No.178647

PSU-L・O・V・E 【綻び⑤】

萌神さん

EP11【綻び⑤】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-16 21:05:46 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:621   閲覧ユーザー数:616

ラブワード邸からホルテスシティを目指す車中で、不意にヘイゼルのビジフォンから着信音が鳴り響いた。着信相手を示すサブディスプレイを確認すると、見慣れぬ名前が表示されている。

「誰だ……?」

一瞬、眉を顰めたヘイゼルだが直ぐに思い出した。この名は何時だったか、キャス子カフェでパートナーカードの交換をした、むっちりしたキャストの名前だ。

「もしもし……」

『―――おお、繋がったか。お主とパトカ(パートナーカードの略)を交換をしておいて正解じゃったよ』

通話に応じると、受話器の向こうから安堵の声がする。

「何かあったのか?」

ユエルとは知った仲かもしれないが、自分とは殆ど縁の無い者から掛かってきた突然の通信である。何事か起こったと考えて良いだろう。

むっちりキャストは「うむ……」と頷くと、言葉を選んで話しを切り出した。

『ワシの取り越し苦労だったら良いのじゃが、どうも、お前さん達の事を嗅ぎ回っている者がおるようなのだ』

「何だと?」

むっちりキャストの言葉にヘイゼルは眉根を寄せる。

『カフェの面子の中にもお主達の事を尋ねられた者がおる。しかも、そやつは先日カフェの近くで起こった放火事件にも関わっているかも知れんのだ……』

「商業地区で放火? 一体何の目的で……思想団体のテロか?」

『そう言った類の連中なら、もっとハデに仕掛けるじゃろうな。しかし、近くにはワシ等がおった。総掛かりで消火作業を行ったのでボヤにもならなかっ……』

受話器の向こうの声が一瞬止む。

『……あの日、カフェにおった者は全員消火活動の応援に出払い、カフェはもぬけの空じゃった……』

むっちりキャストは、一瞬ヘイゼルの存在を忘れ、うわ言のように独り言つ。

『そやつの狙いが火災を起こす事ではなく、カフェから人を離す事が真の目的じゃったとすれば……じゃが何の為に?』

無人のカフェに帰還した時、テーブルの上に置かれていた焼き菓子の事を思い出す。

『カフェにはユエルが来ていた……ユエルも、その者と接触した可能性があるやもしれぬぞ』

話しがきな臭くなって来たが、ユエルからそのような不審な人物と会ったと言う話しは聞いた事が無い。だが、推測通りユエルが緋色の女と会っていたとすれば……何だ、二人は一体何を話した? 疑念が湧くが悩んでも答えは出ない。何しろ当事者はこの場にいないのだ。

「そいつの特徴は解るのか?」

『女性のキャストじゃった。パーツも髪も瞳の色も、全てが赤系色で配色された、譬えるなら"緋色の女"じゃ』

(緋色の……女―――?)

ヘイゼルの脳裏に先日のディ・ラガン討伐ミッションの記憶が過ぎる。

ユエルを救う為にディ・ラガンを追い、樹林を駆けていた時に目に飛び込んだ一瞬の人影……。

ビリーは完全に視認できていなかったようだが、ヘイゼルが視たその影もまた緋色の女性のように思えた。

『不安を煽ってしまったとしたらすまぬ……取り越し苦労かもしれんのじゃが、気になってな……』

「いや、そんな事は無い。わざわざ知らせてくれてすまない。礼を言う」

『気にするな……ところでのう。旦那はユエルが今どこに居るか知っておるか?』

「キャス子カフェに行くとしか聞いていないぞ?」

『そうか……実はお前さんに電話を掛けたのはもう一つ理由があってな。さっきの話し、実はユエルにもしておこうと思って彼女に電話を掛けたんじゃが……』

むっちりキャストは一度そこで言葉を切った。

『ユエルと連絡がつかんのじゃ……』

車を路肩に停車させ、モリガンは休憩がてらメンソールの紫煙を燻らせている。車外へ出たヘイゼルは落ち着かない様子で車の周囲をウロウロしながらユエルのビジフォンへコールを試みていた。しかし、呼び出し音は直ぐに機械的なメッセージに切り替わってしまう。

『お掛けになった電話は電波の届かない場所に在るか、電源が―――』

ヘイゼルは乱暴に通話の【切】ボタンを押した。一目で解る通り、かなりイライラしている。

「あの馬鹿! 一体どこほっつき歩いてやがる……」

「少しは落ち着けヘイゼル……動物園のクマじゃないんだぞ」

「俺は冷静だッ!」

運転席に座ったままのモリガンが、ウロウロするヘイゼルの様子に溜息を付くと、彼はムキになって彼女の言葉を否定した。

「ナビはどうした? パートナーカードの登録が済んでいるなら、太陽系内の何処にいても、居場所位は確認できるだろう?」

「! ……それ位解ってる!」

モリガンの忠告にヘイゼルは逆切れ気味に声を荒げた。動顛して失念していたようだ。

ヘイゼルはビジフォンのナビゲーターを起動させると、パートナーカード登録者からユエルを選んで検索する、しかし……。

「―――何だこれは?」

ヘイゼルは言葉を失った。見た事も無いメッセージが表示されている。

「どうしたんだ? 見せてみろ」

ヘイゼルは運転席側のウィンドゥに近寄ると、ビジフォンの画面を窓越しにモリガンに見せた。

「……エラーメッセージか……【Network Error】ネットワークエラー……【Person object】対象者……【Interference】通信障害、いや妨害か? 【Possibility】可能性……つまり……」

「あいつへの通信手段がジャミングされてるとでも言うのか!?」

モリガンが挙げた単語からヘイゼルはそう推理した。

「可能性は有るな」

モリガンが頷いた時、再びヘイゼルのビジフォンから呼び出し音が流れる。相手はビリーだった。

(このクソ忙しい時に……)

内心で毒づきながらヘイゼルが通信に応じると―――。

『よう相棒、ご機嫌如何かな?』

いつもと変らぬご機嫌な声が受話器から聞こえて来た。渋面のヘイゼルが不機嫌な声で応じる。

「取り込み中だ。下らない用件なら切るぞ」

『オイオイ、つれねえなあ……実は魅力的な女性キャストに逢ってな……全身が緋色の女だ』

この込み入った時に女の話か……。

「悪いが切……いや待て、今何と言った?」

『緋色の女キャストだよ。何だかふざけた事を言ってくれるので"丁重に応対して"お引取りして頂いたんだが……お前、何か身に憶えはあるか?』

 

ヘイゼルは手短にこれまでの経緯を説明した。ラブワード邸で聞いたユエルの素性に関しては伏せたが、キャス子カフェのむっちりキャストから聞いた情報……ユエルの情報が妨害され現在音信不通になっている状況を全て。

 

『……なるほど、お前等の事を嗅ぎ回っている女か……確かにそんな感じだったな……。と、なると追い返さずに、とっ捕まえた方が良かったか……』

ビリーは受話器の向こうで小さく舌を打った。

緋色の女はビリーの所にまで現れた……。

ヘイゼルの脳裏にハリス博士の影がチラ付く。断片的な情報からだが推測が正しければ、ユエルを製造したのはエンドラム機関の残党と言う事になる。

まさか……奴等の手が伸びて来たと言うのか!? ヘイゼルの背筋を得体の知れない悪寒が駆け抜けた。

「だが、ユエルを探そうにもジャミングされているのではな……」

ビリーとの会話はモリガンにも分かる様にスピーカーで行われている。思案するモリガンの呟きを聞き取ったビリーが何となく口にした。

『俺が最後に見た時は、まだ反応があったなぁ……』

「何だと!?」

その言葉にヘイゼルとモリガンが反応し声を上げる。

『いや、15分程前だったかな……緋色の女の相手をした後、気になってお前達の居場所を確認したんだ。ユエルちゃんのマーカーシグナルは駅付近の公園から南西側……再開発地区の方に進んでたと記憶してるが……』

「再開発地区?」

「ホルテスシティの旧市街区域だ。市街地が移転した後、一度更地にされたのだが、件のSEED騒ぎのお陰で、市の予算が復興に回された為、現在は計画は保留され、そのまま放置されている筈だが……」

パルム出身だが最近の事情には疎いヘイゼルへ、モリガンが補足の説明をする。

「何でそんな所に……ビリー! 間違いはないのか!?」

『ああ……多分』

「おいおい……」

肯定はしたが自信が無いのか言葉を濁すビリーにモリガンが呆れる。

「だが、それ以外に手掛かりは無いんだ……兎に角、そこに行ってみる」

『了解、俺もすぐそっちに向かってみる。後で合流しよう』

ヘイゼルの決断で話しはまとまった。

「……となれば話しは決まったな。ヘイゼル、早く車に乗れ」

ビリーとの通信を切ると、モリガンが車に乗り込むようヘイゼルを促す。イグニッションキーを押しエンジンを作動させたが、ヘイゼルは一向に車に乗る気配を見せず、何事かを迷っているようだった。

「どうした? 置いていくぞ」

「悪いが此処からは俺一人で行く……」

モリガンの催促にヘイゼルが真顔で告げた。

「アンタの用事は俺をユニスの家に連れて行く事だけだった筈。これから先は俺の都合で、アンタには関係の無い事だ」

ぞんざいで喧嘩を売っているような物言いだが、モリガンには解っていた。

ユエルに関する今回の一件は、エンドラム機関の残党が関与している疑いが濃厚だ。事と次第によってはかなりの荒事に発展する恐れも有る。それにモリガンを巻き込む訳にはいかない……。

不器用だが、それがこの青年の優しさなのだ。

そして万が一、何かがあった場合、自分の身を守る力をモリガンが持ち合わせていないのも確かであった。それを冷静に判断してしまう自分が堪らなく口惜しい。モリガンは観念したように溜息を吐いた。

「……昔から、お前は頑固で天野邪鬼だったな……言ったって聞かないのだろう、解ったよ。だがな……!」

そう告げると車から降りると車体後部へ回り、トランクを開け中にあった車載ナノトランサー作動させ、一台のエアロスクーター(原動機付浮遊型自転車)を異空間より取り出した。

良く手入れされてはいるが、少し古いモデルのスクーターである。だが、ヘイゼルそれに見覚えがあった。

「これは……」

「憶えていたか? 私が研修医を務めていた時に利用していた物だよ。お前も勝手に持ち出して、よく使っていたな」

「……バレてたのかよ」

「分からいでか……これを使え、旧市街までは歩いて行くには遠いからな……長年お前に付き合って来たのだ、これ位のお節介は焼かせて貰うぞ!」

そう言うとモリガンはスクーターの起動キーをヘイゼルに突きつける。最初は躊躇ったヘイゼルだが、キーを受け取ると小さく呟いた。

「スマン……」

「らしくないじゃないか」

珍しく殊勝な態度のヘイゼルの様子にモリガンが笑うと、途端に仏頂面を見せる。

「そうだ、その顔の方がお前らしいよ」

スクーターに跨ったヘイゼルは起動キーを差込口に差し、フォトンリアクターを始動させた。フォトンタービンが低い唸りを上げ、車体下部のフォトンファンから粒子が噴き出す。前輪をブレーキでロックさせたまま、浮遊した車体に中腰になると、ヘイゼルは重心を前輪部に掛け車体を沈ませ、スロットルを前回にする。一瞬浮いた後輪から激しいフォトン粒子が噴くと、前輪を固定された車体はその場で180度の旋回をして見せた。

「ヘイゼル!」

フォトンタービンの唸りの中、モリガンがヘイゼルを呼び止めた。

「無事で戻れよ……」

何時に無く真剣な表情をモリガンは見せている。

「言われなくても戻るさ……アイツも連れてな!」

ヘイゼルはモリガンの心配を鼻で笑うと不敵な笑みを浮かべ、アクセルを吹かすと勢い良く走り去った。

 

その後姿が見えなくなるまで見送ると、モリガンは運転席に戻り溜息混じりに呟いた。

「命は一度きりの物……代わりを生み出す事なんて出来はしない……」

ポケットから小さなロケットを取り出し蓋を開く。中には写真が収められていた。モリガンの面影を持つショートカットの少女に強引に抱きかかえられ、不機嫌な表情を浮かべた少年の写真。髪の色や瞳の色は全然違うが、その少年の雰囲気は何処と無くヘイゼルに似ている。

「そうだろう、ユージーン……」


 
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