No.165643

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第三十話

狭乃 狼さん

刀香譚もついに三十話です。

今回は一刀達が荊州の乱を治め、州牧になっていた頃の、

華琳の話がメインです。官渡に至るまでと、その後。

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2010-08-14 10:59:59 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:15043   閲覧ユーザー数:12757

 許都。

 

 豫州・頴川郡、許昌がもともとの地名である。

 

 一地方都市に過ぎなかったこの町が都とされたのは、洛陽からの脱出後、曹操の庇護下に置かれた劉協が、亡き(と思っている)姉の後を継いで帝位に就いた後、新たな都として定める勅を発してからである。

 

 曹操本人はこれまで通り、陳留を本拠として活動。青州・徐州を瞬く間に制圧し、いつの間にか死んでいた張譲の支配下にあった洛陽も、その支配下に置いた。

 

 その張譲の死の知らせをもたらしたのは、最近劉協の側近として台頭してきた、司馬仲達という女だった。

 

 青・徐、二州の制圧と、洛陽制圧も、その仲達という女の献策で、劉協からの勅として、曹操に命じられたものだった。

 

 そして、ある日のこと。

 

  

 

 「麗羽が宣戦布告、ね。ふ~ん」

 

 陳留の玉座の間。

 

 この日、曹操の下に河北を支配する袁紹からの、宣戦布告の書簡が届けられた。

 

 「袁紹軍の戦力は二十万とも三十万とも言われています。対してこちらは十万を少し超える位です。少々戦力的に、不安があるかと」

 

 曹操にそう危惧の念を語るのは夏候淵。字を妙才という。旗揚げ時からの曹操の腹心の一人である。

 

 「何を気弱なことを言うんだ、秋蘭!たかだか二倍、三倍の戦力など、私がいればたいしたことはない!」

 

 夏候淵に対し、胸を張って言うのは、片目に眼帯をした女性、夏候惇。夏候淵の双子の姉である。

 

 「脳筋のいう事は放っておくとして。華琳さま、たとえ数は倍以上であっても、士気や練度は決して高くありません。勝算は十分にあるかと」

 

 猫耳のフードを被った少女荀彧が、いきり立つ夏候惇を尻目に、曹操にそう意見を述べる。

 

 「そうね。春蘭のことはともかく、わが精兵を持ってすれば、麗羽なんて大したことはないわ。でもね」

 

 いったん言葉を区切り、立ち上がる曹操。

 

 「何か腑に落ちないのよ。この書簡、書いてあるのはたった一言だけ。『帝に仇なす身中の虫に、天誅を下す』……それだけよ」

 

 「華琳様が身中の虫!?ふざけたことを!!」

 

 一人激高する夏候惇。だが、夏候淵と荀彧、そして、同じくその場に同席していた二人、郭嘉と程昱も、不可解な顔をする。

 

 「ど、どうしたのだ?」

 

 わけがわからず、疑問を口にする夏候惇。

 

 「(姉者は本当に可愛いなあ)……いいか、姉者。袁紹は書簡に、一言も華琳様の名を書いていないんだ。つまり」

 

 「袁紹さんにとって本当に倒したい相手は、華琳様ではなく、別の誰かかもしれない、と。そういうことですよ~」

 

 夏候淵と程昱が、首をかしげている夏候惇に、そう説明する。

 

 「そういうことよ春蘭。だから一度、麗羽と話を」

 

 そこまで言ったときだった。

 

 

 

 バタン!と、扉が思い切り開かれ、一人の人物が部屋に飛び込んでくる。

 

 「孟ちゃん、おるか?!都から勅使が来たで!!」

 

 「霞」

 

 その人物は張遼だった。

 

 洛陽からの脱出の際、曹操と共に劉協を連れ出した一人だ。その後、張遼は曹操に帰順し、配下となっていた。

 

 「……随分、間が良いじゃない。……稟、案内を」

 

 「は」

 

 拱手して部屋を出る郭嘉。

 

 そして、勅使がもたらした勅命は、曹操たちの予想通りのものだった。

 

 「逆賊・袁紹を討て」

 

 勅命には逆らえない。たとえ、その裏に誰の、どんな思惑があろうとも。

 

 こうして、世に言う『官渡の戦い』が開始された。

 

 曹操は、最初の舌戦で袁紹の真意を問おうとした。だが、

 

 「お話しすることは何もありませんわ」

 

 袁紹は舌戦に乗ってこなかった。ただ一言だけ言って、全軍に攻撃開始を命じたのだ。

 

 

 

 戦の序盤は、戦力に勝る袁紹軍が、有利に戦を展開した。

 

 だが、袁紹配下の許攸という人物が曹操の下を訪れたことで、状況は一変した。

 

 許攸からもたらされた情報により、袁紹軍の食料貯蔵地である烏巣を、少数の兵で奇襲し、焼き払った。それで、戦局は決した。

 

 士気が下がり、逃亡する兵が続出した袁紹軍は、虎豹騎が戦線に加わると、瞬く間に壊滅していった。それを見ていた曹操は、

 

 「……一体なんなのかしらね。あれは」

 

 怯むという事をまったくしない虎豹騎の兵たちに、えも知れぬ不気味さを覚えていた。

 

 その後、袁紹と、その腹心である顔良・文醜の三人は生死不明となり、河北は曹操の支配するところとなった。

 

 袁紹勢の残党狩りには虎豹騎があたる事となり、そのまま河北に駐留することとなった。

 

 「……気に食わない、わね」

 

 帰還の途上、そうポツリとつぶやく曹操だった。

 

 そして、官渡の戦いから数日後。

 

 曹操は劉協からの招聘を受け、許へと参内した。

 

 

 「臣を魏王に?」

 

 待っていたのは、曹操にとってまったく予想だにしていなかったものだった。

 

 「それだけの功が、貴女にはある。陛下はそう仰っておいでです」

 

 「……」

 

 許の謁見の間。御簾の向こう側に座っている劉協と、その前に立つ一人の女。

 

 司馬懿・仲達。

 

 役職は太博。皇帝の教育係という名ばかりの名誉職。それが本来の役職だった。だが、仲達は実質上の宰相として、劉協のそば近くに仕えていた。

 

 「どうされたのです?まさか、陛下よりの下賜がお気に召さないとでも?」

 

 曹操に問いかける仲達。

 

 「……いえ。余りにも身に過ぎた事ゆえ、恐縮いたしておりました」

 

 そう答えながら、曹操は思った。

 

 (ここに来てから、まだ一度も帝のお声を聞いていない。まさか……)

 

 と、ある疑念が頭によぎったときだった。

 

 「仲達」

 

 「!!」

 

 劉協が仲達の名を呼んだ。

 

 「朕より直に、孟徳に言葉をかけたい。構わぬか?」

 

 「……は」

 

 横に下がる仲達。

 

 「孟徳よ。これまでに至る働き、まことに大儀である。……いろいろと思うところも多々あろう。だが、朕は何より、この大陸に安寧をもたらしたいのだ。姉上が夢見た、争いなき世を。そのために、これからも孟徳の協力が必要なのだ。……よろしく頼む」

 

 御簾の向こうから聞こえた声は、間違いなく劉協のものだった。

 

 「……。陛下の想い、確かに承りました。この”魏王”曹孟徳、必ずや陛下の夢、叶えてご覧に入れましょう」

 

 深々と頭を下げ、そう答える曹操。

 

 そして、それから数日後。

 

 吉日を選んでの、曹操の魏王就任の儀式が執り行われた。居並ぶ文武百官を前に、曹操は声高に宣言した。

 

 「皇帝陛下の御名の下、魏王・曹孟徳はここに宣言する。大陸を平定し、安寧なる世へと導く!我が精兵達よ!奮起せよ!漢に昔日の繁栄を取り戻し、民に安らかなる日々を与えん!」

 

 おおおおおおおおおっっっっ!!

 

 曹操の心には、もはや迷いは無かった。

 

 (陛下のために、全力を尽くす)

 

 そして、その為なら、

 

 (一刀。たとえ貴方でも容赦はしない。陛下の理想を妨げるのなら、貴方を討つこともためらわない)

 

 曹操が南征を宣言したのは、それからわずか三日後のことだった。

 

 

 

 一方、江東の地でも騒乱が起きていた。

 

 「許貢が反乱ですって?」

 

 「はい。呉郡と会稽郡の豪族たちに声をかけ、兵を挙げました。その数、三万」

 

 孫堅にそう報告する諸葛謹。

 

 「母様」

 

 「……まずいわね。先の江夏攻めで、大半の船を失ってるから、戦力差以上に不利だわ」

 

 爪を噛み、そう呟く孫堅。

 

 「荊州に援軍を求めるしかありませんね。劉翔、もしくは袁術のどちらかに」

 

 と、周瑜が孫堅に献策する。

 

 「……同盟結んで早々に、か。ま、それしかないね。明命、すぐに襄陽に発って。兵は良いから、船をなるべく多く送ってほしい、と。そう伝えてくれ」

 

 「はい!!」

 

 返事をして部屋を出て行く周泰。

 

 「戦の場所はどのあたりになるかしら?」

 

 孫策が地図を見ながら言う。

 

 「そうだな。荊州からの援軍の速度と、反乱軍の侵攻速度から考えると、……ここ」

 

 地図の一点を示す周瑜。

 

 「……赤壁」

 

 うなずく周瑜。

 

 荊州と江東。それぞれに大戦の嵐が吹き荒れようとしていた。

 

 


 
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