No.178837

PSU-L・O・V・E 【L・O・V・E -報い(むくい)-】

萌神さん

EP12【L・O・V・E -報い(むくい)-】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-17 20:23:19 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:670   閲覧ユーザー数:670

ホルテスシティ旧市街地。

惑星開拓以降、無秩序に造成された都市の中枢は、機能の移転により現在の形となっている。

その際、住み慣れた土地や家を手放す事に反発するヒューマンも居たが、その計画を強堅に推し進めたのは、パルムの実支配者であるキャストの合理的判断による物であった。

旧市街に遺された建造物は解体された後、大規模な宅地造成を行う運びとなっており。その費用はホルテスシティの年間予算から捻出され、年毎に着々と進められていた。計画の進捗は前年で95%まで完了し、今年も継続される予定であったのだが、折りしも発生したSEED騒動で計画は終了間際で中断を余儀なくされている。そのような経緯もあり、現在の旧市街跡は造成中のまま放置され無人の地となっていた。

 

雑踏の中、行き交う人々のざわめきが自分を責める。

お前が邪魔だ、目障りだ、消えてしまえと罵倒する。

ユエルはその幻聴に抗い、耳を塞いで早足で駆けていた。

妬みという負の感情に中てられ、激しい衝撃を受けた今のユエルにとって"人"こそが恐怖の対象だ。その存在が彼女のココロを傷つける。

ユエルの足は自然と人通りを避け、人の居ない方へ、人の居ない所へ進んで行く。そうして、ふらふらと当ても無く彷徨うく内、彼女はそこに辿り着いていた。

気持ちの悪い感情(タスク処理)が答えを出せぬまま暗澹と続けられている。その精神的な負荷の為にバランス感覚もおかしいのか、ちょっとした段差で躓きユエルは前のめりに転んでしまった。生温い不快な感触のアスファルトに突っ伏したまま、自分に与えられた仕打ちが理解出来ず、恨み言が口を吐いて出る。

「どうして……私がこんな目に……」

「それは報いじゃないかしら?」

独り言に答えた声に驚き、ユエルはビクリと体を震わせ恐る恐る顔を上げる。目の前に緋色の女性キャストが立ちはだかり、両腕を組んで自分を見下ろしていた。

「その様子だと流石に少しは堪えたのかしら? まあ無理もないわね」

緋色の女がクスクスと笑う。

「あ……貴女は……」

ユエルは彼女に見覚えがあった。何時だったか無人のカフェで会った事のある女性だ。あの日以降カフェで彼女の姿を見掛けた事は無かったので、その出会いを忘れ掛けていたが……。

「お久しぶりね、"姉さん"……。と、言っても記憶が無いのよね。それじゃあ改めて自己紹介しようかしら、私の名前は"ヴィエラ・プロト"……貴女の妹よ、姉さん」

一瞬、意識に空白が生じる。

(姉……さん? 妹……?)

彼女は自分を姉と呼んだ。寝耳に水の発言である。

「……って、私に妹が居たッスか!?」

それどころか自分が知りたかった出自の手掛かりが、いきなり目の前に出現したのだ。衝撃の連続にユエルは混乱していた。

「そう、私達は"姉妹機"よ……私は、貴女のせいで生まれてしまった憐れな妹……」

赤い女の瞳に一瞬、憎悪にも似た光が灯る。だがそれも一瞬だった。

「ずっと姉さんを見てたんだけど、だいぶまいったようね? "機械"が不相応に人ぶるからそうなるのよ」

緋色の女が鼻で笑う。彼女はユエルの事を機械(マシーン)と、そう告げた。

その言葉が受け入れられず、ユエルは首を小さく横に振ると彼女の言葉を否定する。

「機械……? 違う……私は人……"キャスト"ッスよ?」

キャストは意思を持つ機械生命体だ。

その昔、自我を持ったキャストは、自分達の自由を求め、造物主たるヒューマンに反旗を翻した。

所謂、『独立闘争』の勃発である。

長き争いの果てに、キャストは"人"としての権利を勝ち得た。

造られた命では有るが、ココロを持つ一つの生命体として認められた。

それがキャストの尊厳。

だが、緋色の女はユエルの言葉を嘲笑(わら)う。

「それが姉さんを偽る記憶……貴女は記憶を操作され、自分を人と信じる哀れなお人形……。私も……姉さんも、人の姿をした機械。戦う為に造られた、ただその為だけの"マシナリー"。

 

対SEED殲滅戦用次世代SUV試験機管制デバイス 『Juel・Proto-type』(ユエル・プロトタイプ)

 

……姉さん、それが貴女の正体よ」

今日まで求めて来た自らの素性……だが、いきなり提示された答えは理解するには酷な物だった。

「う……嘘……ッスよ……」

子供のようにイヤイヤと首を横に振りながら放心し、ユエルは力無い声で呟く。

あの日の目覚めから、今まで過ごして来た日々の記憶が走馬灯のように過ぎる。

 

雨のパルムでのヘイゼルとの出会い―――。

 

自分専用のソファーベッドを買って貰った時の喜び―――。

 

キャス子カフェで沢山の仲間と過ごす他愛無い一時―――。

 

命を懸けたディ・ラガンとの死闘―――。

 

それらの辛かった思い出……楽しかった思い出が、人として生きた記憶が、残酷な言葉の前にガラガラと崩れていく。

しかし、そんなユエルに追い討ちをかける様に緋色は謳い続ける。

「それが偽り無い事実なのよ、姉さん……。もう一つ絶望をあげる。姉さんが記憶を失ったあの日……私達が居た研究所は突然SEEDの襲撃を受けた……。襲って来たSEEDの大群を殲滅する為に、姉さんがSUVを起動させた結果、SEEDと共に研究所は壊滅したの……。

 

あ・な・た・の、製造(生み)の親達を殺したのは……姉さん、貴女自身よ」

 

 

 

空白。

 

 

 

ユエルは一瞬、その言葉の意味を理解できなかった。

今……彼女は何を言ったのだろう……。

 

ワ タ シ ガ コ ロ シ タ ?

 

緋色の女が哂う。

ガチリ、と何処かで運命の歯車が噛み合わさった。

惨酷に、冷酷に、痛酷に、酷悪に―――。

封じられたパンドラの箱が……閉ざされた記憶の扉が彼女のキーワードを得て開かれる。

―――ホルテスシティ郊外、製薬会社をカモフラージュとして存在した、エンドラム機関の研究所。

 

(私の……生まれた【製造された】故郷【場所】―――)

 

物心付いた時から続けられる戦闘訓練は嫌いだったが、親代わりでもある優しい研究者達の事が大好きだった。彼等の喜ぶ顔が見たくて頑張っていた。

記憶が激しくフラッシュバックする。

最後の夜に見た光景が脳裏に焼き付いている。

あの夜……研究所は突如、SEEDの襲来を受けた。

迫り来るSEEDの群れ、燃え上がる施設、逃げ惑う研究員達……。

 

(皆を助けたい……私の想いはそれだけだったッスよ……なのに……なのに……)

 

何処からともなく、声が聞こえた……。

 

(ミンナヲタスケタイ? ナラワタシニミヲユダネテ……スベテマカセテ……)

 

誘惑の声が―――。

次に気付いた時、ユエルの目の前に広がっていた惨状……舞い上がる炎と熱風の中で見た最後の光景……。

赤と黒が織り成す、惨と美のコントラスト。

崩壊したコンクリートの残骸、夜空を照らす緋色の炎、黒煙に煙る闇色の空、そして―――。

 

瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と死体、瓦礫と―――。

 

―――思い出してしまった―――。

 

忘れていた光景を……自分が犯した罪を……。

「前に会った時に訊ねた問いを、今ここで、もう一度問おうかしら? 自分の製造(産み)の親を理不尽に奪われたり、殺されたりしたら……姉さんだったらどうする?」

緋色の女の薄い唇が、下弦の月を思わせるように釣り上がり、嫌味な嘲笑を形造る。

 

殺した。

 

(私が、皆を……皆の命を―――!)

ユエルは頭を抱えて震えだしていた。悲鳴と化した絶叫が無人の地に木霊する。

「あ……あああ……ああああああああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁああああぁああぁあああぁぁ―――っ!」

自分が殺した……産みの親たる者達を殺していた……。

許されざる殺人者、親殺しの咎人。

その咎への絶望、過ちへの悔恨、罪への懺悔……。

嘆きと入り混じる絶望の混濁。それらが奏でる旋律は甘美な慟哭の調べ。

心地良い……ヴィエラの背を歓喜の波が走る。

「そう、それ! 姉さん、私はずっとそれが聞きたかったの! あっはははは……あはははははは―――っ!」

鋭い下弦の月を思わせる笑みが裂け、愉悦の笑みが浮かぶ

ユエルの絶叫に混じり、ヴィエラの哄笑も木霊した。

 

(モウイイデショウ?)

 

ユエルの耳に労わる様な……嘲笑う様な声が聞こえる。

 

(アトハワタシニマカセテ……アナタハネムリナサイ……アナタガネムッテイルアイダニ、アナタヲサイナムアクムノスベテヲハイジョシテアゲルカラ)

 

誘惑の声がする。全てを捨てる事が出来るなら、それはユエルにとってとても魅力的な言葉に思えた。

でも、それを望まない人が居る……優しいはしばみ色の瞳が、あの人の姿が浮かぶ……。

ユエルは信じ、誘惑に抗い続けた。

 


 
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