「ねえ、祭。貴女、恋愛についてどう思う?」
「……なんじゃ堅殿、やぶからぼうに」
盃を口元で止め、親友の言葉にあっけに取られる黄蓋。
「女にはいくつになっても恋をする権利があると、私は思うのよ」
「……もしや、劉翔どののことか?」
孫堅の盃に白酒を注ぎながら、問いかける黄蓋。
「そーよ。かわいいわよね~あの子。男を想って胸が高鳴るなんて、あの人以来だわ」
くぃーと、盃の酒を飲み干す孫堅。
「……堅殿、お主自分の年をわかっておるのか?」
「あら?愛さえあれば年の差なんて関係ないわよ。それに、雪蓮や蓮華と並んだって、親子どころか姉妹でも通用するわよ?」
うふん、と。しなを作ってみせる孫堅。
「そこのところは否定せんがな。ま、それはともかく、おぬしはどうしたいのだ?」
黄蓋に問われ、こと、と。盃を置き、それまでとは一転して、真剣な表情になる孫堅。
「……祭。このことはまだしばらくは他言無用に頼むわ。……わたしね、近々雪蓮にこれを譲ろうと思うの」
机に立てかけてあった南海覇王を、その手に取る孫堅。
「本気か、蓮陽?」
「あ、祭があたしの真名を呼んだ」
「そんなことはどうでもよい!蓮陽よ、本当に本気なのか?」
体を机の上に乗り出し、孫堅に詰め寄る黄蓋。
「ええ。……といっても、まだ先の話よ。その前にやっとかなきゃいけないこともあるし」
「……揚州全土の奪還か」
「それももちろんだけどね。……ねえ、祭?今のあたしたちに足りないものは何だと思う?」
南海覇王を再び傍らに置き、黄蓋に問う孫堅。
「不足しているもの、か。人材はそろっておるし、戦力とて十分回復しつつある。名声……も十分じゃと思うし、はて?」
孫堅の意図がわからず、首をひねる黄蓋。
「分からない?……そこで最初の話に戻るんだけど、一刀をね……」
「……。あきれてあいた口がふさがらんわ。……しかし、面白そうではあるの」
にやりと笑う黄蓋。
「でしょ?使者は、そうね……。樹琳(じゅりん)でどうかしら?」
「子敬か。ふむ。ならばわしのほうから話を伝えておこう」
そういって席を立つ黄蓋。
「あ、祭?他の娘達には、まだ秘密でね?」
「わかっておる。……みなの驚く顔が、今から見ものじゃの」
かっかっか、と。笑いながら去っていく黄蓋。
それを見送りながら、盃を傾ける孫堅であった。
ところ変わって襄陽。
「……で、俺一人で柴桑に来て欲しい、と」
「はい。わが主、孫堅よりそう言づかって参りました」
玉座の間で一刀に拱手する、めがねの少女。
「お話は分かりました、魯粛さん。けど、何で護衛もつけちゃいけないんですか?」
「そうですな。以下に同盟相手とはいえ、途上で何があるか分かりませぬ。せめて私だけでも、同行を認めてはもらえまいか?」
一刀がその少女、魯粛に問いかけ、それに続いて関羽がそう提案する。
「お気持ちはお察しいたします。しかし、護衛ならばこちらから周幼平と甘興覇がつきますゆえ、ご心配には及びません」
いまだ幼さの残るあどけない顔で微笑む、魯粛、字は子敬。
「孫堅さんの御生誕祭の特別賓客ということですが、それこそ大勢を招いてというのが、普通だと思いますが?」
「そうだよね?一国の主の生誕日なら、そんなに地味にする必要はないと思うけど?」
諸葛亮と劉備が、さらに疑問を投げかける。
「ご本人としては、今は大変な時期なので、ご家族と他数名のみでひっそりと行いたいとの事。ですが、出来うるものならば、大切な盟友である劉翔さまにも、同席していただきたいそうで。此度のような次第と相成りました」
そう事情を述べる魯粛。
「でも、やっぱり、お兄ちゃん一人だけっていうのは……」
「やはり不安です。ここは私がご一緒に」
「桃香も愛紗も落ち着いて。……大丈夫だよ。別にとって喰われるってわけじゃないんだから」
なお食い下がろうとする、劉備と関羽をなだめる一刀。
(とって喰われるかもしれないから、不安なんじゃない)
「魯粛さん。蓮陽さんには、喜んでお伺いすると、そうお伝えください」
「はい。ありがとうございます。近くお迎えを越させますので、どうぞよろしくお願いいたします」
一刀の言葉に、喜んで礼を言う魯粛。そして、
(…………)
とても不安そうな、劉備たちであった。
数日後。
いくつかの祝いの品とともに、柴桑を訪れた一刀。
だったが。
「ちょっと母様!一体どうゆうつもり!?」
「そうです!母様のお誕生日は、二月も前に済んだではありませんか!」
すさまじい勢いで、母親に食って掛かる孫策と孫権。
「落ち着きな二人とも。一刀も悪かったね、騙したりなんかして。どうしてもお前さん一人で、来てもらう必要があったんでね。仕方なくこんな手を使わせてもらった。……すまん、このとおりだ」
娘二人を制し、一刀に深々と頭を下げる孫堅。
「……過ぎたことは仕方ないですよ。それで、本当の理由は何なんですか?」
少し吹くれっ面で、孫堅に問う一刀。
「……みんなにも聞いて欲しいんだが、我々孫家にとって、今一番不足し、そして今一番必要なものがある。それが何か分かるかい?」
孫堅の質問が分からず、首をかしげる一同。
「文台さま、我々には人も戦力も、名声とて十分に足りていると思います。この上何が足りないとおっしゃるので?」
周瑜が、主の意を測りかねて問いかける。
「……それはな」
「……それは?」
ごくりと、つばを飲み込む一同。そして、
「それは、”愛”だ」
『………は?』
孫堅の言葉に、思わず呆然とする一刀を含む面々。
「ここにいる全員で、男の寵愛を受けたことがあるのは、あたしと祭くらいなものだ。そう、たった一人の男を愛したこともない者が、大勢の民を愛することが出来ようか?いや、出来まい!」
早口で一気にまくし立てる孫堅。
「と、言うわけで一刀。あたしを含めたここにいる全員に、今日からたっぷりと、愛というものを教えてやって欲しい!」
「……あの。愛をおしえる、って。具体的には何を……?」
なぜか顔を真っ赤にしながら、孫堅に問いかける一刀。
「そりゃあ、決まってるさ。口説いて回って、ナニをナニして、最後は子を」
『そーはいきません!』
「な!だ、誰だ!?」
孫堅の言をさえぎり、響き渡る声。そして、一刀の前に立ちはだかる、二人の女官。そして、
バサアッ!!
と、女官服を脱ぎ去る。そこにいたのは、
「と、桃香!それに愛紗も!」
そう、劉備と関羽の二人であった。
「お、おぬしらなんでここに!?」
「こんな事じゃないかと無いかと思って、葛篭の中に隠れてついて来たんです!」
「義兄上を誑かそうとするなど、この私が決して許さん!」
武器こそ持っていないものの、凄まじい嫉妬の炎を燃やし、一刀の前に立つ劉備と関羽。
「……なるほど。ほれた男のために、不法入国までするか。なかなか見上げたもんだ。……なら、ここは一つ、本人に選んでもらおうじゃないか」
「へ?」
ちらり、と。一刀を見やる孫堅。
「ほら、一刀。今なら総勢十二人が、口説き放題、抱き放題だよ?男冥利に尽きる状況だと思うけど?」
『母様!!』
「オニイチャン?」
「アニウエ?」
一刀を取り囲む、孫堅、劉備、関羽の三人。
『さあ、どっちを選ぶ?(の?)(のですか?)』
蛇ににらまれた蛙のごとく、だらだらと汗をかく一刀。そして、言ってはいけない一言を、ポロリと、
「……両方じゃ、駄目?」
言ってしまった。
あまりにも残酷すぎるため、割愛させていただきます。
尚、今回の騒動の発端となった孫堅と黄蓋の二人は、孫策と孫権、そして周瑜からたっぷりとお説教された上、無期限の禁酒を言い渡された。
で、今回のオチ。
「俺が一体、何をした…………ガク」
口は災いの元という事で(笑)。
あとがきというか、次回予告。
ようやくハム姉妹のネタが見つかりました。
ただいま鋭意、まとめ中です。
近日中にはお届けできると思います。
それでは、また次回にて。
コメント、お待ちしております。
ではでは。
『再見~!』
「って、今回出番ここだけ?!」
「やり直しを要求する~!!」
却下。
「……殺」
「……沈める」
あ、よせ、やめ……!!
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刀香譚拠点、孫家編です。
孫堅お母さんが大暴走。
巻き込まれた一刀の運命やいかに^^。
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