こんな帰省があってもいいじゃないか(つд`)
「おーい、恋!こっちだこっち!」
「………いた」
『…新潟行は――』 『………東海道新幹線は―――』
今日は1月1日、いわゆる元旦だ。年の初めだというのに、東京駅は今日も人でごった返している。そこかしこの食事処や土産物屋には列ができ、味は知らないが、どこも人気があるのだということはわかる。
―――で、なぜ俺と恋がこんなところで待ち合わせをしているかというと、単純に言えば帰省である。
いや、もちろん実家は東京にあるのだが、転勤で引っ越した両親に会いに、これから山口へと向かうのだ。なぜ一緒に引っ越さなかったのかという疑問もあるだろうが、偏に、北郷流の跡継ぎ問題である。父さんは剣術とは離れて、別の仕事に就いた為に道場を継げる人間がおらず、その衣鉢が俺に回ってきた故に、こうして爺ちゃんたちと暮らしているわけだ。そして両親は仕事柄、あまり長期間向こうの家から離れることができないので、俺が毎年盆と正月に向こうへ帰っている。
話が逸れたな。というわけで、俺は東京駅に来ているのだが、今年は一つだけ例年と違うことがあった。それが―――。
「それと………あとこれとあれ」
「かしこまりましたー!」
「………相変わらずよく食べるな」
そう、今年は恋がいるということだ。
母さんと電話で帰省の話をしているときに、どういった流れからか彼女ができたという話になり(婆ちゃんから伝わったらしい)、どうせなら連れてこいということになった。
向こうの都合も考えないのか、という疑問も湧いてくるとは思うが、実のところ、それは問題ない。………そのことに関しては、今回は触れないがな。
そして年末に恋に、母さんからの誘いを伝えると、ぜひ行ってみたいと言い出したのである。
とまぁ、このようなわけで、俺たちは、東京駅で新幹線を待っているのであった。
「俺たちの席は自由席だから、前の方だな」
「…ん」
「ほら、恋、半分持つよ」
「ありがと…」
背中のバッグを背負い直すと、俺は恋の手に抱えられた大量の駅弁を半分受け取る。
頭上の案内表示にしたがってホームの端まで進み、1号車へと乗り込んだ。
さすが元旦なだけあって、並ぶ人もほとんどおらず、また、空いている席も多くみられた。俺は適当な座席を見繕うと、そこに弁当を置き、自分と恋の荷物を網棚の上へと乗せた。次に座席の上の弁当を足元へ下して恋を促し、ようやく席につくことができた。
「いつも思うんだけど、よくそれだけ食べられるなぁ」
「………美味しいから、いくらでも入る」
「…そうだな」
俺たちの足元には、軽く二十は超えているであろう、種々様々な弁当が積まれている。学校では大量の昼ごはんを用意してきているし、デートに行った時も、たいていは食べ物屋で時間を過ごしている。過食症か?と思った時もあったが、ちゃんと抑えるときは弁えているし、食べないからといって空腹以外の症状が出るわけでもないので、そのあたりは気にしていない。
さて、新幹線も発車したし、そろそろ弁当を食べようかな。そんな風に足元の弁当の一つに手を伸ばすと、恋が俺の手を取った。
「…?」
「まだ、ダメ」
まさか、あの恋が食事を止めるとは………。普段の恋を知っている俺からすれば、かなり予想外の言葉が恋の口から発せられたため、驚きにより言葉が出なかった。
「ダメ。…品川と、新横浜を過ぎてから」
「なんで?」
「…ドアが開いたり閉まったりで、落ち着いてたべられない。『のぞみ』でお弁当を食べる時は、長い間、止まらないとき」
「…そういうルールでもあるの?」
「ん…。テレビの駅弁特集で言ってた」
「へぇ………そんな作法があるのか。知らなかったよ。…じゃぁ、弁当は新横浜を過ぎてからだな」
「ん」
新幹線が新横浜を過ぎて、5分くらい経ったころ、俺たちはようやっと弁当にありついた。俺は恋の大量の弁当の中から牛めし弁当と煮穴子弁当をもらうと、同じく足元に置いていたお茶のペットボトルを手に取り、1本を恋に渡してやる。
「じゃぁ、食うか」
「…ん、いただきます」
俺は2つの弁当をゆっくりと味わいながら、窓際に座った恋を見る。恋は積み上げられた弁当の山の1番上から順に空にしているところであった。幸せそうな恋の顔に満足しつつ、弁当に舌鼓を打つ。そうして静岡を過ぎるころには、俺たちの足元には空の弁当箱の山が出来上がっているのであった。
「……………zzz」
弁当に満足したのか、恋は俺の肩に寄りかかって眠り始めた。
「ふぁ…」
俺も眠いな。少し寝るか………。
こうして俺は、新幹線の揺れと恋の温もりに包まれて、夢の世界へと旅立つのであった。
「………ここどこ?」
「…………………………………博多」
「………明太子、とんこつラーメン、とおりもん…………(ジュルリ)」
恋は、さっそく博多というキーワードから連想しうる名物に、涎を垂らしそうになる。
恋、君はそのままでいいんだよ。
いけなかったのは―――
「…………………寝過ごした」
―――俺だった。
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年末から年始にかけて、作者の身に起きた実話orz
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