No.174676

魏√after 久遠の月日の中で 2

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で 2になります。
前作にある番外編から見ていただくと幸いです。

ようやく一刀さんがこちらの世界に戻れました。
これからどうなるのでしょうか。

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2010-09-25 23:05:00 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:24088   閲覧ユーザー数:19947

「戻って……来たんだ……」

 

川のせせらぎを耳に深呼吸。

肺に満たされる空気は、俺がこの世界に戻ってきた事を実感させた。

ここは華琳と別れた場所。成都と隣接している森の中の小川。

その中心には、俺の身長程の四角い石柱が立っていた。

 

石柱には何も描かれていない。場違いに佇むそれは、誰かの墓に思える。

 

「……俺は死んだ事になってるのか?」

 

呆れと少しの怒り。

俺は荷物から木刀を取り出す。

幼少から使っているこの木刀は『一心』という。

北郷家に代々伝わる木刀で、その昔、神木から削りだされたと言われる業物だ。

 

一心を両手で強く握り、氣を込める。

 

「……ふっ!」

 

短く息を吐き、石柱に袈裟切りを見舞う。

手には何の抵抗も無く、一心は石柱を擦り抜けた。

 

遅れて石柱の上半分がずれ落ち、音を立て地に沈む。

 

「よし、待ってろよ華琳!」

 

荷物を片手に、俺はその場を後にした。

成都の街、大通り。

多くの人が行き交い、場は絶えず賑わいを見せていた。

俺は今、民と同じ質素な服に身を包んでいる。

 

昨日の夜、この様な服を準備していた。

珍しい服を着ていたら門の兵に止められてしまうだろうと思ったからだ。

この五年間、そんな用意も進めていた。

 

とりあえず馬を売ってもらえる所を探す。

思いの他すぐ見つける事ができ、ボールペン一本で上等な馬を手に入れた。

 

さて、成都からまで許昌まではどう頑張っても数日はかかる。

野宿の準備、間の食事などの用意が必要だろう。

 

まずはお金が必要だ。元の世界で買っておいた複数のボールペンを売りさばく。これで当面の金銭問題は大丈夫だろう。

俺は彼女達に早く会いたい気持ちを抑え、店を巡り始めた。

 

 

 

 

店の人と話しているうちに、色々とこの世界の情勢が解って来た。

三国同盟が始まり五年が経とうとしていること。

五年の節目という事で、この成都で盛大なお祭りが控えているとのこと。

こちらに居たとき、元の世界では時間が進んでいなかったのに、元の世界に居た時間は、こちらの世界にしっかり反映されている。

よく分からない理に俺は首を傾げるが、考えても絶対に答えが出ないので流す事にした。

 

それにしても……

 

「……腹減ったなぁ」

 

気が付くと太陽が真上を過ぎていた。

良い匂いに釣られ、屋台通りへと足を運ぶ。

 

「おっちゃん!ラーメン超大盛りでおかわりなのだ!」

 

元気な女の子の声が響く。

そこには、ラーメンの屋台で豪快に麺をすする少女がいた。

あの子は確か……張飛ちゃんだったな。

遠目からしか見た事は無いが、屋台の横に置かれている蛇矛を見るに間違いないだろう。

彼女の食いっぷりを見て、俺もラーメンが食べたくなった。

屋台に入り彼女の横に座る。

彼女は俺に気を止めるでもなく、ひたすら麺をすすっていた。

おっちゃんに普通のラーメンを頼み、張飛ちゃんを見る。

あれから五年が経っているにも関わらず、彼女はまったく変わっていなかった。

小さい体に肩にかかる程の赤い髪の毛。強いて言うなら、顔つきが少し大人っぽくなっただろうか。

 

「……お兄ちゃん、そんなにじーっと鈴々を見てなんなのだ?」

 

気が付くと、張飛ちゃんは箸を止めて俺を見返していた。

そりゃあ自分の事をずっと見つめてくる人がいれば気にもなるか。

 

「ごめんごめん。あんまり食いっぷりが良いから気になったんだ」

 

「ふーん」

 

理由を聞いて興味がなくなったのか、張飛ちゃんは再び食事を再開した。

 

今の季衣もこんな感じなんだろうなぁ……

豪快に食べる張飛ちゃんが季衣と重なる。少し物思いに耽っていると、注文のラーメンがやってきた。

 

久しぶりに食べるこの世界の食事は、とても美味しかった。

「お兄ちゃん、どこの国の武官?」

 

「え?」

 

超大盛りラーメンを食べ終えた張飛ちゃんは、俺の事をじーっと見つめていた。

俺は気にせず、箸を進めていたわけだが……

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

「鈴々も武官なのだ!だからお兄ちゃんが強いってわかるのだ!」

 

胸を張って言い張る張飛ちゃんに、俺は笑いが零れる。

 

「そっか。でも俺は武官じゃない。一応魏に勤めてはいるけどね」

 

確か自分には警備隊隊長の肩書きがあったはずだ。

まだ俺の席は残ってる……よな?

 

「魏の人なのかー。なんでこんなところにいるのだ?」

 

「ちょっと野暮用でね、今日中にはここを出て魏に戻るつもりだよ」

 

「そうなのかー……」

 

むーと唸る張飛ちゃん。

俺はラーメンが食べ終わったので勘定を済まし立ち上がる。

 

「じゃあ、お暇させてもらうよ」

 

「待つのだ!」

 

張飛ちゃんは急いで立ち上がり蛇矛を担ぎ上げた。

興奮した面持ちで立ち上がった俺と対峙する。

 

「鈴々と勝負するのだ!!」

 

「……うぇ?」

 

急な申し出に困惑してしまう。

 

「お兄ちゃんの強さが鈴々にはよく分からないのだ……だから、鈴々はお兄ちゃんの強さを知りたいのだ!」

 

つまり、俺が強いのは理解したが、どのくらい強いのかが分からなくてもやもやしているから勝負しろと。

どうしよう……手合わせしたい気持ちは俺にもある。俺がこの五年間でいったい彼女達にどのくらい近づけたか、それを試す事ができる機会なのだ。

だがそれと同時に、恐怖もあった。もし俺が彼女にあっさりと負けてしまえば、この五年間が薄いものになってしまう。

別に彼女達と肩を並べられるほど強くなったとは思っていない。ただ、自分が努力してきた時間の価値が変わってしまう事が怖かった。

 

「りんりーーーーん!!!!!」

 

大きな声に思考が中断される。

前からとてつもないスピードで長い黒髪のサイドテールお姉さんがやってきた。

彼女は確か、関羽さん。

走りながら揺れる美しい黒髪に見惚れてしまう。

彼女は俺達の前で止まった。

 

「鈴々!また仕事を怠けてこんなところに!いい加減戻って働いてもらうぞ!!」

 

「にゃ!にゃあああああ!!」

 

関羽さんは俺に気付く事無く張飛ちゃんの耳を引っ張って来た道を戻っていった。

 

「助かった……のか?」

 

気を取り直して大通りに戻る事にした。

「こんなもんだな」

 

持ってきた荷物に加え、買い足したものを合わせるとかなりの量になってしまった。

荷物を積み馬に跨る。

流石に上等な馬というだけある。これだけの荷物と俺を乗せても気にした様子も無く得意げに嘶いた。

 

「これからよろしくな……」

 

頭を撫で、腹を蹴り走らせる。

流石に日本で乗馬の練習はできなかったが、コツは忘れていなかったらしい。

最初はゆっくり、ある程度したらかなりの速度で走ることができた。

 

 

 

 

 

 

 

成都を出て数日、漸く魏の領地を踏む事ができた。

後二日もすれば華琳達に会えるだろう

 

今日の野宿場は森の中。綺麗な小川を見かけたのでそこに決めた。

乾物で胃を膨らまし終え、火を消し睡眠に入る。

 

寝始めてからどのくらいたっただろうか。

人の気配と敵意に当てられ目が覚める。

置きぬけにも拘らず頭は冴えていた。

眼は既に暗闇に慣れ、月明かりだけで十分辺りを把握できる。

数は五つ。いずれもゆっくりこちらとの差を詰めている。

 

横に置いておいた一心を握る。

 

一人が動く、自分に向かって一矢放って来た。

地を転がりそれを避け急いで立ち上がる。

皮切りに残りの四人が襲ってきた。

統率の取れた動き。俺は自分から距離を詰め、一人に弧を振るう。

構えていた武器を折り、敵の頭に一撃叩き込み昏倒させた。

動揺する三人を見逃さず武器を振るう。

だが三人はすぐに切り返し距離をとる。

かかってこない三人を見て、俺は構えを解いた。

 

「まったく……三国同盟で平和になったってのに、お前らみたいなのがまだいたのかよ」

 

ここは国境。同盟から五年経つ今でも、各本国から遠い所までが平和にはなっていないのだろう。

返事とばかり、再び矢が飛んできた。

矢羽の方向を確認し、矢を弾くと共に氣の孤影を飛ばした。

速度はそこまで速くは無いが、彼らの虚を突くには十分だろう。

小さな爆音が響く。砂煙が晴れると、弓を持った男が地に伏した。

 

「大人しくすれば五体満足のまま兵に突き出してあげるけど……そんな気は無い、か」

 

強い殺意に一心を構え直す。

 

「く、くそがぁああああああ!!!」

 

今まで黙っていた野盗達が叫びながら襲ってきた。

一太刀受け止め、別の男を蹴り飛ばし振りかぶっていた最後の男を巻き込む。

受け止めていた剣を上に弾くと、空いた懐に一心の柄を叩き込む。呻くそいつに再び蹴りをいれ吹き飛ばした。

体制を立て直した二人が俺を挟み込む。今度は自分から片方の男に疾駆し、脇へ一心を振るう。男の体を横にくの字にし地を舐めた……加減を間違えたか?

残った一人は武器を放り出し逃げ出した。男の背に先程と同じ氣の当て、気絶させる。

 

「……ふぅ」

 

俺は倒れ伏せた五人を見て、不謹慎にも喜んでいた。

鍛錬前までは確実に勝てなかったであろう者達に勝てたのだ。小さな事かもしれないが、五年間の鍛錬の成果を実感できた気がした。

 

野盗達を縄でぐるぐる巻きにした後、俺は再び床についた。

野盗達を兵に突き出してから三日。

彼女達が居るであろう許昌が見えてきた。

これまでの五年間が頭を巡る。

 

潤む瞳に渇を入れる。

泣くのは彼女達に会ってから。彼女達を胸に抱きしめてからだと心に決めている。

 

「もう一息だ!飛ばすぞ!!」

 

馬の腹に蹴りをいれ速度を上げる。

にやける顔を抑えることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は知らない。

魏には既に自分の席が無いことを。

彼と縁のある人物が後任についていること。

 

彼は知らない。

既に彼女が悲壮な決意を固めていたことを……

あとがき

 

 

 

どうもふぉんです。

とうとう一刀さんが許昌目前まで来ましたね。

貂蝉との約束通り幸せを手に入れられるのでしょうか。それとも……

 

補足?という訳ではありませんが、五年経ちましたが彼女達の容姿はまったく変わっていないと思ってください。

乙女は年をとらないですからね!

 

 

それではまた次回にお会いしましょう。


 
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