~一刀が蜀を去って数日後の魏~
「完璧ね・・・・・」
そうとしか言いようがない。
教師の育成論、財の充て方・・・・・・・・それ以外もどれも非の打ち所がない完璧な書類だ。
「風もビックリです~」
「一体これは誰が作ったの?」
「話を聞くと織田信長と名乗る方がこれを書いたそうです~」
「織田信長? 変わった名前ね」
「どうやらここの出身の方じゃないそうで」
「ふぅん。で、そいつは蜀に居るのかしら?」
これほどの人材だ、直ぐにでも城に招いて文官として雇いたい。
「いえ~それがですね~、どうやら放浪の旅の途中らしくて蜀の方々のお誘いも全部断ったらしくて風が蜀に着いた時には既に旅立ったあとだったんです~」
「そうなの・・・・・・それは残念ね」
だがここで諦めては曹孟徳の名が廃る。
この人材を野に放ったままではあまりにも勿体無い。
それに三国が平定した今でもまだまだ野盗は沢山いる。いつ後ろから背中を刺されてもおかしくない世の中だ。もしそんなことがあれば国にとって大きな損失だわ。
「華琳様が懸念なさってることは問題ないかと~」
「あら、何のことかしら?」
さすがに長い間私に仕えてるだけのことはあって考えてることが分かるみたいね。
「その人相当強いらしくてあの愛紗ちゃんを圧倒する程強いそうなんですよ~。あと試合に負けたらしいですけど聞く処によると恋ちゃんともほぼ互角に張り合ったらしいです~」
あの美髪公と名高い関雲長を圧倒して三国一の将と名高い飛将軍呂布とほぼ互角?
「へぇ・・・・・ますます気に入ったわ」
こんな話を聞いてはますます野放しには出来ない人材だわ。
「風、直ぐに各国に手配なさい。あと何人か調査の兵を出しなさい」
「はい~、直ちに~」
風が部屋から出て行くの確認してから椅子に大きくもたれ掛かる。
「・・・・・・・・ふぅ、疲れているのかしら」
もう一度放浪の旅人が残していった書類を見る。
「・・・・・・・・ふぅ」
また溜息をついてしまう。
やはり何度見ても思ってしまう。想像以上に彼のことを恋しくなっているのかもしれない
「一刀の文字にそっくりだわ・・・・・・」
一刀の文字はかなり個性的だったから今でもよく覚えている。
一瞬だけ希望を考えてしまうが直ぐに振り払う。あのバカがこの世界に帰ってきたら直ぐに自分のもとに来るはずだ。
「早く帰って来なさいよ、バカ・・・・・」
もう一刀がいなくなってから三年の月日が過ぎた。
いい加減待つばかりはもう飽きた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「蒸し暑い・・・・・・・」
俺は現在南蛮の森の奥地を歩いてる最中だ。
いい加減暑さにまいって外套も外してしまっている。こんな森の奥地で人に会うことはまずないだろう。
「信長、頑張れ!!患者を救う為に!!」
隣でやたらと熱い声で話掛けてくる華佗のせいで余計に暑く感じてしまう。
どうして俺がこんな南蛮の奥地を華佗と一緒に歩いてるかというと・・・・・・・・・・
~一刀が蜀から飛び出して少し経った蜀の末端の野道にて~
「さーて、考えもなく飛び出したはいいがこれからどうするかな?」
はっきり言ってどの方角に行けば何処に行けるかなんて分からない。
「まあ適当に道なりに進めば大丈夫だろ」
そう思い歩き始める。
しばらく歩くと奇妙な集団がいた。
何か言い合いをしてるみたいだ。もっと近付いてみよう。
どうやら盗賊と一人の男が揉め合ってるようだ。
「折角のカモを逃しちまいやがって、てめぇ覚悟出来てんだろうな?」
「俺は治療をしただけだ。医者が患者を治療して何が悪い!」
「うるせぇ! 野郎共、たたんじまえ!!」
危ない!
「はあああああぁぁぁぁ!!」
「うぎゃあ!?」
と思ったが危ないのは盗賊のほうだった。
やたらと熱い咆哮と共に盗賊達が吹き飛んだ。
素手でよくやるもんだ。あとうるさい。
今の光景に口をだらしなく開けて見ていると先程盗賊を吹き飛ばした男がこちらに気付いたようだ。
「驚かせてすまなかったな」
「ああ、それは全然構わないけど・・・・・」
「その身なりからして旅の者か?」
「ああ、そうだよ」
「俺の言えた義理ではないがこのご時世に一人旅は危険だぞ?今の俺のようなこともある。旅をするなら気をつけた方がいいぞ」
初対面の俺の心配をしてくれる。こいつはきっといい奴だな。
「まあ俺は大丈夫だ・・・・・・よ!!」
「・・・・・!?」
俺はこの男を背後から斬りかかろうとしていた盗賊の頬に一発拳を喰らわせる。
その位置から不意打ちしようとしたら俺から丸見えだろう。常識的に考えて。
なんつーベタなやつなんだ。
「ま、この通り腕には多少自信があるからね」
「そのようだな。いらぬ世話だった」
「じゃあ俺はこれで・・・・・」
あまり長話をしていると日が暮れてしまう。
俺はまた道を歩き出した。
「まあ待ってくれ」
男が俺の肩を掴んで呼び止める。
「まだ何か用があるのか?」
「その前にひとつ質問なんだがこれから行く宛があったりするか?」
「いや、特にないよ」
「それは丁度いい。先程の盗賊を倒す手際の良さ、武人ではない俺から見ても見事なものだった。それを見込んで頼みたいことがある!」
「頼みたいこと?」
「ああ、俺は薬の材料を調達する為に旅をしていてな。今回探している薬の材料が少々手に入れづらい代物なんだ」
「へぇ。 何を探してるんだ?」
「龍の玉だ。南蛮の奥地に人々を苦しめている悪龍がいると聞いてな」
龍ってあの龍だよな?
・・・・・・まあこの世界の基準について分からないから存在しない根拠なんてないから本当に居るのかもしれない。
まあそれはともかく龍って男のロマンだよね?
人助けにもなるみたいだしこの話に乗らない手はない。
「ああ、いいよ。龍も見てみたいし是非ご一緒させて貰うよ」
「おお! 礼を言うぞ!! おっと、まだ自己紹介してなかったな、俺は華佗。五斗米道の流れを汲む医師さ」
「・・・・・ごっどう゛ぇいどう?」
「そう、五斗米道だ。嬉しいぞ、初対面だとみんな発音を間違えるんだ」
確かにこの国の人には受け取りづらい発音である。
「おれは織田信長。三国を旅してるただの旅人だ」
「では行こう、信長よ!病魔に苦しむ人々の為に!!」
華佗が握り拳を作って叫んだ。なんて熱いやつだ。
こうして南蛮への旅が始まった。
そして華佗は医者より勇者のほうが天職だと思う。こんなに暑苦しい医者なんていないよ。
~時は戻って再び南蛮の奥地~
「しっかし蒸し暑いな~・・・・・」
「ああ、それゆえにここに来ると病に倒れる人も多いそうだ。今回は俺が傍にいるから大丈夫だがな」
「はは、そりゃあ心強い」
しかしどれだけ歩いても森、森、森だ。
かれこれ二日は南蛮の森の中を歩き続けている。
本当にこの先に目的地があるのか不安になってくる。
「まだなのかー、華佗ー」
「どうだろうな」
「うわぁ、なんという行き当たりばったり・・・・・・・どわぁ!?」
突然視界が反転して空と地面が引っくり返る。
・・・・・・・・どうやら罠に掛かったみたいだ。足に縄が絡まって木から宙吊り状態になっている。
「獲物だにゃー!」
「えものだにゃー!」
「えものだにゃー!」
「えものにゃにゃー!」
茂みから突然四人の女の子が飛び出してきた。
「いや、獲物じゃないから」
とりあえず冷静にツッコマせてもらおう。そしてさっさと罠を解いて欲しい。
「む? 逃げる気かにゃ?!」
いや、逃げる逃げない以前に獲物じゃないから。
「うっ、痛たたたた・・・」
「だいおーさま、どうかしたのかにゃ!?」
「したのかにゃ!?」
「しにゃにょかにゃ!?」
突然リーダー格っぽい女の子が腹を抱えて苦しみ始めた。
「大丈夫か、俺に見せてみろ」
華佗が即座に診断をし始める。なんで診断してんのにそんなギラついてんだ?
「病魔は・・・・・・見えた!!!」
華佗が鍼を大きく構える。
「我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快!必察必治癒・・・病魔覆滅!げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
・・・・・・・治療、完了!!」
「おお、治ったのにゃ!」
「だいおーさまー!!」
「ああ、元気になってなによりだ!」
「・・・・・・それはよかったけどさっさと俺を木から下ろしてくれないかな?」
「ああ、すまない。忘れていた」
こいつシバいたろか・・・・・・・。
「この先の山の山頂に、龍が住んでおると伝えられておるのにゃ!」
「られておる!」
「られれおる!」
「られれろるー!」
「そうか、ありがとう孟獲!」
「なに、みぃのおなかが痛くなったのを治してくれた礼なのにゃ!気にするでにゃいにゃ!」
この子が南蛮の王、孟獲だったなんて予想外だ。
「じゃが、この先の道程は険しいじょ? この辺りの者も、危なくて誰も近寄らないのにゃ」
「だが、俺たちは行かなくちゃならないんだ! そこに龍がいるかぎり!!」
今、山頂では龍との死闘が繰り広げられている。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
流石伝説の生き物。一筋縄ではいかない。
何回も攻撃を浴びせているが大した効果が得られない。
「だが、負けるわけにはいかない!!」
俺は龍に向かって爆進する。
「俺も負けてられないぜ・・・・・! 龍の急所は何処だ・・・・・はあああああぁぁ!」
華佗も俺に負けじと応戦する。
「見えた・・・・! あいつの弱点は・・・・・・口かっ!」
「華佗! 俺が弱点までの道を作る!! 行けええええええぇぇ!!」
「ならば、行くぞぉぉっ!我が身、我が鍼と一つとなり!一鍼同体!全力全快っ! 輝け金鍼!
・・・・・・・うおおおおおぉぉ!!
げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇ!」
「元気にしてどうすんだ!?」
思わず心からツッコんでしまう。
「大丈夫だ、よく見てみろ」
「龍が、泡を吹いている・・・・・?」
「薬も過ぎれば毒となる。龍の強い生命力を利用させて貰ったのさ!」
「なるほど。 まあそんなことより、俺たちは勝った、勝ったんだああああぁ!!」
俺は刀を空にかざし腹一杯叫ぶ。
・・・・・アレ? 俺なんかこいつのテンションに流されてね?
龍を倒し終えた後、俺達は南蛮を離れて、野道を歩いている。
「なあ信長、俺は以前お前と何処かで会わなかったか?」
唐突に華佗が質問してきた。完全に油断した状態からの質問だから焦ってしまう。
「ど、どうしてそう思うんだ?」
「お前の顔を見ているとな、こう・・・・・・・何かとても悔しい気持ちになるんだ」
「悔しい気持ち?」
「そう、まるで・・・・手遅れだった時の患者に出会った時と似た感情が湧きでてくるんだ」
「いや、気のせいじゃないか? 俺はこの通りピンピンしてるし」
「そうか・・・・・それもそうだな!」
・・・・・よかった。上手いこと回避出来たようだ。
華佗も俺と昔何処かで会っていたかもしれない。しかし手遅れの患者と似た感情ってなんだ?
俺が手遅れの患者として華佗と出会っていたら俺は今頃ここにはいない筈だ。
「俺は薬を届けに魏の都に向かうが信長はどうするんだ? よければ俺と一緒に来ないか?」
「いや、遠慮しとくよ。俺は・・・・・・・そうだな、呉に向かうよ」
魏には最後に行くつもりだ。危険な場所は極力回避しなければ。
「そうか、それは残念だな。信長、お前には本当に感謝している。もし病に倒れたらいつでも言ってくれ!」
「ありがとう。 それじゃ華佗、俺はもう行くよ」
「ああ、またな信長!!」
俺はこの後、華佗に呉の方角を聞いてから呉に向かった。
Tweet |
|
|
67
|
1
|
追加するフォルダを選択
真・恋姫†無双 記憶の旅 6
今回も少々コメント返しをしときます。
一刀の顔を見ての反応ですが一刀の顔は当時と比べて若干大人びているのと髪型が変わっているので反応するかしないかは、まあ・・・メタいこと言いますと私の気分です。適当でゴメンね。
続きを表示