村の復興は無事に終わり俺は今関羽さんと一緒に蜀の都に向かっている。
旅は順調そのものだ。
変わったことと言えば外套で顔を隠すことにした。
いつ何時俺を知ってる人がいるか分からない。まあ他人の空似で済ませればよさそうでもあるが。
「織田殿、そんな格好で暑くないのですか?」
うん、正直メチャクチャ暑い。
「ああ、ちょっと気分が優れなくてね」
まあ嘘としてはこれが一番か。
「そうなのでしたか。あまりご無理はなさらないようにしてくださいね」
「うん、ありがとう 関羽」
うう、嘘をついてるとその優しさがキツい・・・・・。
「いえ、わ、私は客人に当然の気配りをしただけなので礼を言わないでください!」
そう言って向こう側を向いてしまった。
くっ・・・! 何気にない仕草だが思わずドキッとしてしまった。
「あの・・・・・あまりジロジロ見ないでください」
「あ、ごめん」
「ゴホン! あ、そろそろ蜀の都に着きます」
話をを逸らされた。もう少し困った顔を見たかったからちょっと残念だ。
まもなくして俺たちの前に蜀の都の門が見えてきた。
うん、まず一言。 凄く・・・大きいです。
通りは人で賑わい人が忙しなく動いている。
活気が溢れた街とはこういうのを言うのだろう。
「じゃあ関羽、案内ありがとうな」
「何処に行かれるのです?」
「俺このせか・・・・もといこの国に来たばかりでここの通貨を持ってないんだよ。だから短期間働ける場所を探さないといけないんだ。では」
・・・・・どうしてこうなった?
俺の前にはニコニコ笑っている蜀の王、劉備がいる。
そして俺は玉座の間に座っている。
俺は確か街に入った後関羽と別れて・・・・・・・。
そうだ、あの後関羽さんに止められて抵抗する俺を無理矢理・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・玉座の間に引っ張って来たんだ。
「ええ、桃香様、こちらの御仁に盗賊の討伐の際助けて頂きまして・・・・・・」
関羽が劉備に村で起こったことを報告している。
玉座の間には色々な人が集まっている。
あの、みなさんあまりジロジロ見ないで頂けますか?
「ほぇー、愛紗ちゃん大変だったんだねー」
間の抜けた声が玉座の間に響く。
何と言うかこうポワポワした娘だな、劉備って。
桃香に愛紗・・・・・・・。
これが貂蝉が言ってた呼んではいけない真名ってやつか。
無断で呼ぶと首を刎ねられても当然らしい。
「えっと、織田信長さん、愛紗ちゃんを助けてくれてありがとねー」
関羽の話を全部聞き終わって劉備が俺に話掛けてきた。
「いや、当然のことしただけだから」
「織田殿はまたご謙遜なさるのですね・・・・」
「ごめん、こういうのが美徳の国の生まれだからこればっかりはどうにもならないよ」
「・・・まあいいです。それで織田殿はこの国の通貨がないから仕事を探してると仰いましたね?」
「ああ、確かに言った」
「よければ此処で働きませんか?」
「・・・・・・・・は?」
「あなたの武の才を活かしては貰えませんか?」
「いや・・・・・・・・・まあ短い期間であれば」
「ありがとうございます」
あの、関羽さん。有無を言わせぬオーラを放たないで貰えますか?
断ろうにも断れないじゃないですか。
「ほぉ・・・。愛紗よ、随分とこの御仁の腕を買っているのだな。惚れでもしたのか?」
「わ、私はこの方の実力を純粋の買っているのだ!決してそんな思いなどない!」
「冗談だ。 しかし、ほぉ・・・・」
妖艶な笑みを浮かべた女性が舐め回すように見てくる。
あの・・・・・見ないでください。ホント、マジで。
「ああ失礼、私の名前は趙子龍だ」
「俺は、ほん・・・織田信長だ」
やっぱりまだ慣れないな。
「さっきから気になっておったのですが外套を外さんのですか?愛紗が認めるほどの御仁なのであれば一目顔を拝んでおきたいのですが」
痛い所を突いてくるな。
「ふむ、なんだか雛里を見ているみたいだな」
雛里?
顔を少し上げると大きな帽子を被った娘と目が合った。すると直ぐに「あわわ」と言って帽子で顔を隠してしまった。なるほど、この娘が雛里だな。確かに今の俺はこんな感じだ。
「で、お顔を見せてはくださらぬのですか?」
「まあ減るものではないしそこまで言うなら」
あまり拒むと余計に怪しまれるからここは素直に顔を見せておこう。
「ほぉ・・・・。これは中々端正な顔立ちですな。そのように隠すのは損ですぞ?」
「はは、そりゃどーも」
よかった。どうやら大丈夫みたいだ。
まあ髪型も高校生の頃と比べれば大分違うしそこまで神経質なる必要はないか。
この後色々な人達と自己紹介を済ませて今日が終わった。
蜀での生活
今日俺に割り当てられた仕事は警邏だ。
まあ街を覚えるというのも兼ねてこの仕事を任されたわけだ。
しかし平和だ。これではただ散歩しているだけだな。
おや、あそこにいるのは
「よっ、張飛と趙雲じゃないか」
「おや、織田殿ではありませんか」
「にゃ?お兄ちゃんか、どうしたのだ?」
「いやー、何もすることがなくてなー。まあ平和でなによりだけど」
「相変わらずお顔を隠しておられるのですか織田殿は・・・」
趙雲が呆れたように言う。まあ確かに四六時中顔を隠してればそう思うのも無理ない。
「まあこれが一番落ち着くからさ」
「ふむ、変わったお方だ」
「趙雲もかなり変わってると思うけどね」
「そういえば織田殿は何故旅をしておられるのですか?」
スルーですか。
「もし仕えるべき主を探しておられるなら桃香様は下に仕えることをお勧めしますぞ?」
「いや、そんなんじゃないよ」
「おや、違うのですか?」
「俺の旅の目的は・・・・・・・・・・・・・自分探しかな」
「ほぉ、それはまた随分と初々しい志で旅をしてますな」
趙雲がクツクツと笑ってくる。
まあ言葉を表面的に捉えたらそうなるか。俺の場合は随分と意味が違ってくるけどね。
「むー、鈴々には言ってることがよく分からないのだ」
「はっはっは、鈴々には分からずともよいことだ」
趙雲が張飛の頭をポンポンと叩きながら言う。
絶対この人は人をからかうのが好きだな。
「むー、何か馬鹿にされた気分なのだ・・・・・」
趙雲と俺は頬を膨らませて怒る張飛を笑ってしまう。
「あ、いたいた。おーい、信長さーん!」
趙雲と笑っていると劉備がこちらに手を振ってやって来た。
「どうしたんだ?」
「信長さんこの街のこと全然分からないと思って案内しに来たの!」
「それはありがたいけど自分の仕事は?」
「あー・・・・・えへへ・・・・」
駄目だこの王、早く何とかしないと・・・・・・。
それから二日間警邏の仕事をして何件か事件はあったが特に大きな事件は無かった。
まあ変わったことと言えば趙雲が仮面を付けて暴れまわっていたくらいか。
今日は諸葛亮に話があるので城の中で探している真っ最中だ。
政務室に入ると・・・・・・お、居た。
隣で劉備が涙目になりながら書類整理をしている。
いや、そんな目でこっち見ないで。手を差し伸ばしてやれないから。
「諸葛亮、ちょっと話があるんだが」
「はわわ! なんでしゅか!?」
あ、噛んだ。
何だろう。軍師って何かもっとキッツい性格なイメージがあるんだけどなぁ・・・・何となく。
「えーっと、警邏やってて気になったことがあるんだけどさ・・・」
「気になったこと、ですか?」
言葉を聞いた途端、諸葛亮は急に引き締まった顔になる。うん、実に面白い。
「うん。あ、その前に悪いけど街の地図ってある?」
「はい、ここにあります」
そういって諸葛亮は地図を用意して机の上に広げた。
「まずここなんだけどさ、ここの通りの警備兵の詰所が集中し過ぎてると思う。あとここは大通りに目が行き過ぎて隣の道に警備の目が行き届いてなかったと思う。あと・・・・・・」
地図を指差しながら気になった点を上げていく。
諸葛亮も気付いてなかったって顔だ。まあ実際にやらなければ分からないことだから仕方ない。
「確かに・・・・・織田さんの言う通りです。今度から直させて頂きます」
「うん、そうして貰えると言ったかいがあるよ。なんか悪いな、出しゃばったこと言って」
「ほぇー、信長さん凄いねぇ」
劉備が目を丸くしてそう言う。面と向かって言われると恥ずかしいな。
「あの、織田さんって以前何処かで文官の経験があったんですか?」
「いや、ないよ。 本当にただ何となく気になっただけだよ」
「何となくで普通ここまで気づかないよ・・・・」
劉備にそう言われるが本当にそれだけなので反応に困ってしまう。
「すいません、織田さんにこの案件を見て頂きたいのですが」
そう言って諸葛亮が竹簡を見せてくる。見てみると内容は簡単な案件だった。
「えーっと、ここはもうちょっと出費を抑えて、ここに財を充てるべきだと思うよ。あとはこのまま進めていけばいいと思う」
これくらいなら経済や政治の勉強をしたかいもあって自信をもって答えられる。
そういえば俺さっきから何でここの国の文字を難なく読めてるんだ?
記憶が無いだけで知識はある程度残ってるのかな。
この後も何件か案件について質問されたけど問題無く答えられたと思う。
勉強したことが実を結ぶって気持ちいいものだ。
「あの、織田さん、短期間と言わず蜀で働いてくれませんか?」
「私も大賛成だよ! 信長さんが蜀で働いてくれれば大助かりだよ!」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
顔が思わず某自動車修理工になってしまう。
「だけど遠慮させて貰うよ」
「それは残念です・・・・・」
しばらく諸葛亮の質問に付き合ってると「学校」と書かれた書類が目についた。
「諸葛亮、この学校って書類は?」
「あ、学校と言うのは天界にある国が運営する私塾のようなものらしいのですよ」
「天界?」
「はい、天の御使い様が授けてくださった案なんです」
天の御使いって言うなら俺が出した案だろうな。気になるな。
「すまないけど少し見せて貰っていいかな?」
「申し訳ありませんがこれは割と重要な案件ですしとてもまだ人に見せれるものでは・・・・・」
「朱里ちゃん、いいんじゃないかな? 信長さんなら何か分かるかもしれないし」
自分で言っておいてあれだが劉備さん少し軽過ぎるじゃないですか?
「はわわ、桃香様がそう言うのであれば・・・・・」
許可も得られたので学校の書類に目を通す。
「どうですか?」
深く読み込んでいた俺に諸葛亮が質問する。
「あー、まあ今は答えは出せないかな。後日何か考えておくよ」
「そうですか。期待して待ってますね」
「じゃあ俺はそろそろ部屋に戻るよ。じゃあな、劉備、諸葛亮」
「私は桃香でいいよ」
「へ?」
「桃香様!?」
「だって信長さんこんなに仕事してくれてるんだもん、だから桃香でいいよ!」
「ん、まあ有り難く真名を預からせてもらうよ」
「よければ信長さんの真名も教えて欲しいかな?」
「あー、俺の居た国には真名っていう風習がないんだ。まあ強いて言えば信長が真名にあたるかな?」
まあ偽名だから真名にあたるのかも謎ではあるが本名は出すことは出来ないからこう言っておこう。
「ええ!?」「はわわ!?」
この後ちょっとした大騒ぎになって関羽や色々な人から真名を教えてもらうことになった。
真名についての認識は改める必要があるな。
~続く~
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私のイメージの中では関羽って御三家ポケモンのイメージがあるんですよね。だから最初に登場させました。まあどうでもいいが。
一刀は貂蝉から真名のことを聞かされてるってこと前提でお願いします。 最初に書き忘れてました。