぼけていて一刀にしがみついて頬摺りをしていた。
「あはは…」
「ウフフ」
「えへへ…」
「オホホ」
一刀は一姫を起こさない様にゆっくりとその手を放させると猛ダッシュで逃げだした。
「加速装置!!」(噛み締めた奥歯が光る描写)
「ニガシマセン」
全速力で走る一刀を愛紗はゆっくりと歩きながら追いかける、そして……
「ギャアアアアーーーーーーーーーーッ!!」
その悲鳴は都中に木霊した。
「えへへ~~、お兄ちゃんのエッチ」
そして一姫は未だ夢の中………
街・裏通り
「お猫様」
「う~ん、ここって何処だろ?」
街に買い物に出た一姫だったが、道に迷ったらしく大通りから裏通りに迷い込んでいた。
子供じゃないからと付き添いを断ったのが裏目に出た様だ。
「え~と、こっちかな?」
それでも何とか城に帰ろうと足を進めていると道の中に何やら像の様な物が立っていた。
何だろうと近づこうとすると小石に躓いてバランスを崩し、頭から思いっきり突っ込んで行った。
ガツンッ
「いったぁ~~い」
頭を抱え涙ぐんでいると其処に真桜・沙和・そして明命がやって来た。
「なんやすごい音が聞こえたな」
「あれ~、あそこに居るのは一姫ちゃんなの」
「ど、どうされたんですか、一姫様?」
すぐさま駆け寄る真桜達だったが、明命の足はすぐに止まってしまった。
何故ならば……
今、一姫の頭の上には……
「一姫ちゃん、大丈夫なの?」
「どないしたんねん?……か、一姫はん。そ、その頭の上にあるんは…何や?」
「真桜ちゃん?頭の上って……な、何なのこれは?」
「うう~、い、痛いにゃん」
「「にゃんっ!?」」
ピコピコッ
そう、今一姫の頭の上にはネコ耳があり、そしてスカートからは虎縞のしっぽが伸びていた。
「こ、これは一体?」
「どういう事なの?」
真桜達が疑問に駆られ呆然としていると一姫の体が光に包まれたかと思うとボンッと煙に包まれて、その煙が晴れると其処には二回りほど小さくなり両手両足が肉球に変わった半人半獣のネコ一姫が居た。
「にゃ、にゃにゃにゃっ??」
「うぎゃーーーあっ!!」
「か、一姫ちゃんが猫になっちゃったの!!」
「どないなっとんねん?一姫はん、大丈夫か?」
「う、うん。にゃんとか大丈夫みたいだにゃん」
真桜は一姫か抱き抱えてこれからどうすべきかを考え、沙和もまた腕を組んで悩んでいたがとりあえず一姫になぜこうなったのかを聞いてみる。
「一姫ちゃん。一姫ちゃんは何故こんな格好になったのか解らない?」
「それにゃんだけど、どうやらあの像にぶつかったのが原因みたいにゃの」
「あの像って、あの猫みたいな顔をした像の事かいな?」
「うん。私の頭のにゃかでにゃんだか声が聞こえるにゃん。もっとご主人様に甘えたかったって」
「つまり、あの像のに封じられていた猫の想いが一姫ちゃんに乗り移ったって事なの?」
「そうみたいにゃ」
そんな風に話をしていると何処からともなく悪寒がする様な気配が漂って来る。
慌てて辺りを見回すとすぐにその発信源が見つかった。
其処に居たのは………
「お、お、お猫様…」
紅く眼を染めた明命であった。
「み、明命ちゃん?」
「ア、アカン。逃げるで沙和!!」
「り、了解なの!!」
真桜と沙和は一姫を抱き抱えたまま孟ズピードでその場を走り去る。
だが、当然明命もすぐに後を追って来る。
「お~ね~こ~さ~ま~」
その声はまるで地の底から聞こえて来るようで体の奥底まで響いて来る。
「ま、真桜ちゃん。怖いの~~」
「それはウチも同じや!!とにかく逃げるんや!!」
「にゃ~~、うにゃにゃ~~!!」
三人は三人とも涙目で逃げ回るが相手は三国でも随一の隠密。簡単に逃げ切れるものではない。
逃げていると其処に三羽烏の一人、凪が居た。
天の助けとでも言う様に真桜は凪に助けを求める。
「な、凪~~。助けてーな!!」
「助けてほしいの、凪ちゃん!!」
「にゃぎ~~っ!!」
「ど、どうしたんだ二人共?その腕の中に居るのは…ま、まさか一姫様!?」
「詳しい説明は後や。とにかく後ろから追って来る猫魔人を何とかしてーな」
「み、明命ちゃんが…明命ちゃんが怖いの~~」
「お~ね~こ~さ~ま~」
重低音で聞こえて来るその声で凪はすべてを理解した。
「分かった、ここは任せろ。お前達は一姫様を安全な場所に」
「頼んだで」
「凪ちゃん、頑張ってなの~」
「にゃぎ、頼むにゃん」
真桜の腕の中で泣きながら上目づかいで見上げて来る一姫に凪はぐっと来る気持ちを抑えて真桜達に背を向ける。
「は、早く行け。ここは私の命に代えても守り抜く!!」
「な、凪ぃ~~」
「ゴメンなさいなの」
「にゃぎ~。しにゃにゃいでね」
「あ、ありがとうございます一姫様。そのお言葉だけで私は後十年は闘えます」
流れる涙を拭く事無く真桜達はその場を離れる。
その姿を見送る凪だが、遂に明命が現れた。
「お~ね~こ~さ~ま~」
「明命、いい加減に目を覚ませ!!一姫様は怖がっておられたぞ!!」
「……私の邪魔をするんですか?なら手加減はしませんよ」
「上等だ!!」
走り続ける真桜達の耳にもその闘いの音は聞こえて来た。
『猛虎蹴撃』
ドゴオオオオーーーーンッ!!
「ちょっ…凪の奴、必殺技まで使いおったで」
「明命ちゃん、無事かな?」
「心配にゃ~」
そんな風に明命の心配をしていると……
「お~ね~こ~さ~ま~」
「なっ、何やてーーーーっ!?凪が殺られおったんか!?」
「嘘~~っ!!凪ちゃんが負けちゃったの~?」
「にゃぎーーーーーーーーっ!!」
逃げる逃げる逃げる逃げる、それはもう全力で。
しかし、後ろから迫って来る気配は離れるどころかますます近づいて来る。
諦めかけたその時前方に頼もしい味方の姿が目に映った。
「し、春蘭様ぁーー、お助けぇーーーっ!!」
「助けてほしいのぉーーーーっ!!」
「ん、どうしたお前達?」
春蘭は駆け寄り縋りついて来た二人を不思議そうに見るがその腕の中の一姫を見て驚いた。
「な、何だその北郷の妹の様な猫は?」
「妹の様なや無くて一姫はん本人や」
「ちょっとした事故でこんな姿になっちゃったの」
「にゃのにゃ」
「それで何から助けてくれというのだ?」
「そ、そうや。明命が追って来るんや」
「今の明命に捕まったら一姫ちゃん、大変な事になるの」
「助けてにゃ~~!!」
「ふんっ、北郷の妹がどうなろうと私の知った事か」
だが、春蘭はどこ吹く風という様に素知らぬ顔で立ち去ろうとする。
「ええんですか、そないな事言うても」
「どう言う事だ?」
「一姫ちゃんを見捨てた事を華琳様が知ったらきっともの凄く怒るの」
「ぐっ…」
「あ~、でも一姫はんを身を持って助けたとしたら華琳様は大喜びやろうな~。『よくやったわね春蘭。ご褒美にこれから一週間、毎日閨に来なさい』ってな具合に」
「はーーっはっはっはっはっはっ!!私に任せろ、明命の十人や二十人、何ほどの物でも無い」
「じゃあ、たのんます」
「お願いなの」
「にゃの」
そうして真桜達はこの場を春蘭に任せて全力で走り去る。
「お~ね~こ~さ~ま~」
「其処までだ明命。華琳様の為にもこの場から先へは進ません!!」
「……春蘭さんも私の邪魔をするんですね」
「当然だ!!」
そして再び闘いの轟音が辺りに響く。
「華琳様のご褒美を受ける為にも北郷の妹は守り抜く!!その為にもその頸、貰い受ける」
「げ、何や春蘭様、物騒な事言うとるで」
「でもここは春蘭様に任せるしかないの」
「明命、貴様には悪いが私の為だ!!」
ドガアアアアアアアアアンッ!!
辺りに激しい衝撃音が轟き、ようやく終わったかと思ったのもつかの間。
「お~ね~こ~さ~ま」
「何でやーーーーっ!?」
「し、春蘭様まで…」
「ふ~~。…うにゃ?」
迫りくる恐怖に怯えていると一姫の耳がピコピコと動き、身体を震わせて真桜の腕の中から飛び出すと何処へと走り去って行った。
「にゃにゃにゃ~~~」
「ちょい待ちーな、何処行くねん」
「一姫ちゃん、勝手に動いたら迷子になっちゃうの」
そう言い、一姫を追いかけようとする二人だが……
「お猫様は何処ですか?」
「ひいっ!!」
「み、明命ちゃん……」
遂に明命に追い付かれてしまった。
「貴女達がお猫様を連れているのは分かっています。さあ、お猫様を出して下さい」
「そ、それは残念やな~~。たった今逃げられてもうてん」
「そ、そうなの~。何処かに行っちゃったの~」
逃げようとする二人だがゆっくりと歩いて来る明命の迫力に押されて体が思う様に動かない様だ。
そんな二人に明命は更に詰め寄って行く。
「そんな事は聞いていません。お猫様は何処かと聞いているんです」
「や、やからぁ~~」
「もう此処には居ないのぉ~~」
「……体に聞くしかない様ですね」
「「嫌ぁ~~~~~っ!!」」
二人の悲痛な叫びは街中に響いたといふ。
そして一姫はというと……
「お兄にゃん♪」
「な、何だ?か、一姫なのか?」
「そうにゃ、一姫にゃ♪」
気配で感じ当てた一刀の所にたどり着き、其処には桃香や愛紗もいた。
一姫は迷うことなく一刀の腕の中に飛び込み思いっきり甘える。
「ふわ~~~、一姫ちゃんなの?可愛い~~~♪」
「ぐはあっ!!か、かじゅきしゃま?」
「一姫、一体その格好はどうしたんだ?」
「う~ん、街のにゃかで猫みたいにゃ像にぶつかったらこんにゃ風ににゃっちゃったのにゃ」
「あ、ああ。あの猫本尊か……てっ!!あの猫本尊で猫化したとしたら元に戻すには……い、いや、さすがに一姫相手にそんな事をするわけには…」
「そんにゃ事?」
「いや、こっちの事だ」
「それより頭にゃでにゃでしてほしいにゃん。いっぱい可愛がるにゃん」
さあ、想像してみよう。
ネコ化した一姫は美以より少し小さな体になっておりキラキラした瞳で一刀を見上げる。
肉球グローブの手で服を掴み頭の上のネコミミはピコピコ動き尻尾も振り振りを揺れ動く。
顎を軽く撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らし頭を撫でると気持ち良さそうにニッコリと笑い胸に頬を擦り寄せる。
顔を近づけると鼻の頭を軽く舐め、首にしがみ付く様に抱きつくと「ふにゃぁ~ん」と軽く泣いて頬をペロペロと舐めて来る。
ネコ化の影響かその舌はザラザラとしており、その感触がまた心地よい。
ああ、誰かこの絵を描いてほしい。
本題に戻ろう。
その光景を見た愛紗は既に萌え死んで地面に倒れ伏している。
桃香は…
「いやぁ~~ん、一姫ちゃん可愛い~~♪ご主人様ぁ~~、私にも一姫ちゃん抱かせて~~」
「いいか、一姫?」
「いやにゃ、もっとお兄にゃんに甘えたいにゃ」
「うう~、残念だよ~」
「にゃ~ん」
ペロペロペロ
そんな風に一姫は一刀に甘えて頬を舐め続ける…が、突如一姫の体が煙に包まれ。
ボフンッ
ぺろぺろ………
「へ?」
「あれ?」
そして再び煙が晴れると、一姫の体は元に戻っていた。どうやら一刀に甘えまくった事で一姫に憑いていた猫の霊は満足して離れて行ったらしい。
つまり一姫は今、元の姿のまま一刀に抱きつきその頬を舐めているわけで……
先ほどまでは取り付いていた猫の霊のおかげで何ともなかったが霊が離れたとたんに気恥かしさが戻って来た。
「あ、ああ、あああ」
「お、落ち着け一姫。こ、これは事故だ、事故だから……」
「い、い、い」
一姫は顔を真っ赤に染めて俯きながら拳を握りしめてく。
「落ち着け、一姫ぃーーーーーーっ!!」
「嫌ぁ~~~~~~~~っ!!」
そしてその握りしめた拳を思いっきり振り上げる。
バゴオォォォォォォォォォンッ!!
「ぐはああああーーーーーーーーっ!!」
その日、都には天へと昇る幾重もの虹が見えたそうな。
真桜達はというと。
「いい加減白状して下さい。お猫様は何処ですが?」
「だから逃げちゃったの~~」
「堪忍してぇな~~」
後日談。
その後、裏通りで何かを探す一姫の姿が何度か目撃されたらしい。
ちゃんちゃん。
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ずいぶんとお久しぶりになりました。
萌√の更新です。
次は多分バレンタイン夢になります。