城内・厨房
「二人の……」
「ふんふんふ~~ん♪」
――私は今お料理の真っ最中。
久しぶりにお兄ちゃんに食べてもらうんだ、喜んでくれるよね。
そう呟きながら一姫は頬を赤く染め、瞳をキラキラ輝かせながら妄想に浸る。
(美味しいよ一姫。ああ、やっぱり一姫の料理は天下一品だ)
――なーんて微笑みながら言ってくれて……
(御馳走様。さて、デザートは何処かな?)
――え、デザート?そっか、デザートもいるよね。
(ああ、こんな所にあった。美味しそうだな)
――え?え?え?お、お兄ちゃん、何を?
お兄ちゃんはそんな風に言って私を優しく抱き抱えるの。勿論お姫様抱っこよ、此処は大事、絶対に外せない。
(大丈夫、安心して。……優しくするから。ニコリ)
――お兄ちゃん……うん、信用してるよ……来て、お兄ちゃん。
そうしてベッドに優しく寝かしてくれるお兄ちゃんは私の上に覆いかぶさり、ゆっくりと私に近づいて来るの。私は破裂しそうな心臓を必死で押さえこみ、ゆっくりと目を瞑るの。
そして……」
「そしてどうなるの?一姫おねえちゃん」
「ふへっ?」
ふと、聞こえて来た声に現実に引き戻されると其処には私を不思議そうな顔で私を見上げている璃々ちゃんが居た。
「おねえちゃん、ヨダレたれてるよ」
「えっ!!…嘘!?」
璃々ちゃんにそう言われて慌てて口を拭う。…他には誰にも見られてないよね?
「おねえちゃん、何作ってるの?」
「お兄ちゃんに久しぶりにお料理を食べてもらおうと思ってね」
「わあ~~、いい匂い。璃々も食べたい」
「う~ん、もう少し手を加えなきゃいけないんだけど…まあ、少しならいいか。じゃあ、ちょっとだけ味見して見る?」
「うん、食べるーー」
私は鍋の中で煮込んでいる物をおさじで一掬いすると璃々ちゃんに食べさせる。
すると璃々ちゃんのほっぺたは徐々に赤くなっていき、瞳からも涙がぽろぽろ零れてきた。
「からぁ~~~いっ!!」
「ああ、やっぱり璃々ちゃんには辛かったかな?このカレー」
そう、私が作っていたのはお兄ちゃんの大好物のカレーライス。
もっとも、お兄ちゃんは甘口が好きだからもうちょっと手を加えないといけなかったんだけど。
「ごめんね璃々ちゃん。はい、お水」
「うう~~、ごくごく。はあ~~、からかった。一姫おねえちゃん、これなあに?」
「これはね、カレーライスっていう私達の世界にあるお兄ちゃんの大好きな食べ物よ」
「ご主人さまの?こんなにからいのに」
「もう少し手を加えれば甘くて美味しくなるのよ。そうしたら璃々ちゃんも食べれるようになるわよ」
「甘くなるの?楽しみだね」
そんな風に微笑んで来る璃々ちゃんとお喋りをしながら最後の仕上げをしていく。
「ふんふんふ~~ん、林檎と『蜂蜜』とろ~り溶けてる♪」
そしてそれから一時間ほどたち、ようやく完成した頃。
ダダダダダダダダダダダダダダッ
けたたましい足音が響いてきたと思ったら。
バタンッ
勢い良く扉が開かれ、お兄ちゃんが飛び込んで来た。
「こ、この匂いは……ま、まさか…?」
「お兄ちゃんの大好物のカレーライスよ♪」
「お、お、お、おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
お皿に盛ったカレーライスを差し出すとお兄ちゃんは涙を流しながら一歩一歩、歩いて来る。
そして、お皿を受け取ると匂いを一嗅ぎした後テーブルの上に置くと、
「一姫ぃ~~!!ありがとぉ~~!!お前は最高の妹だぁ~~!!」
「きゃっ♪」
泣き叫びながら私を思いっきり抱きしめた。
「何なのこの香りは?」
「うう~、嗅いでいるだけでお腹が空いて来るよ」
「あら、一姫が作ったの?当然私達にも食べさせてくれるわよね」
其処に華琳・桃香・雪蓮の三人もやって来て、その後も続々と集まって来る。
「うにゃ~~、もう我慢できないのだ!!早く鈴々も食べたいのだ!!」
「姉ちゃん、ボクも食べたいよ!!」
「お、お姉様の手料理!!私も早く食べたいです!!」
「早く妾に食べさせてたも!!」
カレーの匂い、この魔力からは逃れられないのか皆が早く食べさせろと言って来る。
だが、やはり一番に食べてもらいたいのはお兄ちゃんだ。
「待ってよ、お兄ちゃんに一番に食べてもらうんだから。さ、早く食べて♪」
「ああ、いただきます!!」
そう言いながら手を合わせたお兄ちゃんは物凄い勢いで食べていく。
心を込めて作った料理を愛する人に食べてもらえる。ああ、これが妻の喜びなのね」
「誰が妻なのよ」
「え?また声に出てた?」
カチャン
何か音が聞こえてきたので振り見いてみると一刀は匙を落として何やら震えていた。
「一刀?」
「お、お兄ちゃん!!どうしたの!?」
「ご主人様、大丈夫ですか!?」
「う、ううう…か、体が熱い…」
一刀は苦しそうに体を抱えながら蹲り、一姫や華琳達も傍に駆け寄る。
「ちょっと一姫、貴方一刀に何を食べさせたの?」
「何をって、ただのカレーよ」
「なら何でこんなに苦しんでるのよ」
「私だって分からないわよ。ちゃんと味見もしてるし」
「何か変な物を入れたんじゃないの」
「だったら私の具合も悪くなってる筈だし…あ」
そこまで言って一姫は何かを思い出した様に口ごもる。
「何?やっぱり何か思い当たる事があるの?」
「う、うん。最後に甘口にする為に林檎と「蜂蜜」を加えたんだけどもしかして」
「は、蜂蜜ですかぁーーーーーーっ!?」
驚いた様に大声を上げたのは七乃、その足元では美羽も何やら青い顔をしてオロオロしている。
「ど、どうしたの七乃ちゃん」
桃香が心配そうに七乃の顔を覗きこむ。
「か、一姫さん。その蜂蜜は何処にあった蜂蜜ですか?」
「何処って、あの上にある棚の奥に置いてあったんだけど。ひょっとしてあの蜂蜜使っちゃいけなかったの?もしかして毒だったとか…」
「い、いえ…別に毒と言う訳では無いのですが」
「そ、そうなのじゃ。毒ではないぞ、妾達が舐めても生えて来ただけで」
「み、美羽様!!」
「むぐぅっ!!」
七乃は慌てて美羽の口を押さえるが少し遅かったようだ。
「生えるって何が?」
一姫がそう問い詰めようとした時……
「うにゃあ~~~~~~っ!!お、お兄ちゃんが、お兄ちゃんがぁ~~~~~~~っ!!」
「はわわぁ~~~~~~~~~~っ!!」
「ご、ご主人様ぁ~~~~~~~っ!!」
鈴々達の悲鳴にも似た叫び声が聞こえて来た。
「何!!お兄ちゃんがどうかした……の……」
「か、かず……と…」
そして私達の目の前に居たのは……
「な、何だこれ?」
自分の体を不思議そうに見ている……フランチェスカの男子制服を着ている……
もう一人の私だった。
続く。
あとがき
と言う訳で前編です。
あの作品とは「蜂蜜物語」でした。
本当はちゃんと完成させてから投稿するつもりでしたが取りあえず前編として更新しました。
後編もなるべく早く更新したいと思います。
今回の震災で亡くなられた方々の冥福を祈ります。
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お久しぶりです。
今回はある作品とのコラボとなっております。
さて、何の作品でしょう?
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