No.195064

真・恋姫†無双 北郷史 8

たくろうさん

一刀、頑張るの巻。

2011-01-10 02:01:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10255   閲覧ユーザー数:7359

 現在、北郷陣営天幕の一つに華雄の身がある。縄で縛られており動けないが捕虜の身にでありながら一人に一つの天幕を与えられているため、かなりの高待遇である。

 少し経つと一刀が華雄の居る天幕の中に入って来た。

 

「やあ、気分はどう? 体の痺れはもう大丈夫かな?」

 

「……気分は貴様のせいで最悪だな。で、何のようだ? 私を嘲笑いにきたのか?」

 

 華雄はやって来た一刀を睨みつけ悪態をつく。

 

「いや、戦場で俺が言ったことに対する答えをまだ貰ってないから聞きに来たんだ。もう一度言おう。俺は君の力が欲しい」

 

「フン、断る。一騎打ちで敗れ、その相手に従属するだと。私に敗北以上の恥を上塗りしろと言うのか? 答えが分かったらさっさと私の頸を討ち取れ」

 

そう言うと華雄は器用に身をよじり一刀に背を向ける。

 

「そうか、そりゃ残念だ。 だけど君の頸を討ち取ることは決してしない」

 

「なら舌を噛み切って己が生涯に幕を閉じるまでだ」

 

一刀はその言葉を聞くと身を翻して天幕の入り口に立つ。そして真っ直ぐと華雄の姿を見る。

 

「俺はこれから君の主を救ってくる。それまでその決断は保留にしてくれないかな?その娘のことはよく知らないけど一目みてやさしい娘だというのは分かる。絶対に君が死ねば悲しむ」

 

「……貴様、一体どこまで知っている?」

 

華雄は一刀の言葉に反応して顔を一刀のほうに向ける。目が合うと一刀はニコリと微笑みながらこう答えた。

 

「君の主が可愛らしいってことぐらいかな?」

 

 その言葉を聞くと華雄は少しだけ口端を釣り上げる。そして縄をギシりと鳴らすとまた不機嫌な表情になる。

 

「……縄が窮屈だ。自害はしない、逃げもしない。だからさっさと私の縄を解け」

 

「オッケー。一応天幕の中からは出ないでくれよ」

 

 一刀はすぐに華雄の縄を解くと天幕から出ていった。

 

「北郷一刀……か。捕虜の身柄を自由にするとは馬鹿なんだかお人好しなのだか。……だが面白い男だ」

 

 残された華雄は縄を指で弄びながら呟いた。

 虎牢関。難攻不落の鉄壁として知られる強固な関。反董卓連合の軍勢は昼夜問わずその関を崩すべく動いている。

 これは前回の外史同様一刀の案によるものだ。相手に休憩の隙を与えずに絶え間なく攻撃を加え相手を疲弊させる。その時華琳が一刀を見て笑っていたのは一刀の知るところではないが。

 既にもう何日も攻撃されており、虎牢関を守る者達は限界を迎え始めている。虎牢関に滞在する将軍、張遼こと霞は苦渋の決断を迫られていた。

 

「アカン、もう兵達が持たへん。華雄は敵に捕らえられとるし……。もうここが限界や。恋、門を開けて突撃かけるで。 ……せめて月は逃さへんと」

 

「……コクッ」

 

 呂布はこの言葉に静かに頷く。

 

「……恋、セキト、家族守る」

 

 呂布はそう呟くと方天画戟を握りしめて兵達のもとに向かう。

 

「オイ、月と詠にもう虎牢関は持たへん。すぐに逃げるよう伝令を送っとき!!」

 

 霞は呂布の後ろ姿を見送ると近くにいた兵にそう命令する。

 

「お前達も命が惜しければ遠慮は要らへん。すぐに逃げーな。ウチも無理矢理止めはせぇへん」

 

 霞はそう言ったが霞の部隊から誰も逃亡者は出ず、誰もが霞に付いて行くことを選んだ。そして霞達は戦場に向かった。

 そんなやり取りの水面下で若作り過ぎる老爺がコソコソと動いてることは露知らず。

 

 霞が伝令を言い渡す少し前、一刀は既に虎牢関内部に潜入していた。格好は董卓軍の兵のものになっており見ただけでは一刀とはわからない。

 

(もと魏の都、洛陽の警備隊長にかかれば虎牢関の構造などお見通しというわけさ)

 

 一刀は虎牢関の内部を一瞬の迷いなく進んでいく。途中で董卓軍の兵と鉢合うが誰も敵軍の首級に値する者だとはわからない。

 しばらく進んでいくと一室から一刀の耳に懐かしい声が届いた。ちょうど霞が兵たちに伝令を送っているところである。一刀は耳を澄ませて会話を盗み聞きする。

 

(月と詠? おそらくは董卓とその軍師、賈詡のことだろうな。もう二人を逃がすつもりか。俺も何時までも虎牢関にいないで洛陽に向かわないとな)

 

「お前達も命が惜しければ遠慮は要らへん。すぐに逃げーな。ウチも無理矢理止めはせぇへん」

 

 霞の会話から意識を外そうとすると霞の死地へ向かう覚悟が一刀の耳に届いた。すると一刀は少し憂いを帯びた笑みをつくり霞に聞こえぬように密かに呟いた。

 

「大丈夫、霞の今の主は俺が必ず助ける。それに霞にはとっても素晴らしい主が待ってるから……だから安心して行っておいで」

 

 一刀は静かに覚悟を決め直して虎牢関を後にする。

 時間と場所は変わり一刀は現在戦の影響で静寂に包まれた都、洛陽に立っている。街には人っ子一人見当たらない。

 一刀は不気味なまでに静かな街を見渡して霞の会話を盗み聞きした時と同じ、憂いに帯びた笑みを浮かべる。

 

「懐かしいなぁ……。実に二百年ぶりの帰還だ、洛陽の都よ。俺がいた時とは当然街の様子は違うけど……それでも郷愁を感じずにはいられないよ」

 

一刀は目を閉じる。するとかつての魏の都、洛陽での日々が鮮明に思い浮かぶ。

 

(そういえば今俺が立っている場所。よく凪達と警邏にまわった道だ。右はいずれ華琳御用達の飯店の出来る場所)

 

一刀にとって昔であり、この世界の者にとって未来である日常の記憶に一刀は浸る。

しばらくそうした後に一刀はゆっくりと目を開いた。そして董卓軍の装備を脱いでいつもの制服姿に戻る。

 

「さあ、行こうか。まだ逃亡しないでくれよ、董卓」

 

一刀は走り出し、董卓のいる城に向かっていった。

 

 

 

 

 

~洛陽の城内のとある一室~

 

「……そう、もう虎牢関はもう……」

 

 賈詡は伝令を聞き苦い顔をする。そして決意を秘めた顔になりオドオドしている董卓と向き合う。

 

「月、急いで洛陽から脱出するわよ!!」

 

「で、でも霞さんは……」

 

「霞達がくれた機会を無下には出来ないわ!! さっ、早く用意をして!!」

 

「そうそう、早くしないと兵隊がやって来てしまうよ」

 

「そうよ!だから早く……って誰アンタ!!」

 

 賈詡は第三者の言葉に同意仕掛けた後、突然現れた者に驚き咄嗟に董卓を庇うような体勢になる。

 

「俺? 俺は高性能じいさんだ。 もしくは北郷一刀でも可」

 

一刀は天井を支える組み木に足を引っ掛けて蝙蝠のような体勢になっている。

 

「北郷一刀!? ってことはアンタは天の御使いとかいう男なの!?」

 

 一刀は質問を受けると一回転して天井から床に着地する。

 

「そ、天の御使いとは俺のこと。そして反董卓連合の参加者でもある」

 

 賈詡はその言葉を聞くと途端に董卓を自らの背中の後ろに移動させる。

 

「月は渡さないわよ!!」

 

 語意こそ強めだが明らかに賈詡は震えている。一刀はそんな反応が可愛いと思い少しイタズラ心が生まれる。

 

「まあ、君等をひっ捕らえてその御首を頂戴しちゃうのもいいんだけどねぇ。俺もそろそろ太守にとしての名を上げたいし」

 

その言葉に賈詡はビクっと肩を震わせる。強がりなのは目に見えている。

 そんな反応を見て董卓は一つ深呼吸をするとスッと賈詡の前に出た。

 

「あの、私の命はいくらでも差し出します……。でも、詠ちゃんだけはどうか見逃してください」

 

「月!? ダメよそんなの!! こんな奴に月が殺されることはない!!」

 

 そのまま二人はどちらが犠牲になるかという言い合いになってしまった。このまま続けさせていたら日が落ちるまでやってしまうかもしれない。

 本当に互いを思いあっている。一刀は二人を見て思う。

 やがて一刀は言い合っている董卓の前まで歩んでいき手を上げる。董卓はそれを見て覚悟を決めて目を瞑る。

 だが董卓の覚悟とは裏腹に一刀は董卓の頭を優しく撫でていた。

 

「大丈夫、さっきのは冗談。君みたいな優しい娘を殺したりなんかしないよ。俺は君が暴政を働いてないことを知ってるしね。 それに君の部下と約束したんだ。君達を絶対救うって」

 

「へぅ……」

 

董卓と賈詡はまだ事態を飲み込めてないらしく呆けてしまっている。

 

「さあ、安心するのはまだ早いよ。早く脱出の用意をするんだ。とっておきの脱出路を用意してある。それこそこの都を網羅してなければ分からないほどのね」

 

「あ、アンタ何者なの……?」

 

一刀は賈詡の質問に笑って答える。

 

「俺? 俺は高性能じいさんだ。 もしくは天の御使いでも可」

 

「そうだ、そうなるなら恋達に伝令を送らないと……」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 伝令を送った後、一刀達は城内から逃亡を計った。

「……みんな、退く。恋に付いて来て」

 

伝令が来た後呂布が軍に命令を出す。こうして呂布の率いる兵の激戦はあっさりと幕を閉じた。

 

 

 ―呂布が兵を退かせたの同時間、一刀は霞と春蘭が激突する戦場近くに立っていた。その表情にはいつもの余裕はなく何処か焦っているように見える。

 

(春蘭、無事でいてくれよ……)

 

一刀は空に向かって祈りを捧げる。そして戦場を見据えるとすぐに探し人の姿を見つけることが出来た。

 春蘭は今まさに霞と一騎打ちをしているところであった。そのせいで霞に伝令が伝わっていないことは目に見えている。だが一刀はそんなことは気にも留めない。ただひたすらにこれから起こるであろう最悪のアクションを起こす者を探していた。すぐに一刀は兵が作っている輪の中に入る。

 

(……駄目だ、誰が春蘭を狙っているか分からない……)

 

一刀はひたすらに、ただひたすらに探す。その間に春蘭と霞の一騎打ちは白熱して誰もがその戦いに見惚れる。これから起こることは露知らずに。

 

「……!?」

 

一刀はついに見つける。だが見つけたのは弓を構えて矢尻が光に反射した為。もう射出する用意は出来ており今からでは取り押さえることは叶わない。一刀は咄嗟に秋蘭のほうを見るが秋蘭も春蘭に忍び寄る危機に気付いていない。

 

「……くっ!!」

 

間に合わない。一刀はそう判断すると春蘭のもとに向かって駆け出す。それと同時に弓が放たれる。

 

「ウ……オオオオオオオォ!!」

 

「な……貴様は!?」

 

春蘭が飛び込んで来る一刀に驚く。だがその驚きはすぐに別のものと変わる。春蘭は一刀の肩を見る。

 

「……」

 

「お、お前……」

 

一刀の肩には矢が深々と突き刺さっていた。一刀の制服にどんどん血が滲んでいく。だが一刀はまるで痛がる素振りは見せずただ仁王立ちして弓を放った者を見る。

 

 次の瞬間、そこにいた全員が底冷えする悪寒に駆られた。発生源は一刀だ。

 

(戦の矜持も分からない孺子が……。俺の前でこの娘に手を出してただで済むと思うなよ……)

 

「……ひいっ!?」

 

一刀はただ睨んでいる、ただそれだけだ。だが睨まれた者は得体の知れない感覚に襲われていた。まるで年輪を刻むが如く巨大化した獣の鼻先を押し当てられているかのような、有無を言わさず死を覚悟させられる圧力。殺気の類ではなく純粋に得体の知れない恐怖。

 

「うっ……うわぁぁぁ!?」

 

睨まれた兵士は恐怖に耐え切れず発狂した。焦点が合っておらず無作為に弓を乱射する。一刀は怒りに囚われて一瞬判断に遅れる。そして春蘭も一刀の登場、放つ気配に気を取られて判断に遅れてしまった。

 

「ぐっ……!?」

 

「姉者!?」

 

(……春蘭!?)

 

放たれた弓は春蘭の目に深々と突き刺さった。一刀は心の叫びを何とか堪えて春蘭の安否を窺う。

 

「貴様ぁ!! 我が神弓のもとにひれ伏せ!!」

 

秋蘭が弓を放った男の心臓目掛けて矢を放ち、その一撃のもとに絶命した。秋蘭はすぐに春蘭のもとに行き安否を確認する。

 

「おいっ、しっかりしろ!!」

 

「姉者、すぐに手当てを……」

 

「……っく、私なら大丈夫だ」

 

春蘭は二人を制すると突き刺さった矢を掴み、一息に引き抜いた。そしてそのまま先端に刺さっている眼球を口に含んで咀嚼する。

 

「う…ぐ……。この身はすべて華琳様のもの。断りなく捨てるわけにも失うわけにもいかん!!」

 

これにより春蘭と軍の士気は最高潮に達する。そしてまた霞との一騎打ちが始まる。一刀はただ呆然としていた。守れなかった。ただこの言葉が一刀の中を支配した。だがこんな一刀でも先程のやり取りのせいで誰も攻撃しようとはしない。すると秋蘭が一刀のもとにやってきて一刀の負傷した肩に布をあてる。

 

「北郷一刀、どうしてここにいるかは知らんが姉者を身を挺して守ろうとしたこと、感謝する」

 

秋蘭の言葉に一刀の心は幾分か救われたが、それでも後悔は拭いきれなかった。

 

 この後、霞は春蘭に敗れ華琳の配下となる。そして虎牢関は落とされ董卓は反董卓連合に見つからずこの戦は閉幕する。こうして戦いは終わった。

 

そして反董卓連合軍は洛陽で一時の休憩へとはいる。

 

~続く~

 


 
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