No.177709

PSU-L・O・V・E 【綻び③】

萌神さん

EP11【綻び③】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)

【前回の粗筋】

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2010-10-11 23:29:42 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:630   閲覧ユーザー数:626

◇ ◇ -11:50- ◇ ◇

 

ビリーは久し振りに駅前のアーケードに足を延ばしていた。

ディ・ラガン討伐ミッション以降、ミッションの依頼は無い。平和な物だ。このまま行けば、パルムでの短期駐留任務も何事も無く終わりそうである。

アーケードは人々で賑わっている。通りの一角にブランドショップを見掛けたビリーは、何気なく足を止め、ショーウィンドウをかがんで覗き込んだ。

宝石をあしらった様々な装飾品がショーケースに納められている。ビリーはその中に小さく控え目な翠緑玉(エメラルド)で飾られた髪留めを見付けた。白いキャストの少女の瞳と同じ、鮮やかな緑色は彼女に良く似合いそうである。ビリーはこの髪留めを付けた少女の姿を思い浮かべた。想像とは言え、それは大変似合っている。しかし―――。

(……これを貰って嬉しいのは、俺からじゃないんだぜ……)

ビリーは苦笑いを浮かべた。彼女がこういったプレゼントを贈られて、嬉しい筈の相手には残念な事に、そのような甲斐性は無い。

(世の中上手くいかない物だぜ……)

「そうよね……貴方の方が、こんなにも彼女の事を想っているのにね」

溜息を吐くビリーの背後から、突然、女性の声が聞こえた。気配など全く感じなかったと言うのに……。

ビリーはゆっくりと視線を動かした。ショーウィンドーのガラスに、ビリーの背後に立つ女性の姿が映っている。

肩口まである緋色の髪と、薄い眉に鋭い瞳も緋色。

全身を覆わせた動き易そうな緋色の外装パーツ、その上に羽織る肘まで届くケープをもまた緋色。

全てが緋色で構成された、緋色の女性キャストが―――。

ビリーはゆっくりと身を起こし振り返った。

「美人の顔は忘れない主義なんだが……何処かでお会いしましたんだぜ?」

緋色の女がニヤリと笑う。彼女の髪に飾られた花の形をした髪飾りだけが異彩を放っていた。

◇ ◇ -12:10- ◇ ◇

 

昼時のキャス子カフェは、軽い昼食を取る人々で賑わっていた。

「ヒマねー」

「暇だねー」

一足早い昼食を終えた二人の女性キャストがテーブルに突っ伏している。

SEED騒乱の後、現在まで大きな事件は起こっていない。出番の無い彼女達は麗らかな午後の日差しを受け、暇を満喫していた。

「だらしない……ガーディアンズの自分達が弛んでいてどうするんじゃ」

ぽっちゃりしたキャストが呆れながら彼女達を諌める。

「そう言えばさ、この前変わった風体の女性キャストに、ユエルンの事をイロイロと訊ねられたのよ」

「ユエルの事を?」

「うん、全身真っ赤な色の女性キャストだったのよ」

「……それで、あんたはイロイロと喋っちゃったの?」

対面に座る女性キャストの咎めるような言葉に、気まずそうに頷く。

「うん……だ、だって彼女、すっごく話しが上手くて、ついつい乗せられて……で、でも、ユエルンのプライベートに関わる事は喋ってないよ!」

「……その女、俺も話しかけられたかもしれん」

話しに聞き耳を立てていた、単眼の男性キャストがボソリと呟く。

「……実は私も……」

「え、貴女もなの?」

「俺もその女に会ってるかも」

カフェの彼方此方から次々と緋色の女の目撃報告が挙がる。これは一体―――。

「……ちょっと待て、その女性キャストは肩に赤いケープを掛けておったか?」

ぽっちゃりキャストの質問に、緑色髪をポニテールでまとめた少女型キャストが頷く。

「あー……うん、そう言えば掛けてたわ。『緋色』のケープ……キャストがパーツの上から、そんな物を羽織るなんて珍しいよね……。で、それがどうかしたの?」

「ちょっと前に起こったボヤ騒ぎ憶えているか?」

ぽっちゃりキャストが言うボヤ騒ぎとは、先日カフェの近くであった火災の事だ。幸いにも彼女達の迅速な対応のお陰でボヤ程度で済んだのだが……。

「あの時、火災を発見して、カフェに応援を求めて来たのと……おそらく同じ女性じゃろう……」

「……どういう事かしラ?」

灰色の長い髪を持つ女性キャストが不審そうに眉を顰める。

「あのボヤ事件の犯人は捕まっていない。そして犯罪捜査の基本は第一発見者を疑う事じゃ……」

「オイオイ……まさか……」

「だが問題は、その女がユエルの事を嗅ぎ回っている理由じゃ」

「念の為、ユエルンに教えておいた方が良いかしら?」

不安を感じた青黒いショートカットの女性キャストがユエルにビジフォンを掛け、注意を促そうとしたが……。

「ダメ……ユエルン、話し中みたいよ」

ビジフォンの画面には『相手先 通話中』の文字が表示されたいた。

◇ ◇ -同時刻- ◇ ◇

 

キャス子カフェを後にし、リニアライナーの駅に向かっていたユエルの足を、不意に鳴り出したビジフォンの呼び出し音が止めた。

「ハイ、もしもし……あ、ビリーさん、何かご用ッスか? え、ヘイゼルさんと待ち合わせ? ……駅近くの公園で……私もッスか? 了解ッスよ~……って、何か聞き取り辛いッスけど……もしもし、ビリーさん? もしもし~ッス!」

いきなり掛かってきたビリーからの通信は、これからヘイゼルと合流する為、公園で待ち合わせをすると言う内容を告げると切れてしまった。ビリーに連絡を取り直そうと通話を試みるが上手く繋がらない。改めて見るとビジフォンの電波状況を表わすアンテナマークが通話不能と表示されていた。

「電波状況が悪いみたいッスね……」

ユエルは単純に納得するが、それはどこか妙な話しだった。こんな都市の中心で、ライフラインの要である通信インフラの状態が悪い事などありえるのだろうか?

(仕方ないッスね……でも公園に行けば会えるッスよ)

だが、ユエルは深く考えずに公園へ向かって引き返す事にした。

幸い、目指す公園までは、そう遠くは無い。目的地まで道行きを辿りながら、ユエルはキャス子カフェでの話しを回想し考えていた。

 

自分とヘイゼルの関係とは何だろう―――?

 

『命の恩人』

 

それは間違い無い。雨のパルムで自分はヘイゼルに救われた。あの出会いがなければ、今の自分は無いだろう。

 

『身元引受人で保護者』

 

ヘイゼルに救われて以降、名実共に自分は彼に保護され続けている。

 

『マイルームで一緒に生活するルームメイト』

 

……聞こえは良いが、二人の関係はちょっと違う気がする。

 

『部屋の家主と居候』

 

言わずもがな、どちらかと言うと、二人の関係は此方の表現の方が相応しいかもしれない。

 

『ガーディアンズとしてのパートナー』

 

ヘイゼルは嫌な顔をするかもしれないが、いつかは、ヘイゼルにそう思われる存在になりたいとユエルは思っている。

 

考えてみると色々挙げられるが、それらは二人を知る者、皆が認識している周知の事実だろう。

そうでは無く、"自分は"ヘイゼルの事をどう想っているのだろうか―――?

(私にとってヘイゼルさんは……)

その時、一陣の風が過ぎ去った。ザアッ、という風が二本のピッグテールを揺らす。顔を上げると視界に大きな一本の木が飛び込んできた。ユエルはいつの間にか公園近くまで差し掛かっていたらしい。公園の中ほどに立つ、一本の大きな樹が風に緑の葉を湛えた梢を揺らせている。ユエルはその大樹を見上げた。

例えるなら、それがヘイゼル。

どっしりと構え、頼れる存在。

寄り添うと安心して身を任せられる存在。

温かな日差しの中で、いつまでも寄り添っていたい存在―――。

不思議な気持ちがユエルの心に去来する。

それは、とても……とても……なんだろう?

その感情を何と言葉で表現して良いのか、ユエルには解らなかったが、兎に角、自分にとってヘイゼルはそんな存在なのだ。

それが皆が言っていた『恋』という物なのかどうかは解らないけれど、ヘイゼルも自分の事を同じ様に想っていてくれたら……。

そう考えただけで心が弾む。ユエルは不思議な気持ちを味わっていた。足取りも軽やかにユエルは公園の中央に在る大樹に近付いていく。

ふと、ユエルは気付いた。大樹の根元に、見覚えのある人間が腰を下ろしている事に。

緋色の女性キャストに突き付けられた世間の認識……ヘイゼルと自分と彼女(ユエル)の関係。

それを認めず、逃げ出したアリアは、当ても無く彷徨っている内に公園に辿り着いていた。

公園の中央には開園の際に植樹された、背の高い大きな樹が緑の葉を広げている。枝葉は大きな影を作り、根本に広がる芝生を覆っていた。その中には人影は無い。アリアは人目を避けるように、影の広がる芝生に足を踏み入れると、膝に顔を埋めるようにして蹲った。

今は何も考えたくない。ヘイゼルの事も、あの白い少女の事も、私を煩わす存在も全て……。だが、暗闇の中で過ぎるのはヘイゼルの影と、少女のせせら笑い……。頭がどうにかなりそうだった。大声を上げて叫びたい衝動に駆られた。何度も何度も―――。

どれ位、そうしていただろう?

「―――アリアさんじゃないッスか?」

不意に感じた人の気配と、聞き覚えのある声に、アリアは身を強ばらせた。

最も聞きたくなかった少女の声と特徴ある口調……。

せせら笑いが現実に木霊する。

暗い淀みの中に立ち上がる小さな熾火。

ドクドクと高まる心臓の鼓動。

ゆっくりと見上げたアリアの顔を、白い少女が薄ら笑いを浮かべ見下(みくだ)していた。


 
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