――正史
「一刀の具合はどうだ?」
「明日には退院できるって。外史でナノマシン治療薬を打ったらしくて……いやぁ、技術は進歩したね」
そういうオタコンはずいぶんと心配顔だった。一刀のことも心配だが、彼のその顔はもっと違う不安だった。
「大丈夫か、オタコン?」
「心配してくれてありがとう、雷電。まさかHydraにあんな弱点があったなんてね」
「攻撃時には攻撃に、防御時は防御に、そして移動には移動に専念しなければならない。行動の並列が二本のアームでは足りない……か」
「加えてPMC側の強化外骨格の性能だよ。ブースターを積むなんて爆弾を背負って戦っているようなもんだ」
オタコンの言葉に雷電がビック・シェル事件のことを思い出す。
あの時の雷電もまだ若かった。そして……「彼」も存命であった。
(スネーク、あんたの戦いはまだ終わってなかった。だが俺達が終わらせる。だから一刀に力を貸してやってくれ)
十四話・外 強化 ~Odd-eye~
……時間は少し戻る。
――蜀
――白帝城
蜀の白帝城にはケインとジェームスの姿があった。
正史の軍勢を一端は撤退させたものの、撤退したと言うことはもう一度攻めてくるのがわかりきっていた。その対策を話し合おうとした矢先、一刀の重傷が知られた。
ケインとジェームスは愛紗に連れられ一刀の私室に通されるところだった。
「愛紗ちゃん、一刀の様子はどうだ?」
「落ち着いておられます。私がもっとしっかりしていれば……」
そういって愛紗は拳を握り締め、歯を噛み締める。
「あいつも戦士だ。戦場に出ている以上負傷はする。あまり自分を責めるな」
「しかし……」
「旦那の言うとおりだぜ、愛紗ちゃん。あいつも君のそんな顔は見たくないはずだ」
「大丈夫です。顔なら見られませんから……」
愛紗の不思議な言葉に、ジェームスもケインも引っかかったが一刀の私室についたのでひとまず置いておくことにした。
「ご主人様、お二人がこられました」
「ありがとう、愛紗。通してくれ」
意外にはっきりしている声。愛紗が開けた一刀の私室では紫苑と桃香、そして寝台に横たわる一刀がみえた。
しかし一刀は体だけでなく両目にも包帯を巻いていた。先程の愛紗の言葉に合点がいった。
「二人とも、FOXDIEの予防薬は打ったか?」
「ああ……」
今はFOXDIEという問題ではない。たしかに遺伝子情報を読み取って特定の人物を殺害するウイルスであるFOXDIEも問題だ。
だがジェームスは言い出しづらかったが一刀の目が気になった。場合によっては、戦士として戦力として最悪のパターンにもなりうるのだ。
「……目をやられたのか?」
「いや……」
ケインの問いかけに一刀が包帯を解いた。
左目は正常であったが問題は右目だ。本来白である部分が赤く染まっているのだ。
「バーサーカーか?」
「おそらくバーサーカーが解除されると私は死ぬだろうな。本能的に生存能力を高めているらしい」
そういうと一刀は再び包帯を巻き始める。よっぽど見られるのが嫌なのだろう。
「私は治療も兼ねて正史に戻ろうと思う。Hydraも中破しているのでな」
「誰にやられた?」
ケインが低い……桃香と紫苑が恐怖を覚えるほどの低い声で呟いた。
「リンクス。本人はPMCUの首領と言っていた。ホバーとブースターを装備した強化外骨格を使用し片手が義手でグレネードを内蔵している」
強かった。一刀はそう付け加えた。
そもそも一刀の強化外骨格Hydraは推進装置が一切搭載されていない。対してリンクスの強化外骨格は、空中に飛びたてるほどの大出力を叩き出すブースターを装備していた。
強化外骨格の性能が違いすぎた。
「一度戦ったことがある。奴め、腕一本だけでなく両足ももいでおくべきだったか」
ケインが苦虫を噛んだ。
「何時だ?」
「私がまだ米軍にいた頃、中国内陸部で戦った。奴もPMCではなくロシアに所属していたが……」
「どういうわけか、PMCUのお頭になっていると……」
リンクスが求めるモノがPMCと関係しているのか。それとも彼の思想が変わったのか。真相はわからないが、国軍からPMCへの鞍替えも珍しい訳ではない。ヘッドハンティングもある。
「そうだ一刀、呉にはエンド・スネークが来たぜ。一応、空は手前だけものんじゃねえと因縁は付けておいたが」
「そうか、何れ決着をつけないとな……。ジェームス、マグナもいた。どうやらしぶとく正史に帰還したらしい。もっとも人の形を留めてはいなかったがな」
「はっ、化け物退治(モンスターハンター)ならもう慣れた。今度こそ引導を渡してやるよ」
ジェームスの一言に三人の御遣いは覚悟を決めた。
――決戦の時は近い。
――正史
――無縁墓地
退院した一刀の右目には眼帯が巻かれていた。説明を受けたがどうやら赤い眼は治ることがないらしい。
戒めとして何よりも英雄にどこか近づける気がして、比較的眼帯は抵抗なく受け入れることができた。ある意味でファッション的なセンスだった。この眼帯を見て蜀のみんなは何というか、何より春蘭が何を言うか不安でもあり楽しみでもあった。
オオアマナの花を携え、通い慣れた道、見慣れた風景を歩いていたその時だった。エンドの時と同じく目的の墓に誰かが佇んでいる。もう老人であったが、どこかその表情は優しげで、そして懐かしさに溢れていた。
「貴方は……ロイ・キャンベル大佐!?」
Roy・Campbell/Chicken・Fox
CV:青野武
老人の顔を確認した一刀は敬礼する。彼もまた蛇の一族に関わった……一刀に言わせてみれば生ける伝説であった。
「大佐は止してくれ。今の私はただの老いぼれだよ」
「いえ、そんなことはありません!私は……」
そこまで聞くとキャンベルは静かに笑い始めた。
「君はスネークと違ってずいぶん生真面目だ。日本人的と言ってもいい。やはりジョセフに託して正解だった」
久しく聞いた名前。ジョセフはケインの父親の名前だ。
国連で出会ったと聞いていたが彼らの会話でお互いの名前が出てくるのは初めての気がしていた。
「だがそっくりだ。その眼帯、風貌、そして何よりも眼」
「眼……ですか?」
「そうだ、彼も……若いときのBIGBOSSもそんな眼をしていた。何かを見通し、遠くを見て、しかし達観して……」
キャンベルはそういってBIGBOSSが眠っている墓を懐かしそうに見つめた。そしてその横に佇んでいるソリッド・スネークの墓を見つけた。
「しかし決定的に違うものがある。君の目には……希望が見える。未来と言ってもいい」
「未来」
「だが私たち年寄りは君たちに戦争という負の遺産を残してしまった。未来を縛ってしまった」
「……」
一刀は無言しか返せなかった。彼の背負ってきたものは計り知れず、知るに及ばず。たくさんの死体と惨劇を観てきたはずだ。自分より多くの苦労も重ねている。
だからこそ一刀は聞きたくなった。今の自分がどうなのか。
「私は……私は彼らに胸を張れるでしょうか?」
「どうしてかね?」
「私は彼らが誇りに思ってくれるように成長できたでしょうか……」
「ジュニア、大人になるということは自分で生き方を決めることだ。君は立派に育った。そして生き方を決めている。スネークもきっと喜んでいるよ」
「……はい」
今度は言葉を返せた。彼らはもういない。彼らの意志も言葉も人伝いでしか感じることができない。
だからこそキャンベルの言葉は貴重で嬉しかった。
「そうだ、ジュニア。君が一人前になったときに渡すように言われたものがある。そう、デイビット(※)からだ」
・・・
・・
・
連れてこられたのはとあるオフィスの一角であった。
「ここはフィランソロピーの本部があった場所だ」
「現在は?」
「入ってみればわかるさ」
そういってキャンベルは一刀に鍵を手渡した。
中にあるものは自分で確認しろということか。その鍵を受け取った一刀は静かにオフィスに入っていった。
その背中を見つめていたキャンベルは虚空に向かって呟いた。
「デイビット、君の息子は立派に育ったよ」
おまけ:注釈
※デイビット:ソリッド・スネークのファーストネーム。
おまけ:次回予告
――貴様は英雄とは何かを理解していない。
――俺は笑えるんだよ……
――陽はまた昇る……
最終話 蒼天の向こうへ
蒼空の向こうに見えるのは、宇宙。
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この作品について
・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。http://www.tinami.com/view/99622
執筆について。
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