No.183391

一刀の記憶喪失物語~袁家√PART13~

戯言使いさん

さて、今回はこのたびの戦の真相についての説明回と、PART11の七乃の台詞の伏線回収です。

2010-11-08 19:22:51 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8106   閲覧ユーザー数:6023

 

 

 

 

「それじゃあ、これより蜀と呉の同盟についての話し合いを始めたいと思います」

 

 

朱里の声が玉座の間に響く。

 

玉座の間にはテーブルと椅子が並んでおり、蜀の王、劉備と主な武将たちが椅子に座り、その対面には雪蓮を始め、蓮華、冥琳などが座っている。しかし相変わらず、一つの空席が気になる。

 

呉蜀同盟の初会議、これからどうするかを考え、そして具体的にどうするかを話し合う場である。

ただ話し合う、と言っても、魏と戦争する以外には特に話合う議案はなく、半分は親交を深めるお茶会のようなものだった。

 

 

一刀は同盟の立役者として参加しており、隣には斗詩、七乃、猪々子が並んで座っている。

 

 

「あわわ、まず、どうして同盟を組んだかについて、確認と説明を兼ねて、私が言わせていただきます」

 

 

雛里が立ちがると、こほん、と可愛らしく咳をした。

 

 

「まず、呉の斥候の情報からすると、魏は明らかに過ぎた軍事力を所持しており、その兵力は前の戦乱時代にも勝らずとも劣らず、つまり戦争の準備をしていると思われます。その為、私たちは同盟を組み、再び魏と戦争をすることになりました。まずここで質問はありますか?」

 

 

雛里がきょろきょろ、と見渡す。

 

 

「はい」

 

 

そして意外にも手を挙げたのは猪々子だった。さきほどからお菓子ばかり食べていて話を聞いていないと思っていたのだが、意外としっかりしていた。

 

 

「そもそも、どうして魏は戦争するんだ?」

 

 

「・・・・・・えっと・・・・・」

 

 

「だって、今は取りあえず天下三分の計のお陰で、大きな戦がなかったのに、どうしてまた戦争なんてするんだ?」

 

 

「・・・・・はぁ」

 

 

一刀はため息をついた。

 

そしてついでに呉と蜀の武将たちを見渡して、聞いてみる。

 

 

「この中で、魏が戦争する理由が分からね―奴、手を挙げろ」

 

 

シーン、誰も手を挙げない。

 

本当に全員分かっているのか、それとも馬鹿だと思われたくないために、無理を通しているのか分からないが、誰も手を挙げなかった。

 

 

「斗詩。説明しろ」

 

 

「えっとですね・・・・・」

 

 

「お前、手を挙げなかったよな?もしこれで答えられなかったら、お仕置きでお尻ペンペンな」

 

 

「お尻ペンペン・・・・(ドキドキ)」

 

 

「そこ、変に興奮するな」

 

 

「はい」

 

 

蓮華が勢いよく手を挙げた。

 

 

「おぅ、蓮華。さすが王だな、代わりの説明頼む」

 

 

「・・・・・分らないわ」

 

 

「何故手を挙げた!?」

 

 

「お尻ペンペン・・・・して?」

 

 

「お前にはしねーよ!ただでさえでけぇ尻が更にでかくなるだろーが!」

 

 

「一刀様」

 

 

「あぁん?何だ詠」

 

 

「ちょっと下着を代えてきても・・・・」

 

 

「てめぇは黙ってろ!お尻ペンペンでぐらいで興奮するんじゃねーよ!今度からおむつでも履いてろ!」

 

 

「へぅ・・・・一刀様」

 

 

「今度は月か。何だ」

 

 

「私はすでにおむつですが、どうしたらいいですか?」

 

 

「しらねーよ!勝手にしろ!」

 

 

 

あはは、と玉座の間に笑いが起きる。何故、どうしてこんなことで笑いが起きるのかは分からないが、とりあえずいい具合に緊張がほぐれていた。

 

 

 

 

 

 

 

一刀ははぁ、とため息をつくと、皆に確認の意味を込めて、斗詩に質問した。

 

 

「斗詩。まずどうして魏が軍事力を拡大したと思う?」

 

 

「それは・・・・もう一度戦争するためじゃないですか?」

 

 

「あぁ。そうだ。じゃあ、どうしてもう一度戦争しようとしてるか分かるか?」

 

 

「??自分一人で大陸を納めたいから?」

 

 

「そうだな。それじゃあ、どうして一人で納めたいって思うんだ?」

 

 

「えっと・・・・・・よく分かりません」

 

 

「それはですねー、曹操さんの性格によるものなんですよー」

 

 

今度は七乃がバトンタッチで後を引き継いた。仮にも袁家の看板武将。知略に関しては呉蜀の軍師にも劣らない。

 

 

「どうしてもう一度戦争をするか、それは早い話、不完全燃焼ってことですー」

 

 

「はぁ・・・・」

 

 

 

 

「曹操さんは、話に聞く限り、かなりのプライドのある人ですからね。そんでもって、覇王としての資質あり。その曹操さんがようやく三国の王たちと戦えるって時に、余計な邪魔が入ってしまい、結局楽しみにしていた蜀と呉との戦争ができませんでしたー。

 

それだけでもとてもご立腹なのに、次に桃香さんが出した天下三分の計。

結局戦わず、勝敗も分からない状態なのに、敵が出した法案で仲良くしましょーって言うのは、曹操さんにとってはかなりの屈辱だったと思うんです。もし、戦争で負けていたのならば、受け入れていたかもしれませんが、負けてもないのに、相手に従う、そんな敗戦国みたいな扱いされたら、そりゃあ、プライドが傷付きますよー」

 

 

 

「・・・・そう言えば、最初から呉と蜀は天下二分の計、もしくは天下三分の計を目的として戦争していましたね。でも、魏にとっては相手を打ち滅ぼし、そして自国のみで大陸を治めるために戦争をしていた。確かに、戦ってもないのに、相手に従うのは屈辱ですね」

 

 

 

「はいー。でも、従うしかなかった。なぜならー、邪魔もののせいで、勢力はボロボロ。それでも戦争したがっていた曹操さんを、軍師が総出で説得。まさに、仕方がなく、同意したんです。これは本当に、屈辱でしょうねー」

 

 

 

「・・・・ですが、思うんです。もし本気で魏が大陸の平和を願っているのならば、自分の理想とは違っても、大陸の平和を取ってもおかしくないと思います」

 

 

 

斗詩は思う。

 

確かに、曹操にとっては屈辱的。だが、そもそもこの騒動も、魏が軍事力拡大と言う行動を取らなければ、起きなかったはず。いや、それ以前に、魏が協力的でいたならば、きっと国同士のギスギスした関係もなく、民たちは安心して暮らしていたのではないか。つまり、曹操一人が我慢すれば、大陸は平和になっていた。

 

 

斗詩の言葉に、一刀は「はぁ・・・・お前、俺の話聞いていたか?」と珍しく少し怒っている。

 

 

 

 

 

「おそらく、魏も大陸の平和は本気で願ってるだろうな。けど、それに至るまでは違うんだ。

 

例えば蜀だ。

 

蜀は戦わず、何があっても戦わず、人はみんな優しい。いつかきっと分かってくれる。みんなを信頼したら、きっと信頼で返してくれる。そして、結局は誰も血を流さずに平和な大陸にしたい、つまり無血平和を望んでるってわけだ」

 

 

一刀が桃香を見ると、桃香は少し恥ずかしそうに俯いた。

 

 

「そうですね。以前までの桃香さんはそうでした」

 

 

「まぁ、名付けるなら、万人良人説。すべての人は良い人って思っている。まぁ、妄言だけどな」

 

 

「もぅ、酷いですよ一刀さま。今は一刀さまのお叱りのお陰で、しっかりと人個人を見るようにしてますよーだ」

 

 

「わりぃわりぃ、んで、次は魏だ」

 

 

「魏は蜀と違うんですか?」

 

 

 

 

 

「当然、魏は違う。

 

魏は戦って、戦って、相手を自分に服従させるか、もしくは自分が負けて服従するかの二つしかないんだ。そうしないと、一緒に大陸を治めるなんてしねーだろうな。曹操ってやつは敵が多いらしいからな。だからこそ、自分一人でやることの確実性と安全性が分かってんだろう」

 

 

「なるほど・・・つまり、曹操さんは桃香さんや雪蓮さんを信用していないからこそ、はっきりと強者と弱者を決めるために戦をするんですね」

 

 

「あぁ。言いかえれば、相手を信用するために戦うって感じだな。まぁ、桃香や雪蓮が勝った場合との待遇は違うけどよ。桃香たちは戦いの中で人を判断して、そして信用にたるか、もしくは信用出来ないかを決める。もし、信用出来たならば、そのまま王の立場で、曹操に大陸の平和のために働いてもらうって感じだな」

 

 

 

 

一刀の言葉に、雪蓮と桃香は無言で頷いた。

 

 

 

 

「えっと・・・・それでもし曹操さんが勝ったならば、呉と蜀は魏の下で忠誠を誓って大陸を平和にするか、もしくはそのまま滅ぼされて、魏一国で大陸を平和にするか・・・・ってあれ?」

 

 

 

 

 

斗詩はここで一つの結論に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

「そっか。この三国の王たちは、みんなが大陸の平和を願っているんですよね。この戦争で、三国で大陸を平和にするか、呉と蜀で大陸を平和にするか、もしくは魏一国で大陸を平和にするかを決めるわけであって

 

 

 

 

 

―――どっちが勝っても、どっちが負けても、大陸は必ず平和になるんですね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ。つまり、本当の意味で、最終決戦ってわけだ」

 

 

 

 

 

 

力と力、知略と知略。すべてを出し切り、戦う。お互いにこの大陸に必要か否かを決めるために。三国とも自国のためなどの私欲は全くない。すべて、民の平和のために。お互い命をかけて戦う。

 

 

 

それが、このたびの戦争の理由だった。

 

 

 

 

 

 

 

良い感じに会議が白熱したところで、一刀はそのまま次の議題へと進んだ。

 

 

 

「それで、同盟は組んだ。魏とも戦争することが決まった。次にすることは何だ?」

 

 

 

一刀の問いに、冥琳が手を挙げて発言する。

 

 

「それはまず、使者を送って、天下三分の計を取りやめることを知らせなくてはな。同盟の解除もしていないのに攻めたとなったら、それこそ大陸中の信用をなくす。おそらく、魏も準備が出来たら、そうするつもりだっただろう」

 

 

 

 

 

「そうだな冥琳。正々堂々、宣戦布告するぞ。んで、その戦争開始を知らせる使者だけど、それは俺だろ?」

 

 

 

「ふむ。よく分かったな。蜀もいいか?」

 

 

「あわわ、一刀さまに頼むのは恐れ多いですが、それが一番かと・・・・」

 

 

「天の使いが戦争の始まる鐘を鳴らす・・・・か。それじゃあ、斗詩、猪々子。そんで七乃、お前たちはいいよな?」

 

 

しかし、一刀の問いに、斗詩と猪々子は苦い顔をした。

 

 

いつもなら文句を言わずについてくる二人にしては珍しい。そんな二人のためか、七乃が一刀に説明をする。

 

 

 

「一刀さん。一刀さんは記憶がないので仕方ありませんが、お二人は袁家の武将だった時に、曹操さんに戦で負けてるんですよー」

 

 

「ん?そうなのか?」

 

 

「命さながら逃げてきて、部下もお金も何もないって時に、一刀さんと出会ったんですよー。だから、もしお二人が魏の領地に入ったら、おそらく問答無用で処刑されちゃいますー」

 

 

悔しいが、七乃言う通りだった。

 

斗詩も行けるものなら一緒に行きたい。でも、使者として城に行くのならば、間違いなく正体がバレて処刑されてしまう。

 

 

「わ、私も行きます!一刀さんを守れて死ねるなら私は本望で・・・・・」

 

 

「もぅ、斗詩ちゃん。駄目ですよー。お二人は一度、村にいた時に一刀さんに言われているんじゃありませんか?」

 

 

「あ・・・・」

 

 

 

 

―――自分が死ぬより、お前たちが死ぬほうが怖い。

 

 

 

 

 

自分の命であっても、もう一人だけの物ではなかった。愛する一刀を悲しませないためにも、生きる必要があった。

 

一刀は無言で斗詩を見つめていた。

 

その視線はどこか寂しげで、そして優しかった。

 

斗詩は悔しそうに唇を噛んだ。

 

 

 

 

「安心してください。そのために私がいるんじゃありませんかー」

 

 

 

 

「七乃さん・・・・でも、もし盗賊に襲われたら・・・・」

 

 

「大丈夫ですよー。馬に乗ればすぐですし、曹操さんの所ではあまり盗賊は出ないと聞きますし、それに盗賊ごとき、一刀さんと私が居れば、勝つことが出来なくても、逃げることぐらいは出来ますよ」

 

 

一刀の並みはずれは殺気と、七乃の策略と話術。確かに、その二つがあれば、盗賊に遭遇してもなんとかなるだろう。

 

でも、斗詩は心配だった。もし、盗賊に襲われて、捕まってしまったら、そして怪我をしたり、そして殺されてしまったら、と考えると、斗詩は胸が張り裂けそうだった。

 

 

 

 

 

 

「でも・・・・・」

 

 

 

 

「斗詩ちゃん・・・・・今、斗詩ちゃんが思っていることは、三人を送り出した時の私の気持ちなんです」

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

 

 

 

「辛いですよね?心配ですよね?でも、私は必死に耐えました。何カ月もその胸の痛みに耐えて、泣きたくなっても耐えました。だから、斗詩ちゃん。我慢してください」

 

 

 

 

 

 

斗詩は七乃を見た。

 

 

七乃はにっこり、と笑っている。

 

そうだ。自分たちは七乃に麗羽を押し付けて、一刀と旅に出た。そんな私たちを何も言わずに見送ってくれた七乃。

 

 

 

 

―――今度は、自分たちが待つ番だ。

 

 

 

斗詩は一度だけ大きく深呼吸をして、そしてにっこりと笑みを返した。

 

 

「一刀さんをお願いします」

 

 

「任されましたよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の一刀の旅。

 

 

お供は七乃。目的は魏への宣戦布告。

 

 

 

 

 

そして斗詩と猪々子にとっては、一刀との初めての別れであり、そして一刀にとっては、初めて守られる側から守る側へとなる旅の始まりだった。

 

 

 

 

 

次回に続く


 
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