「なあ、柊」
「何ですか、白蓮さん」
江夏城の太守執務室。政務を行っていた公孫瓚が、補佐を務める孫乾に何気なしに声をかける。
「……私ってさ。そんなに普通だろうか?」
「……どうしたんですか、急に」
筆を動かす手を止め、公孫瓚を見やる孫乾。
「いやな。幽州時代、いや、もっと遡れば私塾のころから言われ続けていたんだけどさ。……私はさ、路傍の花なんだそうだ」
「……そのこころは?」
「……確かにそこにいる。けど、大して見向きもされない。だとさ」
「あ~……」
「……思い切り納得って、顔だな」
じろ、と。孫乾をにらむ公孫瓚。
「あ、いえ、その」
「いいさ。私だってわかりきってることだ。愛紗たちのように武に秀でているわけでもなく、朱里たちのように、知に優れているわけでもない。麗羽や美羽みたいな名家の出でもないし、一刀のように人を惹きつける魅力も無い」
自分のことをそう評価しながら、どんどん落ち込んでいく公孫瓚。
「自分で言ってて落ち込まないでください」
「そーは言ってもな。あ~あ。私にも何か、目立てる能力か才能があればいいのにな~」
机に突っ伏しながら、そんな願望を口にする公孫瓚。
「……目立つことが良いことばかりとは、思いませんけどね。私は」
「?」
何故か寂しそうな口調の孫乾に、疑問を覚える公孫瓚。
だが、この日はこれ以上、その話が進むことも無く、公孫瓚もこの事は記憶の彼方に、遠ざけてしまった。
それから数日ほどしたある日。
「姉貴にあたいの何がわかるって言うんだ!」
バンッ!と、机を思い切り叩き、怒鳴る公孫越。
「少し落ち着け、水蓮。私が言ってるのは分相応というものをだな」
「私も無茶だったと思いますよ?恋さんを相手に、馬術の勝負だなんて」
憤る公孫越を宥めようとする、公孫瓚と孫乾。
話の発端はこの日の前日。
一刀からの用事を言い付かって、この地を訪れた呂布に対し、公孫越が馬術での勝負を挑んだ。
その理由が、
「純粋な武力じゃどう背伸びしたって、恋には勝つことなんてできやしない。けど、生まれてからずっと、馬とともに育ってきたあたいなら、馬の扱いにおいては誰にも負けやしない!飛将軍と世に謳われし、呂奉先といえどもだ!」
という、良くも悪くも、自信家の公孫越らしいものだった。呂布も勝負を承知し(実際に公孫越との口論の末、勝負を受けたのは陳宮だが)、その結果たるや、惨々たるものだった。
早駆け、遠駆け、馬上での射撃、その他諸々、すべてにおいて完敗だった。
「恋だって、元は西域の出だと聞いてる。馬とともに育ったというなら、彼女だって同じだ。天性の才に恵まれている分、向こうの力量のほうが上に決まってるさ。……私たちと違ってな」
敗北して落ち込む妹を、公孫瓚はそう慰めた。だが、公孫越は逆に、その姉に対して食って掛かった。
「そんな心持でいるから、姉貴はいつまで経っても、”普通”って言われるんだよ!誰にも気にしてもらえない、路傍の花ってな!」
「……なんだと?もう一度言ってみろ!水蓮!」
妹の罵倒に、いきり立つ公孫瓚。
「……越さん」
「何だよ?!」
パシィッ!
『な?!』
突然、孫乾が公孫越の頬をひっぱたいた。
「な、何をしやがる!公裕!」
孫乾を睨み付ける公孫越。
「……昔々、ある邑に一人の少女がいました」
「は?」
頬を押さえながら迫る公孫越に背を向け、いきなり語り始める孫乾。
「その少女は、幼いころから秀才と呼ばれ、事実、ほかの子達よりも、抜きん出て勉学を修めていました」
「公裕!一体何のはな」
キッ!
「う」
孫乾の話を遮ろうとして肩をつかむも、その眼光に気圧される公孫越。
「……そして、周りの期待の目はさらに大きくなり、少女の名は、村では知らないものがいなくなっていました」
『……』
孫乾が話し続けるのを、黙って聞く公孫姉妹。
「しかしある時、少女はその有名ゆえに、大きく後悔をすることになりました。推薦を受けて受験した有名私塾の入試に落ちたのです」
「……なんと」
「それ以降、周りの者たちはその少女を、様々な眼で見るようになりました。哀れみ、蔑み、そして、失望の眼で」
「なんて身勝手なやつらだ」
「ふふ」
公孫越の言葉に苦笑する孫乾。
「……少女はそれからというもの、目立つ存在になることをやめました。邑からも家族とともに出て行きました。少女は自分で結論付けました。目立つことは一握りの天才の役目だと。そうでない者は、その支えとして、縁の下の力持ちに徹すればいい、と」
孫乾の話はそこで終わった。
『……………』
しばし流れる沈黙の時間。
「……私の言いたいこと、判って頂けましたでしょうか?」
「……つまり、無理をして目立とうとするな、ってことか?」
孫乾に答える公孫越。
「……そうじゃない」
「え?」
姉のほうを振り向く公孫越。
「人にはそれぞれ、分相応の役目があるということだ。天才には天才の。凡人には凡人なりの、な。……例え多くの人に気にされない、路傍の花であっても、誰かの、何がしかの役に立つ事だってある。……そういうことだろ?柊」
こく、と。無言のまま頷く孫乾。
「……相応の役割、か。……姉貴、昨日はすまなかった。勝手に暴走しといて迷惑かけたうえに、さっきはあんなこと言っちまって。このとおりだ、済まない!」
姉に頭を下げる公孫越。
「……いいさ。これからは無茶も無理もせず、自分は自分なりに、やっていけばいいさ」
「そうだな。姉貴みたいに、”普通に”、な」
「うるさい」
「ふふふ」
あはははははは。
部屋の中に、明るい笑い声がこだまするのであった。
「……とは言ったものの、やっぱり、もうちょっと位は、目立ちたいよな……。はぁ~あ」
………………まあ、頑張れって事で(笑。
終わり。
あっとがきこーなー~~~!
「いえ~い!どんどんどんどん!」
「・・・・・・付き合いきれませんね。あ、進行の由です」
「輝里ちゃんだよ~!」
作者で~す!
「・・・えー加減にせんと、どたまかちわるで?」
「・・・すいません」
ごめんなさい。
「で、今回はハムさんたちの拠点ですね」
「文中で柊さんが話していたのって、本人の体験談?」
そういうことです。説得力があったかどうか、不安っちゃ不安ですが。
「柊さん、苦労してんだね」
「で、カズくんと出会って、また才を発揮する気になった、と?」
実際には、家を継いだ時点で発揮し始めてますけどね。一刀に出会って、さらに頑張るようになった、と。そういうことです。
「健気ね~。・・・・・うかうかしてらん無いかもよ?輝里?」
「ぎく。・・・・・・そーだよねー。あたし、ここじゃあくまでその他大勢だもんねー」
さて、次回が荊州編最後の拠点となります。
「次のメインは誰?」
ひみつ。
「あたし!あたしの話は?!」
だから、きみらの出番は次の本編まで無いっての。
「ぶーぶー」
「さくしゃ、おーぼー!」
うっさい。では、また次回、お会いしましょう。
「コメント等、お待ちしておりますね~」
それではみなさん、
『再見~!』
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拠点、ハム姉妹編です。
説得力のあるような、無いような、
そんな感じです^^。
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