警邏は大した事件がなく俺が加わる必要があまりなかったし、前回の案件の件もあってか今日は書類の処理を任されている。
と言っても部外者である俺に任される書類は重要な内容がある筈もなく、ってか渡されても丁重に断ったので簡単な案件ばかりだ。
「これで・・・・・終わりっと」
予想以上に早く終わってしまった。
さすがにこれだけの仕事でお金を貰うとなると申し訳ないから後で追加の仕事を貰ってこよう。
「まあ、しばらく散歩するくらいならバチは当たらんだろ」
椅子から立って一度背伸びをしてから部屋を出た。
「お、みんな鍛錬をしてるな」
中庭に行くとみんなが鍛錬に励んでいた。
・・・・・さすがに将の官位に付くだけのことはある。みんな持っている気迫が違う。
自分の居た所がどれだけ温い場所だったのかが思い知らされる。
「おや、信長殿ではないですか」
鍛錬中の関羽と目が合うとこちらに近付いてきた。
「ああ、今日の仕事がもう終わっちゃってね。だから散歩していた所さ」
「もうですか? 仕事が早いですね」
「だからしばらく見学させて貰っていいかな?」
「それは構いませんが。 宜しければ手合わせをお願いできますか?」
「へ? 俺なんかで良いのか?」
「良いも何も私は最初あなたの武を見込んでここで仕事して貰おうとしてたんですから。文官としても有能だったのは予想外でしたし」
「あっ、ズルいのだ! 鈴々もお兄ちゃんと戦いたいのだ!」
「な、鈴々!?」
「そうだぞ、愛紗。 抜け駆けはズルいぞ」
鈴々と星も話に混ざってきた。
「何だ何だ?」
「蒲公英もいるぞー!」
翠と蒲公英も集まってきて
「俺はこんな人数相手出来ないぞ?」
「だから最初に言った私が!」
「鈴々が相手するのだ!」
「愛紗は一度見ているから後で構わないだろう」
これでは埒が明かないのでジャンケンしてもらい結局言いだしっぺの関羽が相手になった。
俺は部屋から刀を持ってきた。まあ模擬戦だから実際に使うわけではないが心を引き締める為だ。
外套を脱ぎ関羽と正面から向き合う。
さすが猛将と呼ばれるだけある。向き合っただけで空気が痺れてると錯覚してしまう。
互いに模擬刀を構える。
「では関雲長、尋常に参る!」
言葉と共に関羽がこちらへ爆進してくる。
「はぁ!」
武器と武器が激突する。
やはり格が違う。気を抜けば一発でやられる。
だがそんなこと以前に ただ、心が狂喜している。たった一撃ぶつかり合っただけなのに心が震える。
「信長殿、笑っているとは余裕だな!!」
いけない、つい表情に出てしまったか。
「ゴメン、嬉しくてつい」
「嬉しい?」
そう、ここに自分の求めた力がある。
あっちの世界には無い、手を伸ばして探し続けた本物の武だ。
ここに自分の求め続けた意味がある!
互いに一歩も譲らず打ち合いが続く。
力は五分五分ってところか。
だが相手の武器のほうがリーチが長くて重い分遠心力がある。
力で勝負したらいずれは押されるな・・・・・。
だが不利ならこちらが有利な方向に運ばせるだけだ!
まずは飛び出して一気に相手との距離を縮ませる。
「くっ!?」
関羽も直ぐに後ろに飛んで避けようとするが無駄だ。
関羽の戦いは中国舞踊のように派手な動きだ。これが兵士達の言っていた美髪公の所以だろう。
対してこちらは飾り気の無く無駄な動きを一切省いてる地味な日本剣術だ。さらに武器の軽さもあって間合い取りの素早さは俺の方が圧倒的に上だ。
「くっ・・・・!」
関羽が苦しげな呻き声を上げる。
こうなればもうこちらの独壇場だ。
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「愛紗の奴なんか変だな」
「むー、なんか愛紗らしくない戦い方なのだ」
馬超と張飛は関羽の戦い方に疑問を浮かべている。
「・・・・・・・・違う、戦えないだけ」
遠くから見ていた呂布が呟く。
「にゃ? どういうことなのだ?」
「やれやれ、私が説明してやろう」
「星はわかるのか?」
馬超は小馬鹿にされた言い方に気も留めず質問する。
「信長殿はさっきから身軽な身を最大限に活かして愛紗の懐に入り込むように戦っている。あそこまで近寄られれば関雲長自慢の青龍偃月刀もまともに振るえずただのお荷物にしかならん」
「はー、それで愛紗はあんなに苦しそうなのか」
「そんなのドーン!ってやっちゃえばいいのだ!」
「それが出来たら愛紗も苦労せんよ」
星は溜息ひとつ吐いて言った。
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戦いはまだ俺の一方的な展開が続いている。だがさすがに合間なしの猛襲を仕掛ければこっちも疲れてくるな。
だがそれはこちらだけではなく関羽も同じ。いや、心に余裕が無い分関羽のほうが体力的にも精神的にも堪えてるだろう。
「くっ、だがこのままやられる関雲長ではない!!」
痺れを切らした関羽が体勢を直し渾身の一撃を叩き込もうとしてくる。
いけない、考えを巡らせていたら攻撃に間を作ってしまったか。
だが
「これで一本だ」
いくら速度があれど闇雲に突き出した武器なんて簡単に避けられる。
避けると同時にこのまま勢いに任せて俺は関羽の胸ぐらを掴み投げ飛ばした。
早い話が一本背負いだ。
「まだ終わらん!!」
関羽は地面に叩きつけられる直前に俺の腕を振り払い地面との衝突を受身で流した。
「ちょっとショックだな。今のはかなり自信があったんだけど・・・・・」
そして何がとは言わないが柔らかかった。ご馳走様でした。
「信長殿は体術もお使いになるのですか?」
今の一連の動作で間合いが広がったので関羽が俺に質問してきた。
「ああ、俺のいた場所は沢山の体術があったからね」
強さに貪欲だった俺がそれに食らいつかなかったわけがない。
柔道、ボクシング、合気道、古武術、ジークンドー・・・・・・・・数えたらキリがない。
「さあ試合再開だ!!」
一気に間合いを詰める。
「うっ・・・・・」
さっきの一本背負いのダメージは全部流せなかったのか関羽は一瞬動きを鈍らせる。
一瞬遅れて青龍偃月刀を繰り出すがもう遅い。
「よっと」
今度はさっきのようには受け流させない。
俺は関羽の武器を弾いてその隙に関羽の腕の関節を決めてそのまま地面に組み伏せた。
これは古武術の関節技だ。
そして最後に剣を首筋に突きつける。
「ふう、これで勝負あり、かな?」
「悔しいが完敗です・・・・・・」
やべぇ、泣きそうなくらい嬉しい。だって関羽だよ、あの関羽に勝ったんだよ!?
試合が終わってみんながこっち集まってくる。
「次は、次は鈴々となのだ!」
「待て、次はアタシだ!」
「何を言う!次はこの趙子龍とだ!」
ああ、また言い合いが始まってしまった。さっきのジャンケンで次の順番を決めりゃよかった。
一歩退いて遠目から言い合いを見てると袖を誰かに引っ張られた。
「ん?」
「・・・・・・勝負する」
確かこの娘は呂布。
・・・・・・・なにこのボスをやっと倒したと思ったら回復ポイント無しでのラスボス戦みたいな状況は。無理ゲーってこういう時に使うんですね、わかります。
「・・・・・・戦い方が恋と似てる」
「似てる?」
「・・・・・・・・・コクッ」
休憩を挟んでもらおうかと思ったけど今の言葉が気になる。
「うん、いいよ。勝負しよう」
「ああ!? 恋、抜け駆けはズリーぞ!?」
「ズルいのだ!」
「信長殿!?」
外野が何か言ってるが、あーあーボクナニモキコエナーイ
そして呂布との試合が始まった。
さすがに三国志最強と名高い呂布だ。
俺のほうが武器が軽いにもかかわらず速さがまったく変わらない。
しかも近づけば体術で攻められて隙がまったく無い。
・・・・呂布の体術はあっちの世界で例えるならマーシャルアーツに近いな。武器相手を前程として、合理的。そして護身としてではなく相手を仕留める為の動きだ。三国式軍隊格闘術とでも言うべきか。
武器で攻め、近づけば体術で応戦する。確かに言われると俺とよく似た戦い方だ。
だが呂布のほうが格上だ。
剣を使っても体術を使ってもまるで勝てる気がしない。
「・・・・・それに、ハア・・・・結構疲れが溜まってきてるな」
正直そろそろ限界だ。
そう思い俺は模擬刀を鞘にしまう。
「・・・・・・・なんで武器を構えないの。まだ終わってない」
「これから見せるのは最後のあがき。まあ大和魂ってやつだ」
「・・・・・・・・やまとだましい?」
限界まで脱力する。
正直この国の形の剣では上手くいくか自信はない。だが俺にはもう選んでる余裕も無い。
「俺に構わず続けてくれ」
「・・・・・・・・わかった」
呂布が凄い速度で突進してくる。
「だがそれがいい。その勢いがいい」
俺は高速で抜刀する。
最大限の力を生み出す一発限りの技、居合いだ。
互いの武器がぶつかり合う
ミシッ・・・・・・・・パキン。 ベキッ・・・・・・・ゴトッ。
衝撃に耐えきれず互いの武器が折れた。
「・・・・・・・武器を変えて続き、する」
「いや、俺の負けだよ。 降参」
「・・・・・・・・なんで?」
「俺今日はもう武器が握れそうにない」
手の震えが止まらない。もう限界だ。
結果は負けたがまあ最後の悪あがきは成功だな。
「まあ呂布にこれだけ食らいついただけでも僥倖だな」
「・・・・・・・・恋でいい」
「あー、そのことなんだけどさ、みんなにも聞いて欲しいことがある」
みんなの視線が俺に集まる。
「やっぱり今の俺はみんなの真名を預かるに値しない男だ」
「またいつものご謙遜を・・・・・」
関羽が呆れまじれに言う。
「いや、今回は違うよ。この短い間で思ったんだけど今の試合で本気をぶつけられて確信した。俺は真名ってやつの認識が甘かった」
ひしひしと伝わってきた。生き様という本気のものが。そして真名というのはそんな気持ちを抱いた人達の誇りそのものだ。
「俺は言えないけど皆に後ろめたい気持ちがある。今のままの俺じゃ君等の真名を受け取るのは失礼過ぎる」
「だが一度預けた真名を突き返すのも無礼そのものですぞ?」
趙雲が目を細めて言う。
「うん、その通りだ。だから・・・・・・・・」
俺は置いておいた自分の刀を持ち上げてハッキリと言う。
「今は俺の変わりにこの刀に預けてほしい。俺が皆に後ろめたいもの無く向き合えるその日まで」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
しばらくの沈黙が続き・・・やがて関羽が口を開いた。
「・・・・・・その刀の名前を聞かせてください」
「・・・・・・・・・・一刀。この刀の名前は一刀だ」
冷静に考えれば危険極まりない行動だろう。
だがこうでもしないと皆に申し訳が立たない。だから後悔はしない。
「わかりました、我が真名、その剣に託しましょう」
この刀にしばらくの間一刀の名を預けよう。そして皆の真名を。
すべてが終わるその日まで・・・・・・・・・・。
~翌日の城門前~
「朱里ちゃーん、風は到着したんですよ~」
「ああ、風ちゃん、待っていました」
「まだ学校の案件は解決出来ませんか~?」
「・・・・・はい」
「ん~ おぉ?」
「どうしたんですか、風ちゃん?」
「何やらとても懐かしい匂いを感じまして~」
「はわわ!? 風ちゃん何処に行くんですかー!?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はわわ!? 風ちゃん、そこはお客さんが使ってる部屋で・・・・・・」
「開けますよー」
ガチャッ
「あれ、信長さんいないのですか? あれ、こんな所に書類が・・・・・・「学校改善案」?」
ペラッ・・・・・・ペラッ・・・・・・・
「どうしたんですか朱里ちゃん? 顔色を変えて」
「す、凄いです!! 今ぶつかっている学校の問題がすべて解決できます!!」
「信長さん、本当に何者なんでしょうか・・・・・・」
「風にも見せてもらっていいですか~?」
「あれ、ここに手紙も・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
みんなへ
勝手にいなくなってゴメン。
ここにいると居心地が良くて決心が揺らぎそうだ。
だから少し早く出発することにした。
今までありがとう。
信長
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「・・・・・・信長さん、ずっとここに居てくれてもいいのに」
「朱里ちゃーん、この書類を華琳様に見せてもいいですか~?」
「はい、それは構いませんけど」
「では風はここで昼寝させてもらいますね~」
「はわわ!?」
「この部屋はとても優しい空気に包まれているんです~。それにとても懐かしい気がします。まるで・・・・・・・ぐぅ」
「はわわ、寝ちゃった・・・・」
~つづく~
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真・恋姫†無双 記憶の旅 5
前回真名に関するコメントがあったので補足をば。
桃香の時の軽々しさもあって一刀は真名を預かる前は真名に関して分かったいてもそこまで重大とは思ってなかったのです。
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