「反乱軍鎮圧のために、援軍を出してほしい、か」
荊州・襄陽。
荊州の牧に正式に就任した一刀は、自身の居をここに移し、多忙な日々をすごしていた。そんな時、揚州から援軍の使者として周泰が訪れた。
「孫堅さまは兵はこちらで用意するので、船をできるだけ多く送ってほしいと仰せでした」
一刀にそう語る周泰。
「喜んで協力します、周泰さん。朱里、江陵の星と輝里に連絡を。惜しみなく孫家に協力するように、と」
「はい。長沙の袁術さんにもお声をかけますか?」
「いや。美羽たちはまだ、しばらく立て直しに時間がかかるだろうから、今回は江陵の水軍だけで行ってもらおう」
「御意です。周泰さん、すぐに書簡をしたためますから、少々別室にてお待ちください」
「はい!ありがとうございます!」
部屋を出る諸葛亮と周泰。
「それでお兄ちゃん。さっきの話の続きだけど、新野は月ちゃんたちに完全に任せるってことでいい?」
一刀に問いかける劉備。
「ああ。ただ、武将の数が少し手が足りないから、愛紗、君と藍さんで二人を助けてあげてくれ」
「は。では、明日にでも出立します」
「頼りにしてるよ」
「はい!」
嬉々として返事をする関羽。
「江夏については白蓮と水蓮さん、柊さんに任せておけば、大丈夫、と」
竹簡にそれぞれの名を記していく一刀。
「江陵はどうしますので?」
関羽が一刀に尋ねる。
「紫苑に頼むつもりだよ。あと、補佐に恵(けい)さんと泪(るい)さんについてもらう、と。そんなところかな?」
一刀のいう恵とは伊籍、泪とは韓嵩のことである。
「では私のほうからその旨、伝えておきます」
「頼むよ。さてと、今日はこれくらいかな」
ん~~~~、と。伸びをする一刀。
「じゃあ、私お茶を入れてくるね。おいしいお団子もあるから、一緒に持ってくるよ」
そう言って席を立つ劉備。そこへ。
「失礼します!!」
突然、扉を開けて部屋に入ってく陳到。
「どうしたんですか、蘭さん。そんなに血相を変えて」
「た、たった今、宛より早馬が着きました!「曹」と「魏」の旗を掲げた軍勢に、攻め込まれていると!!その数、十万!!」
『!?』
思いもよらなかった事態に、言葉を失う一同だった。
その頃、揚州・柴桑では。
「じゃあ、こっちは長江を渡った対岸、烏林で陣を張ると」
「ああ。荊州の援軍を合わせたとしても、水上の戦力はやはりあちらが上だろう。となれば、一番の策はやはり、”火”だ」
孫策に自身の策を説明する周瑜。
柴桑城の軍議の間で、会議中の孫家の面々。ただ、そこには家長である孫堅の姿はなかった。
「幸いこの時期、風は北東の風がほとんどです。時折、一日だけ逆の風が吹く日がありますが、その日さえ避ければ、問題にはなりません」
周瑜に続き、そう語る呂蒙。
「ただ~、一つだけ問題があるとすれば~、烏林は荊州領だということです~。同盟関係にあるとはいえ~、勝手に領内に入るわけには行きませんよね~」
間延びした口調で話すのは、姓名を陸遜、字を伯言といい、孫家の軍師三本柱の一人である。
「穏のいうとおりね。まずは江夏に使者を出して、こちらの策を説明しておきましょ。確か、江夏の城主は公……なんてったっけ?」
「……公孫賛、どのだ」
「あ、それそれ。その人」
「はあー、まったく。人の名くらい覚えておかないか」
あきれる周瑜。
「いや~。何でかこの名前だけは覚えらんないのよ。……なんでかな?」
「知らん」
「はっくしょん!!」
「うお!?何だ姉貴、風邪か?」
「ん~。誰か私の噂でもしてるのかな?」
そんなやり取りを交わす、公孫賛とその妹公孫越。
先の孫堅による江夏攻めの後、当時の牧であった劉琦から、公孫賛は江夏の城主を任された。それは一刀が牧となっても変わらず、地味に、無難に、そして普通に役目をこなしていた。
「……噂をされる、ね。姉貴にそんな存在感あったっけ?」
「……水蓮、それは喧嘩を売ってるのか?だったら喜んで買うぞ?」
ぎろり、と。妹をにらみつける公孫賛。
「じょ、冗談だって!」
(喧嘩なんてしたって勝てっこないっての)
子供の頃から姉妹喧嘩で姉に勝てたことなど、一度もない公孫越であった。
そこに、
「白蓮、いるか?柴桑から使者が来たぞ」
執務室に入ってきてそう告げる華雄。
本来なら新野で董卓に仕えていなければならないのだが、人手不足の親友を心配し、董卓と一刀の許しを得て、公孫賛の下に現在ついていた。
「ん。わかった、すぐに行く」
ちょうどその頃、長江を遡る船団の姿があった。闘艦と呼ばれる大型船五隻を中心とした、五十隻の大艦隊であった。その先頭を行く闘艦に翻る旗の文字は、「許」と「劉」。
「壮観、というべきだな。のう、劉繇どの」
「ですな。これだけの船団を用意できたこと、本当に感謝いたしますぞ、禰衡どの」
劉繇と呼ばれた男が、後ろに立つ一人の女に声をかける。
「どうかお気になさらず。わが主公の望みは、陛下の御名の下、大陸を安寧に導く事ゆえ」
そう言って拱手する、禰衡と呼ばれた女。
「仲達公にはよろしくお伝えくだされ。揚州を制した後は、漢の一門として陛下を盛り立ててみせまする、と」
「それがしも漢のために尽力いたす。なにとぞ良しなに」
揃って頭を下げる、劉繇と許貢。
「もちろんです。期待いたしますわ、ご両所とも」
(漢のために、ね。ククク。よく言うわ)
二人の言葉に答えながらも、気づかれぬようにほくそえむ禰衡であった。
ところ変わって、荊州・宛県。
「……これまで、か。恋、ねね。脱出の用意を。二人で一刀の元へ行きなさい」
呂布と陳宮にそう告げる、丁原。
「ははうえどのは?」
丁原に問う陳宮。
「あたしは残る。誰かが時間を稼がないとね」
「……だめ。おかあさん残るなら、恋も残る」
「ねねも残るですぞ!」
そう言って丁原を見つめる呂布と陳宮。
「駄目だ。お前たちはこれから、一刀の力にならなきゃいけないんだ。あたしのような老いぼれと違ってね」
「でも!」
「恋!!」
「!!」
ビクッ!
さらに食い下がろうとする呂布を一喝する、丁原。
「……この間言ったろ?どのみちあたしの命はもう長くないんだ。心の臓が、いつ破裂してもおかしくない。……だから最後に、母親としてお前たちを守らせておくれ」
笑顔で二人を、そうやさしく諭す丁原。
「……おかあさん」
「ははうえどの……」
いつしかその両の目に泪を浮かべる、呂布と陳宮。
その時だった。
どおおおおんんんん!!
すさまじい破壊音が響く。それが城門の破られた音だと、三人はすぐに悟った。
「……どうやら、手遅れだったかね?」
「そ~でもないわよん」
『え?』
突然した自分たち以外の声に、思わずそちらを見る三人。そこにいたのは、
「ば!化け物なのですーーーー!!」
「だあああれが、地獄の底から這い出てきたような、怪物ですってーーー!?」
「誰もそこまでいっとりゃせん!何者じゃ、ぬしは!?」
小さな腰布(?)を身に着けただけの、どこから見ても変態にしか見えない”それ”に、丁原が突っ込む。
「わたしは愛と美の伝道師、そして、ご主人様の忠実な肉奴隷、漢女(おとめ)貂蝉ちゃんよお。あ、心配しないで。わたしはあなたたちの味方よん。うふん」
そう言ってニッコリと微笑む(おえ)漢女貂蝉であった。
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荊州と揚州における大戦。
まずは導入部です。
そしてついに”ヤツ”が来る・・・!!
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