No.174516

魏√after 久遠の月日の中で 1

ふぉんさん

魏√after 久遠の月日の中で 1になります。
前作の番外編から見て頂くとうれしいです。

漸く本編始まりましたね。お楽しみいただければ幸いです。

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2010-09-25 00:55:45 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:28099   閲覧ユーザー数:22647

夜、鈴虫の鳴き声が道場の外に響き渡る。

空は満月。暗い道場の床を照らす月光が、とても幻想的に思えた。

 

あの日も、空にはこんな満月が浮かんでいた……

 

華琳と別れを告げて、もう五年が経とうとしている。

 

彼女達は元気だろうか。

 

もうすぐ会える。そう思うと、自然と鼓動が早まってしまう。

 

約束の時間までまだ暇がある。

 

俺はこちらに戻ってからの自分を振り返る事にした。

俺が目を覚ましたのは聖フランチェスカの庭だった。

両親に顔を合わせ辛かったが、帰宅すると特別な反応は無かった。

日付が進んでいなかったのだ。

その日のうちに祖父に鍛錬の願いを言いに行った。

最初は黙殺していた祖父だったが、俺の必死さを汲み取ってくれたのか、承ってくれた。

 

その日から、俺の慌しい日常が始まった。

昼間は学校、放課後は向こうの世界に行くための手がかりを探しに図書館へ、夜は祖父との鍛錬。

剣道部は週に一回参加していた。

尤も、祖父との鍛錬が功を奏し部内でもトップの実力だった。

 

そんな日常が一年とちょっと続いて、俺は大学へ進学する。

なんてことはない中堅の大学だ。サークルには入らず、鍛錬と手がかり探しに専念した。

 

余談だが、祖父との鍛錬は熾烈を極めた。

死に賭ける何て日常茶飯事。毎日体がボロボロになるまで自分を痛めつけた。

ある日、祖父に問われた事がある。

 

「何故、そこまでして力を求める?」

 

「大切な人達を守るために、後悔しないために」

 

気がついたら答えていた。

言い終わった後はっと祖父を見ると、やはりいつもの無表情だった。

 

「そうか……」

 

それ以上、祖父は何も聞いてくる事は無く、鍛錬が続いた。

 

恐らく彼女達が築いた平和は続いているだろう。

そんな中戻れたとして、力をつけた自分が戻ってきて何の意味がある?と自問したことがある。

答えはでなかった。

初めは鍛錬に没頭していれば、彼女達を思い出して悲しむ事も無く丁度良かった。

しかし時が経つにつれ、鍛錬の『意味』を考えてしまう自分がいた。

そこに祖父の問い。

自分が放った言葉を心の中で復唱する。

 

『大切な人達を守るために、後悔しないために』

 

そう、俺は後悔をしたくないんだ。

もしも自分に力があったのなら……

そう思うことが向こうの世界で多々あった。

いつも守ってくれた彼女達を、今度は自分が守りたい。

祖父のお陰で自分の気持ちに気付けたのだった。

戻ってから三年が経った頃、俺は祖父を初めて負かした。

 

祖父の強さは化け物だった。

それこそ、向こうの世界の武将とは比べられないが、技量だけでいえば彼女らを凌駕しているだろう。

攻を受け流す柔の太刀。

どんな太刀筋でも受け流し、隙を見て確実に攻めてくる。

そんな化け物に俺は勝ったのだ。

信じられずに呆然と立ち尽くしていると、倒れていた祖父がゆっくりと立ち上がり口を開いた。

 

「一刀、前にも言っただろうが私の武は柔の型。基本は脆弱、集中力無くしては成り立たん。この型は完成しておらん。私はお前に、私の持つ全てを与えたつもりだ。お前はそれを自分なりに考え、工夫し、自分の武を見つけて欲しい」

 

いつも寡黙な祖父が、饒舌に語りかけてくる。

自分は祖父の武全てを受け継いだ。

そう気付いた時、身震いが止まらなかった。

 

それから、祖父つてで氣の達人の下での鍛錬も始めた。

少しでも力をつけるため、彼女達に近づくため、俺は自分を鍛え続けた。

 

 

鍛錬が順調に進んでいる中、手がかりの方は一向に掴めていなかった。

図書館のそれに関する書物は全て手を出した。

時には美術館や、県外の図書館にも足を運んだ。

手がかりになりそうな物は全て確認した。

だが、結果は付いてこない。

無常にも過ぎていく時間に、俺は焦っていた。

つい昨日の事だ。深夜、いつもの鍛錬を終え道場を出るときだった。

 

「やっと見つけたわん……ご主人様♪」

 

背後から声と気配。振り向くとそこには、半裸の筋肉達磨が居た。

筋肉達磨は両肘をつけてウィンクをしている。

正直吐き気しか催さない。

 

「うわぁぁぁ!!…………ってあれ?」

 

奥底の記憶が呼びかける。

…………!!こいつは!?

 

「お前!確か下着店の店員の……貂蝉!」

 

「あらん、覚えていてくれたのねん♪愛の成せる業かしら」

 

そう、こいつは向こうの世界で昔、下着店の店員として働いていたはずだ。

この強烈な姿は、どうやら一度見たら忘れないらしい。

 

「何でお前がここにいるんだ!どうやってこっちに来た!!」

 

「んもぅ落ち着きなさい。今から説明してあげるから♪」

 

掴みかかる俺をすんなり交わしてこちらに背を向ける。

 

「やっとよご主人様……やっと認められたのよ、外史の独立が……」

 

「認め……外史……?」

 

意味が分からない。

 

「……いいのよ分からなくて。とりあえず、ご主人様はあの外史に戻れるわん」

 

外史?外史って……

 

「向こうの世界の事か!?俺はあそこに戻れるのか!?」

 

頭に浮かぶ彼女達、うれしくて視界が涙で滲む。

 

「ええ、明日のこの時間にまた来るわん。その時に送ってあげる♪」

 

その言葉を聴いて、目尻の涙が堰を切って零れる。

何で貂蝉がこちらにこれたのか、俺が向こうの世界に戻る事ができるのか。

そんな事どうでも良かった。ただ向こうの世界に戻れるとわかっただけで十分だった。

 

「……貂蝉……ありがとう……」

 

目の前の恩人に俺は深く頭を下げる。

 

「その言葉を聞けただけで、私に悔いはないわん……それじゃあ明日ね、ご主人様♪」

 

言うが早いか、貂蝉は瞬く間に姿を消した。

 

俺は急いで帰宅する。

持って行く物を整理するのだ。

 

その日の夜は、興奮してすぐに寝る事ができなかった。

「準備はいいかしらん?ご主人様」

 

と、いつの間にか道場には貂蝉の姿があった。

手には何やら鏡があり、その鏡は光り輝いている。

 

「……そのご主人様っての、何なの?できれば名前で呼んで欲しいんだけど……」

 

思えば初対面の頃から貂蝉には『ご主人様』と呼ばれていた。

 

「それはできないお願いだわん。ご主人様は私のご主人様ですものん♪」

 

「まぁいいけど……準備はできてるよ」

 

答える貂蝉の表情には少しの悲しみが帯びていた。

それを見ると、追求する気にはなれない。

荷物を持ち立ち上がる。

すると貂蝉が鏡を翳した。

 

「ご主人様、もうこの外史を阻む者は誰もいないわん。必ず、幸せになってちょうだい♪」

 

「……あぁ、約束する」

 

俺の言葉に貂蝉は笑みを浮かべた。

 

「いってらっしゃい!ご主人様♪」

 

光が俺を飲み込み、意識が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、ご主人様の幸せのためだもの……悔いはないわん……」

 

静けさを取り戻した道場。

その真ん中に佇む貂蝉は、体が透けていた。

持っていた鏡が貂蝉の手から擦り抜ける。

 

「またね……ご主人様……」

 

鏡が大きな音を立てて割れる。

道場に残されたのは、割れた鏡の破片だけだった。

あとがき

 

 

 

こんばにちわ。どうもふぉんです。

今回は内容薄い+短くてごめんなさい。

 

この話の続きを書くために魏ルートを最初からやり直しました。

やっぱいいね……最後泣くよね……

驚いたのが貂蝉と一刀って面識があったんですよね。

イベントの一端でかるーーーく言われてるだけだから一刀が忘れてても全然おかしくないけど。

 

続きもなるべく早く書けたらいいなぁと思います。

短編は思いつき次第ですかね。最近インスピレーションが沸かなくて……

 

それでは次回作で会いましょう。


 
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