No.172229

真・恋姫†無双‐天遣伝‐ IF現代編(1)

皆様からの要望を受け、これは応えねばならないなと思い(自分自身現代は書きたかったので)、連載作へと格上げいたしました。

本編よりも、かなりはっちゃけさせていく予定です。
唯、やはり隔週連載となります。
ご了承下さい。

2010-09-13 11:55:51 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:11208   閲覧ユーザー数:8076

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

前置き:天遣伝本編とは殆ど関わりの無い世界観です。

   そこんとこを良く理解した上で、お進み下さい。

   今回も色々とオリジナル要素強し、です。

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

IF現代編第一話「初まりの歌/何処でも彼女達は何時も通り」

 

 

 

聖フランチェスカ学園とは、去年まで女子校であった、ミッション系の由緒正しいお嬢様学校である。

しかし、少子化の煽りを大いに受けた為、去年より共学校となったばかりだ。

そして、共学化が余りにも急であったが故に、男子を受け入れる態勢は然程整ってはいない。

その為に、男子寮がプレハブ小屋並に粗末であったり、寮の場所が学校から徒歩で三十分近くかかる程離れていたりと、冷遇されている。

だがしかし、一応今年。

我らの主人公北郷一刀が二年生になった年には、男子寮と学校を往復するバスが開通した。

しかしあくまでも一応であり、朝三本、夕二本しか走らないという中々に厳しいシフトなのだが。

よって、寝坊でもすれば遅刻確定とでも言わんばかり。

今朝も寝坊した男子生徒が三名、全力で学園に向けて疾走していた。

 

 

「・・・・・・」

 

「ちょっと待て一刀ぉーーー!!?

置いて行くなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

「くっ、アキちゃん、喋っとる暇あったら足動かした方が得策やで!」

 

「・・・人に朝飯作らせた上に起こさせて、それで尚置いて行くなとか、流石に俺でも見限りたくなるわ!!」

 

 

訂正、先を圧倒的な速度で駆ける一刀は別に寝坊等していない。

唯、後ろを追う―こっちもかなり速い―二人、早坂章仁と及川佑の友人両名の世話をしていた結果であった。

 

愛刀『暁』を仕舞い込んだ鞘袋を左手で保持したままだと言うのに、一刀は更に加速。

早坂と及川を振り切りに入る。

その速度、実に速し。

アスファルトの地面を、一歩毎に跳ねる様に踏み締め、ぐんぐんと加速する。

余りにも速いので、世界記録保持者並に速く走っているかのように、追う二人は錯覚した。

・・・実際には、世界記録を切っていたりするのだが。

これより30秒後、一刀は二人を完全に振り切った。

 

 

 

―――二分後

 

既に歩いても始業時刻に余裕で間に合う距離までやって来た一刀は、移動手段を徒歩に切り替える。

そしてそのまま、辺りを見渡す。

と、そこで、新入生の女の子が一刀の方を見ている事に気付き、笑顔と手を振る。

が、たちまち視線を逸らされてしまった。

【また】嫌われたかと思い、溜息を吐く。

もっと良く観察していれば、女の子の頬が林檎の様に紅く染まっているのに気付ける筈なのに。

だが、そんな可能性には露も気付かぬ一刀は、暁を担いだまま天を見上げる。

そこにあるのは、真っ青な空。

しかし一刀の顔色は何処か不審そうだ。

 

 

「やっぱり違うよなぁ・・・」

 

「何がだ?」

 

「ああ、お前等と出会った、あの大地から見上げた空はもっと澄んでいた気がしてな」

 

「ふむ・・・そうも思わんが」

 

「ま、思い出と言うのは美化されるモンだからな」

 

「私達とお前が出会って、まだ四年も経っていないじゃないか」

 

「それでも、だよ・・・時間は確かに此方の方が長い。

けどさ、密度で言ったら、到底あの大陸での出来事には勝らない。

それに思うんだよ、今ここでこうしていて良いのか、ってな」

 

「・・・・・・私は、今の方が良いな。

華琳達には悪いと思うが」

 

「何でだ? 華蘭」

 

「簡単な事だ、『お前と戦の無い世を生きる』

それが、私の願っていた未来の一つだからだよ。

だからこそ、今の私は堪らなく幸せだ!」

 

「うおわ! バカ、天下の往来で抱き付く奴があるか!!」

 

 

満面の笑みで一刀に抱き付く、聖フランチェスカの制服を着た曹華蘭(今はこう名乗っている)。

周りの目は、主に四種類に分かれた。

羨ましいぞこの野郎(女)と妬み嫉む目と、微笑ましいなあと見守る目と、またやってるよと呆れ果てた目だ。

 

一刀が三国外史を駆け廻り、別れを好しとせずに皆を此方の正史に引き摺り込んでから、凡そ2ヶ月。

皆は思い思いに現代を楽しんでいた。

無論、華蘭も。

 

 

 

 

 

―――教室(Ⅱ-Ⅴ ソレイユ)

 

 

「疲れた・・・・・・」

 

「オイィ? かずピー、それは彼女のおらんオレにケンカ吹っ掛けとると思うてええか?」

 

「ちょっと待てよ及川、お前この間彼女出来たとか言ってなかったっけ?」

 

 

うっ! と言葉に詰まる及川。

早坂が地雷踏んだか、と思った時には遅い。

 

 

「・・・一昨日振られました・・・・・・」

 

 

ズーンという効果音と、漆黒の縦線エフェクトを頭の周りに醸し出し、教室の隅に体育座りで蹲って床にのの字を書き始めた。

 

及川祐。

成績は悪くなく背も高く、おちゃらけた性格をしているが親しみを持ちやすい男。

普通に彼女が出来ない訳も無いのだが・・・如何せん運が無い男でもあった。

 

早坂は、慌てて話題を切り替える。

 

 

「そ、そう言えばさ、数え役萬☆姉妹のライブ、明日だよな?」

 

「せやでー、しかも勇星乱舞とのバトルステージや!」

 

 

一瞬で復活した及川、何とも現金な男だ。

最も、一刀はまるで反応していない。

それどころか、何時の間にやら文庫版の「そして誰もいなくなった」を読んでいた。

 

 

「何やっとんねん、かずピー!」

 

「おい返せよ、今アームストロングが死んだ辺りなんだ」

 

「いいからオレの話聞けって、後犯人は元判事やから」

 

「てめぇ! 俺まだ一度も通しで読んでないんだぞ!?」

 

“ビシュッ!”

 

「おごふっ!!」

 

 

見事な水平線チョップが及川の喉に決まった。

そのまま吹っ飛ばされ、床に転がる。

机や椅子を引っくり返さなかったのは、偏に一刀の配慮故だ。

ふっ飛ばした際に及川の手を離れた文庫をキャッチする。

それに軽い拍手を飛ばす女が一人。

 

 

「いやー、見事な飛びっぷりやったな、及川は。

そのままボケ専の芸人になれそうやね」

 

「霞、お前見てたのか」

 

「モチのロン!」

 

「"ボソッ”御無礼、48000点」

 

「嫌ーーー!! 字一色七対子の地獄単騎待ちなんて嫌ーーー!!

しかも立直かけてまで釣るとか、どんだけ鬼畜やねん!!」

 

「結構分かり易い引っ掛けだと思ったんだがな。

後、風とか稟はあれ以上に巧妙なのを幾らでもやって来るぞ」

 

「マジか!?」

 

 

明らかに手慣れた感のある遣り取り。

ちょっとしたトラウマを抉った一刀だが、これ自体が唯のじゃれ合いの様なものだと分かっている。

 

 

「それで、何でお前がここに居んの? お前のクラス一つ上だろ」

 

「あー、パシリついでに、華蘭からの言伝や。

昼飯、屋上に居るから一緒に食おう、やて」

 

「分かった、と伝えてくれると助かる」

 

「よっしゃ、任されたで」

 

 

そこで会話を打ち切り、霞は紙袋を持ったのとは逆の手をヒラヒラと振る。

当然、それを返す一刀。

そこで、怪訝そうな顔で早坂が発言する。

 

 

「なぁ、あの制服三年だろ? 何でタメなんだよ」

 

「霞がそれで良い、って言ったからだが?」

 

「それでも、フランチェスカでは普通そんな風にはしないだろ・・・」

 

「知るか」

 

「ああ、そういやお前はそう言う奴だったよな・・・・・・」

 

 

苦笑いしながら溜息を吐く早坂。

一方、及川は気絶したままずっと床に横たわっていた。

 

 

「お、オレの扱い酷くない?」

 

 

気の所為だ!!

 

 

 

 

 

―――昼休み

 

一刀は弁当箱を入れた包みと、暁を入れた鞘袋のみを持って、屋上への扉を蹴り開けた。

だが、開けた先には誰もいない。

そうなれば・・・

 

 

「上、か」

 

「御明察」

 

 

笑う様な声に誘われ、其方を見る一刀。

そして視界に飛び込む黒。

 

 

「・・・・・・眼福だが、少しは抑えろよ」

 

「既にその奥まで捧げ、踏破されて蹂躙された間柄だと言うのに、今更じゃないか」

 

 

フフと笑いながら、翻るスカートを気にする事も無く堂々と一刀に視線を向ける華蘭。

その様子に、苦笑いしつつ言う。

 

 

「もし見たのが俺以外だったらどうするんだよ?」

 

「目を抉る」

 

「怖ぇよ!?」

 

「冗談だ、まぁ記憶を失うまで殴る程度にするさ。

お前以外に下着を見られる等冗談じゃない」

 

 

そこだけやけに真剣な表情で言う。

一刀は気恥ずかしくなり、視線を落とした。

だから、慌てて昼食に持って行く事にした。

一息に華蘭のいる場所まで飛び上がる。

凪との鍛錬の末、気をややながら扱えるようになった一刀ならば、お茶の子さいさいだ。

 

 

「おや、一刀は自分で弁当を作るのか」

 

「ああ、向こうじゃ流琉に任せっ放しだったけどな。

こう見えても、フランチェスカに入る前まで自炊の殆どをやってたんだぞ」

 

「そうか、それではこれは無意味となってしまったか?」

 

 

不安気に、オズオズと、黒いお重を取り出す華蘭。

一刀は、不覚にも萌えた。

少し身動ぎした一刀に、続けて言う。

 

 

「いや、一応流琉に監督して貰いながら作ったんだぞ?

それで、合格点は貰えたから大丈夫か、と思って・・・」

 

「華蘭・・・」

 

 

ジンと胸の奥が熱くなる。

それ以上に、何処か申し訳の無い気分になってしまった一刀は、自分の作って来た弁当箱を華蘭に差し出し、自分は華蘭のお重を取った。

 

 

「頂きます!」

 

 

箸を横にしてそう言い、お重の中に詰まっていたうまき玉子を口にした。

十二分に咀嚼してから、嚥下。

そして。

 

 

「美味いぞ」

 

「本当かっ!?」

 

 

身を乗り出して来る華蘭の迫力に圧されながらも、一刀は頷いた。

ホッと息を吐く華蘭。

本当に不安に思っていたらしい。

 

 

「でも、何でそんなに不安だったんだ? 充分見栄えも味も良いのに」

 

「私は、向こうにいた頃は華琳個人の護衛だったからな、ある程度以上離れる訳にはいかなかった。

故に、生まれてこの方料理等した事が無かった。

したいと思うようになったのは、お前と出会ってからだ。

けれど、戦の危機や華琳の暗殺の危機は常に付き纏っていたからな。

料理をした事も無い自身の味等分かる訳が無いし、そもそも料理の味の基準が流琉の料理なんだぞ?」

 

「・・・確かに、俺が同じ様な立場だったら不安になるわな」

 

「だろう? あぁ、心がスッとしたよ。

やはり、愛とは素晴らしいな!」

 

 

立ち上がり、思い切り身体を伸ばす華蘭。

風にたなびく、下ろした長い金髪が非常に美しい。

一刀も思わず見惚れた。

照れ隠しの意味もやや籠めて、更に箸を動かす。

 

二人しか存在しない静かな領域。

そこにあるのは、無言で箸を進める一刀。

そして、無言で一刀を愛おしそうに見詰める華蘭。

既に雰囲気は熟年のそれだ。

華蘭は思う。

ずっとこのままでいたいと。

 

結局、一刀が食べ終わって箸を置くまで、互いに無言のままであった。

 

 

 

 

 

―――公園

 

華蘭との昼食を終えた一刀は、一人公園へと腹ごなしの散歩の為に足を運んでいた。

自分の作った弁当は、結局量的な意味で食べられなかったので、華蘭にあげた。

飛び上がりそうな程喜んでいたのが印象的であったと、回想する。

 

昼休みの公園は、昼休み時間と言う事もあってか、生徒が多数存在していた。

その中で一刀は特に目立っていた。

仕方もないだろう。

鞘袋に仕舞っているとは言え、日本刀を日常的に持った高校生等、中々お目にかかれる者では無い。

そして、別の要因もあった。

 

 

「あっ、北郷様だわ!」(小声)

 

「相変わらず素敵・・・・・・"ポッ”」(小声)

 

「今、こちらを見なかったかしら?」(小声)

 

「えっ、嘘っ!?」(小声)

 

「チクショウ、イケメンめ、爆散しやがれ!」(小声)

 

「憎しみで人が殺せたら・・・っ」(小声)

 

 

女にモテるが故に、男からの恨みを買い易いのだ。

自身に集中する害意敬意の入り混じった様々な視線を感じて、肩を竦めた。

そんな中、生徒達の視線が集中している別の地点を発見。

そこへ向かって移動する。

して、そこにいたのは。

 

 

「お前等、相も変わらずラブラブしてんな」

 

「いや、結構恥ずかしいんだけど・・・」

 

「ああもう、あきちゃん動かないでってば!」

 

「分かった分かった」

 

 

早坂が同クラスの幼馴染、芹沢結衣佳に耳かきをしてもらっている所だった。

しかも、結衣佳は早坂の初恋の相手だとか。

正直出来過ぎだと思う一刀だ。

以前聞いた時、「それ何てエロゲ?」とボケてみたら、血の涙を流しながら「お前が言うな!!」と吼えて殴りかかってきた。

因みに、及川も同時だった。

けどカウンターした。

具体的には、おでことおでこがごっつんこ♪ だ。

 

何だか面白くなってきたので、二人の近くに腰を下ろして観察する事にした。

 

 

「おい、何で見てるんだよ」

 

「俺がそうしたいと思ったからだ」

 

「あはは、あんまりジロジロ見られると手元が狂いそうかも」

 

「一刀、今すぐ消えろ!!」

 

「だが断る、この北郷一刀が最も好きな事の一つは、お前の無様を観察する事だ!!」

 

「オレのそばに近寄るなああーーー!!」

 

「それって、何の漫画が元ネタ?」

 

「「J〇J〇」」

 

 

またしても漫才。

及川を含め、三人は気心の知れた悪友同士の親友同士。

息が合い過ぎて、自然と面白おかしくする方へとシフトしてしまうのが、最近の悩みの種だ。

この後、昼休みが終わるまで三人で談笑していたのだが、途中で結衣佳が会話に付いていけなくなった事が何度もあり、結衣佳はその度に溜息を吐かざるを得ない事態となった事を、ここに記す。

 

 

 

 

 

時は進み、放課後。

一刀は名前だけだが剣道部に在籍している為、荷物を携えて剣道場へと足を運ぶ。

途中、何人も後輩達に声をかけられた為に、少し歩みが遅くなる事態もあったが。

 

少し騒がしさを感じ、足を速く進めた。

どうやら、剣道場の周りに人が大勢集まっている様だ。

その中に見知った顔を見付け、肩を叩いてこちらに顔を向けさせる。

 

 

「沙和、一体何が起こってるんだ?」

 

「あ、隊長! それがね、春蘭様・・・って、間違えたの。

春蘭お姉様が、如耶お姉様と戦う事になったの」

 

「何だと!?」

 

 

慌てて周囲のギャラリーを押し退けて、剣道場へと踏み込む。

そこには、確かに不動如耶と春蘭がいた。

まだ始まっていないのが、せめてもの救いか。

剣道場の端の方で座っている華琳を見付け、そこまで行く。

 

 

「華琳、一体全体どうしてこんな事になっている?」

 

「あら、遅かったわね、もう少し早く勘付くかと思っていたわ」

 

「おい、問いの答えになっていないぞ」

 

「面倒ね・・・秋蘭、貴女が説明なさい」

 

「はい、華琳様」

 

 

華琳のすぐ傍に正座していた秋蘭が、一刀の耳に顔を近付けて耳打ちしてくる。

 

 

「不動が、姉者に決闘を申し込んだのだよ」

 

「・・・物凄く単純だな」

 

「いや、それがそうでもなくてな。

姉者は最初断ったのだが、不動にべったりの小娘に挑発されてな・・・うまい事乗せられてしまったと言う訳さ」

 

 

それを聞いて、如耶サイドの端の方で座り込んでいる額が広い少女に視線を向ける。

向こうはそれに気付き、親指を下に向けて突き下ろしてきたが。

それも、周りに気付かれないようにやるから尚性質が悪い。

 

 

「成程、でも不動先輩じゃあ、春蘭には勝てないぞ」

 

「へぇ? その根拠は?」

 

 

秋蘭に説明を任せた後は黙っていた華琳が、ここで一刀の言に反応した。

興味深そうに、こちらを覗き込んで来る。

やはり慣れないと身を竦め、一刀は言った。

 

 

「以前不動先輩とやった時、俺に一太刀も当てられなかったからさ」

 

「成程ね、それは確かに決定的な判断材料と言えるわ」

 

 

だからあの子にも相当恨まれてるんだが、と心の中で付け足した言葉に、華琳は得心いった様に頷いた。

春蘭は少し、いやかなり頭の弱い所があり、ほかにも隻眼というハンデを抱えているが、それを補って余りある野生の勘と経験を有している。

正直、如耶の勝つビジョンが欠片も見えない。

 

 

「一刀、賭けない?」

 

「分かった。

数撃持たせるが先輩の竹刀が粉砕されて負け、に賭ける」

 

「私は、初撃で如耶を倒すに賭けるわ」

 

「では私は、不動を倒した後に、そのままあの小娘を倒しに行く、に賭けよう」

 

 

それぞれ財布より千円札を一枚ずつ取り出して、重ねて置く。

これで後は、始まるのを待つのみだ。

防具を着けず制服のままの春蘭と、防具こそ着けてはいないが道着の如耶。

竹刀は互いに同じ物を持っている。

条件はほぼ五分。

 

暫し待っていると、審判を務めるのであると思われる凪が進み出た。

曲がった事が大嫌いな凪ならば適任だな、と一刀が首肯した辺りで、勝負の開始が告げられた。

 

 

 

 

 

夏候春蘭と不動如耶の決闘の結果は、一刀達が予想した通り如耶のノックアウト負け。

賭けは引き分けだった。

何故かと言えば。

如耶は数撃春蘭の攻撃を躱し、その後一撃で防御の為に構えた竹刀を圧し折って如耶に面を叩き込んで昏倒させた後、如耶にべったりの少女―真宮璃々香を追い回し始めたからだ。

三人の賭けた内容の全てが起こったと言える訳だ。

よって、賭けは引き分けとなった。

真宮を追いかけ回していた春蘭は、剣道場に入って来た三羽烏と華蘭によって、無事食い止められた。

最も、剣道場が酷い事になっているが。

今はその後片付けの最中である。

 

 

「うぅ~、何で私が・・・」

 

「挑発されたとは言え、辺りの迷惑を考えずに凶器を振り回すからだよ、姉者。

私達もこうして手伝っているのだから、手を進めてくれ」

 

 

只今の剣道場の状況だが、床や壁に穴がボコボコ開いている状況だ。

床の穴は、如耶を追い詰める為の連撃の際に出来た物で、ある意味如耶の所為だ。

だが、壁の穴の方は、逃げる真宮を追い掛けていた時に出来た物であり、こちらに関しては明らかに春蘭が悪い。

と言う訳で、春蘭が剣道場の修理を命じられた訳だ。

だが、流石に仕事量が一日で終わるものでは無いので、一刀や秋蘭と言った者達は手伝う事にしている。

 

 

「申し訳ない、春蘭殿。

私が決闘等と言い出さねば、この様な事態に陥る事も無かったものを」

 

「いや、不動は何も悪くない。

悪いのは、力加減を考えなかったこ奴だよ」"グリグリ・・・・・・”

 

「いだだだだだだだだだだだ!!」

 

「プッ」

 

「春蘭を散々煽ったお前も同罪だ」"グリグリ・・・・・・”

 

「ヒギャアアアアアアアアアアア!?」

 

 

春蘭と間宮に交互にウメボシをかます華蘭に苦笑しつつ如耶は、床の穴の補修の為に板を暁でカットしている一刀の方へと来た。

 

 

「北郷殿、剣技を見せて貰っても宜しいでござろうか?」

 

「お好きにどうぞ、見ていても余り良いもんじゃないと思いますけど」

 

 

そう言い、抜刀術の構えを取る。

呼吸を整え、鯉口を切った。

キィン、と澄んだ音が響き、抜き放たれた暁が反転して鞘へと収められる。

パチンと鞘へと暁が完全に仕舞われた時、板がバラけた。

ホゥ、と感嘆の溜息を吐く如耶。

一方の一刀は、そんな如耶の調子に対して恥ずかしそうに身を竦めた。

 

 

「素晴らしい腕前・・・これが、剣道のみでは決して辿り付けぬ境地、でござるか」

 

「まだまだ未熟ですよ、俺は」

 

 

羨みに近い感情の籠った言葉を言う如耶に対し、一刀は苦笑する。

この二人、実はとても不思議な関係だ。

 

一刀は如耶に憧憬に近い憧れを抱いていた。

過去形なのは、現在ではその対象が華琳に摩り替わっているからだ。

自らを厳しく律し続けるのは、相当な気力が無ければつとまらない。

そういった人間こそ、一刀にとっての憧れだ。

 

一方、如耶は一刀に対し尊敬に近い憧れを抱いている。

自分よりも年下でありながら、神童とさえ呼ばれた自分が手も足も出ずに敗北した程の、剣の腕前。

そして何よりも、その意識の崇高さ。

自らを弱い者と信じると言う、本来ならば矛盾している筈の自信。

だがその一方で、一刀は常々強くなりたいと願い続けている。

それ故に、自身を強い者へと昇華しようという欲求が尽きる事は無い。

それが如耶には無理だった。

高い域に至り、その内でトップを取って、安堵してしまった。

更に上の階位があるにも関わらず、歩みを止めてしまった。

それを気付かせてくれたのが、目の前の北郷一刀という男だ。

だからこそ、不動如耶は北郷一刀に憧れているのである。

 

 

「北郷、不動、手を止めないでもらえるか?

私としても、この作業が長引くのを善しとしたくは無い」

 

「ん、すまん、秋蘭」

 

「何、分かってくれればそれでいいさ」

 

 

つい今しがたカットした板を拾い上げ、穴の部分に置く。

如耶も壁の穴を塞ぎに行った。

 

皆で行った分時間も減ったのだが、結局修理が終ったのは夜の8時頃であった。

 

 

 

 

 

夜の9時頃。

一人居残って鍛錬をしていた一刀だが、隣には華蘭がいた。

他の皆は、一歩先に寮へと帰っている。

その内で華蘭は一刀の鍛錬が終わるまで待っていたのだ。

 

 

「しかし、男女で住いが分かれると言うのは我慢がならんな。

これでは一刀と閨を共にするのが難しい、校舎でするのも中々だが」

 

「うぉーい、何で俺がそう言う事をする事になってんのさ」

 

「違うのか?」

 

「いや、確かにもう何度かやってるけどさ」

 

 

深い溜息を吐く一刀。

一方の華蘭は笑顔のままだ。

 

 

「一刀、皆も口に出していないだけで、欲求は溜まっているのだ。

一刻も早い解消案が必要となっているんだぞ」

 

「それこそ俺に言うなよ。

俺はやらなくたって、何の問題も無いんだからな?」

 

「むむ、するのは嫌いなのか?」

 

「いや、どっちかというと好きだが、頻繁にやる気は起きないな。

て言うか、皆の要望に須らく応えてたら、腎虚で死ぬって」

 

「その時は、張魯や華佗に治療を任せれば」

 

「もう何度も世話になってんの、これ以上は避けたい」

 

 

因みに、張魯は黎明館の調理師兼栄養士、華佗は近所で診療所を経営している。

張魯は最近では、バイトの大学生とのロマンスが噂されている。

最も、一刀から言わせれば、暫くは有り得ない、だが。

何せ、異常な程色恋沙汰に疎いのだから。

 

閑話休題

 

一度腎虚に成り掛けた時、二人に治療して貰ったのだが、その際言われたのである。

 

「一度異常をきたしてしまった場合、完全に治るまで抑制しておかなければならない。

もし治る前に再発してしまうと、再起不能になる可能性もある」

 

と。

それ以来、流石に彼女達との交わりは間隔を多めに取りながらしている。

それでも求めて来れば相手をする一刀は律義と言うか、何と言うか。

そしてその度に、二人の診察を受けているのだ。

今でこそ異常は見当たらないが、いきなり、という可能性も有り得た。

 

 

「そうか・・・残念だ、これよりお前の部屋に押し掛けようかと思っていたのだが」

 

「押し掛けるだけなら構わないよ、唯そう言う事はしないからな?」

 

「うん、それでいい」

 

 

そう言って、一刀の腕に自分の腕を絡める華蘭。

身長の差は殆ど無い為、互いの肘同士が合わさる形になる。

そのまま、二人は男子寮へと帰って行った。

 

 

 

―――翌早朝

 

既に6月の中旬に差し掛かっている為、それなりに暑さは厳しい。

そして太陽が昇る時間も早い。

大体5時頃。

 

一刀は、ベッドの上で頭を抱えていた。

その姿は全裸。

しっかりと引き締まった身体は、美術部からデッサンモデルにと勧誘される程魅力的だ。

そして、一刀の隣で華蘭が寝ていた。

こちらも一糸纏わぬ姿だ。

均整の取れた身体つきは、非常に美しい。

だが、それすらも一刀の頭痛を増長させる種にしかならない。

 

 

「どうしてこうなった?」

 

 

一人呟くが、普段はそんな事にも細かく返してくる華蘭はまだ夢の内だ。

 

 

「うぅ、ん・・・あ、おはよう、一刀」

 

「ああ、おはよう・・・」

 

 

瞼を開けて、トロンとした表情で一刀を見る華蘭。

思わずウェイクアップしかかるが、気合で抑え付けた。

 

 

「結局、してしまったな」

 

「ああ、本当にどうしてこうなった?」

 

「さてな、私にも思い出せないよ。

まあ、最近無沙汰だったからな、満足だ。

そうだ、身体の調子はどうなんだ?

倒れられると、洒落にならん」

 

「自分で思っている分には完璧だよ、中身はどうなってるか分からんがな」

 

「そうか、それは良かった」

 

 

胸元を隠す事も無く、身を起こして笑う。

一刀は溜息を吐かざるを得なかった。

 

 

「華蘭、女子寮に戻らなくて大丈夫なのか?」

 

 

ふと思い付いた様に言う。

華蘭は笑いながら答える。

 

 

「私の足ならば、今から戻って用意を整えて登校するのは余裕だ」

 

「まあ、確かにな」

 

「それでは・・・む? 一刀、すまんが肩を貸してくれ」

 

「どうした?」

 

「余りにも久々だった所為か、腰が砕けて立ち上がれん」

 

「いや、マジですまん」

 

「気にするな、恐らく私から求めたんだろう。

おっと、先に服を着た方がいいかな?」

 

 

言われ、一刀は華蘭に向けて制服一式を投げ、自分も服を着込んだ。

華蘭に肩を貸し、何とか立ち上がらせる。

華蘭はその際にも、幸せそうな笑顔を湛えたまま。

これからも続く、過去では味わえなかった類の幸せ。

それを華蘭は、全力で噛み締めていた。

 

 

 

 

IF現代編第一話:了

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

遅いわ自分!!

二週間近く間隙を開けての投稿となりました。

言い訳ですが、大学が始まった所為です。

そう言う訳で、これからは恐らく隔週連載モドキになると思います。

 

レス返し

 

 

・mighty様:もう鈴の音は、聞こえない・・・・・・

 

・砂のお城様:修正しました、ありがとうございます。 因みに病翠は勘弁です。

 

・悠なるかな様&poyy様:ご期待に添えたでしょうか?

 

・U_1様:さて、どの様な事態になるかは、自分の匙加減一つですからね、その時の反応が怖い・・・(ビクビク

 

・うたまる様:歴史は異物を排除したがります。 後、謎の男についてぶっちゃけると、見方に寄れば奴は一刀の味方です。

 

・はりまえ様:何の為の医者王か!!

 

・2828様:コメントで元ネタをドストライクした方がいらっしゃって、大変驚きでした。

 

・ヒトヤ様:ええ、そうです。 だから、華琳は新たな軍師を求めてます。

 

・瓜月様:立ち位置がはっきりしないが故に・・・おっと、ネタバレは出来る限り避けねば。

 

・Nyao様:ねねは何時だって、恋が一番好き。

 

・takewayall様:やめて、ムチャぶりやめて。 いいじゃないですか、テンプレっぽくったって! ここから更に引っかき回してやるんですから!!

 

・りょんりょん様:ドンピシャです。 全身の神経にこびりつく様な病魔だったので、医者王の目には人の姿をした病魔の様に映ったのです。

 

・F97様:ええ、この後、五斗米道究極奥義【反魔経流安堵経分】が炸裂します。

 

 

因みに、『春恋*乙女』のキャラクターは、自己脳内完結です。

ゲームとは殆ど関係ありません。

唯、参考としてOVAを見た程度です。

 

ふぅ・・・色々と疲れました・・・また次回、宜しくです。

 

 

 


 
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