No.170054

真・恋姫†無双‐天遣伝‐(19)

どうも、丸々一週間以上遅くなってしまいまして、謝罪の言葉しかございません。

次回も遅れるやもしれませんが、どうかご容赦ください。

2010-09-03 12:24:22 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:11196   閲覧ユーザー数:7952

 

・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

 

 

朝。

 

袁術軍の陣では、朝議に代わって朝食会となっていた。

但し、出席者は美羽とその側近の七乃と咲。

そして、三人の新顔だけなのだが。

 

 

「あの・・・袁術様?」

 

「む、何じゃ人和」

 

 

おずおずと美羽に声を掛ける張梁―人和に、首を傾げて聞き返す美羽。

 

 

「本当に、私達は此処にいて宜しいのでしょうか?」

 

「構わん、妾が善しと言ったのじゃ、文句は誰にも言わせん」

 

「しかし・・・」

 

「くどいぞ、それともお主等は、事を知られて殺される方が良いのかの?」

 

「そんなの嫌ー!!」

 

「ほれ、天和はああ言っておるぞ?」

 

「・・・」

 

 

困った様に頭を抱える人和。

正直に考えて、美羽の方針では自分達は毒以外に成り様がないとしか思えないからだ。

 

あの日、黄巾本隊と官軍全軍が激突し、張三姉妹が逃れた日の事。

美羽が気付いた違和感が示し、七乃が勘付いた事。

居場所が分かった事自体は、信頼に値する情報であったにも関わらず、三姉妹はそこに存在しなかった。

それが指示していた事は、二つ。

「張三姉妹は既に戦場から離れている」と言う事。

そして、「張三姉妹は黄巾党に対して決して好意的では無い」と言う事だ。

他の諸侯は、張角等が率先して乱を巻き起こしていたと認識していた為、首領三名が戦場から逃げ出している等と言う可能性を考えてはいなかった。

最も、其方の可能性に気が付いた者もいた。

具体的には、華琳と一刀だ。

 

とにかく、七乃は包囲網を拡大させ、戦場がある方角と逆向きに離れて行こうとする者を、片っ端から捕まえる事としたのだ。

その結果、見事に三姉妹は網に掛かった。

後は、彼女達を討って袁術軍が張角、張宝、張梁を討ち取ったと報告すれば、美羽の株は鰻上りだ。

だがしかし、ここで一つイレギュラーが起こった。

美羽が、三人を匿うと言い出したのである。

その理由は歌。

 

美羽は歌が巧い。

それも結構な域での話だ。

現代でも通用する程に、巧みである。

張三姉妹がかつて美羽の膝元で興行していた時、城の近くで歌った事があった。

それを美羽は偶然聞いており、その時の声を覚えていたのだ。

その結果、美羽は三人が乱を起こした者とは到底思えず、我儘を言った訳だ。

無論、咲と七乃は全力で反対した。

もし発覚すれば、折角名君の才を開花させ始めた美羽は愚君として、大陸中から敵視される事は想像に難くない。

だからこそ、二人は反対した。

だが、美羽は退かなかった。

それどころか、二人の心に突き刺さる様な反論をしてみせたのだ。

 

「ならば、今まで知ろうともせず、民を苦しめておった妾も討たれるべきじゃな」

 

と。

グウの音も出ない正論であった。

しかも、それには自分達の責もある。

これでも尚反対すれば、今度は自らの生き汚さを露呈するも同じ。

それ故に、仕方なく二人とも美羽の言う事を飲むしか無かったと言う訳だ。

 

それからは、別の意味で大変だった。

発覚せぬように細心の注意を払い、薄氷の上を跳ね回るが如き慎重さを以って行動した。

何分、官軍よりの間諜も大勢抱えている所為で、ふとした事から自分達に不利な情報が漏れないとも限らない。

ここで大いに力を発揮したのが、七乃の手腕。

三人が旅の芸人であったと言う事実を、三人の噂と興業の細かな内容を、配下に任せて大陸全域に流布したのである。

結果、三人が張三姉妹であるならば、興業が行えた筈の無い地域にまで、三人の噂は広まった。

これは、確かな効果を発揮した。

噂はほんの少しでも広まれば、大衆的な【事実】として認識される。

細かい噂が伝わった事で、まるで実際にその興業内容を目撃したかのような錯覚を起こし、張角達が女である事、元々は旅芸人の三姉妹であった事を覚えている人は、殆ど消えた。

真実を知る黄巾の幹部級は、先の決戦で皆死んでいるのだし。

デメリットとして、三人は真名しか名乗れなくなってしまったが、これは命の危険に比べれば軽い。

何だかんだで、上手く周囲の目を逃れている袁術軍。

その立役者は、やはり咲と七乃の側近二人だったのである。

美羽の成長はまだ完全には程遠い。

 

 

 

 

真・恋姫†無双

―天遣伝―

第十八話「帰還」

 

 

黄巾党頭首、張角の行方は結局分からず仕舞いとなり、官軍は捜索を打ち切って洛陽への帰還を始めていた。

張角を討ち取る事こそ出来なかったものの、官軍は黄巾党本隊と主力を完全殲滅したと言う戦果を周囲に知らしめた。

だが、一路洛陽を目指す諸侯の内には気落ちしている者達が少なくない。

この戦で、大きな戦果を立てようと集まって来た諸侯にとっては、然程の実りが無かったのだから。

その内でも、袁紹軍・・・と言うよりも、麗羽の機嫌は底辺その物だった。

袁紹軍の兵達は口々に、「これで漸く帰れる」とか、「天の御遣い様こそ救世主だ」とか言っているのだが。

その事も、麗羽にとっては面白くない。

あの生意気で可愛かった美羽が、唯生意気なだけになってしまった事も、何もかもが面白くない。

そして、何よりも。

所領を奪われる事が、我慢ならない。

代々袁家に仕えて来た者達に何と言えば良いのか。

いっそ、皇帝に直訴するべきかと考えていたりするのだが、後で斗詩に全力で止められる事となるので、特に言う事は無し。

 

一方、官軍の長である一刀は、首を傾げていた。

別に身体の調子が悪いとかでは無い。

唯、現代で学んだ歴史の知識を思い出し辛くなっているのだ。

今までは、史実の事は次から次へと、驚くほどあっさりと出て来たというのに。

今では、気が付くまで、正に言葉通りに気付けなくなってきている。

ここ最近でも、十常侍の末路を思い出すのに相当苦労したばかりだ。

その奇妙さに、首を傾げていると言う訳だ。

『ヒヒン』と白澤が一刀を気遣う様に一刀の方へと頭を向けるが、一刀はその頭を一撫でしただけだった。

洛陽までもう少し

 

 

 

―――劉家軍。

官軍が洛陽に到着する前の最後の休憩になって、桃香の元を星が訪れた。

桃香は何時も通り脳天気に星を迎え様とするが、星の険呑極まりない雰囲気を感じ取って、すぐに居住まいを正した。

それを満足そうに見た後、星は愛槍【龍牙】を何処からともなく取り出した。

少し身を固くする愛紗と鈴々。

但し、桃香に止められた。

直後、星は桃香の前に跪く。

側近の義姉妹二人と軍師は少し戸惑うが、星は気にせず続けた。

 

 

「劉玄徳殿、我が槍の義、貴女にお預け申す!」

 

 

そう言い、頭を深く下げる。

桃香は笑みを深くし、星の前へと進む。

その口から出たのは疑問。

 

 

「いいの? 風ちゃんや稟さんに誘われてたんじゃなかったっけ?」

 

 

その問いに、星は笑って答える。

 

 

「笑止! 我が槍の義は我が物故! 例え間に友情が横臥しようとも、この趙子龍が目指すべき極には一点の曇りもありませぬ!」

 

「そっか・・・うん、ありがとう。

私、星ちゃんからちゃんと認められたんだね?」

 

「ええ、胸を張ってよい事かと」

 

 

互いに笑い、手を差し出し合う。

そして、二人ともガッチリと握手した。

 

 

「まぁ、最初に桃香様に会っておらなければ、御遣い殿に仕えておったやもしれませんな」

 

「うん、私もそう思う。

そこは運が良かったなって」

 

「おやおや、これは・・・・・・(早まったか?)」

 

 

少しばかり、星の目が細まる。

どこか桃香を品定めしているかのような光が混じった。

 

 

「うん、だから、私頑張る。

星ちゃんの主に相応しい人間になれるよう、努力するよ!」

 

「! ・・・ははっ!」

 

 

だが、その言葉で光が消えた。

桃香も成長を続けているのである。

 

 

「桃香様・・・」

 

「愛紗は星が仲間になる事に反対なのか~?」

 

「ち、違う! 唯、桃香様を貶された様な気がして悔しかっただけだ!」

 

「だったら、私達も桃香様と一緒に成長すればいいんですよ」

 

「そ、そうでしゅ・・・あぅ、また噛んじゃった」

 

 

周りも、良い仲間で覆われているが故に。

 

 

 

 

 

―――洛陽。

 

官軍は洛陽へと凱旋を遂げた。

それを出迎えたのは、歓喜の渦。

 

 

『御遣い様ばんざーい!!』

 

『何進大将軍万歳!!』

 

 

等々、主に一刀と美里を称える物だったが、中には董卓軍に向けられた歓声も多々あった。

これは、劉家軍が官軍に参入する直前において、街を護っていた軍が董卓軍であった事に起因している。

 

軍の本隊は城外で待機しており、今は主要な将軍勢とその手勢を連れているだけだ。

洛陽の中枢へと進むにつれ、人の壁は薄くなり、遂には消える。

そして今度は、一つの軍団が現れた。

その軍団長と思われる金髪の女性は、美里の姿を確認した直後に馬から飛び降り、美里の眼下に跪く。

 

 

「お帰りなさいませ、美里様! 御主君!」

 

「おうさ、只今」

 

「ありがとう」

 

 

当然円である。

美里と一刀も馬から降り、後ろの者達も揃って下馬した。

馬の幉を配下に預け、一刀と美里は他の者達をその場から帰し、手勢のみを率い自分達は歩いて宮廷へと向かう。

十常侍は、何時でも此方を何かしらの理由を付けて害しようと狙っている。

出来る限りの対処はしておきたかった。

宮廷へ向かう最中も、周りを確認する。

そこには、宦官達の建てた屋敷の群れ。

美里が奥歯を強く噛み締める。

張角を捕えれば、十常侍側との繋がりを暴く事が出来たかもしれないのに、結局不可能となった今、暫くは機を窺わねばならない。

そうしている内に、宮廷へと到着した。

門を開け、中に入れば、そこに大勢いるのはやはり宦官。

ちらほらとそれ以外の人間も見えるが、それは十常侍子飼いの私兵隊だ。

 

 

「天の御遣い様、何進大将軍、御苦労でした。

黄巾が滅され、皇帝陛下も御喜びです」

 

 

一刀等よりも一段高い場所より、一刀達を見下ろしながら、表面上はにこやかに張譲は労いの言葉を掛けた。

但し、抑え切れない憎悪が薄らと滲み出している事が、一刀には感じ取れた。

しかもそれは、張譲だけでなく、周囲の宦官からも等しく。

それを当然理解している美里も、表向きは何とも無さ気に振る舞ってはいるが、此方も心の底では憎悪が渦巻いている。

円も同様だ。

一刀は、ここに至って初めて、宦官とそれに反する何進大将軍一派の仲の悪さ。

引いては、その強さを理解した。

 

 

「有り難きお言葉」

 

 

美里の淡白な言葉に、多少の冷たい物を感じ取った一刀に、張譲が声を掛ける。

 

 

「天の御遣い様、此度は王朝の為に身を砕いて頂き、真に感謝しております。

(何て忌々しい面構えをした小僧だ、絞め殺してやりたい・・・・・・)」

 

「・・・ああ(嘘吐け!!)」

 

 

互いに内心罵り合う。

当然、両者とも態度には出さないが。

一刀は成長していた。

良い面でも悪い面でも。

己の意思を偽って、体面上での嘘を吐く。

ここへと至る前は決して出来なかったのに、普通に出来てしまっている事に軽い自己嫌悪さえ抱くが、今では必要な事と割り切っている。

 

 

「宜しい、これよりは暫し沙汰を待つ様に・・・」

 

「御意」

 

 

一刀は体面上のみ頭を下げる。

僅かながらその姿に溜飲を下げる張譲だが、その程度で忌々しさが消える訳が無く。

もう見たくもないという意思を籠めて、一刀達を下がらせた。

 

一刀達がいなくなってから、宦官勢の動きは主に二つに分かれた。

一つは、どうやって自分達の邪魔になる一刀達を始末しようかという謀略を巡らせ。

そしてもう一つは、美里達が自分達を殺しに来たらどうしようと不安を口に出していた。

十常侍は前者側。

と言うよりも、中核である。

その内で、無言で考え込んでいた張譲だが、何かを思い付いた様に邪悪な笑いを漏らした。

 

 

 

 

 

「ああくそ! やっぱり宦官なんか大っ嫌いだ!!」

 

 

宮廷を出て暫く歩いた辺りで、美里が大声を上げる。

傍には一刀と円しかいないとは言え、少し不用心に過ぎると一刀は思った。

それにしても、とも思う。

何故、美里はこれ程に宦官を嫌うのか、と。

 

 

「なあ円、何で美里さんはあそこまで宦官が嫌いなんだ?」

 

「実は・・・美里様がかつては肉屋を経営していた事は知っていますね?」

 

「ああ、南陽だったよな? 生家」

 

 

円は、その言葉に頷いた。

そして口を開く。

 

 

「美里様は、現何皇后様と共に二人で、店を経営していらっしゃいました。

店の大きさ等からは考えもつかぬ程、繁盛していたとも聞いています。

それに、南陽ではかなり有名な美人姉妹だったそうです。

美里様も、皇后様も」

 

 

今度は一刀が、ふんふんと頷いた。

 

 

「しかし、南陽の太守が宦官に取って代わり、南陽は重税に苦しむ事となりました・・・」

 

「成程・・・・・・」

 

「そして、宦官共は美里様と皇后様に目を付けたのです。

賄賂を渡すか、もしくは二人の内のどちらかがその宦官の元へ嫁ぐか。

どちらかを選べと。

無論、美里様は反発しました。

愛する唯一の家族を奪われてなるものかと」

 

「酷い話だな」

 

「しかし、皇后様は自らその身を差し出されたのです・・・・・・美里様を守る為に。

まぁ、その後劉宏陛下のお目に止まり、寵愛を受ける事となり今では皇子を授かっておりますが」

 

「姉妹仲は良いのか?」

 

「はい、今でも良好ですよ」

 

「・・・そうか」

 

 

良く思い出せていないが、やはり史実とはかなり違っていると実感する。

そしてもう一つ。

経過が変わっているが、結果は概ね史実通りに治まっているという、法則の様な物も見出せた。

となると・・・そこで違和感を覚えた。

バッと背後を振り返る。

しかし、誰もいない。

首を傾げる円。

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いや、多分気の所為だ」

 

 

何でも無い、と手をブラブラさせる。

そこで美里が呼んでいる事に二人して気付き、慌てて後を追った。

 

 

 

―――路地裏

 

 

「ああ、危ないねぇ、全く。

勘が良過ぎるのも困りもんだ」

 

 

後をつけていた男が一刀の気配察知より逃れ、隠れていた。

困った様に、それでいて楽しそうに虚空を見詰め、溜息を一つほうっと吐いた。

 

 

「やれやれ、段取りが狂う狂う。

まぁいいだろうさ、狂々と廻れ必定の環。

面白おかしく世を動かせ、だ」

 

 

多少芝居がかった身振り手振りをした後、どこか狂った様に哂い出す。

誰かに見られれば、即座に狂人として捕えられそうなものだが、何故か誰も通りかからない。

偶然と呼ぶには、都合の良過ぎる空間となっていた。

 

 

 

 

 

―――診療所

 

 

「ほー、ここが当代随一の名医のいる場所か」

 

「とっとと入りなさい。

その腕、時が過ぎる程に悪くなるのよ?」

 

「分かってるって!」

 

 

碧と朔夜は、華佗のいる診療所を訪れていた。

黄巾との決戦で貫かれた右腕の治療の為だ。

 

 

「頼もう!!」

 

「碧、それは患者の態度じゃないわよ・・・」

 

 

威勢良く診療所の扉を開け放つ碧。

一方の朔夜は呆れ顔だ。

しかし、そこには誰もいない。

名医の診療所なのだから、順番待ちをしている患者が山ほどいるのを二人とも想像していたのだが、些か拍子抜けしてしまう。

 

 

「あら? どうして誰もいないのさ?」

 

「おかしいわね、噂通りならば、休まず診療所を開いている筈なのだけど」

 

 

首を傾げる朔夜。

碧は憤る。

 

 

「所詮噂だけだって事かい!? こんなんじゃあ、腕だって信用ならないよ!! って、あ痛!?」

 

 

碧の後頭部に、小さな石がぶつけられた。

怒って腕を振り上げ、後ろを振り向く碧だが、そこにいた人物に仰天せざるを得なかった。

 

 

「かだせんせーのわるくち言うなー!」

 

「そうだぞー!」

 

 

子供達が大勢押し寄せて来ていたのである。

こうなると、振り上げた左拳の下ろし所に困ってしまう。

自身も三人の子供を抱える身。

故に、子供の純さは痛い程分かる。

流石に、年端もいかない子供に拳を振るうのは躊躇われた。

心の内での葛藤を乗り越え、何とか拳を解く。

 

 

「おっ、家の診療所に何か用か?」

 

 

そして、そんな碧の判断が功を奏したのか、子供達の後ろから華佗が姿を現した。

だが。

 

 

「・・・ば、馬鹿な!? これは一体!?」

 

「な、何さ? いきなり人をジロジロ見て」

 

 

突如凄まじい眼力で碧の全身を見渡したかと思えば、恐れ戦く様に体勢を崩した。

 

 

「こ、これではまるで、人の姿をした病魔じゃないか!!」

 

「は? 何言ってんだい、あたしは見ての通り、この右腕以外は健康そのもので」

 

「違うっ! お前は気付いていないだけだ!

今すぐに治療をしないと、取り返しがつかなくなる。

確実に一年以内には、手遅れになる!!」

 

「あはは! 冗談きついよ、あたしの身体はあたしが一番良く知っているんだ。

どこぞの風来坊なんかに、何が分かるってのさ?

ま、本当にこれはヤバいと思ったら、すぐに治療を頼むけどさ」

 

「冗談じゃないんだ! 頼む! 今すぐ治療を受けてくれ!!

それに、症状を自覚してからじゃ遅過ぎる!

その病魔は、症状が自覚出来る頃には、既に手遅れになっている類の物なんだ!

今ならまだ、俺の腕でも治療が可能な域だ、頼む!! どうか治療を・・・!!!」

 

 

華佗の必死の説得。

土下座し、地に頭を擦り付けて頼み込む。

その余りの必死さに、朔夜は逆の意味で訝しんだ。

 

 

「何故、見ただけでそこまで分かる?

そしてそれ以上に、何故そこまで治療を願い出る?

地に頭を擦り付けてまで、矜持は無いのか!?」

 

「そんなの決まっている、俺が医者だからだ!!

目の前に、今なら救える筈の人がいる。

それを救えるならば、俺の矜持等ドブにでも捨ててやる!!」

 

 

朔夜の問いに頭を起こし、意思の炎が燃える瞳で朔夜を見る華佗。

その炎は、百戦錬磨の西涼の武人さえも怯ませる程の力を持っていた。

だから。

 

 

「分かった、そこまで言うのなら、やって貰おうじゃないのさ」

 

「ありがとう!!」

 

 

目を輝かせ、立ち上がる華佗。

子供達に帰る様にと告げ、碧と朔夜と共に診療所へと入って行った。

 

 

 

 

 

―――茶屋

 

定番の洛陽の茶屋。

ここでは、各諸侯の中心人物が揃っていた。

最も、袁紹軍の面々は来ていないのだが。

 

碧達が華佗の診療所へと行っている間、ここで暇を潰していろと言われた葵と蒲公英は、どこか浮かない顔で茶の入った器を傾けていた。

 

 

「葵姉様・・・お兄様来ないね」

 

「ええ、一刀の事だから、約束を反故にする様な真似はしない筈なのだけれど」

 

 

洛陽に入城する前に、一刀とある約束を取り付けていたのだが、待てども待てども一刀が来る感じがしない。

少し不安に思い始めている頃であった。

 

 

「同席、いいかしら?」

 

「!? ・・・・・・ええ、どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 

葵達のテーブルに、華琳を始めとする曹操軍の面々がやって来た。

品定めをする様に葵と蒲公英を交互に見て、華琳は口を開いた。

 

 

「龐徳、私は貴女を高く評価しているわ、私の下へ来る気はないかしら?」

 

「何っ!? ・・・曹操、確かに私も貴女を高く評価しています。

しかし、だからと言って、貴女の下で戦いたいと思った事は一度としてありません」

 

「何だと貴様ぁ! 貴様も華琳様のお誘いが受けらr"グリグリ・・・” いだだだだだ!!!」

 

「お前は黙っていろ、話がややこしくなる」

 

 

華琳の誘いを断った葵に突っ掛かろうとした春蘭に、即座にウメボシを敢行する華蘭。

秋蘭もその光景を見ていたが、流石に弁護する気は起きていないようだ。

よって、見殺し。

 

 

「そう、残念ね。

けれど、貴女。

もし、北郷一刀に同じ事を言われたら、断れるかしら?」

 

「!」

 

 

唐突に言われた言葉に、葵は動揺する。

出来る限り抑えたものの、持っていた器に入っていた茶の表面に波紋が広がった。

無論、その程度を見逃す華琳では無く、面白そうに顔を歪める。

それを見て、葵はやられたと内心苦虫を噛み潰した。

 

 

「やはり、ね。

華蘭、春蘭、秋蘭、帰るわよ。

近い内に、官軍の集まりは終わる。

陳留への帰り支度を整える必要があるわ」

 

 

三人にそう告げ、茶屋を後にする華琳。

それを追う三人は、それぞれ異なった表情を浮かべていた。

華蘭は面白気な。

春蘭は不満気な。

そして秋蘭は愉快気に。

 

 

「華琳様ぁ~、何で今日だけであれ程の者達に声を掛けたのですか?

私では、華琳様の剣には役不足なのですかぁ~~~?」

 

「姉者、役不足では、己を過大評価している事になるぞ。

それを言うならば、力不足か、役者不足だ」

 

「えっ!? そうなのか!?」

 

「クスクス・・・春蘭、貴女は相変わらずね。

いいわ、御褒美に今宵は貴女が閨に来なさい。

秋蘭はもう少し待ちなさい」

 

「や、やったー!!」

 

「・・・分かりました」

 

 

華蘭を除く三人が漫才の様な遣り取りをしている間、傾きかけた日の方を向いていた華蘭は、一人打って変わって物憂げな表情を浮かべていた。

 

 

「あら、華蘭、どうかしたのかしら?」

 

「お前のやろうとしていた事は、分かっている気だ。

集まった諸侯の内で、一刀の影響がどれ程浸透しているかを確かめたかったのだろう?」

 

「ええ、その通りよ。

結果は、貴女も知っている通り。

麗羽の軍は、将はともかく、兵は完全と言っていい程、麗羽を見限っている。

袁術軍は、主の袁術が最近になって良い方向へと心変わりをした為に、殆どは袁術に忠義を誓っている」

 

「だが、その切欠を作ったのは、やはり一刀か」

 

「ええ。

私の軍では、それ程浸透はさせていない・・・貴女以外ね」

 

 

肩を竦める華蘭。

 

 

「孫堅の方は、どうやら孫策が一刀をつけ狙っているみたいね。

孫堅も気に入っている様だし。

そして、最も危険と言っていいのが、劉備と董卓よ。

勢力的には、劉備は弱小と言ってもいい。

けれど、将や軍師の力には目を見張るものがある」

 

「噂の臥竜に鳳雛、そして関羽に張飛、それに・・・星か」

 

「そう、何より劉備。

私も今日会ったけれど、あの手の思想は危険よ。

外敵から身を護る術を考えていない、完全な善など存在しないと言う事を分かろうとしない。

それだけでは、この大陸を治めるには力不足」

 

「だが、劉備の語る事が心地好く聞こえるのも、また事実だろう?」

 

「ええ、恐ろしい事にね・・・あれは、あの子の魔性と言っていい。

あの子の言葉を聞いている内に、自分の選んだ道が間違いであるかの様に思えてしまう。

そう言った意味では、一刀に最も近い人間ね、あの子は」

 

 

立ち止まり、揃って溜息を吐く二人。

その背中を春蘭と秋蘭が見ていたが、二人は無視した。

 

 

「董卓は・・・言う事も殆ど無い。

危険はあるけれどね」

 

「董卓自身だな、他者に利用される感があり過ぎる。

賈駆の奴も頭は切れるが、何より董卓を最優先で考える節がある」

 

「それは、軍師として致命的。

主君を大切にするのは感心するけど、限度と言う物があるわ」

 

 

フッ、と鼻で哂って再び歩き出す。

その口元は更なる歪みを湛えていた。

 

 

 

 

 

―――董卓軍陣

 

恋は、ボーっと日が落ちた空を眺めていた。

 

 

「恋は・・・一刀が好き・・・・・・"ポッ"」

 

 

時々頬が急に赤くなり、慌ててブンブンと頭を振ってごまかす。

そのサイクルを、さっきからずっと続けているのだ。

そして、それを影から見る配下二人は、そんな恋を心配していた。

 

 

「恋殿・・・一体何が恋殿をそこまで・・・・・・はっ! もしやあの馬鹿〇んこが恋殿に何かしやがりましたか!?

おのれ・・・何とうらy、もとい恨めしい!」

 

「ねね、落ち着くでごんす」

 

「黙るのです、真理。

後、その言葉は欠片も似合っておらぬのです」

 

「酷い!?」

 

 

一刀への怒りを滾らせる音々音と、そんなねねを止めようとして逆にダメージを受けてしまった真理がいた。

 

そんな光景を見守る者が二人。

華雄と霞である。

 

 

「呂布め、一体どうしたと言うのだ?」

 

「これはあれやな、恋煩いや」

 

「恋、だと? 一体誰にだ?」

 

「そりゃ、一刀に決まっとるやろ。

いや~、しかし道中恋敵が多過ぎやな」

 

「おや? それを聞くに、お前もか?」

 

「はっ!? いやいや、逆に気付いとらんかったんかい!」

 

「うむ!」

 

「胸張って言うな!」

 

 

やけにキレの良い霞の突っ込みが、華雄に炸裂した。

最も、力等欠片も籠ってはいないが。

 

そして、更にそれを見守る者が二人。

これは、月と詠だ。

 

 

「皆仲いいね。

うん、良い事だよ」

 

「・・・そうだね」

 

「ねえ、詠ちゃん?」

 

「なぁに、月?」

 

「一刀さん、どうするんだろう?」

 

「西涼に戻るのか、洛陽に残るのか、か・・・ボクは、アイツは洛陽に残ると思う」

 

「どうして?」

 

「ほら、アイツはお人好しだから。

今洛陽中で巻き起こってる、『天の御遣い様に新しい国を作って貰おう』って言う気運を無視するとは思えないのよ」

 

「そっか、そうなると、やっぱりお手伝いがいた方がいいんじゃないかな?」

 

「月、まさかとは思うけど・・・アイツが洛陽に残るって言ったら、ボク達も残すつもり?」

 

「駄目、かな・・・?」

 

「・・・・・・駄目って言いたい所だけど、ボク達が洛陽に残るのには利点があるし・・・諸侯がどれだけ洛陽に残留するかで決めるのなら、ボクは別に構わない」

 

「ありがとう、詠ちゃん!」

 

「(ああもう、可愛いなあ・・・)」

 

 

花の咲く様な笑顔を見せた月に、癒される詠。

これこそが、華琳達の言っていた董卓軍の強みであり、同時に弱み。

それがどの様に働くかは、神のみぞ知る。

 

 

 

 

第十八話:了

 

 

 

 

 

後書きの様なもの

 

グダグダだ・・・ええい! 死ねぇ! 自分の頭ぁ!!

と、まあ投稿するにあたって、壁に頭突き噛まして来ました。

お許し下さい!

遅くなった癖に、短く内容グダグダとか・・・結構重いスランプっぽい。

 

レス返し

 

 

・poyy様:ですよねーw

 

・砂のお城様:夢の中では、そりゃもうTINAMIでは掲載出来ないレベルだったのに、起きて見れば何も起こっていなかった訳で・・・ 張魯が強いのは、食材調達に始まり、仕込み、調理、調理機器さえも現地調達出来る様に自己改造した結果だったり。

 

・aoirann様:ウザいけど、熱い男にしたいです。

 

・はりまえ様:いいえ、男【女】漁り中でした。 休はカミングアウト出来るレベルのバイですから。

 

・悠なるかな様:BOYは隠れた名作だと思います、一刀との絡みは必ずありますよー。

 

・U_1様:この作品のコンセプトを楽しんで頂けたら幸いです。

 

・2828様:これからですよ、これから!

 

・mighty様:あああ、ごめんなさいごめんなさい! 華佗が医者王ならば、張魯は薬食神と言ったところでしょうかね?

 

・F97様:一刀との絡みは必ずあります、期待せず待っていて下さい。

 

・nakatak様:味皇か・・・それも捨てがたいですねぇ・・・

 

・ルーデル様:何気に本編でも食事系の知識が豊富だった一刀君と合流すりゃあ、そりゃ暴走しますよ。

 

・瓜月様:アチャー、そちらの漫画の知識は無かった。 張魯は、熱い格闘家のイメージも加えています。 翠はまだ先があります。

 

 

いやはや、中々に苦しくなってきた。

また間が空きそうな予感がします。

どうか、お待ち下さい。

ではまた。

 

 

 


 
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