「ちょっと!一体どういうことなわけ?!」
「……どうもこうもないわよ。仲達さまのご命令なんだから、しょうがないでしょう」
「だからって、ただでさえ少ない戦力を、さらに分散して当たれだなんて」
許の玉座の間。
五神将の一人で、第五席である情報処理担当の禰衡に対し、同じく五神将の第二席を冠する貂蝉が、すさまじい勢いでつかみかかっていた。
「……漢中、徐州、そしてここ許。それぞれに五万づつを配し、北上してくるであろう、三国同盟軍を迎え撃て、か」
「それに、あたしら五神将も、メンテ中で動けない籍を除いた四人で、別々にやつらの相手をしろって、仲達さまはおっしゃっているわ」
真の主である仲達からの命令を受け取った禰衡が、この場にいない五神将筆頭の項羽以外の者に、その内容を伝えていた。
「……何をお考えなのかしらね、仲達さまは」
その手に琴を抱いた、五神将第三席の蔡琰が、自分たちの生みの親である仲達の考えを図りきれず、眉をひそめる。
「……私はいつも言っている筈だぞ、蔡琰。私たちは、仲達さまのお考えを理解する、その必要はないと。命じられたことを、ただ実行してさえいればいいとな」
「……”人形”の私たちには、そのほうが似合いだと?」
「……そういう事だ」
五神将の第四席・祝融の言に、目を細めて蔡琰が問い、それに何の迷いもなく答える祝融。
「……祝融の言うとおりね。私たちは仲達さまの御為だけに存在する、ただの”道具”に過ぎないのだから。……今この場にいない、籍もね」
「そうね。……それじゃ、だれがどこに行く?」
「徐州には私が行く」
「なら、漢中には私が行きましょ」
貂蝉に、それぞれ答える祝融と蔡琰。
「……なら、許には私と禰衡が残ると。それで良いのね?」
コクリ、と。それぞれにうなずく、禰衡、蔡琰、そして貂蝉の三人。
「……呼廚泉のおっさんは?」
「都に戻ったわ。……自分の役目は、帝を守ることだと言ってね」
「あっそ」
「じゃ、動くとしますか」
「ええ。……仲達さまのために」
『仲達さまのために』
こうして、その日のうちに、漢中と徐州、それぞれに向けて五万づつの晋軍が出発した。
そして、その知らせは襄陽の一刀たちの下にも、すぐさま届けられた。
「わざわざ戦力を分散してくれるなんてね」
「私たち、遊ばれているのかな?」
晋軍が戦力を分けて、漢中と徐州に動いたという報告を聞いた曹操と劉備は、そう反応を示した。
「……」
「どうしたの、一刀?」
先の二人とほぼ同様の反応をしている一同の中。ただ一人一刀だけが、腕を組んだまま思案にふけっていることに、孫策が気づいて声をかける。
「……なあ、貂蝉。あんたさっき、仲達は虎豹騎の兵たちを、”兵器”として売っていたって、そう言ったよな」
「ええ」
「あと、あんたたち、じ、時空……管理局、だっけ?そこの連中は、好きなようにいろんな世界を見れるんだよな?」
筋肉だるま-もとい、漢女の貂蝉に、突然そんなことを問う一刀。
「そうよん。まあ、ある程度は規制があるけどね」
「ならさ、その管理局とか言う組織以外でも、この世界を覗くことが出来るんじゃないか?……非合法だとしても、さ」
「それは、まあ。……可能性は零では、無いけど」
「……もしかしたら、仲達の狙いはそこにあるのかも知れないな」
「!!……まさか、密売相手のための、デモンストレーション?」
一刀から発せられた、思ってもいなかった言葉に、貂蝉は驚愕の表情を浮かべる。
「その、でもんすとれーしょん、って言葉は解らないですけど、会話の流れから察するに、宣伝行為とか、そんな感じですか?」
珍しく、長い台詞を噛まずに、一気に言い切って諸葛亮が問う。
「大体、そんな意味だと思ってもらって良いわ。……そうね。ご主人様の言うとおりだとすれば、いくらか辻褄が合ってくるわね」
「……つまり、虎豹騎の”兵器”としての有意性を、その商売相手に見せるために、この世界を宣伝の場として、選んだと?」
「そう考えると、仲達がこれまで、色々と裏で動いてしてきたことに、戦乱を長引かせてきた事に、説明がつくんだ」
「戦いが長引けば長引くほど、宣伝の場と機会が増えるものね」
もし、仲達の目的が本当にそうであるなら、これほど自分たちを馬鹿にしたことは無い。
一刀たちの心に、徐々に怒りの感情がわきあがってくる。生命を”物”としか見ておらず、そして、自分たちをその実験台ぐらいにしか思っていない、諸悪の根源である仲達に。
「もちろん、現状ではすべて推測に過ぎない。もっと最初、それこそ黄巾の乱が起きていたころには、虎豹騎はまだ、その姿を現していなかったしな」
「……そういえば、あの時変なやつがいたよね?一刀のことを、”この世界の北郷一刀”なんてよんで」
何年か前の、黄巾討伐の折の事を思い出す劉備。
「……つまり、他の世界を知るやつが、あの時から動いていた、と?」
「あいつも、仲達の一味だったのかな?」
「それは解んないわね。向こうの構成員がどれほどいるのか、私にも把握出来ていないしね」
「結局、真実を知るためには、やつらから直接、話を聞くしかないってわけだ」
ん、と。一刀にうなずいて見せる一同。
「けど一刀?兵数は確かに分散したことで減っているけど、本当に問題なのは五神将の連中よ?あの化け物たち、どうやって倒すと?」
「……一人ぐらいなら、俺が何とか出来るかもしれない。”こいつ”の封印さえ解けば」
曹操の質問に対し、自身の腰に掛かっている靖王伝家に手をやり、そうつぶやく一刀。
「封印……?」
「ああ。こいつはさ、今は、その本来の姿ではないんだ。その威力があまりにも強力すぎて、封印せざるを得無かったんだ。……師匠から、そう言われた」
「一刀のお師匠さんねえ。……名前は?なんて言うの?」
「知らない」
「へ?」
「結局一度も名乗らなかったからなあ。……問いただすような、そんな余裕も当時は無かったし。……生き続けるだけで精一杯だったからな、俺は」
懐かしそうに、しんみりとする一刀を、
(……どんな修行をしてたのやら)
と、そんな風に思いながら見る、曹操たちであった。
「それはともかく、今なら、こいつを”本来の姿”で扱える自信はある。その為の修行も、毎日続けてきたしね。ただ、他の二箇所にいる連中までとなると」
「……一刀。お前、大切なことを忘れていないか?」
「え?」
沈痛な面持ちになっていた一刀に、華雄が一歩歩み出て、その瞳をまっすぐに見据える。
「私たちがそんなに、当てにならないか?ともに戦ってきた、私や愛紗、鈴々に星、紫苑や他のみなが」
「いや、そんなことは」
「ならばもっと、私たちを信じてください、義兄上」
「鈴々だって、今度は絶対に負けないのだ!!」
「私とて、それなりに修行は積んでおりますぞ、主?」
ずい、と。
華雄に並んで、一刀に微笑む関羽たち。
「そう、だね。おれが、みんなをもっと、信じなきゃ、だな」
「そー言うことよ、一刀。ってことで、徐州の方はあたしらに任せてもらうわ。いいね、雪蓮、蓮華、冥琳」
『はい、母様(文台様)』
一刀に微笑みながら、娘たちに孫堅が問い、それに孫策たちがこちらも満面の笑顔で答える。
「漢中は、私がいくね」
「……良いのか、桃香」
「うん。確かに、武ではみんなより遥かに劣るけど、あたしだって、それなりに用兵を心得てることは、一刀だってよく知ってるでしょ?」
にっこり、と。笑顔で一刀に語りかける劉備。
「……わかった。愛紗、鈴々、蒼華。君たちは桃香についてやってくれ。……みんな、無事で」
『御意(なのだ)!!』
「なら、許へは私が、一刀と同行するって事で良いのかしら?」
一刀に曹操が問いかける。
「いや。華琳は後発に回ってほしい』
「……なぜ?」
「春蘭たちはどうするのさ。それに、魏軍の兵達も、暫くは動けないだろ?」
「それは……。はあ~、わかったわよ。なら、春蘭たちが回復次第、あなたの後を追うわ。それでいいのね?」
不承不承、一刀の支持に従う曹操。
「うん。……美羽、七乃さん、それと、袁紹さん達。……やれますか?」
「任せておくのじゃ、一刀兄!のう、七乃?」
「はい~。ばっちり、頑張らせてもらいますよ~」
「おーっほっほっほっほ!この私がいれば、百、いえ、万人力でしてよ!」
「いいね~、姫のその根拠の無い自信」
「……文ちゃん、もちょっと歯に衣着せようよ~」
高笑いの袁紹・袁術の従姉妹コンビと、緊張感のなさげなその部下達。
「……これで本当に、大丈夫なの?一刀」
「……ははは。……ちょっとだけ、不安かも」
晋と三国同盟が、それぞれに決戦の準備にいそしむころ。
とある場所にて。
ぼこっ。ぼこぼこっ。
何かしらの液体が入った透明な筒から聞こえる、その音。
その筒の中には、一糸まとわぬ姿の、一人の女性。
「……ふむ。さすがはボクの最高傑作。ロールアウトから一年。これだけ安定した状態を保てているとはね。……まったく、ボクってほんと、天才だよねえ。あははは」
不思議なことに、筒の正面の空中に文字と数字が浮かんで羅列されており、それを見た男が、一人満足そうに笑う。
「刷り込んだ記憶も安定しているみたいだし。くくく。……君は今、どんな夢を見ているのかな?」
そう言いつつ、筒の中の女性を見上げる男。
筒の中の女性は微動だにしない。ときおり、その閉じたまぶたが、ピクリと動くのみである。
「次に目が覚めたとき、君が最初に見るのは誰の顔だろうねぇ。ボクか、姉妹達の誰かか。それとも……?クク、クハハハハハハハ!!」
闇の中に響き渡る、狂気とも取れる、その笑い声。
その声が響く中、筒の中の彼女が見るのは、いかなる夢か。
彼女はただ眠り続ける。
幼子の如く、今ひと時、その安らぎの中に。
~続く~
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晋との決戦を決意した一刀。
その晋でも、戦いに向けて五神将たちが動き出す。
大戦の前のそのひと時、両者は何を思うのか。
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