No.173307 PSU-L・O・V・E 【緋色の女②】2010-09-18 21:11:22 投稿 / 全4ページ 総閲覧数:546 閲覧ユーザー数:545 |
―Hazell side―
「先週の事です。ラフォン草原の森林地帯でディ・ラガンの目撃報告がありました」
(ディ・ラガン!)
ヘイゼルは息を飲んだ。
ディ・ラガンはグラール太陽系に移民する以前に居住していた惑星で、伝説上の生物と言われた幻獣に姿が似ている事から、その名を名付けらた巨大な原生生物だ。
「ディ・ラガンは本来、山間に棲息する生物ですが、何らかの事由により、ラフォン草原まで下りて来た物と考えられます。
当該地区は付近の居住区から約80Kmの距離ですが、この距離はディ・ラガンの活動範囲でもあります。
付近の居住区に在住する人々の生活圏への介入も懸念される事態です。
居住区住民の依頼を受け、ガーディアンズはディ・ラガンの掃討を決定、討伐隊を募り作戦を敢行しました。
……それが三日前の事です。
しかし、作戦区域に派遣された討伐隊との通信は、救難信号の発信を最後に途絶しています。
その救難信号も、五時間前を最後に途絶えました……」
ルウは二人に意見を挟む暇も与えず、一気に説明を述べた。
「大変な事になってるねぇ……」
等と暢気な事をビリーは言っているが、それを俺達に説明しているという事は……。
「……今回、お二人には遭難した討伐隊の救難、及びディ・ラガンの掃討を依頼する為に出頭して頂きました」
(やっぱりそう来たか……)
「現時点で作戦行動が可能な機動警護班所属の隊員の中で、作戦遂行確率が最も高かったのが貴方達です。
ご存知かと思いますが、先のSEEDとの戦争で多くの優秀な人材が失われました……」
それは任務中の殉職が原因だけではない。
負傷し再起不能となった者、PTSD(心的外傷後ストレス障害)により任務に当たれなくなった者……理由は様々だ。
「今は一人でも多くのガーディアンズが必要とされる時期です。
作戦に同行するメンバーの選定は一任しますが、作戦の危険確率はかなり高くなっております。メンバー選定には充分注意して下さい。……内容はご理解頂けましたでしょうか?」
ルウが二人に確認を求めてくるが、二人に命令を拒否する自由は無い。
ガーディアンズは民間組織であり、そこで働く者は依頼をこなす事で報酬を得ているが、所謂"傭兵"とは違う。
彼等はグラールの平和を守るガーディアンズの理念の下、命を賭して職務に当たる為に集ったのだ。
自らの意思で―――。
『闘う』覚悟を持つ事……それがガーディアンズに所属するという事なのだ。
彼等が所持している『ガーディアンズ・ライセンス』、それが持つ意味は限りなく重い。
「―――では続いて、ブリーフィングを行います。お二人とも席に着いて下さって結構です」
二人の無言を肯定と受け止め、ルウは説明を再開した。
ヘイゼルとビリーは促されるまま席に着く。
巨大なスクリーンにマーカーや、画像データが新たに展開され、新しい情報を映し出される。
「五時間前まで救難信号が発信されていたのは、この地点です。この位置は発進直後から移動していません。発信者は何らかの理由により、この場所から移動できないものと考えられます。……ビジフォンにMAPデータとナビゲーション・データを送信しますので、現地での参考にして下さい……。続いて殲滅の対象となるディ・ラガンです」
スクリーンの右下に展開されていた画像データが拡大され、画面中央に表示される。映し出された画像は地上から撮影された物らしく、青い空を背景に悠然とは翼を広げ、空を飛翔するディ・ラガンが写っていた。余程遠巻きだったのか、その画像は荒い。
「目撃された特徴から、通常の個体より大きな体躯を持つ、雌のディラガンと報告されています。身体の大きさは戦闘力の高さに比例しますのでご注意下さい。ライブラリからディ・ラガンの習性や行動パターンのデータを抽出しておきますのでお役に立てて下さい……。最後に何か質問はありますか?」
非常に簡潔で理に適った説明を終えると、ルウは二人に質問を促した。
やる事は決まっているんだ……と特に疑念を抱かなかったヘイゼルとは対照的に、ビリーは挙手をして発言を求めた。
「……どうぞ」
ルウが小さく頷くと、ビリーは小さく咳払いしながら立ち上がった。
「内容は概ね理解したんだが。諜報部として、俺達が救難に向かう仲間の生存率はどの位だと見てるんだぜ?」
ビリーの台詞にヘイゼルは「なるほど……」と納得していた。
一瞬目を伏せたルウは、気を取り直したように言葉を続ける。
「生存確率は50%……ただし、これは生存しているか、いないかの数字です」
生きているか、死んでいるかは1/2……当たり前の算数である。
二人は悟った。
諜報部は討伐隊に生存者が居るとは思っていない。
建前上の救難支援、だが事実はディ・ラガンの殲滅が最優先の任務なのだろう。
「状況把握しました。……作戦を受諾し直ちに現場へ向かいます」
ヘイゼルは敬礼し作戦受領の旨をルウに伝える。
ビリーも続いて敬礼しつつ、ヘイゼルの表情を横目で窺う。
感情を押し殺した表情の無い顔から、ヘイゼルの真意は読み取れない。
「作戦の成功をお祈り致します」
以外にも殊勝なセリフと共にルウは深く頭を下げる。
ヘイゼルはそれが以外でならなかった。
―Juel side―
灰色掛かった長い髪と、黒と濃紺のツートンカラーのパーツで全身を覆った女性キャストがキャス子カフェへ現れた。
しかし、カフェに人の姿は無い。入り口にもポールが立てられ"準備中"の札が下がっている。
「あラ、皆何処かへ行ったのかしラ?」
カフェでアルバイトをしているヒューマンの少女"ヨークス・メルトン"の姿も見えない。
だが露店の商売道具は広げられたままだ。
「まったク、職場放棄しちゃッテ……仕方の無い娘ねエ……」
女性キャストは入り口のポールを退けると、カフェの中に入っていく。
その無人のカフェの一番奥のテーブルの上に紙袋が置き去りにされていた。
「あラ、これハ……?」
女性が紙袋に手に取った時、通りから騒がしい声が聞こえてきた。
「いやぁ……大変だったなあ」
「本当ねえ、でもボヤ程度で良かったじゃない」
女性キャストの集団がカフェに向かって歩いて来ている。
ツートンカラーの女性キャストは彼女達を出迎えた。
「おかえリ、何処か出掛けていたノ?」
「出掛けたどころじゃないわよ……こっちは近くの商店から出た火災の対応で大変だったんだから」
眠たげな表情の女性キャストがアクビを右手で隠しながらぼやいている。
話しを聞くと近所で火災騒ぎがあって、カフェに居た全員が借り出されたそうだ。
消火活動の速さと避難誘導の手際の良さもあって、消防隊が来る頃には火災は鎮火しておりボヤ程度で済んだ。
流石は現役ガーディアンズ集団と言った所である。
現場はまだ落ち着いていないが、後の処理は専門の消防隊と軍警察に引き継ぎ戻って来たと言う事だ。
「ヨークスもご苦労だったのう」
黄色いパーツのむっちりキャストが、同行していたカフェの店員ヨークスを労う。彼女も避難誘導に一役買っていた。
「エヘヘ、それほどでも……どっちかって言うと野次馬も兼ねてだったんですけどね」
ヨークスは照れ笑いを浮かべながら謙遜している。
「コヤツめハハハ……」
「そう言えば火事を知らせに来た、あの女の人は? ……ほら、赤いケープを肩に掛けたキャスト」
会う度に姿が違う気がする少女型キャストが、思い出し辺りを見回しながら訊ねた。
火災を報せ応援を要請に来た女性が居た筈だ……確か緋色のパーツで全身を構成した女性キャストが。
「ん? そう言えばいつの間にか姿が見えなくなってたね」
「カフェの子じゃなかったの?」
カフェの面々が顔を見合わせる。
誰一人として、その女性キャストに思い当たる者が無かった。
「あ、何持ってるの?」
不穏な空気を破ったのは、小柄で金髪の可愛らしい少女型キャスト。
ツートンカラーの女性キャストが持つ紙袋に気付いたのだ。
「ここのテーブルニ、置いてあったのヨ?」
「爆発物……テロじゃないよね?」
「うかつに触らないほうが良いかもしれんぞ?」
小柄なメガネキャストと、単眼の男性キャストが警戒するが、
「そんな事言われても、もう開けてしまったぞ」
既にむっちりキャストが紙袋を開いた後だった。
紙袋の中を覗くと、焼き菓子のチョコレートスフレが入っていた。
「わあ、いい匂い♪」
ふんわりとしたチョコの香りに、金髪の少女型キャストが猫目を細める。
チョコレートスフレは少し萎んでいる気もするが美味しそうだ。
一緒にメモが入っていて、下手くそな文字で『食べてください』と記されている。
だがメモには名前が書かれていない。
「メモが入ってたって、名前書かなきゃ誰が置いたか解らんだろうに……」
メガネを掛けたクールビューティーな風体の女性キャストが呆れる。
「うむ、じゃがこのメモに描かれている落書きの特徴と……」
メモの隅にピッグテールの髪型を持つ下手な似顔絵が描かれていた。
「うっかり具合で誰だか解った……ユエルじゃな」
女性キャストと仲間達の中から「ああ、なるほど……」「あの子じゃ仕方が無いね」等といった呟きが上がる。
と、言う事は彼女も此処に来ていたという事か、ならば彼女は今何処へ……?
「……帰ったのかのう?」
むっちりキャストが呟きながら、紙袋からスフレを一つ取り出す。
それはまだ、ほんのりと温かかった。
「ラフォン草原行きGフライヤー特別便の手配を済ませてきたんだぜ」
ガーディアンズ・パルム支部 一階ホールの休憩場所に置かれているソファーに腰掛けて待つヘイゼルの下へ、受付でGフライヤーの手配を終えたビリーが戻って来た。
今回のミッションは急を要する任務である。その為、定期便のGフライヤーでは無く、ガーディアンズ所有の高速揚陸艇(ランディング・Gフライヤー)"バイアクヘー"の利用が特別に許可されていた。
ラフォン草原でGフライヤーの発着場のある野営基地は、以前のレリクス事前調査ミッションで訪れた事のある場所である。
「やれやれ、またあそこか……野営基地のベッドは硬くて嫌なんだぜ」
ビリーが以前、基地で一泊した時の事を思い出しブツブツと文句を言っていると、ソファーに座ったままのヘイゼルがビリーの独り言に口を挟んだ。
「ビリー……お前、ディ・ラガンとの戦闘経験はあるか?」
「お前が無いのに俺があるわけあるないんだぜ」
問われたビリーは両腕を大きく広げ肩を竦めて見せた。
「そうだな……だが、ニューデイズのアレを憶えているか?」
ヘイゼルが続ける問い掛けに、ビリーは顎に手を当てて暫し黙考し、思い出したように膝を打った。
「ニューデイズのアレ……"ゾアル・ゴウグ"か」
ビリーは一年近く前にニューデイズで参加したミッションを思い出していた。
『ゾアル・ゴウグ』
それはグラール太陽系 第二惑星 ニューデイズに棲む"リンドブルム(大翼獣)級"の巨大原生生物だ。
姿形は"竜"と呼ばれた幻獣に酷似しており、生態はディ・ラガンと幾つか共通点を持っている。
当時、ヘイゼルとビリーはゾアル・ゴウグ討伐ミッションを受けた機動警護隊員から応援を頼まれ作戦に加わった。
だが、依頼を受けた彼等の腕は未熟で、ゾアル・ゴウグと戦うには経験が不足していた。
決定的な戦力を欠く中、ヘイゼルとビリーは善戦し、ゾアル・ゴウグを後一歩という所まで追い詰めたのだが、PTリーダーと彼の仲間達が怖気づき作戦放棄してしまった為、任務失敗となった苦い思い出のあるミッションだ。
「あれは忘れたくても、忘れられないミッションなんだぜ……Shit! 嫌な事を思い出させるなよ」
「あの時は俺とお前の二人だけで任務に当っていれば、ゾアル・ゴウグを倒せただろうな」
「ハッハッハッ! 違いないんだぜ」
二人はその時の事を思い出し笑いあった。
余談だが、二人がアリアと出会ったのも、その時のミッションである。
「ハハハ……だから今回のミッションは、お前と俺……そして俺のPM"ジュノー"の三人で行く……」
「……おい」
突然真顔に戻り、ヘイゼルが告げた言葉にビリーが眉を顰めた。
「アリアとユエルに"リンドブルム(大翼獣)級"の原生生物と戦うのは荷が重い。あの時の連中のように足を引っ張られるのはゴメンだ」
冷たく言い切るヘイゼルの態度に、ビリーは大袈裟に溜息をついた。
「オマエなあ……なんで素直に危険な任務だから連れて行けないって言えないんだぜ?」
「……」
ヘイゼルはムッとした表情を浮かべ黙り込んでいる。
「都合が悪くなると、すぐダンマリだ……。まあ良い、アリアには秘密にしておくとしても、ユエルちゃんにはちゃんと事情くらい説明してから来いよ。……じゃあ準備が終わったらフライヤーベースで落ち合おうぜ」
ヘイゼルは黙ったまま頷くと立ち上がる。
二人は支部のホールで別れ、任務の準備をする為に庁舎を後にした。
カフェを後にしたユエルは、リニアトレインの駅へ向かって一人歩いていた。
お土産のチョコレートスフレはメモと共に置いて来てある。
カフェへ向かっていた時のウキウキした様子は今の彼女からは感じられなかった。
脳裏に焼きついたかのように、カフェで出会った女性キャストの緋色の輪郭だけが、まとわり付く陽炎の如くチラついている。
聞くべきではなかったのかもしれない……。
後悔はしないと決めた筈なのに……今はそう決めた事を後悔していた。
緋色の女性キャストの言葉が、頭の中で耳鳴りのようにリフレインしている。
「彼の両親はキャストに殺されたのよ…」
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EP09【緋色の女②】
SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚)
【前回の粗筋】
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