「ふふふ……はーっはっはっは!!」
笑いが止まらない。
俺は今、リーサルウェポンを手に入れたのだ!
手中にあるのは四つの瓶。
今日の警邏中に偶然店頭で見つけたものだった。
用途は既に決めている。
ターゲットは桂花、詠、ねね、思春の四人だ。
普段から俺に対しての対応がひどいこの四人に、今から復讐、もとい矯正をしようと思う。
「はーっはっはっは!……げっほげっほげほッ!!」
おっといけないいけない、興奮しすぎた様だ。クールになれ俺。
今回の任務はこれを四人に服用させる事。
事後の四人を想像、もとい妄想し、俺の気分は最高潮になった。
真・恋姫無双~萌将伝~
「一刀は秘薬を手に入れた!」
まずは誰からにしようか……
いや、用も無いのに会いに行ったら変に思われる。
ぶらぶらして、最初に会った子にしよう。
「むぁーー!そ、そんな所に騎兵を……」
「ふふ、私に勝とうなんて百年早いのよ!」
おっと、東屋からターゲットの声を確認。
近づいてみるとそこには、象棋を打っている詠とねねが居た。
「何か楽しそうだな」
「げ」
俺の顔を見るなり心底嫌そうな顔を浮かべる詠。
ふっふっふ。そんな顔を浮かべられるのも、今のうちだぞツン子!
「大会一回戦敗退者同士で勉強中か」
そう、二人は三国合同の象棋大会で、一回戦負けという記録を持っている。
「なっ!あんたも一回戦負けでしょうが!」
俺もだが。
「俺の場合袁家の幸運力にやられたんだ、普通にやってれば勝ってたし!」
「ふん、口では何とでも言えるのです」
駒を並べ直しながら非難を述べる二人。
俺はある事を思いついた。
「ちょっと離れる。また来るな」
「来なくていい!」
「来るなです!」
はは、嫌われたもんだな……
「っと、おまたせ」
「むむむー……」
「ふふん」
再び戻ってくると、盤上は詠が優勢になっていた。
唸りながら思案するねねを尻目に、詠がこちらに気付く。
「あんた、何してたの?」
「いや、これをさ」
両手に持っているお茶を、盤の横に置く。
「片方が普通のお茶で、もう片方がとっても苦いんだ。負けたほうに苦い方を飲んでもらおうかなって」
「あら、珍しく気が利くじゃない」
勝利を確信している詠は、含み笑いでねねを一瞥する。
「よ、余計な事をしやがるなです……」
「あれ?ねねの負けってもう決まってるのかな?」
「そんなわけないのです!絶対逆転して見せるのです!」
そんな台詞を吐いた一分後、ねねは詠に負けを認めた。
「うぅ……これは何かの間違いなのです……」
「何言ってるのよ、これで私の五連勝じゃない」
「……うるさいです」
詠はお茶を飲み、ねねは一気に仰いだ。
「うげー……苦いのです……」
「あはは、次は飲む事が無いよう努力……しなさ……」
体に異常を来したのか、二人は胸の辺りを押さえ始めた。
二人してキッ!っと俺を睨み付ける。
俺は今、満面の笑みを浮かべていた。
「くっ……あんた……盛ったわね!」
「こ、このち○こめ……なにしやがったですか……」
「え?何の事かな?」
二人揃って首を垂れる。数秒後、急に意識を取り戻した。
そして……
「お、おまえ。こっちよるです……」
先に行動に出たのはねねだった。
ねねは俺を呼ぶと、自分の座ってた椅子に俺を座らせる。
その上に座り、俺の腕を前に出させ自分を抱かせた。
「えへへ……これで詠には負けないのです!」
「ちょーっとまったーーっ!!」
両手で机を叩き、顔を真っ赤にして抗議する詠。
「何であんたが一刀の上に座ってんのよ!…………そこは私の席でしょうが!!」
「何言ってるです。そんなこと誰が決めたですか?」
「あんた負け越してるんだから!譲りなさいよ!!」
「こういう事は早い者勝ちなのです!」
ギャーギャーと俺の膝の上を取り合う二人。
もうお気づきだろう。この薬は誰でも素直になってしまう薬なのだ!
普段の彼女達の態度は愛情の裏返しだと思っている。
だが、俺はそんな彼女達がデレデレしている所を見たかった!!
今!その念願が!!叶っている!!!
俺は目の前のねねをぎゅっと抱きしめ、温もりを感じる。
「あぁ!ずるい!」
「えへへ……おまえ、そんなにねねの事が好きなのですか?」
「あぁ……大好きだ」
「……しょうがないやつですね」
ねねはとろけるような笑顔を浮かべている。
と、詠が見かねたのかこちらに寄ってきた。
「ねねばっかりずるいわよ……わ、私も……」
俺の袖を引き潤んだ瞳で頼んできた。
何なんだこれは……ここは天国か……?
「うぉおおお!!」
「きゃっ!」
「わぷっ!」
二人まとめて強く抱きしめた。
女の子特有のいい香りが鼻腔をくすぐる。
俺の胸の中の二人は、幸せそうに目を瞑っていた。
もう……俺……爆発する……
俺の良心が消えうせる寸前、二つの人影が近づいてきた。
恋と月だ。
と、ねねと詠が二人に気付く。
「恋殿ぉおおお!!」
「月ぇえええ!!」
「ぶべらっ!!!」
気付いた瞬間、二人は俺を跳ね飛ばした。
急の衝撃に受身もできず地面を転がる。
「恋殿ぉ愛しておりますぞぉ……」
「月ぇ……僕のかわいい月ぇ……」
「……?」
「ちょっと詠ちゃん!?急にどうしたの?」
いちゃいちゃする四人を見て、俺は目の前で恋人を寝取られた様なすごい寂寥感を味わった。
くっ!まぁいい、ねねと詠については十分堪能できた。
次は思春と桂花だ!まってろツン子ども!
四人を尻目に、俺はその場を後にした。
俺がやってきたのは呉の屋敷。次のターゲットを思春に決めたのだ。
思春といえば、恐らく今も蓮華に付き添っているだろう。
ということで蓮華の部屋に向かう。
ぐぅぅ
俺の腹が小さく鳴った。
そういえばもう昼時か。
朝食べてすぐ警邏に行って、今日は買い食いもしなかったからなぁ。
と、俺は思いつく。
歩み先を変え、呉の厨房に向かった。
蓮華の部屋についた。ノックをする。
「開いてるわ」
「失礼するよ」
声に促され、部屋に入る。
中には蓮華と、やはり思春がいた。
二人は揃って政務に励んでいる。
「一刀だったのね。でも悪いけど、今は一緒に居れそうにないわ……とても忙しいの」
「あぁいいんだ。そう思って、料理をつくってきた」
後ろ手にしてた物を前に出す。
俺作、普通味の麻婆。
ちなみに薬は入ってない。
「ほら、もう昼時だろ?二人ともまだ昼食をとってないと思ってさ」
「一刀が作った料理?大丈夫なの?」
「ひ、ひどいな……でも大丈夫だよ。華琳から御墨付きもらってるから。普通って」
「ふ、普通……」
呆れる蓮華をよそに、俺は机の空いている場所に料理を置く。
横に居た思春には、別のものを置いた。
「む、私は別に腹は減っていないぞ」
「そういうと思って、思春にはつまめる物にしといた」
思春の前に置いたのはゴマ団子。亞莎と共に作った事もある、味が保障されてる一品だ。
「それなら、頂こう」
既に食べ始めている蓮華を見て、思春も一口ゴマ団子を食べ始めた。
「……本当に普通ね」
「褒めてくれてる……のかな?」
「少なくとも私よりはうまいわよ……少し嫉妬してしまうわ」
再び箸を進める蓮華。お腹が減ってたんだろうか。
と、思春の様子が変わった。
胸を抑えている。
「…………ふふ」
「ほんご……貴様……ッ!」
振り絞るような小さな声で呻いた思春。
俺は今蓮華から思春が見えない位置に立っている。故に蓮華が気付くことは無い。
ねねや詠と同じように首を垂れた。
そして数秒後、意識が戻る。
思春は急に立ち上がり、俺の手を掴んだ。
「蓮華様、少々お暇を取らせていただきたい」
「え?思春、急にどうしたというの?」
急な行動に、戸惑う蓮華。
気にする様子は無く、思春は続ける。
「厠に、行って参ります」
「あっ!思春!!」
俺を引きずりながら、部屋を後にした。
「……何で一刀を連れて行くの?」
蓮華の呟きが、静かに部屋に響いた。
「おい、思春!」
「…………」
庭の茂みに辿り着き、ようやく手を開放された。
正直、痛い。
「急にどうしたんだよ……」
「お前は……」
俯き、言い淀む思春。
俺は手を擦りながら次の言葉を待った。
「お前は……何故蓮華様ばかりかまうのだ」
「え?」
「私には、気をかけてくれないのか?」
真っ赤な顔を上げて、瞳の隅に涙を溜める思春。
普段では絶対に見られない彼女の姿に、俺の鼓動は大きく弾む。
「わかっている……私の態度が悪いのだろう。常に突き放す様な態度をとり、自分より蓮華様を愛せと言う……だが北郷。私も女だ……好いてる男からは、一番に愛されたいんだ……」
「思春っ!」
もう限界だった、悲しい表情を浮かべる彼女を見ていられなかった。
強く、強く思春を抱きしめる。
「北郷……北郷……!」
俺に答えるかのように、思春も俺の背に手を回す。
彼女の温もりが、とても心地よかった。
「俺は思春が大好きだ……思春を気にかけてないなんて、絶対に無い!」
「……私も、お前が好きだ。大好きなんだ」
「思春……」
「北郷……」
瞳を交わし唇を近づける。
ゴンッ!!
ドサッ
「……えっ?」
一瞬何が起こったか分からなかった。
目の前で抱きしめあっていた思春が、急に意識を失って倒れている。
視線を前に戻すと……
「思春の様子がおかしいと思って着いていってみたら……一刀、いったいこんな茂みに隠れて思春と何をしようとしてたのかしら?」
「ひぃぃ!!」
南海覇王を構えた蓮華が居た。
あまりの剣幕に、息を呑む。
「ご、ごめんなさいッ!!」
「あ、こら!まちなさぁあああああい!!!」
俺にはまだ後一つ指名が残っているんだ!
それを成す前に倒れるなんて、天が許そうと俺が許さん!!
俺は死力を尽くして蓮華から逃げ切ったのだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
蓮華から何とか逃げ切った俺は、魏の屋敷にいた。
何故かはもう説明する必要も無いだろう、桂花のためだ。
息を整え、思案する。
桂花は強敵だ。恐らく俺が作ったものなんて、気持ち悪がって絶対に口にしないだろう。
ん?まてよ?俺が作ったものは口にしないんだよな。という事は……
にやりと笑みを浮かべる。策はできた。実行に移そう。
まず最初に俺はある子を探す事にした。
「兄様、これで大丈夫ですか?」
「完璧だよ!さすが流琉だな!」
魏の厨房、俺はと天の世界の料理を作っていた。
そう、俺がつくったのでないなら、流琉が作ったことにすればいいのだ。
「わざわざありがとうな」
「いえ、私も勉強になりました。また今度違う料理も教えてください!」
笑顔で厨房を後にする流琉。忙しいのにわざわざ時間を作ってくれたのだ。
この努力を無駄にしないように、頑張らないとな。
料理を片手に、俺は書庫に向かった。
「ふ、見つけた」
書庫に行くと、予想通りそこには稟や風と一緒に書簡を読んでいる桂花が居た。
と、風が気配に気付いたのか、書簡から目を離しこちらを向いた。
「おぉ?お兄さん、どうしたのですか?見ての通り風たちはお仕事中なので、閨には行けませんよ?」
「なんでそうなるんだよ……これこれ」
風の戯言に溜め息を吐き、流流と一緒に作ったマフィンを二つ置いた。
「おぉ、これは?」
「俺の国のお菓子で、マフィンっていうんだ。甘くてふわふわして、めっちゃうまいぞ」
「それはそれは……一刀殿、わざわざありがとうございます」
稟は丁寧にお礼を述べてきた。
流石、鼻血と妄想癖が無ければ魏一番良識人なだけある。
「お兄さん。稟ちゃんから鼻血をとったら、稟ちゃんじゃなくなるのですよ」
「っと、声に出てたか。それもそうだな」
「一刀殿……まぁいいです。ではいただきますね」
稟と風がマフィンを口にする。
すると途端、笑顔が零れた。
「おぉ~~~」
「これは……素晴らしいです。甘さといい食感といい……天の国の料理というのは、美味しいものばかりなのですね」
「あはは……そういうわけじゃないけどね」
風の感嘆と、稟の絶賛に喜びを感じる。流流の手助けがあったにしても、自分の作ったものを褒められるのはうれしいかぎりだ。
「桂花もどうだ?」
俺はまだ持っていた最後のマフィンを桂花の前に置く。
「あんたが作ったものなんて、触りたくも無いわ」
「あぁ違うよ、流琉に手伝ってもらった……というか作ったのは殆ど流流なんだ。俺は作り方と材料を教えただけ」
ちょっと嘘をつく。だがこうでも言わないと桂花は食べてくれないだろう。
じーっと警戒するように俺を睨む桂花。
だが甘い匂いの誘惑に負けたのだろう。マフィンに手を伸ばした。
恐る恐る一齧り。
「……おいしい」
「だろ?」
それを機にぱくぱく食べ始める桂花。あっという間に完食してしまった。
「まぁ、食べれなくは無かったわ……」
「まったく、おいしいと言っていたではありませんか」
「う、うっさいわね……!?」
桂花は急に胸を押さえ始めた。
三人と同じく首を垂れ、直ぐに意識を取り戻す。
「桂花ちゃん?」
「け、桂花殿……?」
心配する二人。桂花はキョロキョロとし、俺を見つけ固まった。
「け、桂花?」
あの桂花が素直になったら……想像もし得ないため、何が起こるか分からない。
俺の心配が当たったのか、桂花は急に泣き始めてしまった。
「ふぇええええええん!!」
「ちょ、桂花どうした!?」
急いで近づき、頭を撫でてあやす。
ちょっとずつ落ち着いていった桂花。
今では俺の胸に甘えるように寄り添っている。
と、二人が俺を苛むような眼つきで睨んでいた。
俺は慌てて薬の説明をする。
「なるほど~。桂花ちゃんは心の中ではそんな事をしたいくらい、お兄さんの事が大好きなのですね」
「ふふ、この事が分ってしまっては、桂花殿の罵詈雑言などかわいいものですね」
媚薬などの人の心を変えるようなものではなく、素直にするとの効能に二人からの非難は無かった。
「ところで、なんで急に泣き出したんだ?」
「えっと……いつも悪口ばっかり言ってごめんなさい。私、本当は一刀のこと好きなのに、お口が言う事聞かないの」
ちょっと幼児退行してるのか、口調がおかしい。
だがそれを含めて、今の桂花は半端無く可愛かった。
「だからね、一刀は私のこと嫌ってるって思って、そう思ったら、すごく悲しくて……」
「まったく、俺が桂花が嫌いなんてあるはずないだろ?」
「あっ……」
頭を撫で、額にキスをする。
「…………ふはっ!!」
横から赤い線の軌跡が見えたが、スルーさせてもらう。
「桂花が俺の事好きで居てくれる限り……いや、好きじゃ無くなっても、俺は桂花の事をずっと思ってる。だから安心してくれ」
「…………うん」
再び頭を撫でると、桂花は胸の中で寝息を立て始める。
「はいはい稟ちゃん……とんとーん」
「……ふがふが」
二人の相変わらずのやり取りに、俺は呆れて溜め息をついた。
「つっかれたー!!」
寝台に寝転び、今日の出来事思い返す。
素直になった四人、凄まじい可愛さだったなぁ。
詠とねねは少し感づいてはいたけど、思春と桂花があんなに俺の事を思ってくれてたとは……
自然と顔が緩む。
この気持ちなら、明日の仕事もきっと気持ちよくこなせるだろう。
俺は心地よさを胸に、意識を手放した。
「すー……すー……」
朝早く、一刀の部屋に忍び込む四つの影。
影は音を立てず中へ忍び込むと、寝台の前に並んで立った。
「寝てるわね……どうする?」
「決まってるです!」
「首を飛ばす」
「それじゃ生温いわ。もっと苦しめる様な殺し方を……」
四人は思案する。と、一刀が寝返り呻いた。
「ん~……詠、ねね、思春、桂花…………」
「「「「!!」」」」
ばれたと思い思春が太刀を振りかぶる。
しかしそれは、一刀の次の一言で止められた。
「ずっと……ずーっと……愛してるからな……」
四人は呆然と部屋に立ち尽くす。
少し経つと、全員が無口で部屋を出て行った。
「へへ……みんなみんな、愛してるからな……」
そう呟き、再び寝息をかき始めた。
北郷一刀……恐るべしッッ!!!
あとがき
どうもふぉんです。
最初にごめんなさい。キャラ崩壊すぎますね、薬の力とはいえ、やりすぎたでしょうか?
まぁそこらへんはご愛嬌ということで。
最後の落ち、どうでしたか?少々期待を裏切ってみたかったのと、一刀さんの種馬パワーの本気を垣間見れたかと思います。
自分の作品にコメントがつくと、やはりうれしいですね。そんな中でも一つ、目に付いたのが……
『そしてふぉんさんも一刀のよ(ry』
はは、こやつめ。
私が一刀さんを好きなのはもはや敬愛の粋に達しているのです。恋愛感情など甚だしい。というか私にそっちの気は無いです。
さて次回作は……どうしましょうか。
思ったより戯志才編が好評だったのに驚きました。
続編は……思いついたらですかね。今のところはわからないです。
考え付いたらぽぽんと書くのが私流ですので。
この作品も、今日お風呂で思いついてこんな夜中まで書いていたくらいですからね(笑)
ではでは次回作で会いましょう。
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ふと思いついた作品。あの四人をデレさしてみました。
楽しんでいただければ幸いです。
作中萌将伝とでてますが、真・恋姫無双までの知識でも楽しめますのでご安心ください。
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