No.173073 PSU-L・O・V・E 【緋色の女①】2010-09-17 20:32:15 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:668 閲覧ユーザー数:665 |
―Hazell side―
微睡みはビジフォンの不粋なコールで破られた。
ナイトテーブルの時計を確認すると午前九時を少し回った所だ。
(誰だよ……こんな朝っぱらから…)
機動警護班 ヘイゼル・ディーン、彼の朝は遅いのだ。
ぼやきながら携帯ビジフォンを掴み取り、着信の相手を確認する。
ディスプレイに表示された相手の番号は、ガーディアンズ・パルム支部からの物だった。
(ガーディアンズ支部からの緊急コールだと……何かあったのか?)
ガーディアンズから直接の連絡があるのは有事の際だ。ヘイゼルは寝癖を手で撫で付けながら通信に応じた。
「ハイ……こちら機動警護班、ヘイゼル・ディーン」
「おはようございマセ~。グラールの平和を守る、ガーディアンズ・パルム支部デす」
起き抜けの頭に、お天気な声が響く。
ディスプレイに映っているのは、見慣れたパルム支部の紫掛かったレセプション・コスチュームを身に着けた青白い人工皮膚の女性キャスト。
パルム支部では有名どころか、もはや名物になっている"彼女"だ……。一瞬緊張したのが馬鹿馬鹿しくなる。
「で、用件は……?」
あからさまに不機嫌なヘイゼルの声にも、彼女は動じる事は無かった。
「作戦室より、"ヘイゼル・ディーン"及び"ビリー・G・フォーム"両名に至急の出頭要請デすゥ」
ヘイゼルは眉根を寄せた。
(作戦室が……名指しで俺とビリーを?)
作戦室の考えまでは読み取れないが、ガーディアンズに所属する以上、嫌でも指示には従わなければならない。
それが組織の法という物だ。
流石のヘイゼルも、その事は頭で理解していた。
「了解した……。三十分以内に出頭する」
ヘイゼルは時計を確認し、宿舎からタクシーを利用する最速の方法で掛かる所要時間を計算すると返答する。
「ハイでス。作戦室への入室許可は下りているデす。お待ちしておりまス」
受付の女性キャストは一礼すると通信を切った。ヘイゼルは通信を切られると、すぐさま宿舎の管理室に内線を掛け、タクシーの手配を頼む。それを済ませるとベッドから飛び起き靴を履き、ハンガーラックに掛けられた黒いドリズラージャケットに袖を通し、携帯ビジフォンを上着のポケットに突っ込んだ。
「ユエル! ユエール! ガーディアンズ支部から呼び出しをくらった! 少し出掛けて来るぞ!」
シン……と静まり返ったリビングにヘイゼルの声が虚しく広がる。ユエルからの返答は無い。
「ユエル! 聞こえていないのか!?」
イラ付いたヘイゼルの声が大きくなる。
不意に脱衣室からジュノーが顔を覗かせた。
「ヘイゼル様ー。ユエルさんなら出掛けてますよー? キャス子カフェですー」
「またかよっ!」
ヘイゼルは大袈裟に膝を叩いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ガーディアンズ・パルム支部 一階 エレベーターホール』
宿舎からタクシーで移動し、予定通り二十四分で此処まで辿り着いた。
早歩きでホールへ現れたヘイゼルは、エレベーター前の長椅子にリラックスして座っている青年に目を止めた。目立つド派手な金髪リーゼントの男である。
「よう、相棒! 揃って呼び出しとは訓練校以来なんだぜ」
ビリーがニヤリと笑みを浮かべて椅子から立ち上がる。
ヘイゼルは重々しく溜息を付いた。
「何をやった? 正直に言ってみろ……」
「俺かよ!? むしろ日頃のお前の態度が原因だと思うんだぜ!」
等と言い合い、二人はエレベーターに乗り込み、六階の作戦室へ向かった。
作戦室は通常、大掛かりなミッションや重大なミッションが発生した際にブリーフィングが行われたり、大規模ミッションの際には文字通り作戦本部として使われる。職員でも入室に許可が必要な重要施設である。
作戦室の在る六階に行く為には、一度五階で降りて、専用のエレベーターを使わなければならない。二人は無人セキュリティでチェックを受け、専用エレベーターに乗り換える。これより上の階は『作戦室』や『支部長執務室』がある最重要部だ。
「ビリー、お前作戦室に入った事はあるか?」
「いんや、ないんだぜ」
正直な話しをすると、二人のこれまでの経験の中で、作戦室に入室する機会は無かった。
エレベーターが停止し扉が開き、二人は通路へ出た。作戦室へと繋がる通路は簡素な内装であった。最も、他人に"魅せる"場所ではないので、当たり前と言えば、当たり前なのだが……。
「どの部屋だ?」
ヘイゼルは通路を見通し、自動扉の上に設けられた幾つかの部屋番号を示すプレートに気付き、ビリーに訊ねた。
「ちゃんと聞いて来いよ……第五作戦室なんだぜ。作戦室の中で一番小さい部屋だって言ってたんだぜ」
「第五……これか」
その作戦室はエレベーターを降りたすぐにあった。
二人は揃って作戦室に入室した。
第五作戦室の中はクリーム色のクロスで質素に仕上げられていた。内部はビリーが説明した通り手狭で、十人も人が入れば窮屈に感じるだろう。中央には木製のテーブルがコの字に配置され、椅子が六脚並べられていおり、正面の壁には大きなスクリーンが備え付けられていた。そのスクリーンに目を向け、二人に背を向けている者が居る。蒼いワンピースを身に着け、黒いベレー帽を被った小柄な少女である。同じ様に呼び出されたのか、それとも二人を呼び出した当人なのか……。少女が二人の来訪に気付き、こちらへ向き直る。新雪のように白い肌、空色の瞳を持つ美しい少女だ。だが、ヘイゼルは彼女の顔に走るモールドに気付いた。
(この女……キャストか!?)
それは機械生命体であるキャストの証明でもあった。しかし彼女の身体を覆う外装パーツは、ヘイゼル達が良く見掛ける、一般のパーツとは一線を画していた。ワンピースと見間違った程だ。特注のパーツなのだろうか……。
そんな事を考えていたヘイゼルの耳に、ビリーが小声で呟く。
「ルウ……なんだぜ」
(ルウ型か!)
ヘイゼルが目を瞠る。
ルウと言えば諜報部に所属する"特別"なキャストで、ガーディアンズの秘蔵っ子と言われている存在だ。噂が確かならばガーディアンズコロニーの全システムを掌握しているのも彼女だ。実際に目にするのは初めてであった。
「お初にお目にかかります。非番のところをお呼出しして申し訳ありません。諜報部所属のルウ・No73と申します。」
ルウが一礼する。どうやら二人を呼び出したのは彼女のようだ。
彼女の言葉使いと応対は丁寧だが、それはパルム支部の受付キャストや、ユエルとは違った杓子定規的な態度。
キャストと言えば誰もが思い描くイメージ……それが彼女、ルウだった。
ヘイゼルがそんな印象をルウに感じている横で、ビリーが敬礼を始める。
「機動警護班所属、ビリー・G・フォーム出頭しました」
虚を衝かれたヘイゼルも慌てて敬礼した。
「同じく、ヘイゼル・ディーン出頭しました」
「早速ですが、本日出頭して頂いた用件をご説明します―――」
ルウがそう告げると壁面のスクリーンに光が点り、何かが表示される。
面倒が嫌いなヘイゼルにとって、この辺りの単刀直入さは有り難かった。
ヘイゼルとビリーはスクリーンに表示された映像を注視する。それは衛星写真を地図状に表わした物で、ラフォン草原を示していた。
「先週の事です。ラフォン草原の森林地帯でディ・ラガンの目撃報告がありました」
―Juel side―
同時刻
ホルテスシティ西地区04番街 大通り
「ふぅ~う~ふ~♪ あいむしんかーとぅーとぅーとぅー……♪」
ご機嫌な鼻歌を歌いながら、ユエルは通りを闊歩していた。
向かうは馴染みの『キャス子カフェ』
手には今しがた露店で買い求めた、焼きたてのチョコレートスフレが入った紙袋を提げている。
自分は食べる事はできないが、日頃お世話になっているカフェの皆に食べて貰おう。
そんな事を考えながら、カフェが見通せる場所まで差し掛かったが、あいにくカフェに仲間達の姿が見えない。
「あれ……? 出掛けてるッスかね……」
スフレは時間が経つと萎んでしまうので、出来たてアツアツを食べるのが美味しい食べ方だ。
その焼きたてを食べて貰おうと思っていたのに……ユエルはがっくりと肩を落とした。
不意に視線を感じてユエルは顔を上げた。
誰も居ないと思っていたカフェの一番奥のテーブルの席に誰かが腰掛け、自分に視線を向けている。
髪も身体を覆う外装パーツも緋色、肩にも緋色のケープを纏う見慣れない女性キャストだ。
「こんにちは」
"緋色"の女性キャストは、同じく緋色の瞳でユエルの表情をじっと窺いながら挨拶をしてきた。
「こ、こんにちはッスよ~……」
ユエルも釣られて挨拶を返すが、正直言って見覚えのない人物だ。言葉が続かず何となく気まずい。
「えと、初めまして……ッスよね?」
「あら、初めてじゃないわよ」
勇気を振り絞ってユエルが訊ねると、緋色の女はクスリと微笑んで否定した。
「え! そ、そうだったッスか!?」
ユエルは慌てて両手をバタバタさせた。
(カフェ常連の人達の名前と顔は、何とか覚えたつもりだったッスけど……)
「まあ、こちらは知っていても、あちらは知らない……なんて人の関係には良くある事だから仕方ないと思うわ……あなたの場合は特にね……」
クスリと、また緋色の女性は微笑を浮かべる。
どこか思わせ振りな物言いだが、ユエルは特に疑問を抱く事は無かった。
「それより貴女、今日はあの男の人は一緒じゃないの?」
「ヘイゼルさんの事ッスか? まだ部屋で寝てるッスよ」
「たしか一緒に暮らしてるのよね……仲が良さそうで羨ましいわ」
「そ、そうッスかね? エヘヘ……」
ユエルは照れながら頭を掻いている。
「でも大変な時もあるでしょ? 彼、有名なキャスト嫌いだから……」
「……え?」
照れ笑いを浮かべていたユエルの表情が凍り付く。
『今でも嫌いだよ……』
ユエルの脳裏にガーディアンズ支部の医療ブロックで立ち聞きしてしまった、モリガンとヘイゼルの会話が頭を過ぎる。
そう、彼はキャストを嫌っていると言っていた……。
「まあ……子供の時にあんな事があったんじゃ仕方ないんでしょうけど……」
緋色の女は呟いて大袈裟に目を伏せる。
それは、どこか芝居がかっていた。
しかしユエルにはそれよりも気に掛かる点がある。
今の口振り……この緋色の女性キャストは、ヘイゼルの過去を知っているのか?
「……理由を知ってるッスか?」
ユエルは恐る恐る訊ねた。
ヘイゼルがキャストを嫌う理由……それを知りたいと思う気持ちは有る。
だが、知ってどうするのか……知った結果が何をもたらすのか……本当に知りたいのか……ユエルの中では答えはまとまっていないのだ。
「え、何を?」
緋色の女は惚けた返事をするが、その顔には見透かすような笑みが張り付いている。
聡い者はそれを嘲笑と受け取ったかもしれない……聡い者ならば。
「ヘイゼルさんが、キャストを嫌いな理由ッスよ」
知る事に対する恐怖は有る。
だがユエルは答えを求めた。
私は彼の事をもっと知りたいから……それが悪い結果をもたらすとしても……。
身を乗り出して聞くユエルの耳元に、緋色の女は口付けるようにゆっくりと顔を寄せるとそっと囁く。
「知りたいなら教えてあげる……彼の過去を……ね」
緋色の女は絶やさず微笑みを浮かべている。
その笑みはどこか歪んでいた……。
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EP09【緋色の女①】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
【前回の粗筋】
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