※この作品は魏endで一刀が"完全"に消滅した事を前提としているため、
記憶が戻るとかは無いので御容赦下さい。
後、オリジナル設定もあり、登場人物の行動や言動が原作と一致しない場合も
多々ございますので、その点も御容赦下さい。
蓮華は周囲を探索していた兵の報告を受け、頭を抱える。
三方向から来る『にゃあ黄巾党』の数はそれぞれがおよそ4000近く。
合わせれば少なくとも一万は下らないと推察された。
それに比べてこちらの兵力はおよそ三百。
普通ならば相手にならない・・・だが、村人の為にも諦めるわけにはいかなかった。
建業までおよそ丸一日の行程で村人全員を移動させるのは不可能と思われる。
ならば篭城しかないが、防壁の門は爆発によって破壊されてしまっていた。
急ぎ門を塞ぐ作業に入らせているが完全に塞ぐ時間は無い。
篭城をしたとしてもそこから入られれば一貫の終わりだ。
万夫不当の愛紗や鈴々、恋がいれば話は違っただろうが今の戦力ではとても戦えない。
いっその事討って出るかとも考えた蓮華の元に、明命が一刀を連れて来た。
「蓮華様!『天の御遣い様』をお連れしました!」
「だからオレは違うって!」
元気良く報告する明命に慌てて突っ込みを入れるが、蓮華は一刀の顔を見た途端に頭に血が上る。
「貴様!!華琳達がどれほど苦しんだと思っているのだ!!」
脳裏によぎったのは華琳達魏の者達の泣き顔。
そして女と一緒だったという報告が彼女達を踏みにじったように感じられ、抑えきれない怒りが
爆発した。
「くぅっ!!?」
突然剣を抜いた蓮華に驚き一刀が即座に距離を取るが、それよりも早く蓮華の剣が振り下ろされ
ようとして一刀も思わず剣を抜く。
ガイィィィィィィィィン!!
という剣と剣がぶつかる音が響いた瞬間、二人の動きが止まる。
その音の響きの中で蓮華は一刀の中に姉、雪蓮の姿を見た。
「・・・馬鹿な・・・」
搾り出されるような声は震え、一刀の持つ剣を見つめる視線が外せなくなる。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた周りの兵も、その光景に絶句した。
一刀の持つ剣は間違いなく『南海覇王』
そして蓮華の持っている剣も『南海覇王』
ここに二本の『南海覇王』があった。
真桜が作ったいくつかの複製品とは違い、間違いなく本物だと感じる事が出来る。
「き・・・貴様・・・その剣はどうやって手に入れた・・・?」
その声で一刀もハッとなる。一刀もまた、蓮華の中に見た事の無い筈の雪蓮の姿を見ていたからだ。
「これは・・・ある人から預かった、大切なものだ」
「と・・・年はいくつ・・・だ・・・」
「・・・は?」
「年はいくつだと聞いている!」
「22だけど・・・?」
突然年齢を聞いてくる蓮華に不思議に思うが、偽るのも変だと素直に年齢を告げた。
────が、それを聞いた蓮華があまりの驚愕に剣を取り落とし、ガクリと膝から崩れ落ちる。
「お、おい!どうしたんだ!?」
そのあまりの様子に一刀も慌てて屈みこむが、蓮華は呆然と一刀の顔を見ていた。
『南海覇王』が二本あるなど聞いた事は無い。だが、事実二本あった。
そして剣を交わした瞬間に確かに『天の御遣い』から雪蓮の気配を感じた。
それも他人とはとても思えない程強く感じる。
そればかりか『南海覇王』に託された母の力さえ感じた。
そこから導き出される答えは一つ────
(『天の御遣い』と私達は兄妹だ!!)
三人の姉妹以外に兄弟がいるなどと聞いた事は無かったが、女性の強いこの世界で男が跡を継ぐというのは
難しかっただろう。捨てられ、流れ着いたのが魏だったのではないだろうか。
もう一つの『南海覇王』は母様のせめてもの愛だったのでは・・・。
ならば三国同盟が成ったあかつきに消えたのも納得出来る。
自分を捨てた国を許せなかったのだろう。
だが、やはり呉を滅ぼす事等できなかった・・・。
三国同盟の立役者・・・それは呉を愛するが故に『天の御遣い』と利用されても呉を守ってくれたのではないか。
思春の報告であった『天の御遣い』は軟弱者というのも、『魏の種馬』というのも呉の者達と距離を置いて
それと知られない為の演技だったのだろう・・・。
今の一刀は凪一筋で消えた一刀とは違って少し翳のある所が有った為、軟弱というイメージとは程遠い。
鍛えた体と『黒い閻王』で高められた気、そして『南海覇王』から伝わる覇気は確実に
蓮華の頭の中で『一刀=三姉妹の兄』説を確実なものとしていった。
「苦労を・・・したんですね・・・」
その言葉に一刀の頭には疑問符が大量に表れるが、蓮華の瞳から落ちる涙を見て一刀は激しく狼狽する。
とりあえずハンカチを・・・。
と思って慌ててスーツのポケットを探るが出てこない。
一刀がスーツを脱いでポケットに手を入れていた時、一刀の足元に小さな袋が落ちた。
それを蓮華が拾ったのと、一刀が明命にハンカチを渡したままだったと気がついたのは同時だった。
振り向いて明命を見ると、明命も唖然とした表情で一刀を見つめている。
一刀の中に雪蓮の姿を見たのは蓮華だけでは無く、その場にいた全員が見ていたのだ。
呆然と動かない様子にこれは無理か、と蓮華に向き直るのと蓮華が更なる何かの手がかりかもしれないと
小さな袋を懐にしまうのも同時だった。
「あー・・・っと。色々誤解があったと思うんですけど、オレは『天の御遣い』じゃないんです」
ここで『天の御遣い』と名乗る訳が無いと考え、一刀の言葉に頷く。
「えっと・・・孫権さん、今はそれどころじゃなくってですね・・・」
「兄さま・・・私の事は蓮華と呼んでください」
「え・・・それって真名じゃ・・・」
兄さま?と思ったが、それ以上に真名を呼ぶ事を許された事の方が衝撃があった。
「はい。ですが、必要だと思いまして・・・」
「そ、そうか、ありがとう。オレも一刀と呼んで欲しい」
キラキラと瞳を輝かせる蓮華の迫力にちょっと後ずさりをする。
「一刀兄さま・・・」
「あ!わ、私も明命とお呼びください!」
「あ、ああ。よろしく」
両手を顔の前でぽんとあわせ、笑顔で話す明命が眩しくて思わず目を細めるが
それどころじゃないだろ!と自分に突っ込んで蓮華を見つめる。
「実はさっき一つ思いついた作戦があるんだけど────」
一刀の話をその場にいた全員が真剣に聞き入った。
妙に熱い視線を蓮華から感じて一刀の背筋が寒いが・・・。
思春が思考のスパイラルからようやく抜け出し、とにかく蓮華様に報告せねばと走り出した時、
広場の方から来る明命と鉢合わせた。
そして明命から一部始終を聞いて、また愕然とする。
明命が一刀の作戦を実行する為に他の部下と門の方に走り去っても、まだ動けなかった。
「蓮華様達と『天の御遣い』が兄妹だった・・・だと!?では・・・白蓮殿が蓮華様達の義理の姉
となるのか・・・!?し、しかしそれでは増々魏の者達へ知らせるなど・・・!それに蜀の者達へも
・・・!・・・待て・・・兄・・・だと・・・?ハッ!?ま・・・マズイぞ・・・蓮華様の寝台の下に
隠された衝古見とかいう書物の中でも、兄と妹の禁断の恋の話がお好きだった筈・・・!
もし、そんな事になったら子供が・・・・!!」
思春はそれだけはマズイと急ぎ蓮華の元へと走り出した。
お送りしました第17話。
激戦でしたね・・・。
誤解がこじれれば修復はほぼ不可能に・・・。
次回からホントの戦闘ですw
ちなみに冥琳の読んでいる葉荒苦陰(はあれくいん)に連載を持っているのは桂花で、
蓮華の衝古見(しょうこみ)には音々音が連載を持っているというイメージでやっております。
ではちょこっと予告。
「策略」
では、また。
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