七乃が蜀にやってきた。
斗詩や猪々子はそれを喜び、それと同時にあの麗羽を一人にすることに不安であったが、七乃の言う『信頼出来る変態』がいると聞いて、その人は誰だ?と不安に思う一方、七乃ほどの人物が信頼する人だから、大丈夫だろう、と少しは安心していた。
そして一刀たちは旅先のことを説明し、七乃は一刀たちが旅立った後の麗羽たちについて言ったり、また一人で旅した時のことを話した。
「へぇ、それじゃあ、呉とは仲良く出来たんだな?」
「はいー。真名も許していただけましたよー。それと、一刀さん。呉で何かやらかしたんですか?」
「あぁん?別にねーよ」
「そんなわけありませんよー。あの蓮華さんが「一刀」って言った瞬間、まるで子供みたいになったんですから」
「あー・・・・・色々とな」
「色々ですか。先に言っておきますが、一刀さんと蓮華さんは似合いませんよ。王とこんなちんけな男、釣り合う筈がありませんからねー。でしょ?斗詩ちゃん」
「そうですね。一刀さんには、私みたいは地味だけど可愛い子が似合うと思います」
「自分で可愛いって言うな・・・」
相変わらずな四人だが、以前よりも仲は深まったように思えた。
そんな平穏な日常を過ごしていた一刀たちと蜀の面々に、一通の手紙が届いた。
その送り主は呉の王、雪蓮。
内容を簡単にまとめると、同盟を再び組んでくれてありがとう。これからのことについて話し合いたいので、一度そちらに窺おうと思う。なので、そちらでも色々と準備をしておいてほしい。
あと最後に蓮華からのメッセージがあり
―――『一刀、お元気ですか?お腹壊してないですか?道に落ちてる物を食べたら駄目ですよ。私はとっても元気です。今度会いに行きます。とっても楽しみです』
と、まるで子供のような手紙が添えられていた。
蓮華の奴、相変わらずだな・・・・と一刀や斗詩たちは思っていたが、蜀の面々には驚きである。あの厳しく冷酷な蓮華が、こんな子供のような文章を書くなんて・・・・・と驚く反面、一刀への妙に親密的な文章に、蜀の面々は呉に警戒をすることにした。
そして時が過ぎ、蜀に呉の雪蓮を初めとする主な武将たちがやってきた。
具体的には王である雪蓮、妹の蓮華、軍師の冥琳、宿老の祭、そして補佐役として亞莎だ。本来であれば、蓮華と亞莎は来なくてもよかったのだが、本人の強い希望により、蜀に参上した。
「久々だな。蓮華」
「・・・・・一刀」
蓮華は少し早歩きで一刀に近づくと、さりげなく手を握る。
蜀の面々はあの蓮華が・・・・・・と思うのと、一刀にの手を握ると言う狼藉を働いても大丈夫なのか、相変わらずの信仰心だった。
「この前ね?お魚釣ったんだよ」
「そうか。偉いな」
「うん。池にいるから、今度一緒に見ようね」
「そうだな」
と、蓮華が一刀といちゃいちゃしているその横では、七乃と雪蓮が話をしていた。
「この前はありがとうございます。雪蓮さん」
「いいのよ。それより、案外早く蜀に着いたわね」
「何日か徹夜して歩きましたからねー。ここら辺には盗賊が少ないですし、思ったよりも楽でしたよー。それより、蓮華さんはどうしちゃったんですかねー」
「あぁ。あれはあれでいいのよ」
「まるで子供と親ですね」
「ふふ、でも仕事をする時は凄いのよ。おーい、蓮華。蜀の皆さまに挨拶よ」
ぽかーんと、立っている蜀の面々。
その様子を雪蓮は笑いながらも、礼儀として挨拶をする。むしろ、最初に挨拶をしなかったのが失礼なのだが、蓮華がずっと一刀に会いたいのを我慢していたこともあり、仕方がなかった。
蓮華は一刀から離れると、一度だけこほん、と咳をした。
「この度は呉との同盟、感謝する。改めて言わせてもらう。次期孫呉の王、孫権だ。お互いに大陸の平和のために手を取り合おうではないか」
先ほどとは声色も態度も顔つきも全くの別人ぶりに、またもや蜀の面々は驚きを隠せない。だが、挨拶をされたならば、挨拶で返すしかない。
「あ、はい・・・・えっと、蜀の王、劉備です。この度は・・・・えっと・・・・・遠いところからありがとうございます」
「ふむ。しかし劉備よ。呉と同盟を組むと言うことは、魏と戦争すると言うことだ。よく承諾したな」
「あはは、一度、一刀さまに殺されそうになりまして、目が覚めましたよー。それに私の理想は蜀の理想です。そして蜀には仲間がこんなに居ます。私は、それを背負って立ち上がらなければなりませんからね」
「・・・・ふふ、前よりも良い目をしているな」
「ありがとうございます。蓮華さんは、前よりも柔らかいような気がします」
「一刀のせいか」
「一刀さまのお陰です」
ふふふ、と笑いあう二人の間には、和やかな雰囲気が漂っている。間違っても、腹の探り合いや殺伐とした空気は微塵も感じられない。
「それでだ劉備。一つ聞きたいことがある」
「はいはーい!私も一つ質問があります」
にっこり、とお互い微笑みあい
「どうして一刀さまなんだ?」「何で一刀さまに甘えてるんですか?」
・・・・・・・
一瞬にして、雰囲気が殺伐とした。
蓮華は自分の方が一刀を知っている、かのように少し自慢げに話し始める。
「一刀は一刀。一刀は自分が特別な存在だと思われるのが好きじゃないんだ」
対して桃香は逆に一刀の素晴らしさを押し出そうと、身を乗り出して反論する。
「そっちこそ、一刀さまは神様なんです。大陸を救うために天から神様なんです。それなのに、一刀さんにあんなに甘えるなんて・・・・考えられません」
「ほぅ。そこまで言うか」
「そっちこそ・・・・」
・・・・・・・
また一段と空気が冷たくなった。
雪蓮は呆れてため息、愛紗は桃香の言うことに同意なのか、少し戸惑っているが止めようとはしていない。
「大体、一刀は呉が蜀に同盟を知らせるための使者なのだ。用が終わったなら、返してもらいたい」
「何を言っているんですか?一刀さまは下々の私たちに平等に愛を与えてくれる神様なんですよー」
「なるほど、ならば一刀に聞いてみようではないか」
「そうですね。一刀さまに聞いてみましょう」
二人は睨みあい、そして同時に一刀に振り向いた。
しかし、一刀は
「あの・・・・どうですか?」
「おぉ。美味いじゃねーか」
「よかった。実はこれ、一刀さまに食べてもらおうと思って、今朝、宿屋の厨房を借りて作ったんです」
「へぇ。頑張ったな」
「えへへ」
と、亞莎お手製のゴマ団子を食べてくつろいでいた。
「・・・・・・劉備、すまないが、少し片付けてくる」
「はい。どうぞ。あ、これ縄です」
「ふむ。助かる。おい亞莎」
「はーい。何ですか?・・・・・ってあれ?何ですかその縄。え?何するんですか!?ちょっと待ってくださぁい!」
一刻後、玉座の間には一刀たちが来た時のように机を椅子が並べられており、そして蜀の武将と呉の武将たちが向かい合って座っている。
「それじゃあ、これより蜀と呉の同盟についての話し合いを始めたいと思います」
朱里の言葉により、同盟後初の合同会議が開始された。
ただ、呉の席で一つだけぽつんと開いた空席が気になる。
亞莎は行方は、誰も知らない。
次回に続く
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「ネタがない」
誰かが呟いた言葉だった。しかしその何気ない言葉は僕の胸に深く突き刺さり、僕は思わず言い訳をつぶやいた。
「こ、コメディならあるんだ。でも、シリアスは初めてだし、それに・・・・」
それに・・・・・何だ?僕は一体、何を言おうとしていたんだろうか。それすら分からなくなってしまったのだろうか、僕は。
「・・・・ネタをください」
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