・Caution!!・
この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。
オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。
また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。
ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。
それでは、初めます。
―――曹操軍陣
兵が慌ただしく動き、所々で将や軍師の怒号が飛んでいる。
それを見ながら、華琳は面白そうに一息ついた。
一刀達が洛陽に戻って四日目の朝。
漸く警戒態勢が解かれ、諸侯は自領への引き上げを許されていた。
「・・・漸くね、意外とかかったものだわ」
「ふむ、しかしだな」
「どうかしたの? 華蘭」
「・・・・・・一刀に会えなくなるのが、な。 少し、辛い」
華琳はプッと吹き出し、悪い笑みを浮かべる。
「なら、私の下を出奔して、一刀の下へ行けばいいじゃない」
「・・・・・・一応聞くが、それは冗談だろう?」
殺意すら湛えた目で、華琳を睨む華蘭。
しかし、華琳は全く堪えた様子を見せず。
「当然、冗談に決まっているわ。
そもそも、私が貴女を手放すと思っているのならば、それこそ心外ね」
笑顔を崩さずに、言ってのけた。
それを見て華蘭は溜息を一つ吐いて、視線を後方へと向けた。
「そろそろ出て来い、覗き見とは趣味が悪いぞ」
「そうね、そろそろ間者として捕えさせようかしら?」
「あー、ばれてたの?」
後頭部に大きな汗を浮かべながら、物陰より一人の女性が姿を現した。
長身かつ、引っ込む所は引っ込んでいて、出る所は【とても】出ているという女性が。
華琳の視線が一点を数秒見据えてから、大きく舌打ちを漏らす。
華蘭は苦笑せざるを得なかった。
「それで? 貴女は何の用なのかしら? 張儁乂」
「ありゃ? 私の名前知ってるのか」
「・・・華琳は、これと言った武将の情報は欠かさず集めるているんだよ」
「ほぅ? つまり、私はお眼鏡に敵った、っていう解釈でいいの?」
「・・・私の質問に答えなさい」
「うぉっと!? こりゃ失礼」
背後にゴゴゴといった擬音を湛えた華琳に驚き、思わず数メートル飛び退く悠。
しかし、その眼には期待感を孕んでいると、華琳と華蘭は見抜いた。
そんな二人の様子を見た悠は、お手上げのポーズを取ってから、ゆっくりと華琳達の方へと近付き。
「曹操殿、この儁乂の命、使ってみる気はありませんか?」
「へぇ? 貴女は確か、麗羽の所で戦っていると記憶していたのだけれど」
「あぁ、そろそろ袁紹軍も飽きてきたし?
そちらのほうが楽しめそうかな、と」
「プッ! アッハハハハハハハハハ!! そう、そう言う事ね!
いいわ張郃、貴女の武と命、私に捧げなさい」
「応っ! あ、後私の部隊の連中も受け入れてくれない?」
「ええ、その程度ならばお安いご用よ」
「やれやれ」
ほぼ形だけの臣下の儀を行っている二人を尻目に、華蘭は洛陽の城壁を見やった。
華蘭の愛する男がいる街の方を。
真・恋姫†無双
―天遣伝―
第十九話「幕間」
帝都洛陽、その王宮内においては、宦官の手の届かぬ場所等存在しないとさえ言われている。
だがしかし、「宦官のいない場所」は確かにある訳で・・・・・・一刀はそれを、身を持って経験している真っ最中であった。
具体的に言うならば、今も一刀の手を引っ張ろうとしている子供達によって。
「兄ちゃん、こっちこっち!」
「兄上、御遣い様が困っておられます」
「いや、別にそんな事は無いんだけど・・・」
「ほら、兄ちゃんもこう言ってるじゃん!」
「もう、兄上!!」
一刀の手を取っている少年の名は、劉弁。
後の世に言う、少帝弁である。
一方の弁を兄上と呼んだ少女の名は、劉協。
後に、献帝となる者だ。
「おーい、余り遠くに行くなよー、あたし等だけじゃ構い切れん場合もあるからなー!?」
「分かりました、伯母上ー!!」
「はっはっは、元気があっていいねぇ」
「ええ、弁は元気が余り過ぎていて困り者ですがね・・・」
その三人を見守る美里と、彼女に良く似ているが、数倍は落ち着いた雰囲気を醸し出す女性が、屋外用の卓に腰掛けていた。
・・・二人とも胸を卓の上に乗せている辺り、その巨大さが窺える。
この女性、名を何苗、真名を美月と言う。
分かり易く言うなれば、何皇后だ。
そして、此方の二人の傍には円が控えていた。
彼ら六人がいるこの場は、王宮内の後宮部分に設けられた庭である。
基本的に、この庭には宦官は軽々に入って来れない。
入る事自体は可能だが、それを行うのに一々後宮の主に伺いを立てる必要があるのだ。
後宮の主、それは霊帝もしくは何皇后。
霊帝は現在病に伏せっているので、実質ここの最高責任者は何皇后と言う事になる。
即ち、ここに入る人間を何皇后が選べるという事だ。
その結果が、今。
「で、だ。 美月、張譲に何か動きがあったかい?」
「いいえ、不気味な事に何も無いの。
陛下がお倒れになってから此方、何も」
「ちぃ、当てが外れるな。
あの小悪党の事だから、てっきり焦るかと思ったのに」
「姉さん、張譲を舐めては駄目。
奴は腐り切った宦官共の内において、頂点に位置する存在。
その奸智は、今まで数多の義ある人々を不当に陥れて来た、恐るべき相手なのだから」
「・・・そうだな、すまん」
「美里様、美月様、お茶が冷めてしまったようなので、御取り換えいたします」
「すまん、円」
「いえ、御気になさらず。
これは、私が好きでやっている事ですので」
苛立たし気な美里の気を紛らわせる為に、茶を交換する円。
見事な読みだと、感心さえした二人だった。
「しっかし、こうなると不味い事になってくるね」
「ええ、私達の企む宦官の一掃が難しくなってしまう。
特に、奴等は尾を掴まれる事を極端に恐れているから、証拠も少ないわ」
「やはり、ここは、あいつに任せるしかないか・・・」
そう言って、弁と協とじゃれ合う一刀に目を向ける。
その目には、我が子を見守る様な光と・・・
「姉さん、恋をしているわね?」
「・・・分かるか」
「ええ、二児の母を舐めないでくれる?」
「はっ! 年甲斐も無い。
それに、あたしと一刀じゃ、不釣り合いに過ぎる。
あたしみたいな年増に惚れられたって、一刀も迷惑だろうさ」
「姉さん・・・・・・」
自嘲する様な呟きを漏らす美里に、悲しげな視線を向ける美月と円。
その間も、美里の視線は楽しそうにじゃれ合う三人に向けられていたのであった。
―――西涼軍
西涼までを駆ける馬の群れの中、一台のみある馬車の中に視点を移す。
「あ゛ー、だるいー」
「碧、もう少しシャキッと出来ないかしら?」
「無理言うなー、華佗に鍼打って貰ってから、ずっと身体に大きな力が入らねーのよ」
「もう何度も聞いたわ、それ」
時は四日前に遡る。
―――回想開始。
「五斗米道(ゴットヴェイドー)最終究極奥義・・・・・・『反魔経流』!!」
"ズドンッ!!(鍼が打ち込まれた音)”
「んがっ!?
「『安堵経分』!!!」
“ズンッ!!(鍼が引き抜かれた音)”
「おふぅっ!!?」
「病魔よ・・・消え去れ! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」(両手を当てて気力全開)
「はあぁーーーん!!??」
―――二十分後。
「よし、これで何とかなった。
念の為、俺の兄弟子の経営している診療所で診て貰ってくれ。
ここに行き先が書いてある」
―――回想終了。
「・・・あの治療法は斬新だったわね」
「斬新過ぎて、誰も付いて行けんだろ・・・・・・」
しみじみと語る二人。
何故か、碧の顔は赤かったが。
「それにしても・・・」
「ん? どーしたー?」
「華佗に貰った行き先なんだけどね。
何度見ても、漢中の特級飯店の名前にしか思えないのよ」
「・・・美味い飯でも食って、英気を養えって意味じゃねーの?」
「それも一理なんだけどね。
華佗は、しっかと【診療所】と言っていたから、気になったのよ」
眉を顰めながら言う朔夜。
一方の碧は、相も変わらず気だるそうなままだ。
そこで、馬車の扉が叩かれた。
朔夜は一息置いてから、扉を開けた。
「失礼します」
「葵、無茶するわね」
「そうでもありません、黒鶯はたんぽぽに任せましたから」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!? 黒鶯落ち着いてよー!!!」
ニコリと笑った葵の後方で、蒲公英の絶叫が響いた。
しかしそれに動ぜず、葵は馬車の扉を閉める。
「碧様のお身体の調子を確かめに来ました」
「ええ、分かったわ。
薬箱は此処にあるからお願いね」
蒲公英を気にせずに、平然と自分の用事を始めたのだった。
一方の蒲公英は。
「うわぁぁぁぁぁん!! 葵姉様の鬼ー!!」
『ブルルルルルル、フィィィィン!!!』
黒鶯に振り落とされそうになるのを、必死で堪えていたとさ。
いと哀れなり。
―――孫堅軍
然程急いだ様子も見せずに、ゆっくりと進む軍の先頭。
大蓮は、仏頂面だった。
元がとんでもない美女故に、見る者からすれば通常よりもかなり苦々しく映る姿だ。
その上険呑極まりない雰囲気を醸し出しているので、将以外は話し掛けるのを戸惑っていた。
しかも、そんな顔をしているのは大蓮だけでなく、その娘である雪蓮も同等だったのだ。
「堅殿、策殿、そんな顔をされていては、兵達にも要らぬ緊張を抱かせるので、早々に収めて頂きたいのですが」
湊よりそう突っ込みが入る。
その言葉に、大蓮は体面上収めるが、雪蓮は変わらずであった。
「策殿?」
怪訝に思った祭が声をかける。
雪蓮は悔しそうに顔を歪めてから、駄々をこねる様に言い出した。
「だってー! 北郷の寝所に潜り込めなかったのよ!」
「・・・・・・は?」
祭が呆ける。
そして湊が呆れ、大蓮がプッと息を漏らした。
「何処で寝てるかも判らなかったし、判ったとしても、何時も周りを龐徳とか呂布とか曹仁とかが護ってんのよ!? どうしろってのよー!!」
「・・・要するに、策殿は夜這いが成せなかったから、そんなに不機嫌だと?」
「何とも呆れた・・・」
「あによう? 惚れた男に抱かれたいと思うのは、女の性、でしょう? ねえ、母様?」
「ククッ、ああ、そうだな。
雪蓮の言う通りだとも。
しかし雪蓮、何時の間に、あの小僧にそこまで入れ込んでいたんだ?」
「・・・あー」
そこで言葉に詰まる雪蓮。
どうにも説明し辛かったからだ。
だが、何時も場を治める魔法の一言を思い出した。
「勘よ!」
「・・・・・・ああはい、策殿らしい」
「相も変わらず、理性よりも本能で物を考える御方だ。
これは、手綱取りを益々厳しくする様冥琳に言っておかねば」
「げ、もしかして私墓穴掘った?」
両手で頭を抱える。
何時の間にやら雪蓮の傍まで寄って来ていた大蓮が、雪蓮の肩を叩いた。
その表情は、憐みの感情と、笑いを堪える感情が混じっていた。
"ビシッ!”
「あたっ!?」
ちょっとムカついたので、裏掌打で大蓮の額を叩いた雪蓮であった。
そもそも、雪蓮が一刀に惹かれた理由は、実際には勘とは別の所にある。
それを語るのが結構恥ずかしい事だから、ごまかしてしまっただけだ。
だが語っていない以上は、それを察する事等皆には不可能な訳で。
「雪蓮ー!!」
「いだだだだだだ!」
少し気を害した大蓮にヘッドロックを決められた。
それを見る祭は、笑って助けに入らない。
それが唯のじゃれ合いだと解っているからだ。
「堅殿、行軍の妨げとなりますので、程々になされるよう」
「解ってるよ」
「だったら早く離してってばー!!」
「嫌だね!」
「鬼ー!! いだだだだだ!」
湊は呆れ顔で、そう指摘した。
が、上記の通り、暫く離そうとはしなかった訳だが。
―――袁紹軍
不機嫌全開な麗羽は、御輿の上で頬杖をついたまま思案していた。
その内容は、どうすれば一刀を自分の足下に屈服させられるかで占められている。
時折、ブツブツと物騒な事を呟く辺りで、斗詩は生きた心地がしなかった。
二枚看板のもう一方である猪々子は、知ったこっちゃないと言わんばかり、要するに何時もの調子であった。
麗羽はそこで、手の内にある書に目を向ける。
それは悠が残していった書置きだ。
そこにはこう書かれていた。
『姫の軍と御身体に飽きたんで抜けさせて貰います』
・・・それだけ。
その後何処へ行くのかも書かずに、唯それだけしか書いていなかった。
そしてそれ以上に、苛立つ事。
それは。
「(この書き方ではまるで、私が身体で悠さんを誘惑したようではありませんの!?)」
で、あった。
麗羽自身は、異性に欠片も魅力を感じていない。
と言うよりも、自分と釣り合う男等いないと、本気で信じているだけだ。
確かにその通り、釣り合う男はいないのだろう。
余りの馬鹿さ加減的な意味で。
唯一麗羽が心惹かれたのは、同性ではあるが、華琳位の者だ。
これでもし、悠が華琳の下へと降っていたとしたら。
そう考えるだけで、華琳への怒りが沸々と湧き上がってくる。
麗羽は全く気付かない。
何故悠が自分の下で戦っていたか、その理由を。
袁家に忠誠を誓っていても、袁紹個人に忠誠を誓っている人間が、実際には数人程度しか存在しない事を。
全く、気付いていない。
―――袁術軍
麗羽とは打って変わり、美羽の馬車の中。
此方は非常に和やかな空気を醸していた。
その中心人物となっているのは、美羽に降った張三姉妹の長姉、天和である。
ゆったりとした言葉遣いは、場の雰囲気を和ませる効果を存分に発揮していた。
それを人和が拾い、地和が引っ張る。
ある意味理想の繋がりとなっていた。
そんな張三姉妹と話し合っているのは、無論この馬車の主である美羽と、その側近の七乃であった。
「美羽ちゃん美羽ちゃん、本当にまた皆で歌えるんだよね?」
「うむ、最も帰る場所がちゃんと残っておればいいんじゃが」
「? それっていったいどういう事よ?」
「う~む、妾は暴君じゃったからの。
帰った所で反乱が起こっておったら、帰る場所を失ってしまっておる事も有り得るのじゃ」
「嘘っ!? 何よそれ、初めて聞いたわ!」
「まぁまぁ、地和さん落ち着いて下さい。
余り煩いと・・・・・・叩き出しますよ?」
「ッ!?」
「やだなぁ、冗談に決まってるじゃないですか」
「・・・う、うん(嘘吐け! 今絶対本気だったわよ!!)」
にっこりと微笑んでいる様で、薄らと瞼の間から瞳が覗いているのに気付き、地和は戦慄した。
勿論人和は気付いていたが、天和は気付いていない。
相も変わらず首を傾げながら、ぽわぽわした雰囲気をばら撒いていた。
「大丈夫、大丈夫。
なる様になるって!」
「姉さん・・・それは楽天的に過ぎるんじゃないかしら・・・・・・」
「でも、天和さんの言う通りなんですよね。
結局、自領まで戻ってみないとどうにも分かりませんし」
「じゃあ、もうこんなしみったれた話は止めましょ。
嫌な考えばかりしちゃうじゃない」
そう地和が言った所で、新たな話の種を人和が提供した。
一方。
「美羽様、楽しそうで何よりです。
・・・不肖紀霊、命ある限り仕えさせて頂く事を、今再び誓います」
御者をしていた咲は、決意新たに馬車を曳く馬の幉を握り締めていた。
―――劉家軍
進路を洛陽から遠ざかる方向に取っている劉家軍の長である、桃香はずっと暗い表情をしたままだった。
傍らにいる朱里に語りかける。
表情は同じまま。
「・・・ねえ、朱里ちゃん」
「無理です、桃香様」
「私、まだ何も言ってないよ」
「何度も同じ事を繰り返されれば、流石に言われずとも察せます」
「そっか・・・やっぱり」
「ええ、董卓さん達が洛陽に残れるのは、ちゃんとした拠点を有しているからです。
私達には、それがありません。
糧食や武装も、本来官軍よりの借り物です。
正直な所、領地を頂ける事すら予想外の事態だったのですから」
「そう、だよね・・・・・・」
朱里の言葉に、がっくりと項垂れる桃香。
何時もの後光射す様な姿は、何処にも無かった。
そうなのである。
桃香達は、本来官軍本隊に組み込まれただけの存在。
一刀の厚意で一諸侯並の権限を与えられていたものの、朱里や雛里は恩賞等夢のまた夢と諦めていた。
だと言うのに、一刀は彼女達に恩賞を与えた。
平原郡の相を命じたのだ。
これには、皆揃って驚愕したものだ。
明らかに働き以上の恩賞であると思ったからだ。
だが、一刀にも思惑があった。
平原郡は、洛陽を挟んで陳留の向こう側に位置する。
桃香と親しくなっている一刀は、華琳が桃香を警戒していた事も知っていた為、念の為に自分と桃香とで華琳を牽制出来ないかという企みである。
最も、これは稟の策なのだが。
一刀が華琳を、曹操を抑えたいと言う要求に対しての献策だ。
「朱里ちゃん、この位置はやっぱり・・・」
「うん、間違いないよ。
稟さんと風ちゃんならね」
雛里と朱里がヒソヒソ話をしている間。
桃香の傍には、愛紗達が集まっていた。
「桃香様、その・・・」
「愛紗、慰めの言葉が思いつかぬのならば、いっそ何も喋らぬ方が良いのではないのか?」
「ぐっ」
「にゃはは、愛紗は相変わらず考える前に行動するのだ」
「お前が言うな!!」
「ひたひ~!」
口下手な愛紗に星がアドバイスをし、鈴々が余計な一言を言って折檻を受けている間に、星は桃香に話しかける。
「桃香様、御気になさらず。
何も、今生の別れと言う訳ではありますまい?
私とて、親友と別れるのは心が痛みました」
「星ちゃん・・・・・・」
「ですが、縁があればまた会えましょう。
私も、御遣い殿には再びお会いしたいと思いますし」
「えっ!? 星ちゃんも!?」
「おや? 一体何の事やらさっぱり判りませんな。
一体何が、【私も】なので?」
「あぅっ」
カーッと顔をあっと言う間に真っ赤に染める桃香。
星は、邪悪さすら垣間見える笑いを湛えていた。
しかし、すぐにその笑いを引っ込める。
真後ろで愛紗と鈴々が、己の得物を構えたのを察したからだ。
「少しからかった程度なのだがな・・・」
「度は弁えろ」
「お姉ちゃんを困らせているのだけは、判ったのだ」
「これは怖い」
そう言って、肩を竦める。
渦中の桃香は、ずっと顔を赤くして俯いたままだった。
―――洛陽、董卓軍
月の率いる董卓軍は、帰省を望む兵達を天水に帰した為、必要最低限の兵しか有さないまま洛陽に留まっていた。
そんな彼女達に現在与えられている役割は。
「ふぁ・・・なんや拍子抜けする位平和やな」
「気を抜くな張遼。
この瞬間にも、目に入らぬ場では良からぬ事が起きている場合もある」
「わかっとるわ」
洛陽の街の見回りであった。
最も、これは将達の仕事であり、文官にあたる賈駆達は宮廷の方で政務の手伝いを行っている。
但し、先程霞が言った様に、ここ暫くは華佗が洛陽に留まっている為か、病人や怪我人の姿はまるで見えない。
それは、人々の間に活力を取り戻させる原因となっている。
事実、通行人として通り過ぎた洛陽の民が、霞と華雄に会釈をする位には余裕が生まれていたのだ。
「お、恋や、おーい!」
「・・・・霞、こっちは大丈夫」
「私もいるのだがな・・・まあいい。
此方も異常無しだ、後は高順、陳宮と合流して董卓様の元へ報告に行かねば」
「なぁ、華雄? ず~っと気になっとったんやけど。
何で月の真名許されとるのに、呼ばんの?」
恋と合流し、王宮方面へと進行方向を変更した華雄に、霞が訊ねた。
華雄はそれを鼻で笑って、答えた。
「それは、私は生涯あの方の【家臣】として仕えたいと思っているからだ。
真名を呼ぶ事で、【仲間】や【家族】となるのを恐れているとも言えるな」
「は? 何やそれ?」
「・・・・・・かゆの言ってる事、良く解らない」
「解らんでいいさ、これは私の勝手な思い込みだ。
たとい董卓様より真名で呼べと言われても、私は呼ぶ気は無い。
理由は・・・そうだな、過去に何かあったと言う事にしておいてくれ」
「・・・結局誤魔化されたんかな?」
首を捻る霞を尻目に、華雄は悠然と歩を進めていった。
――同時刻、宮廷内の一室
ここでは、詠が木簡の山と格闘を繰り広げていた。
その傍らには月の姿もある。
頭を苛々と掻き毟りながら、詠は遂に堪忍袋の緒が切れた。
「うがーーー!!! 何よこれ!? 何でこんな滅茶苦茶な案に、こんだけバカげた額の金が注ぎ込まれてんのよ!」
「うん、これは酷いね・・・・・・」
数ある木簡の内より、一つを壁に投げ付ける詠。
その内より一つを自分で取って眺めていた月も、苦渋の表情で木簡を読んでいた。
ぜーぜーと肩を怒らせながら、詠はどっかと椅子に座り直して眼鏡を直し、再び新しい木簡を手に取った。
「・・・宦官共がどれ程腐ってたかが、よ~く解るわ。
寧ろ、これ読んでも理解出来無いってんなら、ボク軍師辞める」
手に持っていた木簡を、後方へと投げ捨てる。
「これも!」
更に一つ。
「これも!!」
更に。
「・・・もう沢山だわ!!!」
終に大声を上げて、木簡の山を盛大に崩す詠。
当然、月に雪崩が及ばない様に考えている。
そのまま机に突っ伏し、涙を流し始める。
「うぅ、宦官共の尻拭いがこんなに大変だなんて、ボク聞いてない」
「うん、私も」
さめざめと涙を流す詠に対し、苦笑を浮かべたまま木簡を読んで行く月。
その様子を見て、詠は泣き止んで佇まいを直した。
「月、貴女・・・」
「私、精一杯頑張りたいの。
一刀さんの傍にいる事を選んだのは私の我儘だから、詠ちゃんに迷惑ばかりかけていられないよ」
そう言って、月は木簡に視線を落とす。
詠は、感心した様子で、一度机に頭突きをかました。
その音に驚いて月は詠の方を向くが、詠は気にしない。
額がズキズキ痛むが、そんな事は屁程も気にならない。
詠の心中にあったのは、唯「月ばかりに無理をさせない」の一点のみ。
故にこそ、放棄した筈の木簡を拾って、凄まじい速度で読み始める。
正に圧巻と言うべき速度であった。
この後、華雄達が報告に来るまでに、約六割の木簡が片付けられたのは、偏に賈文和の力故だったと言えるだろう。
月達が使っているのとはまた別の王宮のとある一室。
そこでは、十常侍と呼ばれる宦官集団が一堂に会していた。
と言っても、何も歓談していると言う訳ではない。
「やはり、何進が最も厄介か」
「いや、天の御遣いを先に」
「馬鹿者、そ奴等よりも皇甫嵩を先に抑えるべきだ」
「いやいや・・・・・・」
悪巧みを企んでいるのだ。
だが、その中心人物である張譲は、先程から一言も発言していない。
両目は硬く閉じられ、何かを思案しているかのような様子。
そして、その目が開かれた瞬間、他の者全ては口を噤んだ。
張譲の表情が醜悪に歪む。
年若い少年の様な外見をしているのに、その顔の歪みは醜悪な老爺を思わせた。
「何進を先に始末しましょう。
その為にも、皇后を押さえます。
段佳」
「応、すぐにでも」
「馬鹿者、すぐにはいけません。
こういう事は、発覚せぬ様に万全を期さねばならぬのです」
クックックと低く喉を鳴らして嗤う張譲は、正直に言ってとても不気味だ。
「解った」
「ええ、それでいい。
長きに渡る因縁は、ここで断つとしましょう、皆」
『オォォォォ・・・・・・』
低い唸り声の如き同意の声を得て、張譲は内心嘲笑した。
正直に言って、張譲は自分さえ良ければそれで良いのだ。
周りにいる十常侍の者達ですら、同族でも何でもない唯の他人にしか過ぎない。
それに気付かずに、自分に頼っていると言うのが、堪らなく滑稽でおかしいのだ。
何はともあれ、何進に宦官の魔の手が及ぶ。
経緯はどうあれ、【史実】通りに。
しかし、彼等が秘密の話をしていた隣の部屋。
あちこちで一刀に付き纏っていた男が、茶の器を集音機代わりにして壁にくっ付けたまま、彼等の話の全てを耳に収めていた。
器を壁から離し、溜息を吐く。
そして、独り言を口にした。
「何やってんだ、天の御遣い―北郷一刀。
このままだと、【正史通り】に何進が殺されるぞ?」
そう言って、苛立たし気に腕組みした。
しかも、二の腕の部分を人差し指で叩くと言うオマケつきだ。
暫く考え込んだ後、男は何かに気付いた通りに顔を上げた。
「まさか、忘れている?
・・・・・・有り得るな」
今度は部屋の中をうろうろと歩き回る。
そして今度は、演劇の舞台が如く、両手を広げて天を仰ぎ、目を覆った。
「だとすれば、何と言う悲劇、いや喜劇だ。
止められる理由も、意思も、力もあると言うのに、唯【忘れさせられている】だけで、愛する者を救えないのか?」
大袈裟に、床にへたり込む。
明らかに態とだ。
それに、この男自身は、美里の命自体はどうでもいいときている。
この男は唯一刀がどう動き、その結果世界がどの様に動くのかを知りたいだけだ。
「このまま【正史通り】に世界が動いても、それは望む所じゃない。
ならば、どうする? ・・・ハハハ、知れた事。
俺が、この俺が、その通りにならぬ様誘導するしかない」
身体を起こし、ニヤリと一度顔を歪めて言う。
隣に聞こえてはいけないと、くぐもった笑いを漏らし立ち上がり、部屋を出て行く。
「さてはて、歴史の蒐集も楽じゃない。
・・・・・・まぁ、構わんさ。
楽して手に入る悦等高が知れている。
苦難危機を紙一重で乗り越えた先で掴む方が、余程スリルがある」
この時代の人間が知る筈のない、横文字の単語を呟きながら、廊下を悠然と歩く。
人が大勢いて、常時使用されない廊下がある筈がないのに、男は誰とも擦れ違わない。
そして、通った後には静寂が残るのみ。
明らかに異常だ。
男は王宮の庭に出た辺りで、大きく跳躍。
異常な高さまで到達し、よじ登る事も無く城壁の上に着地した。
一度振り返り、別の庭で遊ぶ一刀達を見付け、眺める。
それを少し感じ取ったのか、一刀が周囲を見渡し始めたので、男は慌てて身を隠した。
「やれやれ・・・・・・おっそろしい奴だ。
流石、あの男の血縁なだけの事はある。
狂った歯車は、何を回し、何を動かす?
既に見た答え等に興味は無いんだ、俺に新しい景色を拝ませてくれよ?
北郷、一刀」
そう言って、今度こそ本当に男はその場から去ったのだった。
第十九話:了
オリジナルキャラ紹介
名前:何苗
真名:美月
設定:大将軍何進―美里の実の妹、何皇后。
史実では、何苗は何進の義理の弟だが、ここでは上記の通りと設定。
実の息子劉弁と、義理の娘劉協の、二児の母。
外見は美里と瓜二つだが、彼女は他者を安心させる天性を持っている為、姉妹と言っても中々信じて貰えない。
とても優しく、家族への愛情に満ち溢れた女性。
かつては南陽に赴任してきた悪徳宦官の元へ美里を護る為に嫁いだが、偶然霊帝の目に止まって後宮に入り、霊帝の寵愛を一身に受ける事となった。
美里との仲は至って良好。
名前:劉弁
設定:何皇后―美月の実子。
腕白で、気に入ったものは手の届く範囲に留めたがるという悪癖を持つ。
政治云々にはまるで興味が無く、兵士の真似事ばかりをしては生傷が絶やす事が無いので、美月の頭痛の種となっている。
但し、人の苦しみに関しては人一倍敏感であり、頭痛の種となる一方で、周りを宦官達に囲まれて苦しんでいる美月の救いにもなっている。
名前:劉協
真名:神名(カンナ)
設定:弁の異母妹であるが、実母の王美人が病死している為、美月が引き取って育てている少女(史実で劉協を育てていた董大后は存在しないのであしからず)。
弁と真逆で淑やかな性質だが、周りの環境に適応しようとした結果であり、もう少しお転婆に生きてみたいと言う願望を密かに持っている。
頭の回転がとても速く利発で、まだ幼いものの、既に宦官達が悪政を行っている事を見抜いている。
自分の出自を知っているが、それでも尚弁を純粋に兄として慕っている。
後書きの様なもの
・・・・・・おっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!
皆様ゴメンナサイ!!(ジャンピング土下座)
自分自身まさか、二週間以上も間を開けてしまうとは思わなかったとです!
執筆が夜にしか出来ない所為もあるのでしょうが・・・それでも、申し訳ありません!!
レス返し
・悠なるかな様&U_1様&KATANA様&mighty様&ue様&nameneko様:と、言う訳で、連載化です。 応援感謝いたします。
・COMBAT02様:いいえ、誤字では無いです。 羨みの視線を向けた男女で別れているという意味で。
・よしお。様:お褒めに預かり恐悦至極。
・はりまえ様:そうですねー。 厳密に言うと、魏ルートでは無かったり。
・poyy様:ありがとうございます!!
・瓜月様:ぬぅ・・・その手があったか!? しかし・・・それでは一刀が寮住まいでは無くなってしまう!!
・2828様:暫くはまだ、です。
・砂のお城様:彼は主人公ですので、したくてもさせられません。 ・・・ギャグ補正ってアリかな?(小声)
・takewayall様:塩をぶつける理由は、自分宛てにですか!? それとも、甘さの相殺の為ですか!? "ビクビク”
漸く・・・漸く投稿できました。
あぁ、今度は何時になるんだろ・・・・・・
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遅くなり過ぎました、申し訳ありません。
その上、内容も薄いとか・・・ええい! 死ねぇ、自分!!