No.187609

真・恋姫†無双〜虚像の外史☆三国志演義〜(魏編)

アインさん

前回のお話
北郷一刀を殺すことにしか興味が無い曹仁。
司馬懿はそれを考慮して、北郷殺し作戦に出る。

2010-12-02 20:28:07 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:2024   閲覧ユーザー数:1832

復讐

 

彼はただ、復讐をしたかっただけだ

 

それ以外に全く興味がない

 

友情も

 

信頼も

 

愛さえも……

第二話

 

『求める価値』

 ――あきらかに天幕の外に殺気を持つ者が潜んでいる。

 だがその者は、北郷一刀が一人きりになるのを待っているかのような様子だった。

「………ご主人様?」

 傍に居る董卓が話しかけてきた。

 ――『董卓』。かつては洛陽の太守であった彼女だが、色々あって今は真名の『月』を名乗り、北郷の侍女として、身の回りの世話をしている。

「……月。ちょっと外してくれるかな? 外で『客人』が待っているみたいなんだ」

「……え? ……あっ、すいません。すぐに外しますっ!」

 董卓は言葉の意味を理解したかのように、あわてて、外に出る。

 それをちゃんと確認すると北郷一刀は振り向いてこう言った。

「出てきなよ。これでしばらくは誰も邪魔は来ないよ。曹仁」

 天幕のすき間が揺れ、表情の硬い青年が、夜風のように、ふっと姿を現す。

「………」

 曹仁は”わかっていて、助けを呼ばないということは死ぬことを覚悟しているからか?”と尋ねると、北郷一刀は腰を下ろして首を横に振った。

「そうじゃないさ。ただ、俺達の問題に月を巻き込みたくなかっただけさ」

 北郷一刀は、あっけらかんな声で言った。

「………」

 曹仁は、腰に差している剣を抜き、北郷一刀の前に立った。

「命ならくれてやる。でも、これで最後にしろ曹仁」

 曹仁は、フッと笑みを浮かべた。

「俺の名にかけて約束しよう。貴様で『最後』にすることをな」

 ――がしゃんと皿が割れる音がした。

 お茶が入ったコップを地面に落とした董卓が、目を見開いて、ガクガクと震えている。

 その震えた唇は、舌を動かし、破裂するかのような悲鳴を上げようとして……。

「……運がいいな。北郷一刀」

 曹仁は剣を鞘に入れると同時に、董卓に向けて振り上げた。

「おいッ! 相手が違うだろ」

 ダッと駆け出した北郷一刀が、曹仁を突き飛ばす。

「逃げろ。月ッ!」

「……ご主人様!」

 董卓は動かない。いや……震えで動けない。

「………北郷ぉぉぉ――――っ!」

 北郷が董卓をかばったことが、シャクに触ったのか曹仁の目が、かっと見開かれた。

 ………時間が止まった。

 北郷の全身の力が抜けていく。

 董卓は泣きながら、天幕を飛び出す。

 曹仁は、そのまま、北郷の髪を掴み、引きずりながら天幕を出て行く。

 そして、その始終を見ていた兵士が笑みを浮かべ。

「計画通りだな」

 と、闇に消えた。

「……ということなのです」

 諸葛亮は『天下三分の計』の説明を終えて、コホンと咳払いをした。

「ね? いい案でしょ。司馬懿さん」

 劉備は嬉しそうに尋ねると、司馬懿はふぁあとあくびをする。

「つまり~、三人で仲良く、この国の平和を守っていこうということですね――?」

「そう!」

 劉備の瞳が輝く。

(本当……胸以外は出来損ないだなぁ……)

 そんな劉備の姿に護衛として来た兵士は辺りに気付かれないようにため息をつく。

「私も早く戦争を終わらせたいので良い案だと思います~」

「本当ですか!? 嬉しいです司馬懿さん」

 劉備は、心から満面の笑顔を見せた。

「でも、正直ど――でもいいですよぉ~。『天下三分の計』で平和になろうと大陸統一で平和になろうと空は……」

「えっ……?」

「だって、曹仁さんは北郷さんを殺すためだけに戦争してるんですから~。北郷さんが死ねばこんな戦い明日にでも終わりますよ~?」

 その瞬間、すべてが凍った。

「貴様っ! ご主人様の命を渡せだと!」

 関羽が司馬懿ににじりよる。

「良いではないか」

 趙雲がフッと冷たく笑い、腕を組んだ。

「それが理由なら存分に魏軍を倒す口実になる」

「そうですね~……出来ればのお話ですけど~」

「何?」

 天幕の外から、泣き声と足音が響いた。

 董卓が、ばっと劉備の胸のなかに飛び込む。

「どうしたの? 月ちゃん」

「私のせい。私のせいで……」

 董卓は劉備の胸のなかで泣き崩れた。

 諸葛亮は、気がついた。

「卑怯者……」

 普段はおとなしい諸葛亮からは、考えられない『重い声』。

「卑怯者ですか―……先に華琳様を裏切ったのは貴方達なのに~」

 一本の矢が司馬懿の頬をかすめた。

「……黄忠か」

 さすがの司馬懿も、その殺気あるれる矢に、頬を引きつらせる。

「次は外さないわよ?」

 兵士が司馬懿の盾となり、右手に二羽の白いハトを見せる。

「ハトを飛ばすぞ黄忠殿。それを合図に、わが陣にいる北郷が死んでもいいのか?」

「……射ち落してあげる。白いハトは夜闇には目立つ。ハトが届かなければ、あなたの知らせは届かない」

 黄忠が、冷たく微笑む。

「残念だがそれは無理だ。なぜなら『時間通りにハトが届かなかった場合、北郷を殺す』という命令にしている………すなわちハトが届かなかった場合は、どうなるかな?」

「………っ!」

 二羽のうち一羽が空へと飛び舞い上がる。

「さて……帰りの船を用意してください。劉備さん―」

 司馬懿は微笑んだ。


 
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