No.173744

魏√after 久遠の月日の中で 番外編

ふぉんさん

本編は真・恋姫無双の魏ルートafter物になります。
オリキャラが1人でますので注意を。

番外編と称したのは、一刀さんが戻ってくる前の話だからです。
一刀さんは次回からですかね。

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2010-09-20 20:13:54 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:47398   閲覧ユーザー数:35287

「ふぅ…………」

 

祭りの空気で熱くなった体を休めるため、一人になった。

城壁に寄り掛かり空を見上げる。

空には、あの日の様な満月が爛々としていた。

 

「一刀」

 

三国同盟が成ってから、もう三年が経つ。

私の言った通り、魏は目紛るしい発展を遂げていった。

三国の中でも一番栄えているといっても過言ではないだろう。

それは彼が残していった天の知識によるものが大きい。

 

 

「あなたはもう……帰ってこないのね」

 

最初は、彼が帰った事を後悔させるような国を作っていけば、あの笑顔が戻ってくると思っていた。

どんなに苦しくても、辛くても、それを支えにできていた。

でも、私は……

 

彼は言っていた

 

『さようなら……誇り高き王』

 

それは王としての、曹孟徳への別れの言葉。

 

『さようなら……寂しがり屋の女の子』

 

それは一人の少女、華琳への別れの言葉。

 

『さようなら……愛していたよ、華琳─────────』

 

それは愛する人への、決別の言葉。

 

「愛して『いた』なんて、随分ひどいんじゃないかしら?」

 

今ではもう愛していないかの口ぶり。

でもわかっている、彼はやさしい。いつまでも私達が、そこにいない自分の事を思い続けるのを許せないのだろう。

彼は自分の幸せより、私達の幸せを最上としているのだから。

 

「なら、あなたがいつまでもここ居たらよかったじゃない」

 

我ながら理不尽な事を言う。

この結末、三国同盟をもって乱世を終決させたこの世界。

彼の言う世界とは、まったく異なってしまった。

それ故の、彼の消滅。

だが私達が一番に望んでいたものは、彼と共に過ごす平和だった。

 

「…………もう、いいわ」

 

過ぎた事を思っても、何かが変わるわけでもない。

彼はもういない、恐らく戻ってくることもないだろう。

 

冷めた心に決意に火を灯す。

華琳は今まで、そしてこれからも彼を愛するだろう。

だからこそ……

 

「我が名は曹孟徳。魏の覇王なり」

 

静かに紡ぐ、決意する。

私は曹孟徳。もう、彼を愛する華琳が外に出る事は無い。

 

 

 

 

 

静かに月を見上げる彼女の眼は、今にも涙が溢れそうだった。

「今……何と仰いましたか……華琳様」

 

三国同盟三周年記念の祭りが終わり、成都から帰還した次の日。

華琳様の命により、朝議には魏全ての将が集まっていた。

何事かと気を引き締める我らに、想像もし得ない言が飛ばされた。

 

「聞いてなかったのかしら?まぁいいわ、よく聞きなさい。魏の王とし、決を下す。……北郷一刀、下の者を警備隊隊長解任とす」

 

「どういう事ですか!」

 

再び発せられた命に、凪が身を乗り出した。

 

「凪!御前であるぞ、控えろ!」

 

「できません!華琳様、私は言ったはずです!我ら北郷隊が続けていられるのは、隊長の名のものだからだという事を!隊長を解任するということは、我ら北郷隊全ての者を解任するに同義なのですよ!?」

 

「……いつまでも一刀の名を掲げる……と?」

 

「そうです!それが我ら北郷隊隊員、全ての心情!!」

 

激昂する凪に、華琳様は溜め息……いや、嘆息した。

 

「くだらないわね」

 

「なっ!」

 

「一刀は既に天の国に帰り、もうここ戻ってくることは無いわ」

 

「ありえません。隊長は必ず、戻ってきます」

 

「凪」

 

「なんでしょう」

 

華琳様は既に、殺気に近いものを出していた。それに臆する事無く凪も対峙している。

 

「いいわ凪、一刀は戻ってくる。でもそれは何時なの?もう三年も経っているのだけれど、一年後?十年後?それとも三十年後かしら」

 

「そ、それは……」

 

「あなた達はそんな長い間、一刀の帰還を思い続け、隊を動かしていくつもり?……無理ね。そのうちあなた達は思いの強さに潰されてしまうわ」

 

「…………」

 

「凪ちゃん……」

 

「凪……」

 

拳を握り締め、俯く凪に真桜と沙和が駆け寄る。

 

「……警備隊隊長の後任は、王祥に任命するわ」

 

王祥……確か北郷ととても仲が良かった警備隊の一人だったはずだ。

北郷を交え、私も一緒に呑んだことがある。

とても人の良い、誠実な者だ。加えて多少の武もあり、親衛隊に勧誘された事がある程だ。

しかし、それでも大抜擢すぎる。

一介の警備隊員が、何の功も挙げていないのに警備隊隊長に任命されているのだ。

 

「凪、真桜、沙和は彼の元で新兵の育成、もとい警備に励め。以上よ」

 

有無言わさず態で玉座に座る華琳様。

三人にはもう言い返す気力も無いようだった。

 

この後は、何時も通りの朝議が開始された。

 

「……なぁ秋蘭」

 

「何だ姉者」

 

事を静かに見ていた姉者が、私に尋ねてきた。

 

「北郷はもう……帰ってはこないのか?」

 

「……わからん」

 

「そうか……」

 

落胆するような声。

華琳様は言った。北郷はもう戻ってくる事は無いと。

この三年、華琳様はその様な事は一度も言った事は無い。

むしろ、それを願っている様な事が多々あった。

何故華琳様がこの様な事を命じたのかはわからない。

今の華琳様はとても痛々しかった。

それは私達、乱世当初から居たものにしか解らない程の違いだろう。

だが確実に、華琳様は心で泣いている。

 

「北郷……帰ってきてくれ」

 

その悲しみを癒せる者は一人しかいない。

三年前乱世を終決させた立役者、北郷一刀。

私は彼の帰還を心から願った。

「私を……警備隊隊長にですか?」

 

「えぇそうよ、やってくれるかしら」

 

三国同盟記念の祭り。今年で三年目になるそれは、とてつもない活気に満ち溢れていた。

私は警備隊として城を見回り、問題事などの鎮静に勤めている。

 

そんな中、曹操様が私を呼び止めたのだった。

すぐに膝を付き頭を下げる。

 

「……何故私が、その様な任に選ばれたのかはわかりませんが、お断りさせて頂きたい」

 

「私直々の命を断るというの?それなりの理由が無ければ、首が飛ぶ事になるわよ」

 

全身に浴びせられる覇王の気。体から汗が吹き出、意識が飛びそうになる。

だが私にはそれを受けられない理由があった。

 

「私の中で、警備隊隊長は北郷一刀様唯一人でございます。他の将もとい、自分などが隊長の後任など、務まるはずがありません」

 

「私自慢の子達でさえ、一刀の後任は務まらないというのね。あなたは」

 

曹操様の武器、絶が私の首に添えられる。

……私は死ぬのか。だが、悔いは無い。

誰が何と言おうと、私にとっての隊長は北郷様以外ありえないのだから。

 

「……ふふ、あはははははは!」

 

目を閉じ覚悟を決めた私に、盛大な笑い声がかけられた。

曹操様が腹を抱え大笑いしている。

普段絶対に見る事のできない覇王の姿に、私は驚く事しかできない。

 

「はは……本当にあいつは、いてもいなくても私を驚かせるわね…………王祥!」

 

「はっ!」

 

「あなたには先程言ったとおり、警備隊隊長の任を与えるわ。否定はさせないわよ。私はもう決めたの」

 

「ですが……」

 

「あなた、最近妻ができたみたいじゃない。彼女を悲しませていいのかしら?」

 

私は最近になって、小さな頃から知り合いだった女の子と関係を持った。

彼女は豪族の娘。

身分の違いから諦めていたのだが、彼女の強い希望により親が折れ、念願が叶ったのだ。

 

「…………」

 

「……別に一刀の事を忘れろとは言ってないわ。ただ、私はあなたなら一刀の後を任せられると思ったの」

 

何故曹操様はそこまで私に……

 

「……わかりました。この王休徴、曹操様のご期待に沿える様警備隊隊長の任、尽力して勤めましょう!!」

 

「ふふ、それでいいわ」

 

振り返りその場を後にする曹操様。

その背中は、私には悲しみに濡れている様に見えた。

朝議を終えた私は、早足で部屋に戻った。

 

扉を閉めると、言い図れない負の感情が心を攻め立てる。

 

「くっ…………うぅ……」

 

唇を噛み締めて耐える。

この程度で折れる訳にはいかない。

これはまだ、事の始まりにすぎないのだから。

 

「ふふ、あなたの覚悟とはこの程度だったの?曹孟徳……」

 

自嘲する。

そうでもしないと、心が壊れてしまいそうだった。

 

『一刀は既に天の国に帰り、もうここ戻ってくることは無いわ』

 

自分の言葉。

我ながらよく言えたものだと思う。

声は震えていなかったか?表情は変わっていなかったか?

 

胸元の服を握りしめる。

 

自分の采配が何をもたらすか、それは全て彼に委ねられている。

 

「王祥……」

 

一刀が同姓で一番仲が良かったという警備隊員。

それ故、彼は殆どの子と面識があるだろう。

 

「頼むわよ」

 

呟きを最後に、涙が流れた。

抑え切れなかった自分を苛む。

いつからこんなにも弱くなったのだろう。

……そんなこと分かりきっている。

今だけ、今だけ……

明日からは、覇王として、曹孟徳としての人生を歩む。

だから、今だけは涙に濡れていたい。彼を思っていたい。

 

少女の嗚咽が、部屋に響いた。

隊長が天の国に帰ってから、もう五年が経とうとしている。

一ヶ月後には、蜀で開かれる三国同盟を記念した祭りが控えている。

五年という節目を迎えるため、規模は過去最大になるとのことだった。

 

「楽進、行きますよー」

 

「あ、はい!王祥さん」

 

すこし呆けてしまっていた。警邏前に私は何をしてるんだ……

王祥さんの横に着き、警邏を開始する。

 

 

 

王祥さんはの役職は警備隊隊長。隊長の後任になる。

二年前、華琳様の命によりその任につくことになった。

私、真桜、沙和は大反対したのだが、命が覆ることは無かった。

隊へその事を報告すると、隊員全員が抗議の意を示した。

それを纏めた書簡を提出したが、それも意味をなさず、そうしている内に王祥さんが配属された。

 

私は今でも、王祥さんが警備隊員達や私達の前で言った言葉を覚えてる。

 

『私は、隊長が作ったこの隊が大好きだ!自分に隊長の代わりが務まるとは思わない。だが私は、隊長の在りようを真似てみようと思う!隊長は皆が知っての通り、全ての人を分け隔て無く接していた!民だろうが、新兵だろうが、将軍だろうがだ!私にはその様な肝も器量も無い。だから、皆には私を支えて欲しい!私が道を外したのなら、気兼ね無く指摘して欲しい!そうやってこの隊を大きくしていって、隊長が帰って来た時に驚かせてやるんだ!あなたの隊は、ここまで立派になりました!と。今日を持って、隊の名前は変わり、隊長の名は形式上消えるだろう!だが隊長の名は常に!我らの心に!行いに!刻み込まれている!それなら、隊長の名が本当に消える事は無い!私達がずっと、隊長の名を背負い続けるんだ!』

 

それまで不満不平を連ねていた兵達も、内心気が気でない私達も、彼の思いに心を打たれた。

同時に、華琳様が何故この人を隊長の後任を命じたのか、分った気がした。

彼はどこか、隊長に似ているところがある。

それはとても不明瞭なものだけど、私はそう思った。

 

それから名を王祥警備隊と変えた我らだったが、士気は幾分も下がる事は無かった。

 

 

 

このように王祥さんと警邏をするのは、日常になっていた。

王祥さんと警邏をすると、隊長との日々を思い出す事がある。

それは悲しくもあるが、うれしくもあった。

 

「楽進!」

 

「はい?……あっ」

 

どんっ!

 

「……ふぅ、大丈夫?」

 

「はい、申しわけ……」

 

倒れそうになった私は、王祥さんの腕の中に居た。

異性に抱かれるのは、隊長以来だ……

 

「……あ!すいません!」

 

「い、いえ……」

 

固まった私から、王祥さんはすぐに離れた。

顔が熱い、隊長の温もりを思い出してしまったのだ。

もう五年も前だというのに……私は未だに隊長の温もりを覚えていた。

 

ぶつかった人に謝り、警邏を再開する。

 

それから私は地に足がつかず、仕事を疎かにしてしまう。

王祥さんに悪い事をしてしまった。

「はぁああああああ!!!」

 

「くぅ!」

 

城庭で行われている試合。

姉者の斬撃をかろうじて捌いている。

 

「防いでるだけでは勝てんぞ!王祥!」

 

「分ってます……よ!」

 

七星牙狼を剣の腹で受け、下を滑る様に懐に潜り込んだ。

だが、

 

「甘いっ!!」

 

「ぐはっ!」

 

懐で一太刀入れよう踏み込んだ瞬間、姉者の蹴りが王祥の腹に食い込んだ。

剣が放り出され、地面を数回転がる。

 

まぁ、善戦した方だろう。

 

「いたたた……少しは手加減してもらませんか?夏侯惇様……」

 

「何を言っている、十分手加減しているだろう」

 

「…………」

 

見る見ると顔を青ざめる王祥。

それがおかしくて、姉者と顔を見合わせて笑ってしまった。

 

「お二人共……笑う事無いじゃないですか」

 

「ふふ、すまないな」

 

あまりの情けなさに、彼を思い出してしまう。

あれからもう五年も経つのか。時が経つのは早いものだ。

姉者も同じ事を思っているのだろうか。七星牙狼を肩に担ぎ、空を見上げていた。

 

「……夏侯惇様、もう一度いいでしょうか」

 

「む、いいだろう」

 

そんな私達を見てだろうか。王祥は剣を拾い、すぐさま構え始める。

その様な気遣いも、再び私に彼を思い出させてしまう。

……割り切れないものだな。

息を吐き、二人の試合に目を戻した。

庭の試合を密かに覗いていた影があった。

 

影は庭に出ようと思ったが、夏侯姉妹の笑い声に歩を止める。

 

思案の末、首を横にふりその場を後にした。

 

その影に気付く者は誰も居なかった。

あとがき

 

 

 

ひゃあああ難しいよおおお。

どうもふぉんです。前回あとがきに書いた通り、魏ルート長編を書き始めました。

プロットはもうできてる(キリッ

何ていうんじゃなかった。文にしてみるととてつもなく辛かった……

 

視点が一ページ毎に違うのは番外編ということでご勘弁

 

恐らくは短編を挟んでの投稿となります。続編は気長にお待ちください。

 

最後にいっておきます。

 

私は一刀さんが好きです。

彼女達は一刀さんの嫁なのであしからず。


 
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