No.180301

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第五十一話

狭乃 狼さん

晋との決戦を決意した一刀。

その晋でも、戦いに向けて五神将たちが動き出す。

大戦の前のそのひと時、両者は何を思うのか。

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2010-10-25 11:32:56 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:10779   閲覧ユーザー数:9321

 「ちょっと!一体どういうことなわけ?!」

 

 「……どうもこうもないわよ。仲達さまのご命令なんだから、しょうがないでしょう」

 

 「だからって、ただでさえ少ない戦力を、さらに分散して当たれだなんて」

 

 許の玉座の間。

 

 五神将の一人で、第五席である情報処理担当の禰衡に対し、同じく五神将の第二席を冠する貂蝉が、すさまじい勢いでつかみかかっていた。

 

 「……漢中、徐州、そしてここ許。それぞれに五万づつを配し、北上してくるであろう、三国同盟軍を迎え撃て、か」

 

 「それに、あたしら五神将も、メンテ中で動けない籍を除いた四人で、別々にやつらの相手をしろって、仲達さまはおっしゃっているわ」

 

 真の主である仲達からの命令を受け取った禰衡が、この場にいない五神将筆頭の項羽以外の者に、その内容を伝えていた。

 

 「……何をお考えなのかしらね、仲達さまは」

 

 その手に琴を抱いた、五神将第三席の蔡琰が、自分たちの生みの親である仲達の考えを図りきれず、眉をひそめる。

 

 「……私はいつも言っている筈だぞ、蔡琰。私たちは、仲達さまのお考えを理解する、その必要はないと。命じられたことを、ただ実行してさえいればいいとな」

 

 「……”人形”の私たちには、そのほうが似合いだと?」

 

 「……そういう事だ」

 

 五神将の第四席・祝融の言に、目を細めて蔡琰が問い、それに何の迷いもなく答える祝融。

 

 「……祝融の言うとおりね。私たちは仲達さまの御為だけに存在する、ただの”道具”に過ぎないのだから。……今この場にいない、籍もね」

 

 「そうね。……それじゃ、だれがどこに行く?」

 

 「徐州には私が行く」

 

 「なら、漢中には私が行きましょ」

 

 貂蝉に、それぞれ答える祝融と蔡琰。

 

 「……なら、許には私と禰衡が残ると。それで良いのね?」

 

 コクリ、と。それぞれにうなずく、禰衡、蔡琰、そして貂蝉の三人。

 

 「……呼廚泉のおっさんは?」

 

 「都に戻ったわ。……自分の役目は、帝を守ることだと言ってね」

 

 「あっそ」

 

 「じゃ、動くとしますか」

 

 「ええ。……仲達さまのために」

 

 『仲達さまのために』

 

 こうして、その日のうちに、漢中と徐州、それぞれに向けて五万づつの晋軍が出発した。

 

 そして、その知らせは襄陽の一刀たちの下にも、すぐさま届けられた。

 

 

 

 「わざわざ戦力を分散してくれるなんてね」

 

 「私たち、遊ばれているのかな?」

 

 晋軍が戦力を分けて、漢中と徐州に動いたという報告を聞いた曹操と劉備は、そう反応を示した。

 

 「……」

 

 「どうしたの、一刀?」

 

 先の二人とほぼ同様の反応をしている一同の中。ただ一人一刀だけが、腕を組んだまま思案にふけっていることに、孫策が気づいて声をかける。

 

 「……なあ、貂蝉。あんたさっき、仲達は虎豹騎の兵たちを、”兵器”として売っていたって、そう言ったよな」

 

 「ええ」

 

 「あと、あんたたち、じ、時空……管理局、だっけ?そこの連中は、好きなようにいろんな世界を見れるんだよな?」

 

 筋肉だるま-もとい、漢女の貂蝉に、突然そんなことを問う一刀。

 

 「そうよん。まあ、ある程度は規制があるけどね」

 

 「ならさ、その管理局とか言う組織以外でも、この世界を覗くことが出来るんじゃないか?……非合法だとしても、さ」

 

 「それは、まあ。……可能性は零では、無いけど」

 

 「……もしかしたら、仲達の狙いはそこにあるのかも知れないな」

 

 「!!……まさか、密売相手のための、デモンストレーション?」

 

 一刀から発せられた、思ってもいなかった言葉に、貂蝉は驚愕の表情を浮かべる。

 

 「その、でもんすとれーしょん、って言葉は解らないですけど、会話の流れから察するに、宣伝行為とか、そんな感じですか?」

 

 珍しく、長い台詞を噛まずに、一気に言い切って諸葛亮が問う。

 

 「大体、そんな意味だと思ってもらって良いわ。……そうね。ご主人様の言うとおりだとすれば、いくらか辻褄が合ってくるわね」

 

 「……つまり、虎豹騎の”兵器”としての有意性を、その商売相手に見せるために、この世界を宣伝の場として、選んだと?」

 

 「そう考えると、仲達がこれまで、色々と裏で動いてしてきたことに、戦乱を長引かせてきた事に、説明がつくんだ」

 

 「戦いが長引けば長引くほど、宣伝の場と機会が増えるものね」

 

 もし、仲達の目的が本当にそうであるなら、これほど自分たちを馬鹿にしたことは無い。

 

 一刀たちの心に、徐々に怒りの感情がわきあがってくる。生命を”物”としか見ておらず、そして、自分たちをその実験台ぐらいにしか思っていない、諸悪の根源である仲達に。

  

 

 

 「もちろん、現状ではすべて推測に過ぎない。もっと最初、それこそ黄巾の乱が起きていたころには、虎豹騎はまだ、その姿を現していなかったしな」

 

 「……そういえば、あの時変なやつがいたよね?一刀のことを、”この世界の北郷一刀”なんてよんで」

 

 何年か前の、黄巾討伐の折の事を思い出す劉備。

 

 「……つまり、他の世界を知るやつが、あの時から動いていた、と?」

 

 「あいつも、仲達の一味だったのかな?」

 

 「それは解んないわね。向こうの構成員がどれほどいるのか、私にも把握出来ていないしね」

 

 「結局、真実を知るためには、やつらから直接、話を聞くしかないってわけだ」

 

 ん、と。一刀にうなずいて見せる一同。

 

 「けど一刀?兵数は確かに分散したことで減っているけど、本当に問題なのは五神将の連中よ?あの化け物たち、どうやって倒すと?」

 

 「……一人ぐらいなら、俺が何とか出来るかもしれない。”こいつ”の封印さえ解けば」

 

 曹操の質問に対し、自身の腰に掛かっている靖王伝家に手をやり、そうつぶやく一刀。

 

 「封印……?」

 

 「ああ。こいつはさ、今は、その本来の姿ではないんだ。その威力があまりにも強力すぎて、封印せざるを得無かったんだ。……師匠から、そう言われた」

 

 「一刀のお師匠さんねえ。……名前は?なんて言うの?」

 

 「知らない」

 

 「へ?」

 

 「結局一度も名乗らなかったからなあ。……問いただすような、そんな余裕も当時は無かったし。……生き続けるだけで精一杯だったからな、俺は」

 

 懐かしそうに、しんみりとする一刀を、

 

 (……どんな修行をしてたのやら)

 

 と、そんな風に思いながら見る、曹操たちであった。

 

 「それはともかく、今なら、こいつを”本来の姿”で扱える自信はある。その為の修行も、毎日続けてきたしね。ただ、他の二箇所にいる連中までとなると」

 

 「……一刀。お前、大切なことを忘れていないか?」

 

 「え?」

 

 沈痛な面持ちになっていた一刀に、華雄が一歩歩み出て、その瞳をまっすぐに見据える。

 

 「私たちがそんなに、当てにならないか?ともに戦ってきた、私や愛紗、鈴々に星、紫苑や他のみなが」

 

 「いや、そんなことは」

 

 「ならばもっと、私たちを信じてください、義兄上」

 

 「鈴々だって、今度は絶対に負けないのだ!!」

 

 「私とて、それなりに修行は積んでおりますぞ、主?」

 

 ずい、と。

 

 華雄に並んで、一刀に微笑む関羽たち。

 

 

 

 「そう、だね。おれが、みんなをもっと、信じなきゃ、だな」

 

 「そー言うことよ、一刀。ってことで、徐州の方はあたしらに任せてもらうわ。いいね、雪蓮、蓮華、冥琳」

 

 『はい、母様(文台様)』

 

 一刀に微笑みながら、娘たちに孫堅が問い、それに孫策たちがこちらも満面の笑顔で答える。

 

 「漢中は、私がいくね」

 

 「……良いのか、桃香」

 

 「うん。確かに、武ではみんなより遥かに劣るけど、あたしだって、それなりに用兵を心得てることは、一刀だってよく知ってるでしょ?」

 

 にっこり、と。笑顔で一刀に語りかける劉備。

 

 「……わかった。愛紗、鈴々、蒼華。君たちは桃香についてやってくれ。……みんな、無事で」

 

 『御意(なのだ)!!』

 

 「なら、許へは私が、一刀と同行するって事で良いのかしら?」

 

 一刀に曹操が問いかける。

 

 「いや。華琳は後発に回ってほしい』

 

 「……なぜ?」

 

 「春蘭たちはどうするのさ。それに、魏軍の兵達も、暫くは動けないだろ?」

 

 「それは……。はあ~、わかったわよ。なら、春蘭たちが回復次第、あなたの後を追うわ。それでいいのね?」

 

 不承不承、一刀の支持に従う曹操。

 

 「うん。……美羽、七乃さん、それと、袁紹さん達。……やれますか?」

 

 「任せておくのじゃ、一刀兄!のう、七乃?」

 

 「はい~。ばっちり、頑張らせてもらいますよ~」

 

 「おーっほっほっほっほ!この私がいれば、百、いえ、万人力でしてよ!」

 

 「いいね~、姫のその根拠の無い自信」

 

 「……文ちゃん、もちょっと歯に衣着せようよ~」

 

 高笑いの袁紹・袁術の従姉妹コンビと、緊張感のなさげなその部下達。

 

 「……これで本当に、大丈夫なの?一刀」

 

 「……ははは。……ちょっとだけ、不安かも」

 

 

 

 晋と三国同盟が、それぞれに決戦の準備にいそしむころ。

 

 とある場所にて。

 

 ぼこっ。ぼこぼこっ。

 

 何かしらの液体が入った透明な筒から聞こえる、その音。

 

 その筒の中には、一糸まとわぬ姿の、一人の女性。

 

 「……ふむ。さすがはボクの最高傑作。ロールアウトから一年。これだけ安定した状態を保てているとはね。……まったく、ボクってほんと、天才だよねえ。あははは」

 

 不思議なことに、筒の正面の空中に文字と数字が浮かんで羅列されており、それを見た男が、一人満足そうに笑う。

 

 「刷り込んだ記憶も安定しているみたいだし。くくく。……君は今、どんな夢を見ているのかな?」

 

 そう言いつつ、筒の中の女性を見上げる男。

 

 筒の中の女性は微動だにしない。ときおり、その閉じたまぶたが、ピクリと動くのみである。

 

 「次に目が覚めたとき、君が最初に見るのは誰の顔だろうねぇ。ボクか、姉妹達の誰かか。それとも……?クク、クハハハハハハハ!!」

 

 闇の中に響き渡る、狂気とも取れる、その笑い声。

 

 その声が響く中、筒の中の彼女が見るのは、いかなる夢か。

 

 彼女はただ眠り続ける。

 

 幼子の如く、今ひと時、その安らぎの中に。

 

 

                                  ~続く~

 


 
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