No.174917

真・恋姫無双アナザーストーリー 雪蓮√ 今傍に行きます 第17話

葉月さん

いよいよ、作品もこの話を入れて残り二話になりました。
これも読んで頂いている皆様のおかげです。
どうもありがとうございます!

--あらすじ--

続きを表示

2010-09-27 00:11:33 投稿 / 全21ページ    総閲覧数:6172   閲覧ユーザー数:4701

真・恋姫無双アナザーストーリー 

雪蓮√ 今傍に行きます 第17話

 

 

 

 

夢、夢を見ている……

 

穏やかな春の日差し……

 

風に揺られる桜の木々……

 

そして、笑い合う仲間達の中心に居るあの人……

 

「もう一刀君!酷いよ~」

 

「ははは、ごめんごめん。許してくれよ」

 

「ぶー!許さないもん!」

 

「ふふふ、――は素直じゃないわね。本当は離れたくないくせに」

 

「あはは♪そうですよね。――さん判りやすいですよね」

 

「――さま!そ、そんなに笑っては――殿に失礼ですよ!」

 

「も~!皆してひどぉい!そう思わない雪蓮!」

 

「あら?私だったら素直に言うわよ?一刀~、私とずっとず~っと一緒に居ましょうね♪」

 

「「「「あ~~~~~~っ!」」」」

 

「こ、こら雪蓮!なに一刀に抱きついているのよ!離れなさい!」

 

「そ、そうですよ!それに一緒に居ましょうねってどういう意味ですか!雪蓮さん!」

 

「雪蓮殿、少々おふざけが過ぎませぬか?」

 

「あら、私はいつだって本気よ♪だって、好きな人とは離れたくないじゃない?」

 

「うぅ~!ダメーッ!一刀君に抱きついていいのは私だけなんだから!」

 

「だったら無理やりにでも奪い取ってみたら――」

 

「よぉ~し!覚悟してよね雪蓮!」

 

「――さんだけずるいですよ!私だって一刀さんに抱きつきたいのに!」

 

「そうですね。わ、私も一刀さまにだ、抱きつきたいです」

 

「ふ~ん、琳はどうなのかしら?」

 

「わ、私は別に……」

 

「あらそう?ならそこで見ているのね」

 

「くっ!……そんな挑発に乗る私ではないのだけれど、仕方ないから乗ってあげるわ。覚悟なさい雪蓮」

 

「素直じゃないんだから……なら、掛かってきなさい♪一刀は渡さないわよ♪」

 

――ジリリリリ……

 

「ふぁぁぁああああ~……、もう朝なの~?まだ寝たり無いわよ」

 

体を起こして目覚まし時計を止める。

 

なんだか久々に夢を見たわね。なにかの前触れかしら?

 

「寒っ!……もう、なんで冬なんてものがあるのかしら……」

 

足を床につけると床の冷たさに思わず身震いをしてしまった。

 

「はぁ~。もう一眠りしよ……」

 

そうよ。まだ時間はあるんだしもう少しくらい……。

 

そう思い。まだ温かさの残る布団に包まり、まどろんでいたんだけど……。

 

(バンッ!)

 

「ほれ、雪蓮!さっさと起きなさい!」

 

部屋の扉が勢い良く開けられ母さんが入ってきた。

 

「まだ寝てるのかい?まったく、だらしの無い娘だよまったく……ほら、さっさと起きなさい!」

 

「~~~っ!さ、寒いでしょ!布団返してよ~」

 

布団を取り上げられ外気にさらされた私の体は寒さで縮こまりそうになった。

 

「何言ってんだい。もう、お天道様も昇ってるんだ。さっさと起きなさい」

 

「うぅ~、鬼~~~!」

 

「はいはい、鬼で結構よ」

 

まったく、何でこんなに寒いのに起きなきゃいけないのよ。

 

「まったく、誰に似たんだかね~。こんなに寒がりだなんて」

 

「別に生きていけないわけじゃないんだからいいじゃない」

 

「呆れたねぇ。こんな姿、彼氏に見られたらどう思うかねぇ」

 

「ちょ!なんでそこで一刀が出てくるのよ!」

 

母さんの彼氏って言葉に反応してガバッと起き上がった私は不機嫌そう母さんを見た。

 

「だって、将来雪蓮の夫になる人でしょ?こんな娘だと知ったら彼氏さんはどう思うかね、母さんは恥ずかしいよ」

 

「か、一刀はそんな事で幻滅なんてしないわよ!きっと受け入れてくれるわよ。って将来、私の夫ってどういうことよ!」

 

「あら?違うの?」

 

「ち、違わないけど……今は関係ないでしょ!」

 

母さんはニヤニヤと私を見て笑うだけで何も言っては来なかった。

 

「ああもう!シャワー浴びてくる!」

 

「はいはい、『一刀君』に会うんですものね。綺麗にしないとね」

 

「母さんっ!」

 

「おほほほほ。先に居間に居るわよ」

 

母さんはふざけた笑い方で謝りもせず部屋から出て行った。

 

「なんなのよまったく!むしゃくしゃするわね。こうなったら一刀に憂さ晴らしするしかないわね」

 

私はそのままシャワーを浴びる為に部屋から出て行った。

 

「う~っ寒い!なんで冬ってこんなに寒いのよ!」

 

学園に向う為、寒空の下をコートの襟を立てて歩く。

 

「それに、なんで女子だけスカートなのよ。寒くてたまらわないわ。何処の誰よ。スカートなんてものを作った奴は!」

 

そんな無茶苦茶な事を言いながら歩いていると、ふと、背後に気配を感じた。

 

「……誰?今、寒くてすっごく機嫌悪いんだけど?」

 

「あらあら、それはいけませんね。機嫌を直していただけませんか?」

 

「なら、機嫌が良くなるようなことを言ってみなさいよ。管輅……」

 

背後から現れた管輅は私の横に並んできた。

 

「それで?何か私に用なんでしょ?」

 

「ええ、雪蓮さんにお伝えする事があります」

 

「何かしら?」

 

「準備が整いました。と、仰ればお判りになりますか?」

 

「っ!……そう」

 

管輅の準備が整ったって言うのは多分優未の事だろう言う事はわかった。

 

「それでいつなの?」

 

「詳しいお話は放課後に致しましょう」

 

「あら、随分と引っ張るのね?」

 

「ふふふ、お楽しみは後に取って置くと言うではありませんか」

 

「まあ、いいけど……それよりもあなた、なんて恰好してるのよ」

 

「ふふふ、木を隠すには森の中と言いますでしょ?普段の恰好では目立ち過ぎますからね」

 

確かにそう言うけど、だからって普通そこまでする?

 

「だからって……歳を考えなさいよ」

 

管輅はなぜか聖フランチェスカの制服を着て私の横を歩いていた。

 

「あら、わたくしはこう見えてもまだ二十歳ですよ?」

 

「嘘っ!」

 

「ふふふ、嘘です」

 

「あ、あなたねぇ。あなたでもそんな冗談言えるのね。……それで実際はいくつなのよ?」

 

「ふふふ、秘密です♪」

 

「いや、私にそんな可愛らしく言っても……」

 

「あら残念ですね。まあ、わたくしもこのまま学園に向うとしましょう」

 

さして残念そうに見えないんだけど……

 

「まあ、いいけどさ。あなたそんな恰好で寒くないの?」

 

管輅はコートも羽織らずに平然と歩いてるけど平気なの?

 

「はい、わたくし寒いのも熱いのも平気ですので」

 

「そ、そう……見てる方は寒々しいんだけどね」

 

「そうは言われましても……あら?ふふふ♪」

 

「ん?どうかしたの?」

 

突然、管輅は手を口に当てて微笑んだ。

 

「いえ、なんでもありませんよ。ただ、北郷さんが近づいているだけなので」

 

「はぁ?!な、なんでそんな事がわかるのよ」

 

「こう見えましても占い師ですから」

 

管輅はおかしそうに微笑み前を向いた。

 

程なくして、一刀が路地から現れ一緒に学園に向うことになった。

 

「へ~、管輅さんは占いが趣味なんだね!」

 

「はい、それと人間観察も好きですね」

 

「変わった趣味も持ってるんだね。あっ!べ、別に変な意味じゃないよ!」

 

「ふふふ、いいのですよ。わたくし自身も変だとは思っているのですから……」

 

「そんなことないよ!管輅さんの占いはきっと皆を幸せにすることだし、その為にはいろんな人を観察しないといけないんだよね」

 

「ありがとうございます。北郷さんはお優しいのですね。そう言って頂けたのは初めてです」

 

管輅は驚きながらも直ぐに微笑みかけていた……面白くないわね。

 

(ギュッ!)

 

「い、いひゃい!いひゃいよ。ひぇれん!」

 

「ふん!」

 

「あらあら、ふふふ♪」

 

なにのん気に笑ってるのよ。あなたのせいでしょ。まったく……

 

「なんで俺抓られたんだ?」

 

頬を擦りながら一刀たら首を捻ってるんだけど、ホント鈍感なんだから!

 

「ふん、知らないわよ」

 

「あらあら、北郷さんはもう少し女心を理解した方がいいかもしれませんね」

 

「え?……ああそれと俺の方が年下なんで呼び捨てでいいですよ」

 

「癖なのでお構いなく。それとも一刀さんとお呼びしましょうか?」

 

「えっ!」

 

「ちょ!なにドキッとしてるのよ一刀!」

 

「ええ?!いや、ちょっとビックリしただけだよ」

 

「ホントかしら?一刀ったら可愛い女の子見ると直ぐに鼻の下伸ばすんだから、信用できないわ」

 

「う゛……」

 

「……ちょっと、否定くらいしてくれてもいいじゃない!」

 

「ふふふ、賑やかですね。……優未さんもきっとこんな気持ちだったんですかね」

 

「え?管輅さん今何か言いましたか?」

 

「いいえ。何も言っていませんよ。一刀さん」

 

「っ!」

 

「だ、だからそこで赤くなるな!一刀のバカッ!」

 

(パーンッ!)

 

私は思いっきり一刀の頬に平手打ちをした。

 

「いって~~~~~っ!」

 

冬空の下、乾いた音があたりに響いた。

 

「なあ、機嫌直してくれよ雪蓮」

 

「ふーんだ。一刀なんか馬に――掘られて死んじゃえ!」

 

「ひどっ!うぅ~、管輅さん、俺何か悪い事したのかな?」

 

そこで管輅に聞くことがどれだけ私の怒りを買っているのか判っているのかしらね一刀は……

 

「そうですねぇ……」

 

管輅もそこで私を見ながら笑わないでくれるかしら?

 

「ここは雪蓮さんの言う事を一つ聞くと言うのは如何でしょうか?」

 

「え゛、それはちょ「いいわねそれ」なっ!」

 

「あなたに拒否権は無いわよ。判っているわよね一刀?」

 

「……はい」

 

有無も言わさぬ殺気に一刀は頷くしかないのよ。ふふふ……さあ、どうしてやろうかしら♪

 

「よろしい、それじゃ行くわよ」

 

「行くって何処に?……どわっ!い、行き成り引っ張るなよ雪蓮!」

 

「いいから着いて来なさいホームルームまで時間が無いんだから。それじゃ管輅、放課後に行くわ」

 

「ええ、お待ちいたしておりますわ。一刀さんもお気をつけて」

 

「え?!あ、管輅さん!またね!だ、だから引っ張らなくても逃げないって!」

 

私と一刀は管輅と別れて屋上まで来た。

 

「ふふふ……さて、一刀には何をしてもらおうかしら……」

 

「お、お手柔らかに頼むよ」

 

「それは判らないわね♪」

 

「おいおい……」

 

「文句は言わせないんだから……一刀、こっちに来なさい」

 

「あ、ああ」

 

一刀を手招きして入り口の死角に誘い込んだ。

 

「それじゃ一刀は壁に背を向けて」

 

「これでいいのか?……一体これからなにを……んっ?!」

 

「んっ……ちゅぱっ……ふふふ、一刀は時間まで……ちゅっ、大人しくしてるのよ……んんっ!」

 

私は一刀の両手を力一杯壁に押し当てて一刀の口にしゃぶりついた。

 

「んっ!あはっ!……やっぱり、一刀のキスって美味しいわ♪……じゅるっ、んん!」

 

「ど、どうしたんだよ急に!っ!ま、またあの発作か?!んんっ?!」

 

「違う、わよ……ちゅぷっ……わひゃしはへいじょうひょ……ほりゃ……かひゅひょも……んっ、ひただひなひゃいひょ……」

 

そう、私は以前、一刀を襲うような衝動に駆られているわけじゃない……ただ……

 

「い、いじゃない……しょんにゃこひょ……んちゅ…………しょ、しょれとも、わひゃしとじゃ……ちゅぱ、いやなの……?」

 

「そんなわけ無いじゃないか……ただ、この状況だと、襲われてる様に見えないか?」

 

「ふふふ♪……それもそうね……でも、放してあげない♪…………んっ…………」

 

笑い合う、たったそれだけで一刀と心が繋がっている様に感じられた。

 

この後、どうなるかわからない……だったら、せめて今を忘れないように…………

 

「ねえ、一刀……」

 

「ん?」

 

「このまま一時限目サボっちゃおうか♪」

 

「雪蓮、あのなぁ……」

 

一刀は一瞬呆れた顔をしたかと思うと、子供が悪戯を成功させたみたいに満面の笑みを浮かべて賛成してくれた。

 

「それもいいな。どうせ一時限目は自習だしな」

 

一刀が言うには本当は数学らしいんだけど、一昨日からインフルエンザで担当教師が休んでいるらしい。

 

「ふふふ、ならもう少し、ね?」

 

「困ったお姫様だな。それでもこの手は離してくれないのかい?」

 

「放して欲しいならもう他の女の子に目をくれちゃダメよ?まあ、無理でしょうけどね」

 

「ど、努力します」

 

「ふふふ。なら、今度は一刀からして?」

 

「ああ、仰せのままにお姫様……んっ」

 

「一刀……んっ…………」

 

「雪蓮…………」

 

お互い抱き合うと外の寒さも一刀の温かい体で全然寒く感じなくなった。

 

「ふふふ。一刀……温かい♪」

 

「雪蓮も温かいよ」

 

「ホント?きっと一刀が温かいから私も温かくなったんだね」

 

「逆かもしれないぞ?」

 

「ううん、きっとそうよ。だって今私とっても幸せだもの……」

 

「そっか……なら暫くこうしてようか?」

 

「ええ……」

 

一刀は私を床につけない様に抱き抱えながら床に座り込んだ。

 

「なんだか恥ずかしいわね」

 

「そうだな」

 

もう既に授業は始まっており学園は静まり返っていた。

 

放課後……

 

「やっと放課後だわ。ホントかったるいわね。まあ、一時限目は一刀とサボったんだけど」

 

サボったまではよかったんだけどね。その後、屋上から降りてくるところを愛紗に見つかってこっ酷く説教をされたのは計算外だったわ。

 

「はぁ。とりあえず無事放課後を迎えたことだから理事長室に行きましょうかね」

 

鞄を持ちクラス友人に挨拶をして理事長室へと向かった。

 

(コンコン)

 

「天音雪蓮です」

 

「あらん、雪蓮ちゃん。お入りになっていいわよん」

 

「はぁ……失礼するわ」

 

内心、貂蝉の声に溜め息を吐き中へ入った。

 

「いらっしゃい、雪蓮ちゃん。お久しぶりね」

 

「うむ、久しいな孫策よ」

 

理事長室には筋肉変態達磨が二人と管輅が居た。

 

「誰が、筋肉変態ムキムキマッチョのお化けですてぇぇぇえええっ!」

 

「誰もそんなこと言ってないわよ。それより管輅もいつまでその恰好でいるつもりよ」

 

「あら、似合いませんか?わたくしは結構気にっているのですが」

 

管輅はスカートを翻しながら一回転して見せた。

 

「それに一刀さんに綺麗と褒められましたから」

 

「ぬわんですとぇええっ!聞き捨てならないわよ管輅ちゃん!」

 

「そ、そうよ!それにいつ一刀が管輅の事を……まさか!」

 

「ふふふ♪少々、心の内を読んでしまいました」

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ……一刀、あとで覚えておきなさい……」

 

「うんもう!管輅ちゃんだけずるいわ。私も同じ恰好すればご主人様に褒められるかしら」

 

貂蝉の女装姿を想像して怖気が走った。

 

「……っ!……それだけはやめてよね」

 

「そんなことしたら全力で――を潰しますよ?」

 

管輅も顔に似合わず随分と酷い事言うわね。

 

「やん、管輅ちゃんたら怖い」

 

「ごほん、貂蝉よ。これでは話が進まぬでは無いか」

 

「そうね。ご主人様を喜ばせるのは後にしましょう」

 

後にしないで忘れなさいよ。

 

でも、これ以上言葉に出すと話が進まないから言わないことにした。

 

「さて、これが鏡よ雪蓮ちゃん」

 

そう言うと机の上にトレイより二周りほど大きな鏡が置かれた。

 

「これって銅鏡?」

 

「そうよん。これがあれば優未ちゃんは復活する、かもしれないわ」

 

「かもしれないってどういうことよ」

 

「この鏡は鍵、簡単に言ってしまえば物語の始まりと終わりを示しているのよ」

 

「そして、新たな外史へと架け橋でもあります」

 

「それを選ぶのはお主だ、孫策よ」

 

「私?」

 

「はい、この鏡には持った人の思いを新たな外史として誕生させます」

 

「つまり、私が優未が居る世界を望めば……」

 

「はい、優未さんが居る外史が作られるはずです」

 

「一つ聞きたいんだけど、その時記憶ってどうなるの?」

 

「場合にもよりますが、ほぼ全ての記憶が引き継がれます」

 

「そう、なら消された記憶とかは?」

 

そこがある意味で一番重要なところ、優未が復活しても皆が、一刀が覚えていなければ何の意味もないんだから。

 

「それも願えば思い出すと思います」

 

「そう、なら今からでもいいのかしら?」

 

「む?別に構わぬが準備とかはよいのか?」

 

「別にいいわよ。どうすればいいの?」

 

「簡単よ。鏡を持って念じればいいだけ。そうすれば鏡が輝きだすわ」

 

「わかったわ。それじゃ……」

 

私は鏡を持って念じ始めた。

 

一刀が居て、優未が居て、それに桃香に愛紗、琳も居る。そんな賑やかなで穏やかな日々を想像して……

 

――し~ん……

 

「……?変わったの?」

 

暫く目を瞑っていたけど特に強い光を感じることも無く、目を開けてみるとむさいマッチョ二人と管輅が居るだけだった。

 

「おかしいですわね。発動条件は間違っていないはずですが……貂蝉、なにかわかりませんか?」

 

「そうねえ。こんな事は初めて、ではないわね。確かあの時は……ああ、そうそう確かご主人様が触れたら光りだしたのよね」

 

「一刀が?」

 

「そうなのよん。もしかしたらご主人様も触れないと発動しないのかも」

 

「そんな事言ったってどうやって触らせるのよ。『これを私と一緒に持って』とでも言わせる気?」

 

「どぅふふ♪そこは理事長であるこの貂蝉にお・ま・か・せ♪」

 

(バキッ!)

 

「気持ちが悪いのでその笑いとウィンクをお止めなさいと何度言ったかしら貂蝉?」

 

「やん!管輅ちゃんったら酷いわ!こんな麗しい漢女に向ってなんてことをするのよん!」

 

「とにかく鏡の事に関しては、私とこの変態貂蝉に任せて雪蓮さんは一度お戻りなさい。卑弥呼さんは優未の様子をお願いいたしますね」

 

貂蝉を無視して話を進める管輅。な、慣れてるわね~。

 

「うむ、心得た。では、孫策よ。またいずれ会おうぞっ!」

 

もう一人の筋肉達磨の卑弥呼は髭を整えながら黒い裂け目に消えていった。

 

「もう、いけずなんだからぁん。それじゃ後のことは私たちに任せて雪蓮ちゃんは暫く学園生活を満喫しなさい」

 

「ええ、そうさせてもらうわ。準備が出来た時は教えてくれるの?」

 

「ええ、私から教えるわよん。判り易い方法でね♪」

 

「……そう、なら私はこれで失礼するわ」

 

貂蝉の醜いウィンクを無視して理事長室を出る為に扉へと向った。すると……

 

「雪蓮さん。途中までご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「ええ、構わないわよ」

 

管輅は私が言いと答えるとそそくさと、貂蝉の横から離れて私の横に立った。

 

「では貂蝉。頼みましたよ」

 

「この絶世の美女と謳われた踊り子貂蝉にまぁっかせなさぁい」

 

「そうですか。では、参りましょう雪蓮さん」

 

「え、ええ……」

 

す、スルーですか。たくましいと言うかなんと言うか。

 

管輅と共に理事長室を後にすると管輅は一際大きな溜め息をついた。

 

「はぁ~、あの化け物はなぜいつもああなのでしょうかね?」

 

「いや、私に聞かれてもあなたの方が一緒に居る暦長いんでしょ?」

 

「わたくしの唯一の汚点ですわ」

 

あ、そこまで言っちゃうんだ。まあ、確かに私もあんな知り合いが居たら消し去りたい過去ではあるわよね。

 

「さて、雪蓮さんはこれからどうするのですか?」

 

「私?剣道場に行って見るわ。多分、今朝の事で愛紗が一刀を締めあっ、鍛え直してるだろうから」

 

言い直したけど、あれは傍から見たらどう見ても締め上げているようにしか見えないのよね。

 

愛紗の一刀への鍛え方は……とくに、嫉妬に駆られた後が酷すぎるわよね。よく一刀もあれで翌日平気で歩けるわよね。

 

以前、その事を一刀に聞いた見たら……

 

『体が慣れてきたのか、とくに筋肉痛とか無くなったんだよね。最初のうちは激痛で動けなかったんだけどさ』

 

との事らしいけど、やっぱり一刀にはセンスがあるわよね。無いとそこまで順応できるはずが無いもの。

 

「ふふふ、そんなに一刀さんの事が気になるのですね」

 

「っ!き、急に何を言い出すのよ。一刀の事なんて別に」

 

「『愛紗さんにこっ酷く鍛え直されていないかしら』と、私には聞こえましたが?」

 

「ちょっ!人の心読まないでくれるかしら?」

 

「ふふふ、すいません。あ、ではわたくしはここで失礼しますね」

 

「まったく、人をからかうだけからかった逃げるっていうのね。人が悪いわよあなた」

 

「お褒めの言葉と取っておきますわ。では」

 

管輅はお辞儀をするとそのまま廊下の角を曲がって居なくなった。

 

「……さて、私は一刀の様子でも見に行こうかしらね」

 

私はそのまま廊下を歩き、剣道場へと向っていった。

 

理事長室を後にしてから一週間がたった。

 

「あれからまったく連絡が無いけどどうなっているのよ。まったく……うぅ~寒いっ!」

 

通学路を歩きながらブツブツと文句を言って歩く。

 

「それに明日で終業式じゃない。本当にどうするのよ。もう……」

 

そう、明日は24日、終業式でもあるんだけど、クリスマス・イブでもあるのよね。

 

「はぁ~……とりあえず、プレゼントは買ってみたもののいつ渡せばいいのよ。これ……」

 

鞄から手のひらサイズの箱を取り出して溜め息をつく。

 

家に置いておくと母さんが掃除しに入った時に見つけられてねほりはほり聞かれるのは目に見えてるから鞄に入れっぱなしにして入るんだけど……

 

「はぁ~、どうしよっかな」

 

「何がどうしようかなの?」

 

「あら、琳じゃない。おはよう」

 

「ええ、おはよう。それより何を悩んでいるのよ。悩み事なら相談に乗るわよ?」

 

「あら、珍しい、どういう風の吹き回しかしら?」

 

「貴女ねえ。人が折角心配して聞いてみれば……」

 

「冗談よ。……別に対した事じゃないわ。明日はどうしようかなって考えていただけよ」

 

「明日?ああ、クリスマス・イブだものね……なるほど、そういう事」

 

琳は何を悟ったみたいにニヤリと笑って私を見てきた。

 

「なら、クリスマスデートでもすればいいじゃない?」

 

「出来たらやってるわよ。それに私だけ独り占めしてもいいの?」

 

「そんなことさせるわけ無いでしょ」

 

「だったら言わないでくれる?……そうだ!ねえ、琳に頼みたい事があるんだけど」

 

「なによ。利が無いと私は乗らないわよ?」

 

「そんなこと判ってるわよ。もしかしたら一刀を落とせるかもよ?」

 

「……聞きましょう」

 

琳たら、一刀の事に関してはホントわかり易いほど扱いやすいわね♪まあ、利が無いわけじゃないんだし琳が断る理由は無いと思うんだけどね。

 

「簡単よ。デートがダメならパーティーをすればいいのよ」

 

「なるほどね……いいわ、場所と料理は私が手配してあげる。あなたは桃香や愛紗に伝えてくれるかしら?勿論一刀にもね」

 

「ふふふ、そう来なくっちゃ♪」

 

よし、これで……

 

「「一刀と二人きりになれる口実を作れば……ん?」」

 

「……」

 

「……」

 

お互い見つめあい無言になる。

 

「さ、さあ、早く学園に向わなくてはね」

 

「そ、そうね。い、行きましょうか琳?」

 

ぎこちない笑顔で、台詞が棒読みの私たち二人は桃香たちと合流するまで近寄りがたい空気が流れていた。

 

「どぅふふ♪、はぁい、理事長の貂蝉よん♪今日は皆にお知らせがあるの」

 

(バタッ!)

 

(キャーッ!先生っ!――さんが倒れました!)

 

「……なんで理事長なんてやっているのか未だに疑問で仕方が無いわね……」

 

貂蝉のウィンクで数名の女子が気を失い倒れた傍で、私はそんな事を呟いていた。

 

「おっと!ちょっと、貴女も大丈夫?!」

 

私の横でも貂蝉を見て倒れてきた娘が居た。ホント、有害人物よね。

 

「は、はい。申し訳ありません」

 

「あなたも三年なんだからいい加減になれなさい?」

 

「はぁ……その、生理的に受け付けないといいますか……」

 

「まあ、判らなくは無いけどね……取り合えず立てる?」

 

「は、はい。申し訳ありませんでした」

 

「気にしてないわよ」

 

「どぅふふ♪私の魅力で皆ノックアウトしちゃったのね。私ってなんて罪な漢女(お・ん・な)♪」

 

絶対に魅力じゃなくて気持ち悪さで失神してるんだと思うけどね……

 

「まあ、話が進まないからこのまま進めるわよん」

 

貂蝉はそのまま話を進め始めた。

 

……これって貂蝉じゃなきゃいけない事なのかしら?代理でもよくないかしら、むしろ代理にしなさいよ。

 

「面倒だから簡単に言っちゃうけど。夏休みと同じで学園内にある歴史資料館に新しい展示物が入ったから、それをレポートして提出すれば夏休み同様、他の課題をやらなく

 

てもいいわよ」

 

「なるほど、そう来たか」

 

これが貂蝉の言ってた合図ってことね。

 

それを確認するように貂蝉を見つめると……

 

「……?……どぅふ♪」

 

うぇ、いちいち、ウィンクしないでよ。気持ち悪い。

 

「とにかく、これが合図って事は確か見たいだから一刀を誘わないとね」

 

その後、終業式は滞りなく?終わり、各々クラスに戻って通知表を貰った。

 

……え?成績?もちろん10よ♪……体育だけだけどね。

 

「だって勉強嫌いなんだもの」

 

「あなたねぇ、良くこの学園の編入試験合格出来たわね」

 

「だって全部マークシートだったから適当に勘で塗り潰しただけよ」

 

「……呆れてものが言えないわね」

 

「わ、私でもちゃんと勉強したのにすごいですね」

 

「桃香、普通はちゃんと実力で合格するものなのよ」

 

と、まあ、学園の帰り道でこんなことを話しながら皆と帰宅した。

 

「それじゃ。みな、着替えたら私の家に来て頂戴。判っていると思うけど私の家はあのビルだから間違えるわけ無いわよね」

 

なんてこと言ってるけど、馬鹿と煙は高いところにのぼるってね。

 

「雪蓮?今、私に失礼な事思ったでしょ?」

 

「べっつに~、そんな事思ってないわよ」

 

勘の鋭い娘ね。まさかの地獄耳かしら?

 

「まあいいわ。勘で生きてる雪蓮は放って置いて、「ちょっ!なによそ」くれぐれも遅れないようにしないさい。特に桃香」

 

いい度胸ね。私を無視して話を進めるなんて……後で覚えてなさい琳!

 

「え、私?」

 

「え、私?じゃないでしょ。いつものほほんとしてて何処か抜けてるのだから」

 

「酷いですよ琳さん!私、そんなにのほほんとしてませんよ!ね、一刀さん!」

 

「え?あ、うん……そう、かな?」

 

「一刀、時には正直に言うことも優しさなのよ」

 

「うぅ~、本当は一刀さんもそう思ってるんですね……ぐすん」

 

「そ、そんな事無いぞ!桃香はのほほんとしている所がいいんじゃないか!」

 

「……本当ですか?」

 

「ああっ!」

 

「えへへ。よかった♪」

 

「はぁ~……こうやってダメな人間が増えていくのね」

 

「私、ダメ人間なんですか?!」

 

「ほ、ほら!とにかくさ、早く家に帰って準備しないといけないんだからこれで解散しようよ。な、琳!」

 

「それもそうね。それじゃ、私は料理の確認して来るから、遅れないようにね」

 

「俺も何か手伝うことあるか?」

 

「大丈夫よ。配達してもらうから。それより桃香でも慰めてあげたら?愛紗だけじゃ手に余るみたいよ?」

 

「だったら、あんな事言わなくてもいいんじゃないのか?」

 

「いいの「琳はただヤキモチを焼いただけよ。ね?琳」っ!そんなわけないでしょ!誰が桃香なんかに!」

 

最初のは注意?だったけど、明らかに一刀が慰めた後は私怨よね?ふふふ♪一矢報いることが出来たかしら?

 

「と、とにかく!遅れるんじゃないわよ!」

 

琳は顔を赤くして逃げるようにして居なくなった。私の勝利よ!

 

「さてと、これでオッケーかな?」

 

鏡の前に立って一回転……うん!完璧♪

 

「まだ時間あるけど、そろそろ向かうとしますか」

 

ドレスの上にコートを羽織り部屋を出ると母さんがなぜか笑いながら立っていた。

 

「な、なによ……」

 

「おめかしして何処に行くのかな~って思って♪」

 

「友達とクリスマスパーティーするって言ったでしょ?」

 

「ええ、聞いたわよ?でも、なんでそんなに気合入れてるのかなって思って。だって友達なんでしょ?」

 

「べ、別にいいでしょ。母さんには関係ないんだから」

 

相変わらず、勘は鋭いんだから母さんは……

 

「とにかく、時間が無くなるから私行くわよ」

 

母さんの横をすり抜けて玄関に向かったけど、それでも母さんは後ろから着いて来た。

 

「なによ?まだ、何か用があるの?」

 

「あ、そうそう。言い忘れてたことがあるのよ」

 

母さんは、さも今思い出したかのように手を打ち笑顔でそんなことを伝えてきた。

 

「なに?」

 

「北郷君が外で待っているわよ」

 

「……は?はぁああ?!ちょ!なんで一刀が?!」

 

「あらあら、やっぱりデートなのね?うふふ、私も若い時は父さんと……」

 

「そんな昔話は今はいいのよ!いつから?!」

 

「ついさっきよ。ホント、北郷君って紳士よね。それで、いつ結婚するの?子供は何人産むつもり?母さんは娘が二人と息子が一人欲しいわね」

 

「そんなわけないでしょ!とにかく、行って来るから!」

 

「は~い、ごゆっくり♪」

 

玄関のドアを勢い良く開けると……

 

「やあ、雪蓮」

 

一刀が微笑みながら私を待っていてくれていた。

 

「迎えなんて良かったのに。おかげで母さんにからかわれちゃったじゃないの」

 

「丁度、通り道だったからさ。迷惑だったかな?」

 

「そんな事無いけど。電話くらいしてくれてもいいじゃない」

 

「次からはそうするよ。さぁ、行こうか雪蓮」

 

一刀は右手を差し出してきた。

 

ホント、女たらしなんだから一刀は……ふふふ♪

 

一刀の手のひらに手を乗せると私の手を包むようにして一刀は手を握ってきた。

 

「では、麗しの姫よ。舞踏会へと参りましょうか?」

 

「ふふふ、何それ。似合わないわよ」

 

「やっぱり?それじゃ行こうか雪蓮」

 

「ええ。ちゃんとエスコートしてね?」

 

「仰せのままに……」

 

「「あはは」」

 

お互いおかしくなって笑いあった。

 

――ピンポーン

 

『来たわね。どうぞ入って』

 

――ウィーン

 

琳がボタンを押したのか扉が自動で開いた。

 

「は~、さすがは高級マンションね。警備も万全よね」

 

「そうだな。一度はこういった所で住んでみたいよな」

 

「あら、一度だけなの?」

 

「俺には勿体無さ過ぎるよ。俺は好きな人といつまでも一緒に暮らせればそれでいいよ……どうかした雪蓮?」

 

「へ!な、なんでもないわよ!ほ、ほら、早く行きましょ」

 

「あ、ああ」

 

好きな人といつまでも一緒……それって誰のことかしら?気になる!気になるわよ一刀!

 

「ね、ねえ一刀?」

 

「え、なに?」

 

「そ、その……やっぱりなんでもないわ!気にしないで!」

 

恥ずかしくてそんな事聞けないわよ!ああ、でも気になる~!

 

一人、エレベーターで悶々としていた私を一刀は不思議そうに見ていたけど、それが余計に私を身悶えさせていた。

 

――ピンポーン

 

「来たわね。来るまで時間が掛かっていたけど何かあったのかしら?」

 

「何にも無かったわよ!」

 

「そ、そう……ならいいのだけれど……さ、入ってちょうだい。まだ時間前だから愛紗も桃香も来ていないけど、それまでゆっくりしていてちょうだい」

 

「ええ、それじゃ遠慮なくそうさせてもらうわ」

 

「あなたは少しは遠慮というものを覚えた方が良いと思うわよ」

 

「私は、自分の都合が悪くなることは覚えない主義なの♪」

 

「……一刀、ちゃんと雪蓮を見張ってなさいよ」

 

「ええ?!俺がか?!」

 

「当たり前でしょ?他に人が居ないのだから」

 

「はぁ、了解」

 

「なによ一刀。私と一緒じゃいやだって言うの?」

 

「……」

 

「ちょっとぉ~、そこで黙らないでよ!」

 

「ふふふ、それが答えってことじゃないのかしら?雪蓮」

 

「ぶー、一刀って薄情なのね」

 

「いや、そんなことは無いぞ?」

 

「ホントかしら?それにさっき黙っちゃったし、信用出来な~い」

 

「うぐっ……ほ、ほら!窓際行って見ようぜ!」

 

「あ、ちょっと一刀!そんなに引っ張らないでよ!」

 

一刀は分が悪くなったのか私の手を取り、景色のいい窓際へと向かった。

 

「まったく、薄情な一刀は私と一緒じゃ嫌なんじゃないの?」

 

「嫌なわけないだろ?」

 

「じゃ、なんであの時直ぐに言わなかったのよ」

 

「そ、そんな事今更良いじゃないか」

 

「今更じゃないわよ。ほら、言っちゃいなさいよ。ほらほら♪」

 

「そ、その……琳の前で言うのが恥ずかしかったから」

 

「……え?それって」

 

――ピンポーン

 

「あっ!誰か来たみたいだぞ!」

 

「あ、ちょっと一刀!……もう!いい所で誰よ一体!」

 

その先を聞こうとした矢先にインターホンが鳴り、一刀は私の前から居なくなった。

 

私も仕方なく後を追った。

 

『すいませーん桜崎桃香ですけど。琳さんはいらっしゃいますか?』

 

ディスプレイ付の受話器から桃香と愛紗が映し出されていた。

 

「今「ひょいっと……そんな人は居ませんよ?」っ!雪蓮あなたねえ!」

 

私は琳から受話器を無理やり奪い取り声色を変えて伝えた。

 

『ふえええ?!す、すいません。間違えました!』

 

『ど、どうなさったのですか桃香さま!』

 

『なんだか、違うお部屋の人にかけちゃったみたいだよ愛紗ちゃん』

 

「ぷっくく……」

 

画面を見て桃香の慌てようを見て声を殺して笑った。

 

「何しているのよ雪蓮!……桃香、今開けるわ」

 

『ふぇ?!り、琳さん?!で、でも部屋が違うんじゃ?』

 

「雪蓮がからかっただけよ。今開けたわ。それじゃ待っているわよ」

 

――ガチャッ

 

「まったく、人の部屋のもので遊ばないでくれるかしら?」

 

「少しくらい良いじゃない。減るもんじゃないし」

 

「……」

 

「わ、悪かったわよ。ちぇ、少しくらい良いじゃない。ねえ一刀?」

 

「……一刀?」

 

「ちょ!そこで俺に振らないでくれよ。り、琳もそんなに睨まないで、な?」

 

「私はあなたに雪蓮のお守りを頼んだわよね?」

 

「ちょっとぉ、私、そんな子供じゃないわよ!」

 

「あんな悪戯しておいて、十分子供でしょ!」

 

「うぇ~ん!一刀ぉ~、琳が苛めるよぉ~」

 

「だ、だから俺に振らないでくれぇぇええ!」

 

一刀に助けを求めるように抱きつくと琳の眼つきがさらにきつくなった。

 

「……ふんっ!」

 

ギュッ

 

「いっ?!っつ~~~!」

 

「ちょっ!一刀大丈夫?」

 

「だ、大丈夫、大丈夫……」

 

涙目になりながらも心配ないって笑顔で答えてるけど、あからさまに顔色が悪いわよ。

 

「……一刀に抱きつくのが羨ましいからって一刀に当たらないでくれるかしら?」

 

「ち、違うわよ!羨ましくなんかないわよ!私忙しいんだから、桃香と愛紗の出迎え頼んだわよ!」

 

「あっ、逃げた」

 

琳は顔を赤くしてキッチンへと戻っていった。

 

「雪蓮」

 

「ん?なに?」

 

「なんだか忙しそうだから。俺、琳の手伝いしてくるよ。雪蓮は桃香と愛紗をお願いね」

 

「あ!ちょっと一刀!……もう!」

 

一刀は琳が居るキッチンへと向かっていった。

 

――ピンポーン

 

「ああもう!こんな時に!」

 

「もう酷いですよ雪蓮さん!私、本当に間違えたのかと思っちゃったじゃないですか!」

 

「わるかったわよ。でも、桃香って騙されやすいのね」

 

「そ、そんな事無いですよ!」

 

「そうかしら?前だって……」

 

「桃香さま、雪蓮殿に話を変えられていますよ」

 

「わわっ!ありがとう愛紗ちゃん!」

 

「ちっ……」

 

「あ!今舌打ちしましたよね!酷いですよぉ~」

 

「あはは~、ごめんごめん。謝るわよ」

 

「もう良いですよ……それより、琳さんはどうしたんですか?」

 

「琳ならキッチンよ……一刀と、ね」

 

「え?……それって今二人っきりってことですか?」

 

「……そうなるわね。ちょ!愛紗?!」

 

「キッチンはどちらですか!」

 

「ちょ!落ちつこうよ愛紗ちゃん!」

 

「そうよ。ただ琳の手伝いしてるだけなんだから……多分」

 

「多分?!」

 

「しぇ、雪蓮さんも変なこと言わないでくださいよぉ~!」

 

「あはは、ごめんごめん。とにかく落ち着きましょ。こっそりと覗いてみましょう」

 

「は、はい……すいません。取り乱してしまい」

 

「まあ、わからないでもないわね。私も事情知らなかったら乗り込んでいたと思うし」

 

「あぅ……それ以上言わないでください」

 

「ふふふ……顔赤くしちゃって可愛い。とにかく荷物を置いた後、こっそりと様子を見てみましょ」

 

「そうですね。愛紗ちゃんもそれでいいよね?」

 

「はい、かまいません」

 

「そ、あ、まずはコートを脱がないとね。私もまだ脱いでないの忘れてたわ」

 

「わー!雪蓮さん随分大胆なドレスですね!」

 

「そう?これくらい普通じゃな?」

 

「私なんてそんなドレス持ってないから、ちょっと自信ないですよ」

 

「大丈夫よ。一刀は見た目なんかで判断しないのはわかってるでしょ?」

 

「それは判ってますけどぉ~。それでもそんな格好見せられたら自信なくなっちゃいますよぉ」

 

そういいながら、桃香はコートを脱ぎ始めるとそこから豊満な胸がお目見えして私は呟くように、

 

「……私からしてみればその胸見せられるだけで自信なくなるんだけどね」

 

「え?何か言いましたか?」

 

くっ!私ってこの年の時ってこんなに胸小さくなかったはずなのに!どうしてこの世界だとこんなに小さいのよ!誰よ!こんな私にした人物!出てきなさいよ!

 

「あ、あの、雪蓮さん?」

 

「え?なに?」

 

「コートは何処にしまえばいいんですか?」

 

「ああ、そうね……それもあとで琳に聞いてみましょう。取り合えずソファーに荷物を置いて琳と一刀の様子を見てみましょう」

 

「はい!」

 

桃香と愛紗をソファーに案内してこっそりとキッチンを覗きに行った。

 

「ちょっと、何やってるのよ。それはそうじゃないでしょ」

 

「ご、ごめん……これでいいか?」

 

「はぁ、仕方ないからそれで良いわ。まったく、手伝うと言ったのだから少しは出来るのかと思えば……」

 

「ごめん。俺の出来ると琳の出来るじゃ雲泥の差があるんだな……」

 

「ま、まあ、手伝ってくれるのはありがたいと思ってるから別に謝らなくても良いわよ」

 

「役に立ててるならよかったよ」

 

「~~っ!い、いいから切る事に集中しなさい!」

 

何よあの、新婚夫婦みたいな光景は!

 

(……)

 

(しぇ、雪蓮さん、か、肩!肩痛いですよ)

 

(ああ、ごめんごめん……)

 

どうやら桃香の肩を無意識に掴んでいたみたいね。

 

(大丈夫ですよ。それにしても何かいい雰囲気ですよね。琳さんと一刀さん)

 

(そうね)

 

(なんだか新婚さんみたいでいいなぁ~)

 

(そうね)

 

(私も一刀さんとああやって料理してみたいなぁ~)

 

(そうね)

 

(雪蓮さん?)

 

(そうね)

 

(……あ、愛紗ちゃん。雪蓮さんの様子が……愛紗ちゃん?)

 

(は、はい?!何でしょうか桃香さま)

 

(ど、どうしたの?じっと琳さんたち見つめて)

 

(い、いえ。その……う、羨ましいなと思いまして。やはり、一刀さまは料理が出来る女性が好きなのだろうかと)

 

(ん~、出来ないより出来たほうがいいと思うけど)

 

(うぐっ!そ、そうですよね……はぁ)

 

(わわわ!で、でも!愛紗ちゃんも料理出来るようになってきてるんだし!)

 

(そうですが、琳殿の腕を見ると自信が無くなって来てしまいます)

 

(それを言ったら私だって……あ、あれ?雪蓮さん?どうしたんですか?)

 

(もう我慢出来ないわ!乗り込むわよ!)

 

(わー!わー!だ、ダメですよ!お、穏便に!穏便に行きましょうよ!)

 

(ええい、止めてくれるな!桃香!)

 

桃香は私の腰に抱きついて来て一刀たちの所に行かせない様にしてきた。

 

(あ、愛紗ちゃんも雪蓮さんを止めてぇ~!)

 

(は、はい!雪蓮殿、落ち着いてください!ここで暴れては一刀さまに嫌われてしまうかもしれませんよ)

 

(うぐっ!で、でもあんなの見てられないじゃない!)

 

(それはそうですが……)

 

「……ふっ」

 

「どうかしたのか琳?」

 

「なんでもないわよ。次はこれをみじん切りね」

 

琳はこっちを見て勝ち誇ったように鼻で笑って見せた。

 

(ちょ!あの娘、こっち見て鼻で笑ったわよ!もう我慢できないわ!)

 

(気のせいですよ!ね!愛紗ちゃん!)

 

(そ、そうですよ!気のせいです!気のせいであって欲しいです!)

 

「つっ!」

 

「!り、琳大丈夫か!」

 

「これくらい平気よ。消毒すれば「見せて」ちょ!一刀」

 

(あれ?何かあったみたいですよ雪蓮さん)

 

(ええ、なにがあ……っ?!)

 

ちょ!何してるのよ一刀!

 

「な、な、なっ!」

 

琳も顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせた所を見ると、琳自身も予期しない出来事だったみたいだけど……

 

(ぎりっ……)

 

(い、痛いです!痛いですから雪蓮さん!)

 

「ちゅぱっ、血は止まったかな?とにかく絆創膏を……琳、どうかしたのか?」

 

「どうかしたのか?じゃないわよ!何してくれるのよ!」

 

「何って、血が出てるところを唾で消毒しただけだけど」

 

「~~っ!いい!人間の唾には細菌が居るのよ!そんなんで消毒できるわけが無いでしょ!」

 

「で、でも、血止まったし……」

 

「ああもう!あとは自分で処置するから、一刀は後ろに居る怖い人たちに説教でもされていなさいっ!」

 

「怖い人たち?それってだ「はぁ~い、か・ず・と♪」……しぇ、雪蓮?ど、どうしたのかな~、そんな怖い顔して……」

 

「ふふふ……どうしてだと思う?ねえ、桃香」

 

「そうですねぇ。判ってないみたいだよ愛紗ちゃん」

 

「……そうですね。ここは少し『お話』をしないといけないかもしれませんね。どう思われますか、雪蓮殿」

 

「と、とにかく落ちつこうよ。な?」

 

「そうねぇ、それじゃ、一刀がなんで私達が怒っているのかを言い当てたら許してあげようかしら?」

 

「怒ってるって……俺何か悪い事したのか?……いや、ちょっと待て!考えるから!」

 

一刀は必死に考え始めた。まったく、あれを無意識でやってるなら極刑よね。無意識じゃなくても極刑だけど。

 

「う、う~ん……なんだろ?」

 

「……愛紗」

 

「はい」

 

「桃香」

 

「はい」

 

「行くわよ」

 

「「はい!」」

 

「えっ!ちょ、ま、待って!」

 

「もう待てないわよ。覚悟なさい一刀!」

 

「い、いやぁあああああっ!!」

 

数十分後……

 

「それじゃ、少し遅れたけどはじめましょうか」

 

琳の合図でパーティーをはじめた。

 

「わあっ!これ美味しいですね!」

 

「ええ、この歯ごたえは病みつきになりそうです」

 

「ん~~~っ!これ美味しい!琳!これどうやって作るのよ」

 

「あっ!私も教えて欲しいです!」

 

「なら、今度教えてあげるわ……一刀、いつまでそうしているつもり?」

 

一刀はあの後、私、桃香に愛紗と散々言われて部屋の隅で膝を抱えて居た。

 

「ほらほら、もう怒ってないわよ。一刀も料理食べましょうよ」

 

「……もう怒ってないのか?」

 

「まあ、半分くらいかしら?残り半分は諦めた♪」

 

「あ、諦めたって……」

 

「だって、一刀の性格はきっと死んでも治らないだろうから。ね、みんな?」

 

「あは、あはは……そうですね、で、でも!そこが一刀さんのいいところでもありますし!元気出してくださいね!」

 

「散々、同じような光景を見てきていますからね。今更治しようが無いということは十分わかっていたことです」

 

「ホントね。ここにお父様が居たら一刀に何をするかわかったものじゃなかったわ。居なかったことに感謝することね」

 

「は、ははは……」

 

「ほぉ~ら、一刀も立って立って!折角の料理が冷めちゃうわよ?琳と『二人で』作った料理が」

 

「っ!けほっけほっ!雪蓮?何か言いたい事があるのかしら?」

 

「べっつに~、ただ一刀に指を舐めてもらったくらいで赤くなってる琳が珍しいって思っただけよ」

 

「くっ!あ、あんなことどうって事無いわよ。なに?もしかして羨ましいの?だったら一刀にやってもらいなさいよ」

 

「何ですって?」

 

「何よ」

 

「ふ、二人とも落ち着いてください!今日は折角のクリスマスパーティーなんですから!ね、愛紗ちゃん!」

 

「そうですよ。取り合えず喧嘩は止めましょう」

 

「……仕方ないわね」

 

「ふん、それはこっちの台詞よ。追い出されないだけありがたいと思いなさい」

 

「別に追い出されてもいいもーん。そうなったら一刀連れて行くから」

 

「え、俺?」

 

「「それはダメ(です!)(~っ!」」

 

「ふふふ、だそうよ?」

 

形勢が逆転したと思えば琳は得意げに微笑みだした。く~~っ!ムカツク!

 

「くっ……ふん!つまんな~い。あっ!一刀それおいしそうね食べさせて」

 

「え、これ?それじゃ新しいのを」

 

「いいわよそれで。あ~ん……」

 

「で、でも。俺の食べかけだぞ?」

 

「かまわないって言ってるでしょ?ほらほら、早く早く♪」

 

「あ、ああ……それじゃ、あ~ん」

 

「あ~~ん……ん~!おいし♪やっぱり一刀に食べさせて貰うと一味も二味も違うわね」

 

「む~」

 

「むむっ……」

 

「……」

 

幸せな気分で居る私の横で桃香、愛紗それに琳は一刀を睨みつけ……

 

「「「一刀(さん)(さま)っ!」」」

 

「は、はい?!」

 

「あれはどういうことですか!」

 

「あ、ああ、あの様な破廉恥な行為を!何を考えているのですか!」

 

「私の家でいい度胸ね、一刀」

 

「あらら~、一刀も大変ねぇ~」

 

「ちょ!お、俺のせいなのか?!」

 

「当たり前でしょ。雪蓮に言ったってやめるような人じゃないのは判っていることでしょ?」

 

「ちょっと、それどういう意味よ。そこ!桃香に愛紗も頷かない!」

 

「あは、あはははは」

 

「とにかく!一刀、この落とし前はどう付けてくれるのかしら?」

 

「えっと……そ、そうだ!プレゼント交換しようか!」

 

一刀はそう言うとソファーのある部屋に行ってしまった。

 

「……逃げたわね」

 

「逃げちゃいましたね」

 

「逃げましたね」

 

「逃げちゃったわね」

 

暫くすると一刀が包みを持ってきた。

 

「やっぱりそれがプレゼントだったのね」

 

「ああ、そんなにお小遣いが残ってないから対した物じゃないんだけどね……はい、桃香」

 

「わ~!ありがとうございます!」

 

「これが愛紗ね」

 

「わ、私にもあるのですか!あ、ありがとうございます……」

 

「で、これが琳」

 

「ふん、まあありがたく受け取っておくわ」

 

「最後に雪蓮」

 

「ふふふ、ありがと一刀♪ねえ、開けてもいい?」

 

「ああ、良いよ」

 

包みを開いていくと中から現れたのは真っ赤なマフラーだった。

 

「わーっ!私はピンクですよ!かわいいっ!」

 

「私は緑ですね。落ち着いていて良い感じですね」

 

「私は青ね」

 

皆それぞれ違った色のマフラーを送られて喜んでいた。

 

「ありがと一刀。でも、マフラーも高かったでしょ?」

 

「そうでも無かったよ」

 

一刀は笑顔で答えてるけど高かったと思うのよね。

 

「ふふふ、それじゃ次は私たちからね」

 

「え?」

 

「桃香たちだって持ってきてるんでしょ?一刀の為に」

 

「えっと……はい」

 

「じ、実は私も……」

 

「ふん、生徒会でいつもこき使っているから、たまにはご褒美をあげないとっておもっただけよ」

 

琳は相変わらず素直じゃなかったけどね。

 

桃香たちはそれぞれ一刀にプレゼントを渡すと一刀はその度に笑顔でお礼を言っていた。

 

「ふ~ん、桃香は手袋で愛紗は?」

 

「私は何が良いのかわからなかったのでハンカチです」

 

「そんな事無いよ。ちょうど買い換えようかなって思ってたところだったんだありがとうな」

 

「い、いえ。そんな……」

 

「で?琳は何を送ったの?」

 

「私は財布よ。以前、一刀の財布を見た事があったのだけれどボロボロでみすぼらしかったからね」

 

「みすぼらしいって酷いなぁ、でもありがとうな。大事に使うよ」

 

「当たり前よ。大事に使わなかったら容赦しないんだから」

 

「それで、雪蓮さんは何を送ったんですか?」

 

「私?私はねぇ……指輪」

 

「え?」

 

「ん?どうかした一刀?」

 

「い、いや。なんでもないよ。雪蓮もありがとうな開けてみていいか?」

 

「ええ、いいわよ♪」

 

一刀は驚いていたみたいだけど笑顔でお礼を言ってくれた。

 

「みんなありがとう。大事に使わせてもらうよ」

 

一刀は本当に嬉しそうにみんなにお礼を言ってくれた。

 

「さぁ、プレゼントも配り終わったことだしまた食べましょ♪琳、ワインとか無いの?」

 

「あるわけ無いでしょ。未成年なんだから、ノンアルコールで我慢しなさい」

 

「ちぇ~、それで我慢するか」

 

「琳さん!これ美味しいですね!どうやって作ったんですか?」

 

「ああ、それは行きつけのレストランから注文で作ってもらったものよ」

 

「ふぇ~、そうなんですか。とっても美味しいですね!」

 

「当たり前よ。私は美味しいものしか口にしないのだから」

 

「それって庶民の味はお口に合わないって事かしら?」

 

「そう言うわけではないわ。家庭には家庭の味があって私はいいと思うわよ」

 

「ふ~ん」

 

「なによ?」

 

「べっつに~」

 

「何か引っ掛かる言い方ね」

 

「ま、まあまあ!いいじゃないですか!美味しいことには変わりないんですから!ね、愛紗ちゃん!」

 

桃香はまた、私と琳が喧嘩するのかと思って間に入ってきた。

 

そんなこんなで、大騒ぎだったけどクリスマスパーティーは終わりの時間になり帰る時間になった。

 

「あ~、楽しかった!」

 

「そうだね。また来年もみんなでやりたいよな」

 

今は一刀に家に送って貰っている最中。

 

「別に良かったのに、私一人でも平気よ?」

 

「そう言うわけには行かないよ。最近は物騒だしね……それにその方が都合がいいし」

 

「え?何か言った?」

 

「い、いや。何も言ってないよ。あっ、ちょっと公園で休んでいこうか」

 

「?別にかまわないけど」

 

なんだか一刀の様子がおかしい。どうおかしいってのは判らないんだけど……

 

「はぁ~、大分冷えてきたわよね」

 

「そうだな。こんなに寒いんだから雪とか降りそうだよな」

 

「あはは、まっさか~」

 

「そこまで笑うこと無いだろ?」

 

「ふふふ、ごめんね。でも、降ったらロマンティックよね」

 

「ああ……雪蓮」

 

「ん?なに?」

 

「これ……」

 

「え?」

 

一刀は自分のコートからリボンが掛かった小さな箱を取り出してきた。

 

「なにこれ?」

 

「いや、さ……雪蓮だけ誕生日がまだだっただろ?それでさそれじゃ不公平かなって思ってさ」

 

「一刀……」

 

もう、嬉しいこと言ってくれるじゃない一刀たら。

 

「開けてみても良い?」

 

「ああ」

 

リボンを解き、包みを剥がして行くと見た事がある箱が出てきた。

 

「え、これって……」

 

「ははは、雪蓮からプレゼント貰った時ビックリしたよ」

 

「それは私もよ……こんな偶然ってあるのね」

 

そう、一刀が私にプレゼントしてくれたのは指輪だった。

 

「ねえ、一刀。一つお願いして良い?」

 

「ん?なんだ?」

 

「私の指にはめてくれる?」

 

「喜んで」

 

一刀は私よ右手を取ろうとして来たから腕を引いた。

 

「え?」

 

「こっちじゃないでしょ?」

 

「え?え?」

 

「もう、鈍いわね。右手じゃ無かったら左手しかないでしょ?」

 

「あ、ああ……」

 

そう言って一刀は左手を取り、人差し指に入れようとしたからまた……

 

「違うでしょ」

 

「ええ?!じゃ、じゃあ中指?」

 

「違うわよ」

 

「小指?」

 

「……わざと言ってるの?」

 

「いやだって、残りって言ったら……」

 

「ふふふ、ほらほら」

 

「う、うん……それじゃ」

 

一刀は恥ずかしそうに私の薬指にはめてくれた。

 

「ふふふ、それじゃ、私も……」

 

「え?ちょ、雪蓮?!」

 

「私だけじゃ、不公平よね~♪」

 

一刀の右手の人差し指につけている指輪を抜き取り、無理やりに左手の薬指にはめた。

 

「ふふふ、これで私達は夫婦よね?」

 

「え、ええええ?!」

 

「もう一刀は私のものよ♪誰にもあげないんだから!」

 

一刀の腕にぎゅっと抱きついて止めの一言を伝えた。

 

「私とじゃ嫌?」

 

「い、嫌じゃないけど……」

 

「ならいいのね?ふふふ、不束者ですがこれからもよろしくね♪」

 

「はぁ、雪蓮には敵わないな」

 

一刀は開いた右手で自分の頭をかきながら苦笑いを浮かべていた。

 

「ふふふ……あっ」

 

「ん?……雪だ」

 

頬に冷たいものが当たり見上げてみると雪が降ってきた。

 

「珍しいな、この時期に雪なんて」

 

「そうなの?」

 

「ああ、ここら辺は2月くらいにならないと降らないんだけどな」

 

「へ~……まるで私と一刀を祝福してくれてるみたいよね」

 

「ははは、随分と乙女チックなこと言うんだな」

 

「あ~、それどういう意味よ。ぶーぶー。私だって女の子なんだからね?」

 

「ははは、普段が普段だからな、たまに可愛い女の子だって事忘れちゃうよ」

 

「ひっどーい!でも、許してあげる。今可愛い女の子って言ってくれたから」

 

一刀の温かさを感じたくて抱いていた腕に少し力を加える。

 

「雪蓮?」

 

「もう少しこのままでもいいかな?」

 

「ああ、でも寒くないか?」

 

「ふふふ、一刀がくれたマフラーと一刀の腕から伝わってくる温かさで全然寒くないわよ」

 

「そっか……それじゃ、ゆっくりと行こうか」

 

「ええ♪」

 

一刀に寄りかかりながら雪降る公園をゆっくりと歩き出した。

 

きっと明日になればこの雪は消えてなくなっているんだろうけど、今だけは、一刀と居る間だけは降り続いてね……

 

空にお願いするように天を見上げる。

 

明日で全てに決着がつく、それは優未が戻ってくるって事。

 

だけど、管輅や貂蝉が言っていた『私が思った世界』が、私の中で引っ掛かっていた。

 

それでも、優未がまた私や一刀の前に現れてくれるなら……

 

その為に一刀には明日歴史資料館に一緒に行こうと既に約束をしたし、あとはなるようにしかならないってことよね。

 

でも……

 

ちらっと横目で一刀を盗み見る。

 

「綺麗だな~」

 

一刀は空を見上げて降ってくる雪を眺めていた。

 

今だけは、優未の事は忘れて一刀と一緒に……

 

続く

 

葉月「ども~!葉月です!おこんばんわ!」

 

雪蓮「ハロ~、呉のヒロイン雪蓮ちゃんですよ~♪」

 

葉月「……誰がヒロインですって?」

 

雪蓮「私よわ・た・し♪」

 

葉月「さて、雪蓮はまだ寝起きのようで頭が働いていないようなので話を進めます」

 

雪蓮「酷い言われようね。ところでさ、葉月」

 

葉月「はいはい。何でしょうか?寝起きの雪蓮さん」

 

雪蓮「……殴り飛ばすわよ?まあいいわ。なんで私だけプレゼントは二つでしかも指輪なの?」

 

葉月「それはですね。実は雪蓮の誕生日を考えた時にクリスマスイブにしようかなという考えが設定時にあったんですよ」

 

雪蓮「ふむふむ」

 

葉月「でも五人も誕生日が一ヶ月違いっておかしくないか?って思っちゃったわけですよ」

 

雪蓮「でも葉月の家族って皆一ヶ月違いよね?」

 

葉月「はい、すごいミラクルですよね両親も入れると皆、約一ヶ月違いですから」

 

雪蓮「ならそれでもよかったんじゃないの?」

 

葉月「それじゃ、雪蓮だけ特別感が無いじゃないですか。誕生日も無いのに贈られた方がビックリしてうれしくありませんか?」

 

雪蓮「まあ、確かにそうだけど。じゃあ、なんで指輪なの?」

 

葉月「それは簡単ですよ。この作品のヒロインだから一刀と結ばれるって考えで指輪です」

 

雪蓮「安直ね」

 

葉月「でも、嬉しかったでしょ?」

 

雪蓮「それは否定しないわよ♪それで、次回で終われるの?」

 

葉月「終わらせます!」

 

雪蓮「あっそ、じゃ、頑張って皆が納得する最終回にしなさいね」

 

葉月「え~~~~、既に最終回の展開は出来ているので変更なんてしませんよ」

 

雪蓮「ふ~ん、こうして皆から反感を買って晒し上げられるのね。可哀想な葉月。よよよ……」

 

葉月「ちょ!勝手に晒し上げないでください!」

 

雪蓮「冗談よ。それより前回のアンケートはどうなったの?」

 

葉月「まったく、冗談に聞こえないんですよ……アンケートですか?結果はですね……こうなりました!」

 

1. 五人分のアフターストーリーを書く。 5票

 

2. 三人分だけアフターストーリーを書く。 1票

 

3. しゃらくせぇ!誰も書かない。 0票

 

4. むしろここで一刀のアフターストーリーだ! 1票

 

5. いやいや、管輅が一刀に惚れたアフターストーリーなんてどうだ? 4票

 

6. いや、むしろ全員のアフター書けよ! 7票

 

葉月「と言う結果になりました……ってなんか『6』が増えてる?!」

 

雪蓮「あはははははっ!なにこれ傑作!全員ですって!ってことは、私・優未・琳・桃香・愛紗・管輅に入れたくは無いけど貂蝉もってことよね?」

 

葉月「ぐはっ!な、なぜ誰も3番に入れていないの?!」

 

雪蓮「愚問ね。誰も入れないのは目に見えている項目じゃない」

 

葉月「ひ~~~~~ぃ!」

 

雪蓮「それじゃ6番に決定って事で、アフターストーリー頑張ってね。葉月♪」

 

葉月「ぐすん……こうなったらドロドロの愛憎劇を……」

 

雪蓮「もちろん、そんなことしたら……判ってるわよね?」

 

葉月「はいっ!全力であま~い話を書かせて頂きます!」

 

雪蓮「うん、よろしい♪さてと、そろそろ終わりかしらね?」

 

葉月「そうですね……では、皆さん次回をお楽しみに……」

 

雪蓮「待ったね~~~♪」


 
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