真・恋姫†無双~赤龍伝~第15話「修行編 マンハント」
その日、祭さんと穏の部隊と共に郊外の森まで来た。
赤斗「これから何が始まるんですか?」
祭「対工作員の訓練じゃ」
穏「工作員役の明命ちゃんを捕獲する訓練なんですぅ」
赤斗「へぇ~、工作員って明命なんですか? ……けど、かなり兵隊さんがいますね。相手は明命一人なんですよね?」
祭「甘い。甘いぞ赤斗。明命は呉が誇る最高の工作員じゃぞ」
穏「そうですよ~。前回は明命ちゃん一人に全滅させられたんですからね~」
赤斗「えっ! 明命ってそんなに凄いんだ……」
祭「お主にも良い経験になるぞ。一度よく見ておくと良い」
赤斗「分かりました」
思っていた以上に大変な事になりそうだった。
ドサッ
また一人兵隊が倒された。
これで何人目だろうか?
祭さんと穏とは別れて、部隊を三つに分け捜索を始めていたが、兵隊の数は減る一方だった。
明命一人に少なくとも、すでに10人は倒されているだろう。
そして、倒された兵隊の顔には墨で落書きがされていた。
一人目は『一番にやられました。てへっ』
二人目は『先走っちゃいました』
三人目は『考えなし』
他にも色々と恥ずかしい内容が顔に書かれていたのである。
祭さんによると、墨はしばらく洗っても取れない特性の墨との事。
祭「落書きされた顔で町を通り、城まで戻らねばならんのだぞ? しかも仲間に負けてだ。その墨が消えるまでの数日間の屈辱は、おぬしが想像する以上のものだと思え」
祭さんの言葉を思い出して、震えがでた。
赤斗(僕の顔には何て書かれるんだろ?)
ドサッ
そんな事を考えているうちに、兵隊がまた一人倒された。
赤斗「このままじゃ、本当に全滅させられるな。皆、密集体系をとって他の部隊と合流しよう」
残っていた兵隊六人と一緒に、祭さんたちと合流する為、密集体系で歩き出した。
しばらくして森の入り口に戻ってみると、そこには穏がいた。
穏「あっ! 赤斗さん」
赤斗「穏一人?」
穏「はい、残りの人は皆やられてしまいました」
赤斗「こっちは来る途中で四人やられた」
ガサガサ
祭「くっ、穏、赤斗、お前達四人だけか」
木々の中から、音を出して祭さんが現れた。
穏「祭様っ! 他の皆さんは?」
祭「儂の所も儂を残して全滅じゃ、途中腹を括って、仕掛けたんじゃが、遮蔽物が多い上、明命がすばしっこくてな、最後には矢が尽きてしまった」
これで残っているのは、僕と祭さん、穏と兵隊二人だけになってしまった。
穏「いったいどうしたらいいんですか~?」
赤斗「落ち着いて穏。一旦作戦を考え直そう」
ドサッ
ドサッ
音のした方に振り向くと、残っていた兵隊が二人とも倒れていた。
穏に話しかけていた一瞬の間に倒され、きちんと顔に落書きもされていた。
祭「これで残るは儂たち三人だけか……」
赤斗「ここは兎に角、作戦を考え直さなきゃ。穏! 落ち着いた? 何かいい作戦を考えよう」
穏「………」
穏からの返事はなかった。
恐る恐る振り返る。
そこにはいつの間にか倒されていた穏がいた。
赤斗「穏っ!……酷いな、これ」
穏に駆け寄った。穏は顔ではなく、その大きな胸元に『存在価値は巨乳のみ』と書かれていた。
そして、
ドサッ
穏に気を取られている隙に、祭さんも倒されてしまった。
同じく大きな胸元には『乳に栄養が行きすぎ』と書かれていた。
赤斗「明命って、巨乳を敵視しているのか?」
赤斗「本当に明命一人に全滅させられちゃったな。どうする?」
大きな木を背にして、緊張で荒くなっていた息を整える。
赤斗「はぁー。こうなったらやる事は一つしかないか」
残るは自分一人。
一人で明命を見つけて捕まえる。そんな作戦とは言えない作戦しか思いつかなかった。
赤斗「“月空”」
気を自分の周りに張り巡らせレーダーの役割をする奥義“月空”を発動させる。
今の赤斗では最大範囲は半径5メートルが限界だったが、たとえ明命が気配を消していようとも、月空の領域に入ればすぐに分かる。
赤斗(……近くには…いない?……どこからか、こっちの様子を伺っているのか?)
赤斗から10メートルほど離れた茂みから、明命は赤斗の様子を伺っていた。
明命(今のは? ……今の違和感は何だったのでしょうか?)
先ほどまで明命は、赤斗を仕留めるには十分の近さの距離にいた。しかし、直感的に月空の発動を察知して、素早く月空の範囲の外まで逃げていたのである。
明命(恐らく先ほどの違和感は、赤斗様が気で作った罠。……ならば、気が薄い所から仕掛ければ)
そう思い、月空の力が弱い所を探し出し始めた。赤斗の月空に掛からないように慎重に。
明命(ここです! ……ここが一番違和感を感じません)
暫くして、とうとう明命は月空の力が弱い所を見つけた。
そこは赤斗にとって真後ろ。背を任せている大きな木の背後だった。
明命(恐らく木に背中を任せて油断しましたね。これで終わりです)
すぐ様、明命は赤斗が寄りかかっている木の背後に音も無く駆け寄り、木の背後から赤斗の左首筋に手刀を放った。
明命の手刀は、赤斗の見事首筋に命中した。
手刀が命中して赤斗はそのまま倒れる。
いや、倒れるはずだった。
手刀が命中したと同時に、赤斗の手が伸びた。
明命「……えっ?」
赤斗「“山葛”」
伸びた手が明命の胸ぐらを掴む。そして、明命は柔道の背負い投げや一本背負いのような形で投げられた。
投げられた明命は、そのまま赤斗に押し倒され、二人の身体は重なった状態になった。
赤斗「痛っっ……明命、捕まえた」
明命「せっ、赤斗様。どうして?」
赤斗「一撃なら、何とか耐えられると思ったけど……効いたなぁ」
明命の手刀が命中する瞬間、赤斗は“月空”から“龍鱗”に切り替えていた。
“龍鱗”は気を自分の身体に密集させて防御力を上げる奥義。
確かに、赤斗の背後は月空の力は弱かったが、だからこそ背後から明命は仕掛けてくると確信していた。
力が弱いとはいえ、月空の領域に入れば、攻撃が来る瞬間が分かる。その瞬間を逃さずに龍鱗を発動させる。
攻撃を受ける覚悟と、龍鱗による防御力。その二つのお蔭で、明命の手刀に耐えて投げ技“山葛”に移る事ができたのである。
赤斗「明命なら、きっとこうすると思ってね♪ これで、僕の勝ちだよね?」
明命「はい……私の負けです」
首筋の痛みも引いてから祭さんや穏たちの所に戻る。
祭「おっ、戻ってきたようじゃな」
穏「明命ちゃんを捕まえたんですか~。さすがですねぇ~」
祭「どうじゃった。良い修行になったじゃろ?」
赤斗「へっ? ………修行?」
祭「何を間の抜けた声を出しておる。修行じゃ、お主の奥義の修行!」
赤斗「まさか、奥義の修行の為に僕を連れて来たんですか?」
祭「何じゃ、気づいておらんかったのか」
確かに今回の対工作員の訓練は、“月空”の修行に打って付けであった。
祭「それとな……」
赤斗「……?」
祭「今回、明命を捕まえられるか堅殿と賭けていてな。儂はお主が明命を捕まえる方に賭けたのじゃ。いやぁー、良くやった♪」
とても嬉しそうに祭さんは笑いながら、背中を叩いてきた。
赤斗「痛っ、そんな賭けをしてたんですか」
何を賭けていたかは、聞かなかった。火蓮さんと祭さんの事だ、きっと酒に関する事だというのは簡単に想像できた。
明命「……あの、赤斗様」
赤斗「明命、どうしたの?」
明命「これを……」
そう言って明命は、筆と墨を赤斗に差し出した。
明命「どうぞ、これで何なりとお書きください」
赤斗「お書きくださいと言われてもなぁ。……祭さん、穏どうしたらいい?」
祭「遠慮なく書けばよい。負けたのだから当然じゃ」
穏「そうですよ~、私たちもこんな酷い事を書かれたんですから~」
祭さんと穏が胸元に書かれた落書きを見せて言う。
赤斗「う~ん………」
祭「何をしておる。早く『 発育不足 』でも『胸に栄養無さすぎ』とでも書いてやれ」
赤斗「そんな事を書いたら、後が大変そうだから止めておきます」
赤斗(祭さん、書かれた落書きの内容を根に持っているな………)
明命「どうぞ遠慮なく」
赤斗の前に明命が顔を突き出してきた。
赤斗「はぁー。仕方がない」
筆と墨を受け取った。
赤斗「別に顔でなくても良いでしょう?」
祭「かまわんぞ。儂も穏も顔ではないからな」
赤斗「……ならば」
そう言って、明命の右腕に書き込んだ。
『ありがとう』と。
明命「これは……」
不思議な顔で右腕を見つめる明命。
祭「……何じゃ、それは?」
不満そうに尋ねる祭さん。
赤斗「いやぁー。やっぱり悪口は書けないですから……だから、今回の修行に付き合ってくれたお礼を」
祭「はぁーー。甘すぎるぞ」
穏「そうですよ~。赤斗さんは明命ちゃんに甘すぎです~」
赤斗「いいじゃないですか。結構、恥ずかしいと思いますよ。腕に大きく『ありがとう』って書かれてあるのは」
祭「はぁ~。……勝者が決めた事なら仕方がない、か……」
穏「そうですね~」
祭「さて、城に帰るとするか」
穏「あまり、気が進みませんけどねぇ~。はぁー」
皆、落書きされた顔で町を通り、城まで戻らねばならない事を思い出して一斉に溜息をついた。
ただ一人、祭さんは火蓮さんとの賭けに勝ったからか? 皆と違って笑顔だった。
赤斗「明命、どうした?」
帰途の準備を始めた中、まだ明命は自分の腕を見つめていた。
明命「いえ、何でもありません。すぐ準備をしますね♪」
落書きをされたのに笑顔で明命は帰途の準備を始めた。
赤斗には何故だか分からず、そのまま皆と一緒に帰途についた。
つづく
~あとがき~
呂です。読んでくださって、ありがとうございます。
真・恋姫†無双~赤龍伝~に出てくるオリジナルキャラクターの紹介
オリジナルキャラクター①『風見赤斗』
姓 :風見(かざみ)
名 :赤斗(せきと)
字 :なし
真名:なし
武器:武器:花天と月影……二振りの日本刀(小太刀)。赤色の柄で赤銅の鞘に納まっているのが“花天”で、黒色の柄で黒塗りの鞘に納まっているのが“月影”。
本編主人公の少年。
この外史では“北郷一刀”が主人公ではありません。
火蓮によって保護され“江東の赤龍”という異名を付けられる。
古武術を学んでおり、その奥義を使えば恋姫の世界の武将とも闘えることができる。
学んでいる流派には、『全ての奥義を極めしとき、その身に龍の力が宿る。』という伝承がある。
奥義には“疾風”“浮葉”“流水”“月空”“烈火”“絶影”“龍鱗”“狂神”などがある。
今回は奥義“龍鱗”と秘技“山葛(やまかずら)”を使用。
“龍鱗”気を自分の身体に密集させて防御力を上げる奥義。
“山葛”柔道の一本背負いや背負い投げに近い形の変則の投げ技。
能力値:統率?・武力4・知力4・政治?・魅力?
オリジナルキャラクター②『孫堅』
姓 :孫
名 :堅
字 :文台
真名:火蓮(かれん)
武器:南海覇王……やや長めの刀身を持つ、両刃の直刀。派手な装飾はないものの、孫家伝統の宝刀。
孫策(雪蓮)たちの母親。
身長173㌢。腰まで伸びる燃えるような赤い髪の持ち主。
血を見ると雪蓮以上に興奮してしまう。
この外史“赤龍伝”では孫堅は死んでいない。
能力値:統率5・武力5・知力3・政治4・魅力5
オリジナルキャラクター③『諸葛瑾』
姓 :諸葛
名 :瑾
字 :子瑜
真名:藍里(あいり)
武器:不明
諸葛亮(朱里)の姉。
諸葛亮(朱里)とは違い、長身で胸も大きい女性。髪は金髪でポニーテール。
温厚で気配りのできる性格で、面倒見も良い。赤斗の世話役として補佐につく。
一時は、自分たちとは違う考え方や知識を持つ赤斗に恐怖心を持っていた。
政治、軍事、外交と様々な仕事をこなすが、朱里には僅かに及ばない。
能力値:統率3・武力1・知力4・政治4・魅力4
※能力値は「5」が最高だが、呂布の武力と劉備の魅力は「6」で規格外。
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この作品は、基本的に呉√にそっては行きますが、主人公も含めてオリジナルキャラクターが出てきます。
未熟なため文章におかしな部分が多々あるとは思いますが、長い目で見てくださると助かります。