No.179866

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第五十話

狭乃 狼さん

刀香譚もついに五十話の大台にきました。

物語はクライマックスに向けて、どんどん暴走中!

今回は、漢女の口からついに、仲達と五神将の正体が、

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2010-10-23 11:24:02 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:10479   閲覧ユーザー数:9070

 「さ~てと。まずは何からお話しましょっか」

 

 襄陽城の玉座の間にて、パンツ一丁の筋肉があごに手を当てて、室内の中央に立っていた。

 

 「……ねえ、一刀。あれ、ほんとーに、信用出来るわけ?」

 

 「……多分、ね。自信は無いけど」

 

 そんな耳打ちを孫権からされた一刀が、肩をすくめて言う。

 

 その筋肉、もとい、漢女の貂蝉の周りには、一刀を初めとした魏・呉・蜀の面子が、その顔をそろえていた。

 

 「……とりあえず、貴方の事から、聞かせてもらえるかしら?」

 

 「そうね。まず、私は貂蝉と名乗っているけど、本物の貂蝉ではないわ」

 

 「本物じゃないって。じゃあ、仲達の所に居るのが」

 

 「いいえ。あの子もまた、本物の貂蝉ではないの。少なくとも、この外史には本来の貂蝉という人物は、存在していないわ」

 

 「……どういうこと?それに、外史って、何?」

 

 曹操と孫堅の質問に答えた貂蝉の台詞に、疑問を抱いた劉備がさらに質問をする。

 

 「そうねぇん。じゃあ、先に外史についての説明から入りましょうか。……外史っていうのはね、簡単に言えば、もしもの世界って所ね」

 

 「もしもの世界?」

 

 「そ。厳密にはちょ~っと、違うんだけど、概ねはそんな感じだと思ってくれていいわ」

 

 『…………』

 

 貂蝉の話を、静かに聞く一同。

 

 「正史という、本来の歴史を元に、さまざまな人々が望み、それが具現化して誕生した世界を、私たちは外史と呼ぶの。そう、劉備ちゃんや曹操ちゃん達が男である、本来の歴史から、ね」

 

 「わ、私たちが男、ですか?」

 

 「……私が男、ねえ。もしそうだったら、冥琳と結婚できてたりして」

 

 「……何を馬鹿なことを言っている」

 

 「やーね、冥琳てば。冗談よ、じょーだん。もう、紅くなっちゃって、可愛いんだから」

 

 「……雪蓮、あんたは少し黙ってな」

 

 コツン。と、娘の頭を軽く小突く孫堅。

 

 「あいた」

 

 

 「……ちょっと良いか?貂蝉、あんた今、それが本来の姿だって言ったよな。それじゃあ」

 

 「そーよ、ご主人様。そのとおり、この世界もその外史の内の一つなのよ」

 

 「ひとつ、ってことは、ほかにもたくさんあるってことでしゅよね」

 

 一刀の質問に答えた貂蝉に、今度は諸葛亮が次の質問を投げかける。

 

 「そーいうことよん。例えば、そこに居る孫堅さんが、すでに戦で命を落としていたり、劉備ちゃんとご主人様が、兄妹では無かったり。曹操ちゃんと兄妹だったりとか、ね」

 

 「……なるほど、ね」

 

 「あたしと一刀が、兄妹じゃない、か」

 

 貂蝉の台詞に、複雑な表情を浮かべる、劉備と孫堅。

 

 「外史の概念については、これである程度わかって貰えたと思うわ。んで、私についてなんだけど、私は、無数に存在する外史の管理と保全を行っている、時空管理局の特別業務執行官なの」

 

 「じ、じくーかんりきょく、とくべ……え?」

 

 「特別業務執行官、よ」

 

 「……なんなの、それ?」

 

 「簡単に言えば、見張りと警邏を同時に行う組織って所ね。……外史というものの存在が明らかになって以降、正史の人々の間にはね、それを利用して自分の欲求を満たそうとする人が、出てきたの」

 

 自分の肩書きと、その仕事内容を語りだす貂蝉。

 

 「欲望を満たす、か。……具体的には?」

 

 「自分でその外史の支配者になったり、歴史を自分の都合良いように、書き換えたりとか、ね」

 

 「……できるんですか、そんなこと」

 

 率直な疑問を持つ劉備。

 

 「やろうと思えばね。……曹操ちゃん、貴女、十里以上離れた所から、一瞬で千人以上を吹き飛ばせるような、そんな武器を持ったやつに勝てる?」

 

 「……限りなく、不可能に近いわね」

 

 「そーゆーことよん」

 

 うふん、と。返事をした曹操に、ウインクをしてみせる貂蝉。

 

 「……オエ」

 

 「ま、失礼しちゃう」

 

 「至極当然の反応だろうが。……脱線はそのぐらいで良いから。で、仲達ってのも、そういうやつらの一人だと?」

 

 「そうね。ただ、彼の場合、人とはちょっと一線を画しているのよ」

 

 「……彼、ですって?ちょっと待ってよ、私の知ってる司馬仲達は」

 

 「女の子だって、そう言いたいんでしょ?曹操ちゃんは」

 

 「……そうよ」

 

 

 

 腕組みをしたまま、貂蝉に鋭い視線を向け続ける曹操。

 

 「今、晋の皇帝になっているあの娘はね、紛れもなく、この外史の住人なの。ただし、本来なら決して、表舞台に立つはずの無かった、ね」

 

 「……つまり、虎豹騎の親玉とは、別人だと?」

 

 「そ。あの子はね、仲達に選ばれただけなのよ。自分のスケープゴート、隠れ蓑としてね」

 

 「なら、その仲達ってのは何者なんだ?聞いてる限りじゃ、何がしかの犯罪者のようだけど」

 

 周瑜のその問いかけに対する、貂蝉の答えは、

 

 「そう、ただの犯罪者よ。ただし、たちの悪いことに、物理学、生物学、遺伝子学、化学をはじめ、時空間理論や魔術理論などなど、ありとあらゆる分野のエキスパート。……ようは、とんでもない天才なの」

 

 「……なんか、聞いたことの無い学問ばかりね」

 

 「それは仕方ないわ。どれも、あと千年はしないと、生まれてこないものばかりだもの」

 

 「千年……。気が遠くなるような話だね」

 

 そんな、はるか未来の技術に通じたやつが、諸悪の根源であり、自分たちの敵なのかと。一刀たちは、あまりの衝撃に言葉を失う。

 

 「そしてもう一つ。彼が質が悪いのはね、極端な快楽主義者だってこと」

 

 「快楽主義者?」

 

 「そ。ありていに言えば、自分が楽しければ、他はどうでもいいって言うね。……下手をすれば、自分自身の命すら、ね」

 

 「……さいてーなやつだな」

 

 「そ、さいてーよ。人どころか、生き物の命をなんとも思っていないんだから」

 

 自分の快楽のためなら、他者の命を屁とも思わない。一刀らその場に居るものにとって、最も忌み嫌う存在。

 

 それが、仲達という男の正体だった。

 

 

 

 「で、私はそーゆー連中を捕まえるのが、本来のお仕事なの。もっとも、手続きとかがいろいろと面倒でね。外史に渡るときも、その外史の安定をできる限り崩さないように、そこに存在するはずだった人物の名を、借りることになっているのよ」

 

 それが、今の貂蝉という名であると。貂蝉はそう語った。

 

 「その姿は、お前本来のものなのか?」

 

 「いーえ。これはね、外史において活動する際の、いわば-そうね、防護服みたいなものよ。これをつけていないと、多分私は外史そのものに拒絶されて、時空の狭間に押し出されるでしょうね」

 

 「じゃあ、中はどんな姿なんだ?」

 

 「どぅふふふ。それはもう、目もくらむような、絶世の美女よん。ご主人様だって、私の本当の姿を見たら、もう、いちころなんだから」

 

 「……信じられん」

 

 じと目を貂蝉に向ける一刀。

 

 「お前に関しては、それで良く判った。では、あの虎豹騎の連中は何なんだ?まるっきり痛みを感じない人間など、この世に居るわけが無いだろうが」

 

 今度は華雄が、しなを作っている貂蝉に問いかける。

 

 「……おそらく、なんだけど。向こうの貂蝉を含めた、五神将を初めとした虎豹騎の兵士たちは、多分、”ホムンクルス”を基礎にした、”サイボーグ”だと思うわ」

 

 「ほむんくるす?さいぼーぐ?なんだいそれ?」

 

 また貂蝉の口から出た、耳慣れない単語に、思わず問い返す一刀。

 

 「ホムンクルスっていうのはね、人工的に作られた生命のことを言うの。そしてサイボーグっていうのは、体にからくりを埋め込んで強化された生物のことよ」

 

 「……つまるところ、人ではないってことか?」

 

 「違うわ!……あ、いえ。大声出してごめんなさいね。……本来、ホムンクルスもサイボーグも、私が本来属する正史の未来では、ちゃんとした個人として認められた”人”なの。でも」

 

 そこまで言って、悲痛な表情を浮かべる貂蝉。

 

 「……でも?」

 

 「仲達はね、生まれたホムンクルスの脳を、機械と入れ替えて、自我を持たない”兵器”として、密売を行っていたのよ」

 

 『んな?!』

 

 正直に言えば、一刀たちは貂蝉の話を半分も理解出来ていなかった。だが、仲達のしていることが、外道の行いであることは、十分に理解できた。

 

 そして、それを悔し涙を浮かべて語る、貂蝉の心情も。

 

 

 

 「そうして得た資金で、仲達は独自に次元転移装置を完成させたの。……管理局以外は所持を許されていない、その装置を積んだ舟とともに、ね」

 

 「で、その何たら言う装置を載せた船を使って、やつはこの世界にやってきたと」

 

 「そ。……ただ、ね」

 

 「ただ……なんだよ?」

 

 「……彼の本当の目的が、良く判らないのよ。この外史で何をするつもりなのかが、まったくね」

 

 「……あなたの言う、歴史改変とやらじゃないの?」

 

 「……やり方が、ね。あまりにも回りくどすぎるのよ」

 

 「確かにな。それだけの力を持っているなら、もっと積極的に動いていても、よさそうなものだ」

 

 眉間にしわを寄せて首をひねる貂蝉に、一刀もまた同意の意見を口にする」

 

 「……とりあえず、仲達の目的については、本人をとっ捕まえて聞き出すしかないってこと?」

 

 「そういうことねん」

 

 「……貂蝉。いろいろ教えてくれてありがとうな。おかげで、決心がついた」

 

 「……やるのか、一刀」

 

 「ああ。どのみち、あの連中をこれ以上のさばらせておくわけには、いかないからな。まずは、晋を倒す。その上で、仲達をふんづかまえる」

 

 「……私も、協力させてもらうわ、一刀」

 

 打倒晋をはっきりと口にした一刀に、曹操が笑顔でその手を差し出す。

 

 「……ありがとう、華琳」

 

 「魏・呉・蜀の三国同盟か。あたしらも乗らせてもらうよ、一刀」

 

 「ありがとうございます、陽蓮さん」

 

 しっかりと。その手を握り合う一刀、曹操、孫堅の三人。

 

 「一刀兄、妾たちも忘れてもらっては、困るのじゃぞ」

 

 「そうですわ、一刀さん。この袁本初も、惜しみなく協力させていただきますわ」

 

 満面の笑みを浮かべる、袁術・袁紹の二人。

 

 「……麗羽あなた、変なものでも食べた?それとも、熱でもあるのかしら?」

 

 「ちょっと華琳さん!どういう意味ですの?!」

 

 「言われても仕方ないと思うけどな~。姫の場合」

 

 「猪々子さん!貴女まで何を言うんですの?!」

 

 「あああ~。麗羽さま、落ち着いてください~」

 

 ぎゃいぎゃいと、言い争いをはじめる袁紹と文醜を、何とかなだめようとしている顔良。

 

 「……ぜんぜん変わってないな、こいつら」

 

 「だね」

 

 それを冷ややかな目で見る、公孫賛と劉備だった。

 

 

 「ご主人様」

 

 「なんだよ、貂蝉」

 

 「私は、戦には規定で参加することが出来ないの。無責任だとは思うけど……」

 

 「そんなことは無いさ。貂蝉のおかげで、かなりのことがはっきりしたしね。それに、この世界のことは、この世界の人間の俺たちで、けりをつけないとな」

 

 すまなそうな表情の貂蝉に、やさしく微笑む一刀。

 

 「……ありがと。やっぱり、ご主人様はどこの外史でも、あたしの知ってるご主人様だわ。……今後は、お傍でしっかり応援させてもらうわよぉん」

 

 「……まあ、あまりそばには寄って欲しくは無いけど」

 

 「ああん!ご主人様のい・け・ず」

 

 「……とりあえず、ご主人様はやめれ」

 

 「いや」

 

 「即答かよ!」

 

 あははは、と。

 

 二人のそんなやり取りに、場はすっかり和み、笑い声が室内にこだまする。

 

 そんな中、ただ一人だけ、浮かない表情の人物が居た。

 

 劉備である。

 

 一人、そっとその場を後にする。

 

 

 

 襄陽城の中庭。

 

 すでに夜の帳が辺りを包み、空には満天の星空。

 

 その星空を、一人見上げる劉備。

 

 「……ハァ」

 

 夜空を見上げてはため息をつき、また再び夜空を見上げる。そんな事を何度か繰り返したときだった。

 

 「……な~にをたそがれてるのかしら、劉備ちゃん」

 

 「……あ、貂蝉さん」

 

 「なあにを考えていたか、当ててみましょっか。……ご主人さまのことでしょ」

 

 「……やっぱり、わかります?」

 

 「まぁね。あたしも一人の漢女として、乙女の心はよ~く、わかるわよん」

 

 くねくねともだえながら、劉備に乙女(漢女?)心を語る貂蝉。

 

 「あ、あはは。……ね、貂蝉さん。私と一刀が、兄と妹じゃない世界があるって、本当?」

 

 「……ええ、本当よ。というより、本来はそれがあるべき状態なんだけど。少なくとも、正史においての劉備玄徳には、劉翔北辰という実兄は、存在しないわ」

 

 真剣な表情で問いかける劉備に、同じく真剣な表情で返す貂蝉。

 

 「……なんでこの外史では、二人が兄妹になっちゃったかは、正直私にもわからないわ」

 

 「……そっか」

 

 くるり、と。貂蝉に背を向ける劉備。

 

 「……全部が終わったあと、あたしたち、このまま一緒に居られるのかな?」

 

 「……それも判らないわね。未来の事象を完全に予測できる存在なんて、神様ぐらいしか居ないわ」

 

 「神様、か。居るとするなら、相当意地悪な神様だよね」

 

 「そうね。かなりの、いじわる、んね」

 

 くすり、と。かすかな笑みをこぼす劉備と貂蝉。

 

 

 夜空を彩るは、幾万の星空。

 

 二人を照らすは、月明かり。

 

 

 最後の戦いの幕が、まもなく上がろうとしていた……。

 

                            ~続く~

 

 


 
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