No.195390

真・恋姫†無双 北郷史 9

たくろうさん

ここから一刀の本領。

2011-01-11 14:35:41 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:12737   閲覧ユーザー数:7905

戦は終わり反董卓連合の面々は洛陽の都に陣を敷いて骨を休めていた。

 

「月、無事か!!」

 

華雄の居る天幕に無事に保護された月、詠の二人が連れて来られた。華雄はすぐに二人のもとに駆け寄る。

 

「うん、もう名のほうは名乗れなくなっちゃったけど……」

 

「……恋もいる」

 

呂布こと恋がひょっこりと天幕に顔を覗かせる。

 

詠は事の顛末を華雄に教える。

 戦の中、恋は伝令の指示を受けて退却。そして城から脱出した月と詠に合流。そしてそのまま一刀の教えられた場所に潜み、一刀に発見された恋は素直に降り、月と詠は名を捨ててそのまま一刀に保護された。

 表向きは董卓と賈詡の二人は行方不明。人相と素性が公になってないのでこのまま迷宮入り。恋は人望に惹かれ一刀のもとに降ったということになっている。

 

「で、華雄。アンタはどうするの? あのバカは降らないならこのまま逃げてもいいって言ってるし」

 

「恋、お前はこれでいいのか?」

 

華雄は恋に質問する。それに恋は無言で頷く。

 

「……今のご主人様、セキトにねね、家族に居場所作ってくれるって言った。だから、いい」

 

「……そうか」

 

華雄は恋の言葉を聞くと静かに笑う。

 

「あいつは戦に出る前私にこう言った。お前の主人は必ず救うと。あいつは見事その誓いを果たしたというわけか……。ならば私に否の答えを出す理由はない」

 

今ここにまた新たなる仲間が一刀に増えた。

 

「そういえば霞は何処にいるのだ?」

 

その質問に詠が少しだけ寂しげに答える。

 

「霞は曹操の所に降ったわ。伝令が間に合わなくてね。あのバカは曹操はいいヤツだから大丈夫って言ってたけど」

 

「……そうか。なら北郷一刀はどうした? 奴ならば私の答えを真っ先に聞きにくるのかと思ったが」

 

その質問に月が不安げに答える。

 

「一刀さん……ご主人様は戦の途中で夏侯惇さんを庇って肩を負傷して……今は治療中だと思います」

 

「……何?夏侯惇を庇っただと。何故余所の武将を庇う必要があるのだ」

 

その言葉に詠はわざとらしく肩を竦めてこう言った。

 

「あのバカは会ってすぐに分かるぐらいのお人好しだからじゃない?」

 

「え、詠ちゃん……」

 

月が詠の皮肉を宥める。

場所は変わり魏の面々が集う陣営。華琳は対面することを拒む春蘭を捕まえて傷があっても愛すると言い、それを聞いた春蘭は泣いてしまいそれを抱いて慰めているところであった。

 

「ほら、いつまでも泣かないの、春蘭。まだ北郷一刀に礼を言ってないのでしょう?結果はどうであれ庇ってもらったのは事実。礼を欠けば私の面目に関わるわ」

 

 その言葉以上に華琳は純粋に一刀にさらなる興味が湧いていて会って話がしたいと思っていた。

春蘭は華琳の言葉に頷き涙を拭うと立ち上がり、一刀と会うべく歩き出した。

 

 華琳達は自分の陣を歩いていると凪、沙和、真桜の三人と顔を合わせる。そして一刀に礼をしに行くとの峰を伝える。それを聞いた途端に沙和、真桜は目を輝かせた。

 

「私も北郷一刀さんに会いたいのー!!」

 

「ウチもウチも!!」

 

「お、お前達、遊びにいくわけではないのだぞ!」

 

凪が二人を叱咤するが凪の言うことはまったく聞いていない。

 

(やっぱり北郷一刀の名は文化面においては多大な影響を及ぼしているみたいね。だけど華雄との一騎打ちの件、虎牢関における奇策、春蘭を庇った際に発したとされる気配。ますます面白い男だわ)

 

 華琳は獲物に狙いを研ぎ澄ませた虎のような目になり獰猛な笑みを浮かべる。しばらくそんなことを考えていると華琳に一つの疑問が浮上した。

 

「春蘭、そういえば何故矢を避けれなかったのかしら? その時矢を放った不逞者の存在は気付いていたのだし、あなたが私以外の誰かに萎縮して動きが遅れるとは思えないのだけれど」

 

「あ、それウチも気になる」

 

「私もなのー」

 

「私もです」

 

三人を華琳の質問に意見を重ねる。すると春蘭は難しい顔になる。そしてうーん、うーん、と唸っていつまでも答えを出そうとしない。

 

「春蘭、はっきり言いなさい。それとも私に隠し事が出来ると思っているのかしら?」

 

「いえ!! そのようなことは決して!!」

 

「なら言いなさい」

 

「はい……。 私もこんなこと認めたくないのですが、北郷一刀の背中に私は一瞬……華琳様を見てました。あいつの放っていたものはもっと異質なものなのですが……心の底にあるものが同じというか……」

 

「へぇ……私と同じ、ねぇ」

 

 華琳はそれを聞きまた獰猛な笑みを浮かべる。

 

(それはすなわち覇道を意味する。この曹孟徳と北郷一刀が歩む道は同じというのかしら。ずっと私の側にいた春蘭がそう言うのであれば間違いは無いわ)

 

「本当に興味の尽きない男ね。さあ行くわよ、早く会って会話をしてみたいわ」

 

 華琳は春蘭と三羽烏を引き連れて再び歩み始めた。

 華琳ご一行は本郷の敷く陣営までやって来た。近くにいた兵は警戒するものの華琳が一睨みすると萎縮してしまう。すると星が華琳を見つけて華琳のもとに歩み寄って来た。

 

「おやおや、これは曹操殿ではないか。何用で参られた?」

 

「私の臣下が世話になったみたいね。だからその礼をしに来たのよ。北郷一刀の所に案内してくれるかしら?」

 

 すると星は困ったような顔をする。

 

「まったく私の主殿には困ったものだ。主殿はバカが付くほどのお人好しなのでわざわざ礼をする必要は無いと思いますぞ?今回の件も見返りを求めてした行動ではないでしょうから。それが我が主の良い所であり臣下の悩みの種であるが」

 

「礼をしなければ私の面子に関わるわ。だから案内して頂戴」

 

 華琳の言葉を聞くと星はまた困った顔をする。そして本陣とは真反対の方向を向く。

 

「主殿と会いたくば炊き出しが行われている場所に行ってみられよ。そこに我が主殿がいる」

 

 飯が喉を通るぐらいには元気ってことかしら。だけど何故民と兵に混じって飯を食べているかしら?と少々疑問を感じつつ華琳達は炊き出しの行われている場所に向かった。

 

 

 

「へい、一丁上がり!!」

 

 確かに一刀はそこに居た。だが華琳の想像とは違い包丁を小気味良く鳴らし、鍋を振るい民と自軍含めた様々な兵に料理を振舞っていた。肩に傷を負ってることなどまるで感じさせない軽やかな動きだ。

 

「……」

 

 華琳はしばらくその姿をみながら呆れてしまう。

 

「……何をしてるのあなたは?」

 

華琳はとりあえず一刀に話しかける。

 

「おや、曹操じゃないか。 見ての通り兵と民にささやかながら一飯を振舞っているところだが」

 

 華琳はその様子を見て頭を痛める。こんなお惚けな男が自分と同じものを秘めていると思っていたためだ。だが一刀の作る料理は食欲をそそられる見た目、唾液の分泌量が増えてしまう匂いだ。美食家の華琳にこれを素通りするなんてことは有り得ないことだ。それに料理で大陸に名を轟かせている男の料理だからなおさらだ。

 

「なら私もご相伴に預かっていいかしら?あなたの料理、とても興味があるわ」

 

一刀は相変わらずだな、と軽く笑う。

 

「ああ、いいよ。とっておきを振舞おう!!」

 料理が完成して華琳達に差し出される。出てきた料理はどれもこの大陸に住む者には見たことのない物ばかりだ。

 

「これは……何?」

 

「それは味噌汁という天界の料理だ。さあ召し上がれ」

 

 華琳は味噌汁に口を付ける。そして目を見開く。

 

「……美味しいわね」

 

 この一言を聞くと一刀は握り拳を作りそれを振り上げて歓喜する。そして次の料理に口を付けるよう催促する。

 

「これは”ハンバーグ”天界でも大人気の料理だ」

 

 華琳はそれを口にし、これまた好評の一言だ。一刀は他の人達の反応も気になり見渡すと皆美味しそうに食べてくれているが凪だけ何処か物足りないといった顔をしていた。

 一刀はすぐにその理由に気付く。

 

「はい、唐辛子」

 

「あ、ありがとうございます」

 

一刀は調味料の中から唐辛子を取り出して凪に手渡した。

 

「スゴい。 どうして凪が辛いもの好きってこと分かったん?」

 

 一刀は真桜にそう質問されて「しまった」と思う。気付けば魏の面々全員から視線で答えの催促をされてしまっている。

 

「えーっと、長年料理していると何となく食べている人がどんなものが好きか分かるんだ」

 

 一刀の言ったことは胡散くさいものだが職人にしか分からない領域なのだろう、ということで全員一応納得してくれた。

 

「ふぅ……流石は大陸に名を轟かせるだけあるわ。だけど意見を言うとすれば味噌汁と呼ばれるものは少々塩味がキツかったかしらね」

 

 華琳にしては割とマイルドに総評した。

 話を聞くと一刀は懐から筆と墨壷、紙を取り出して華琳に言われたことを書き留め始めた。

 

「へぇ、勤勉なのね。いい心掛けだわ」

 

華琳は一刀の姿を興味深々と覗き込む。

 

「何時でもメモするように心掛けてるからね。そして御使い様の体は女の子以上に隠し場所があるのです」

 

「めも?」

 

「天界の言葉で忘れないようにこうやって筆記具を携帯して覚えておきたいことを書き留めることさ」

 

「それは春蘭にはもってこいの案ね」

 

「か、華琳様ぁ……」

 

 そういえば昔もこんな会話したなぁ、と一刀は思いながら華琳に説明する。すると一刀は妙は視線を感じる。

 視線の先を追うとそれは一刀の料理を食べ終え目を輝かせる沙和と真桜だった。

 

「夢みたいなの……「すたっど」の北郷一刀さんに会えるなんて」

 

一刀の作る服は銘柄「stud(種馬)」と呼ばれており服の世界においては注目の的。沙和も雑誌「阿蘇阿蘇」で一刀の服を知っていた為一刀に尊敬の念を抱かずにはいられない。

 一刀は沙和の目線に少々引いてしまう。

 

「あー、ありがとうな。そんな反応して貰えると作り甲斐があるよ」

 

一刀は頬を掻きながら照れくさく言う。ここまで熱烈な視線を受けると一刀もさすがに照れてしまう。

 

「よかったら今新作を作ってる途中だから見ていくかい?」

 

「わぁ! 見るのー!!」

 

一刀達は北郷陣営の天幕に向かった。

 一刀の天幕は独特な雰囲気を醸し出していた。散らばっている布、机に置かれている裁縫道具、様々な工具と部品。作りかけの服と絡繰。そこは様々な職人の部屋混ぜ合わせたようであった。

 

「わぁ……可愛いのー」

 

沙和は置かれていた作りかけの服に釘付けになっている。真桜も絡繰に興味深々だ。その方面に特化してない華琳、春蘭、凪も部屋の物に興味を惹かれている。

 

「なあ北郷さん、戦場を駆け回っていたっちゅー絡繰をウチに見せてーな」

 

真桜の言葉に一刀はニッコリする。

 

「絶対らめ♡」

 

瞬間的に真桜の言葉は却下された。

 

「あーん、そんなイケズなこと言わんといてーな!」

 

「ダーメ、あれは一応俺の秘密兵器だからね」

 

いくら真桜相手でも他国の人間である。そんな相手に自国の技術を渡すような真似をするわけにはいかない。

 

「ま、そんなことは置いといて本当は俺に何の用があって来たのかな?」

 

その言葉を聞くと華琳と春蘭は一刀のほうに向き直る。

 

「まだ私の家臣、夏侯元譲を身を挺して守ろうとしたことの礼をしてなかったわ。今日はその礼を言いに来たのよ」

 

 その言葉を聞くと一刀は途端に沈んだ表情になる。先程までの元気が虚勢だったことが見事にバレてしまった。

 

「……礼なんて受け取れないよ。俺は夏侯惇のことを守れなかったんだから」

 

「あー、その、あれは元々私の不注意が原因なのだ。それに私は片目を失ったことはさほど気にしておらん。だからそう落ち込むな」

 

 春蘭は本気で落ち込む一刀を見兼ねて元気を取り戻させようとする。だが一刀にはその気遣いでさらに己の不甲斐なさが強まってしまう。ジメジメとした雰囲気が一刀を中心にどんどん展開されていく。

 

「北郷一刀!!」

 

「は、はい!?」

 

 ジメジメとした空間に一風吹くように華琳の一喝が響いた。一刀は思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。一刀に植えつけられた覇王に対する従順属性は二百年経っても健在のようだ。

 

「北郷一刀。結果はどうであれ貴方は自らの身を顧みず我が家臣、夏侯元譲を庇った。この事実だけで礼に値することだわ。そして人の厚意は素直に受け取りなさい。それが礼儀というものよ」

 

 

「…………」

 

しばしの沈黙が続く。

 

「……ぷっ、ハハハ」

 

「何がおかしいの?」

 

 突然笑い出す一刀に華琳は怪訝な顔をする。

 

「いやね、昔仕えていた主によく今みたいに怒られてさ。……うん、何か今ので吹っ切れたよ。ありがとう、曹操」

 

 どれだけ歳を取っても華琳には敵わないなぁ、と染み染み思う一刀であった。

 

「へぇ、貴方のかつての主ね。興味があるわ」

 

 その言葉を聞くと一刀は遠くを見ながら答えた。

 

「……とっても素敵な主さ。それこそ何百年経っても愛しいほどにね」

 

 華琳はこれ以上の詮索は無粋と感じたのか話を切り替える。

 

「それと、もうひとつ用があるのだけれど……いいかしら?」

 

「ん? いいけど」

 今、華琳の申し出で魏の面々は席を外し天幕の中は一刀と華琳の二人だけになっている。

 

「それで、用と言うのは?」

 

 一刀が話を切りだすと華琳はニヤリと笑う。

 

「単刀直入に言うわ。貴方、私に仕えない?」

 

「え?」

 

 一刀は華琳の言葉に少しだけ驚く。華琳は一刀の反応を無視して机に置いてある物を手で弄びながら語り続ける。

 

「貴方の文化においての才覚、そして戦場においての発想、飛将軍呂布を従えさせた器。そして春蘭も気に取られるほどのその身に秘めているモノ、貴方のすべてが欲しいわ」

 

 言葉の捉え方によってはそれ告白だよ、と一刀は苦笑いしつつも相変わらずだなぁと思う。そして言葉を聞き終えると口元は少しだけ笑み、目は真剣そのものになる。

 

「これは俺の主の信条なんだけどね。聞いてもらえるかな?」

 

「ええ、いいわ」

 

 すると一刀は拳を華琳に向かって構える。

 

「私は欲するものがあれば必ず手に入れる。欲するものがあらば力を示す。これは俺の主の信条であり俺の目標でもある。曹操、君ならこの言葉どう思う?」

 

 華琳は一刀の言葉を聞くと一瞬目を見開き、そして大きく笑い始めた。

 

「くっ、……アハハハハハハ!! そうね、まさにその通りだわ!! いいわね、貴方の主とは気が合いそうだわ!! もっとも戦場で出逢えば厄介極まりない相手になりそうだけれど」

 

「それで、曹操、答えはどうする?」

 

「これ以上は無用ね。次は戦場で語り合うだけよ。そして北郷一刀、貴方はこの曹孟徳が必ず手に入れてみせるわ」

 

 それだけ言い終えると華琳は天幕から出ようとする。すると一刀は静止の意味も込めて華琳に語りかけた。

 

「じゃあ俺も曹操に、……我が主に見習ってひとつ言葉を掲げよう」

 

「何かしら?」

 

 一刀は華琳の方角に向かって手を伸ばして高らかとは言わないがそれでも華琳には真っ直ぐに響くよう宣言する。

 

「曹孟徳が我が身を欲するように、北郷一刀もまた曹孟徳の身を欲する。だから、君を必ず手に入れてみせよう」

 

 華琳は言葉を聞くと獰猛に笑う。そして背中越しに一刀に語りかける。

 

「……私の真名は華琳よ。これは貴方の次の主となる者の真名。北郷一刀、貴方の真名を問うていいかしら?」

 

 一刀はこの言葉を聞き華琳とは真逆に優しく笑う。背中越しに主の背から受け継ぎし覇気を携えて。

 

「俺の生まれた場所には真名という習慣がなくてね。しいて言えば一刀が俺の真名にあたる」

 

「……そう、ではまた会いましょう一刀」

 

「……ああ、次は戦で語ろう、華琳」

 

 そして華琳は人知れずまた獰猛に笑う。

 

(一刀、貴方の内に潜む覇気、しかと見せてもらったわ。あれなら春蘭が気を取られても仕方が無いわ。……でも、私に似ていてどこまでも対極を感じさせる覇気だったわね)

 

 こうして二人の王の競争は始まった。

 この後、一刀の身を案じて密かに天幕の外に待機していた星に一刀の華琳に対しての告白紛いの宣言を聞かれ、それについてネチネチと攻められるのはお約束なので割愛とさせて頂きます。

 

~続く~

プチアンケートにご協力していただけると助かります。

 

拠点的なもの、誰がいい?

 

 

 

 

 

 

 

張三姉妹

 

こうやって見ると真名一文字の人ばっかだね。

 

あ、あと華雄な。

 

それと音々音。  ……べ、別に忘れてた訳じゃないんだからね!! 勘違いしないでよね!! 


 
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