暗闇を照らす篝火。
「くはは、この酒は旨ぇなぁ」
繰り広げられる宴会。
「あいつら、こんな贅沢なもん喰ってやがんのか。まったく、まさに官軍様々だ」
周囲に響く声。しかし咎める者はない。
「ほんとだな。一発目で死んだ奴らにはわりぃが、最高だぜ」
ある者は踊り、ある者は喰い、ある者は呑む。
それこそは、戦の勝者のみに与えられる特権。
だが、それを貪るは黄色の装飾の一団であった。
「ここが正念場だな」
空を見ながら呟く。
「えぇ、そうね楽進さん。これ以上陣を後退させると、士気が保たない。軍が瓦解してしまうわ」
独り言が拾われてしまったようだ。
「黄忠様・・・・・・」
「心許ない顔をしているわね? 勝てるかどうか不安なの?」
慈母の様な笑みでこちらを見る。
「いや、そういうわけでは・・・・・・」
「?」
「誤解があるかもしれませんが、勝敗には一片の不安は抱いていません。程立殿たちが考えた策。私にはこれ以上の代案は示せませんし、それより何より、隊長と同じで彼女達を信じてますから。負けたなら、恐らく誰にも打開できない状況なのでしょう」
そんなに大層なことを言ったつもりは無いのだが、黄忠様は驚いている。
「案外、達観しているのね。器だけならもう焔耶ちゃんを超えているのかも・・・・・・。あら、噂をすればというものかしら」
何かを黄忠様が呟いたかと思うと、
「桔梗様から連絡です。出陣前に作戦の確認をするそうで、一度集まって欲しいそうです」
魏延殿が呼びに来てくれたようだ。
「すみません、わざわざ」
「いや、気にすることは無い」
最初の軍議以来の顔合わせなのだが、元気が無いというか、なにか前に受けた印象とは違う気がした。
戦の前は雰囲気が変わる人がいるが、魏延殿もそうなのかもしれない。
「では、行こうか」
二人は歩き出すが、なんとなく歩が進まない。
「どうした?」
「あっ、いえ・・・・・・」
「心配なのね、みんなが」
「はい。命の危険はないはずなのですが、確認できませんし、私も動く訳にはいきませんから・・・・・・」
そう、そうなのだ。
ここ三日で沙和、真桜、隊長がそれぞれ軍を率いて戦ったのだが、皆破れてしまった。
陣を奪われてしまったのは仕方がない。
そんなことよりも、その三人が本隊に戻ってきてもいないのだ。
「そうよね」
「・・・・・・」
そうするつもりは無かったのだが、暗い空気が流れてしまった。
「でも、隊長がきっと何とかしてくれますから」
胸を張って、言いきる。
二人が同じ様に首をかしげ、
「一刀さんが?」
「なぜ、そこまで自信をもって言えるのだ?」
同時に質問してきた。
「なぜ・・・・・・でしょうかね? 改めて聞かれると自分でもよく分かりません」
実際、本当によく分からない。
「隊長は強くもないし、頭がそこまで良い訳でもない。けれど上手くやって、笑いながら真桜達と帰ってきてくれる、そんな気がします。隊長より強い人がこの状況でも、普通なら心配する状況ですよね。今も不安ではありますけれど、どこか安心感もあるんです」
素直な思いを口にする。自分でも何を言っているかよく分からないが、今の私にはこれが限界だった。
「ふふっ、妬けるわね」
黄忠様が意地悪な微笑を浮かべている。
「か、からかわないでいただきたい!」
顔が熱い。きっと今真っ赤になっているだろう。
「からかってなんかないわよ。ごちそうさま」
これが大人の余裕というやつなのか?
「うぅ・・・・・・」
黄忠様には一生勝てない気がする。
「・・・・・・」
魏延さんは私が答えた後、黙ったままだ。ずっと考え込んでいるようだが本当に大丈夫なのだろうか。
「さて、そろそろ行きましょうか。これ以上話してたら、桔梗が怒ってしまうわ」
今私に出来ることはこの戦いに勝って、隊長たちを迎えるだけだ。
沙和、真桜、隊長、大丈夫ですよね・・・・・・?
「さて、今日で終わりにしちまうか」
「あぁ、あいつらの持ってるもん、根こそぎ頂いちまおうぜ」
「ほんと楽勝だな。あの程度の強さなら、負けるはずねぇよ」
「でもよぅ、今日は遂に主軍と当たるんだろ? 増援を頼んどいた方が良いんじゃないか?」
「大丈夫だろ、と言いたいが、呼ぶだけ呼んどくか。こんなところで死にたくはないしな」
「そうだな。死ぬ確率は減らしてぇ。死ぬなら俺以外の奴だ」
そう言って、大声で笑う。 我ながら下賤な笑い方だと思う。が、これが俺たちなのだ。
生まれた村は貧しく、子供なぞ一割しか成人出来ない。だが、朝廷からの援助など無く、荒廃していく一方だった。
俺は生きるために何でもした。詐欺、強盗、殺人、本当に何でもだ。そうしなくては生き残れなかった。死体が近くに転がっている様な日常だったが、とにかく死ぬのは怖かった。
ここにいるのはみんなそんな奴らだ。糞みたいな人生しか歩んでいない。
だが、俺たちは天女に出会った。彼女たちの笑顔に癒された。彼女たちの唄に魅了された。灰色だった俺の人生が色付くのを感じた。
彼女たちの為に何かをしたい。俺の生の全てを捧げても良い。
彼女たちは唄を大陸中に広めたい、そう言っていた。なら、俺には何が出来るのだろうか?
こんな見て呉れの俺が彼女らの唄の素晴らしさを説いて回る? 有り得ない、誰がそんな言葉に耳を貸すというのか。
では、どうする? 唄を聞けば必ず誰しもが分かってくれるだろう。
答えは簡単。攻め取ってしまえば良い。
俺らが街を制圧すれば、彼女たちは歌いに来てくれる。そうすれば、彼女たちは喜んでくれる。俺も彼女も誰もが幸せだ。
だが、彼女らは俺らがどうやって制圧しているかは知らないはず。
もし知ったらどう思われるのだろうか。喜んでくれるのだろうか? それでもなお、あの笑顔を変わらず見せてくれるのだろうか? 分からない、わからない、ワカラナイ。でも、俺たちにはこれしかない。この方法しかない。
善悪なぞ関係無い。俺の存在意義は彼女たちの願いを叶えること、ただそれだけ。
だからこそ俺達にはこの下賤さが相応しいのだろう。
「聞けぃ、黄巾の賊徒どもよ! 我こそは厳顔、巴郡の太守なり!」
敵軍の将が見得を切っている。
俺も人生が違えばああだったのだろうか。あれ位の力があれば、別の道があったのだろうか。
いや、やめよう。どうせ引き返せる道でも無い。ましてや、俺の道が間違っているとは思わない。正しいかは知らんが。
「その所業、我ら人は勿論、天すらも許すはずもなし!」
天? 天だと!? 笑わせてくれる。
その天の下にいる朝廷は俺たちに何をしてきたというのか。
税で、重労働で、俺たちを絞りとり、貴様らは私腹を肥やしてきた。
そんなやつらが天を語るか、小賢しい。
天というならこちらだろう。
俺たちに人生の意味を与え、救ってくれた天女。今は砦で俺たちを見守ってくれている。
俺が、俺たちコソが、黄天の名のもとニいるはずだ。
その頂ヲ汚そうト言ウのナら、絶対ニ許サナイ。
「「全軍突撃ぃ!!」」
戦いの幕が切って落とされた。
開戦から一刻。戦場は乱戦になっている。
「やはり、連戦連勝の向こうの方が士気は高いか。っはぁ!」
氣弾を放ち、敵をなぎ倒す。
「しかし、前回は奇襲でまともに当たって無いとはいえ、こんなに強かったか? 鬼気迫るものがある。狂っていると言ってもあながち間違いじゃないかもしれない」
こいつらを見ていると、正直決意が揺らぎそうになる。
特に、あの眼だ。あの眼には迷いが無い。それだけでは特に珍しいことではないのだが・・・・・・。戦いの場で迷っていては死を招くこともある。私情をはさまない様にするのは当然だ。
だが、あれは単なる賊風情の眼ではない。おかしいのだ。
あいつらには信じるもの、守りたいものがある。その為に戦っている。
黄巾党とはいえ、たんなる暴漢の集まりだと思っていた。それがどうだ、これは。
何かの為に戦う。ある意味では、私たちと同じではないのか。
「隊長、私は・・・・・・」
何を信じて戦えば良いのでしょうか。
「魏延にはあの時、黄巾の賊はともかくと言ったが、これは誤算だったかもしれぬな。予想外に強い」
このままでは兵の士気が保たない。
仕方ないな、楽進殿はそれどころではない様子であるし。
「我が名は常山の昇り竜、趙子龍! 我こそはと思う者はかかって来い! この龍牙の錆にしてくれるっ!!」
一気に最前線に出る。骨の折れる戦いとなりそうだ。
しかし、魏延があのままであったら、この戦無事では済むまい。ただでさえ、危険な場所に赴くのだからな。
いや、でもまあ、あの方ならきっと上手くやってしまうのであろうな。あの夜の言葉、期待で終わらせて欲しくはない。
とすると、策が成るまでこちらが耐えられるかが問題か。
楽進殿をちらりと見遣る。やはりこれ以上前に出すのは厳しい様子。
やれやれ、こちらも、期待に応えてみせましょうかな。
「急ぎなされい、北郷殿。あまり長引くと、軍だけでなく、大事な部下すら逸してしまいかねませぬぞ・・・・・・」
「案外、残ってる敵の数多くないか?」
独り言のつもりだったが、真桜には聞こえていたらしい。
「こんなもんやろ? 程立はんの予想でもこれくらいやったはずや」
「隊長、もしかして怖いの~?」
更に、沙和からの追撃が入る。
「実際と想像との違いに驚いているだけ……、いや、怖いのかもしれないな」
自分の正直な気持ちを打ち明ける。こいつらの前で強がっても仕方がない。
「それでえぇと思うで。恐怖心があらへん人は危険や。臆病でないと戦場では生き残られへん。まぁ、これは凪の受け売りやけどね」
確かにそうかもしれない。
昔に爺さんも「一番危ないのは自分が強くなったと思った時じゃ。自分の動きがなまじ良いと相手の本質がわからなくなって、死ぬやつが増えるのじゃ」とか言ってたな。過信は禁物ってとこだな。
「・・・・・・」
「? どうしたの、魏延さん」
そういえば、こっちに着いてから黙ったままだ。
「なんでもない、気にするな。それより、そろそろ頃合いじゃないか? あんまり引っ張ると策が失敗するぞ」
言ってることはもっともなんだけど、ね。やっぱり星とのやりとりをひきずってるのか?
「そうだね。じゃあ、やろうか」
だけど、あまりこんなところで時間をかけられない。
「派手にかましてやるの~!」
「「おぅ!」」
沙和の掛け声に合わせて、俺たちは飛び出した。
へ? いや、ちょっと意味わかんない
何で砦の中に敵が入り込んでんのよ? これって実はかなりヤバイんじゃない?
確かあいつは砦にさえ侵入されなければ安全とか言ってたけど、入られちゃったら不味いわよねぇ・・・・・・。
しかも、何かやたらと強くない? あのでっかい棍棒振ってる脳筋は見たまんまだけど、あの先っぽが尖った槍みたいなのを持ってるおっぱいと二刀流の可愛い服の娘も普通の兵じゃ相手にならなそう。
あっ、でも変わった服の男はあんまり強くないみたい。
顔は・・・・・・、まぁかっこいい方に入るのかしら。べ、別に好みじゃないけど。
だけど、本当に変わった服よね。あんな光輝く服どこに売ってんのかしら?
あの素材で舞台衣裳作ったら、私の可愛さも五割は上がるわよね。
勿論、今でも、十分可愛いんだけど。
・・・・・・、ん? 光輝く服? も、もしかして、あ、あいつが天の御遣い!?
そう言えば、さっきそんなこと叫んでたし。
うわ、やば。あたし殺されちゃう? あ、あんたたちさっさと倒しちゃいなさいよ。
「あっ」
その瞬間、御遣いに矢が刺さっていた。
ちっ、やっぱり結構多いみたいだな。
雑魚ばかりとはいえ、流石に敵の砦の真ん中に四人で突入は辛いものがあるか。
しかし、趙雲に
「そちらの部隊にいけば「強さ」が何が、その欠片がわかるやもしれんぞ」
と言われ、桔梗様に志願したものの、本当にわかるのか? ここにいない面子の方が明らかに強いだろう。
「真桜ちゃん、後ろなの!」
「へ? うひゃあ! おおきに、沙和助かったわ、って前!」
「どういたしまし、きゃ! あ、危なかったの」
・・・・・・。やはり、分からんな。実は「強さ」なんて嘘だったんじゃないのか? それっぽいこと言ってただけとか? いやしかし、それはそれで癪だな。では、単なる武の延長ではないところに「強さ」があるのだろうか? ふむ、わからん・・・・・・。
「魏延さん危ない!」
いきなり、北郷に突き飛ばされた。
その瞬間、
「ぐっ、・・・・・・痛ぅ」
北郷の左肩から矢が突き出していた。
「「隊長!?」」
「だ、大丈夫だ。隙を見せるな! 一気に攻めてくるぞ」
言葉とは裏腹、その表情は青ざめていた。
筋肉のみのところだけを貫通している為、骨には異常は無いようだ。しかし、二人の位置からは見えてはいないが、出血が酷い。
「そ、そやかて、隊長」
「真桜、ここで俺たちが踏ん張らなきゃ、凪が、軍の仲間が、そして大陸のみんなが危ない。俺は大丈夫だから、前をみろ! もうすぐ、合図があるはずだ。それまで持ちこたえれば何とかなる」
「・・・・・・、分かった。魏延はん、隊長を城門の近くへ移動させといてや。沙和、うちらで敵を押し込むで」
押し込む? より奥に押し進むのか? しかも二人で。
「ま、待て。それなら私がやった方が良くないか?」
「そうかも知れへん。でもな、これは譲れんのや」
「そうなの。確かに沙和たち二人より魏延さんの方が強いの。でも、ここは任せてほしいの」
この威圧感はなんだ。先程までの二人からは感じられない氣が立ち上っている。
「分かった」
いつのまにか返事をしていた。何も言い返せなかった。
「ほな、いくで」
「うんなの~」
言葉自体はいつもの調子だったが、その奥に何かがみえた気がした。
弓兵の矢が御遣いに当たった? かすった? ここからじゃよく見えないけど、とにかく怪我を負ったみたい。
うん? 二手に分かれたのかな。棍棒女が御遣いと一緒に後退して行ってる。
ってことは、他の二人だけで前線に残るのかな。それなら、なんとかなるかも。
・・・・・・。
ん? なんだろう? なんていうか、棍棒女以外の二人、さっきとなんか違う。
「武」って私にはよく分かんないんだけど、動きが良くなったのは素人目でも感じる。
さっき全力を出してなかった訳じゃないと思うんだけど?
でも、強くなった風に見えるのに、感じるのは悲しみと優しさなのよね。
――――――想い、かな。
きっと、あの二人はあの御遣いさんを大切に想ってるんだ。だから、傷ついた彼を護ろうと頑張ってるのよね。
彼女たちは「強い」な。
「ここまでくれば、なんとかなるか」
取り敢えず、北郷を背中から降ろす。
死ぬことは無いと思うが、これ以上の出血はまずいな。
「少し痛むが、我慢しろよ」
急場しのぎだが、応急処置をしておく。
「ぐっ、あぁぁ。・・・・・・、はぁはぁ、ありがとう、魏延さん」
未だ、北郷の顔は青いままだった。
「それはむしろ私の言葉だろう。かばってもらったのだからな」
「そう? でも、ありがとう」
死にそうな顔のくせに、笑顔でこっちを見てくる。
「い、いや、こちらこそ、・・・・・・、あの、あっ、あ、ありがとな」
くっ、上手く舌がが回らん。
「どういたしまして」
「へっ、変な奴だな、お前は」
こいつといると私の調子が狂う。だが、悪い気はしないのは何故だろうな。
今まで、こんなやつには会ったことは無い。自分を犠牲にして、という行動は理解できる。だが、こいつはそれだけじゃない気がする。
「よく言われるよ」
「なんで私をかばったんだ?」
そう言った瞬間、北郷の表情が変わった。
「なんで!? なんでって・・・・・・。誰かを助けるのに理由がいるの?」
一瞬怒った顔になったが、今は心底驚いているようだ。
「っ」
「例え、俺が嫌いな奴だとしても俺は助けるよ。俺の個人的な気持ちとその人の命の重さには関係は無いからね。そして、勿論俺の知り合いの人だったら、死んでも助ける。俺の前で命が零れていくなんて耐えられないよ!!」
あぁ、こいつは本当に優しいんだな。この乱世では生き残れているのが不思議なくらい。
でも、この優しさは単なる慈愛じゃない気がする。
理想の中の、全てを救える、というものじゃない。100を救うために50を捨てることは理解している。でも、それを享受するのではなくどうやって、50を減らす・無くすかを考えている。
趙雲の言った「強さ」はこれなのか? どこかが違う気がするのだが・・・・・・。
「隊長、南門、東門準備完了です、ってどうなさったんですか!! その腕!」
作戦準備に回っていた兵が集合場所のここに集まって来たようだ。
「あぁ、流れ矢が当たってね。でも、魏延さんに止血してもらったし、大丈夫だよ」
下手な嘘を。この場はそれに甘えておこうか。
「そうですか。良かった。北郷殿にもしものことがあったら、貴方を任された楽進殿に申し訳が立ちませんからね」
「いや、凪なら怪我して帰った時点で怒られそうでこわいよ」
「そ、そうですね・・・・・」
「魏延さん、沙和と真桜の救援に行ってくれ。俺はもうみんなが来てくれたし、後は脱出するだけだし、大丈夫だよ」
「そうか、分かった。お前たち、北郷を頼むぞ」
あの二人だけでは少々不安が残るな。どこか様子もおかしかったからな、と私が言えた義理ではないが。
「「「はっ」」」
私が二人のところに着くと、異質な空気が流れていた。
「受けやー! 螺旋槍の一撃ぃ!!」
「この○○やろうども、調子に乗るななの~!」
異質という表現が正しいかは分からない。が、感じたことのない為、何とも表現が出来なかった。
二人が戦っている姿を見ると、単なる武ではない「何か」を感じる。
だが、なんだろうな。これは。
私の武とは違う。私が今まで追い求めていた武とも違う。
于禁の太刀の流れはまだまだだし、李典の槍の扱い方も雑な部分も多い。それでも、その戦いぶりは味方を高揚させ、敵を心を打ち砕くだろう。
感じたこれが「強さ」なのかは分からない。だが、私もこの様に戦いたいと思う。
なぜだろうな。
なぜ、私は羨ましいと思うのだろうか。それを快いと思うのだろうか。
彼女たちは「強い」な。
この乱れた世の中ではあんまり想いって信じられてないんだけど、私は信じてる。
多分、こういうのって唄とおんなじなんだと思う。
正確に旋律を感じて、綺麗な発声をして、一矢乱れぬ踊りをする。
これって確かに、巧いんだけど、「上手く」ない。当然、必要なことなんだけど、それだけじゃ唄じゃないの。
想いがなきゃ、唄えない。謳じゃない。
みんなが悲しいときにはその気持ちを。そして、私たちから元気になってほしいという気持ちを。
そうやって想いを重ねられなきゃ、唄は単なるの言葉の羅列だし、私たちは歌い手じゃない気がする。
あれ、私はなんでこんな当たり前のことを忘れてたんだろう?
忘れてた? じゃあ、今の私たちの唄は?
「・・・・・・、違う」
私が、私たちがしたかったことはこんなことじゃない。
争いを起こしたかった訳じゃない。有名になって、ちやほやされて贅沢がしたかった訳でもない。
ただみんなに唄を聞いてもらいたかった。ただその唄で幸せになってもらいたかった。
そう、ただ私は唄を・・・・・・、唄を謳いたかった。
いつから変わっちゃったのかな? 売れない頃はそんなことなかったはずなんだけど。
あいつらに協力を頼んだ頃かも・・・・・・。
その前は、黄巾党のみんなも普通に舞台の準備とか、お客さんの呼び込みとか手伝ってくれるだけだった気がする。
でも今は、色んな土地を荒らして回ってるってきくし・・・・・・。
多分、私たちの想いが無くなったならかな。みんな普通に善い人だったもん。
・・・・・・、私殺されちゃっても良いかな。
こんなことになったのも、私のせいだし。姉さんたちに会わないで死ぬのは辛いけど、仕方ないよね。
みんな、ごめんなさい。
「かっ、火薬庫が爆発したぞー!」
「西門以外の門ももう火の手が回ってる!」
「逃げろ―、逃げろー!!」
熱い? あぁ、砦に火をつけられたのかな。
剣で斬られるのもヤだけど、火にまかれるのもヤだなぁ。
でも、どうせ死ぬなら楽に死にたかったな。
「ん、なんだろ、あれ? 人が倒れてる!?」
「どうしたんですか、隊長?」
「みんなは先に脱出していてくれ。俺はちょっと用がある!」
「あっ、隊長! 待って下さい!」
「俺は大丈夫だから、先に行っててくれ!」
「大丈夫って、あなたは怪我人なんですよーー!!」
だれかが近づいてくる? 白い服? 御遣いさんかな。
殺すなら一気に殺して。痛みなんて感じない様に。
「だ・・・・・・う・・・・・・・か、・・・・・・ぶ・・・・・・。」
駄目。い・・・・・・しき・・・・・・が。
「ただいま」
既にみんな集まっている。どうやら、というかやはり、俺が一番脱出が遅かったみたいだ。
「隊長! ただいま、じゃないです!! どうなさったんですか、その怪我!!」
凪が半分涙目で詰め寄って来る。
凪さん、そのまま俺にぶつかったら、まずくないですか?
「いや、まぁちょっとね。命に別条は無いし、魏延さんに応急処置してもらったから大丈夫だよ」
「そういう問題ではなくて「ごめん、凪。心配かけたね」・・・・・・うぅ。はい。」
よ、良かった、何とか収まった。ほんとに心配かけたのは悪いと思うけどね。
「ふふふっ」
黄忠さんが笑ってる。なんでだろ?
「こ、黄忠様っ!」
今度は黄忠さんの方に凪が詰め寄っていく。ますます分からん。
「何でも無いわよ?」
意味深な笑みを浮かべながら、ひらひらと躱している。
「お兄さん、お兄さん」
「一刀殿」
小声で呼ばれた。
「程立さん? 戯志才さんもどうしたの?」
「どうしたの、と言われると逆に困るのですが、謝罪をと思いまして」
謝罪? 謝られるようなことはされてないんだけどな。むしろ勝てたし。
「どうして? 二人の作戦のおかげで勝てたじゃないか。敵が増援を出したところに、わざと負けた俺たちに魏延さんが兵を率いて合流。で、砦に侵入、放火。士気が落ちて混乱している黄巾党を、砦にいる俺たちと耐えていた主軍で挟撃。まぁ、俺はこれに参加してないけど。このおかげでほどんどの敵は一掃できたでしょ?」
「それは、そうなのですけど・・・・・・」
何とも言えない表情の戯志才さんに、呆れ顔で程立さんが口を開いた。
「稟ちゃん、お兄さんはこういう人ですから、しっかり言わないとだめでしょうね~」
「私たちが謝りたいのは一刀殿に怪我を負わせてしまったことですよ」
怪我って言っても、この怪我は自らもらいにいった様なものだし。謝られると逆にこっちが申し訳ない。
「いや、でも元々危ない役目だったし。怪我もある程度は考慮してたでしょ?」
「そうですね~。囮で危険度が高い動きをしてもらうのですから、こちらも負傷することは考えていましたよ~。でも、実際に、負傷して帰って来た人を見て、まぁこの程度の怪我は想定内だから~、とか言えるほど腐った性格はしてないわけでして」
「そうです。結果として、私たちのせいで一刀殿が負傷してしまったのですから」
二人とも辛そうな表情をしている。駄目だな、俺。
「そうかな?」
「そうですよ~。そういえば、お兄さん。その怪我でかなりの出血があったそうですね」
さっきとは打って変わって小悪魔の様な顔をしている程立さん。
「えっ? うん、まぁ。それなりに血はでたけど、そんなにじゃ・・・・・・」
「そこでです。どうでしょう、稟ちゃんの血を飲んでみては? 血を補充出来るのでは?」
何言ってるんですか、この子は。でも、輸血か。あれからは流石に無理だけど、この時代でその発想は画期的だな。
「いやいやいや。程立さん、それは無理だから、って戯志才さん?」
「血を飲まれる? 混じり合う血、そして・・・・・・、ぶはっ」
なんで、戦いが終わったのに血が流れるんだよ。
「あ~、もう。戦いが終わったのに負傷者ださないでくれよ」
何事もなかった様に、程立さんが処置に入っている。
「ほら、稟ちゃん。とんとんしますよ、とんと~ん」
「ふがふが」
「っていうか、今のはわざとでしょ」
この子の背中には絶対悪魔の羽が生えてると思う。
「おや、ばれてしまいましたか~」
「はぁ、やれやれだよ」
思わず呟いてしまった。
二人から視線を移すと、黄忠さんの所から戻ってきたらしい凪と、沙和たちが話している。
「なぁ、凪。隊長のことが心配だったんは分かるけど、うちらを無視せんでもええんやないの? 最初からずっとおるんやけど、うちら存在感無いか?」
「そうなの、そうなの。沙和たちも頑張ったの~。凪ちゃんが乙女なのは分かるけど、ここまで空気にされたら気分が悪いの!」
「べ、別にお前たちを無視してた訳じゃ」
「「・・・・・・」」
「・・・・・・、すまん。沙和も真桜もお疲れ様。」
「うんなの~。凪ちゃんもお疲れ様なの」
「な~んか、ついでな感じもするけど、まぁええわ。凪、ごくろうはん」
何を話しているか聞こえないので、近づいて会話に参加する。
「沙和と真桜もありがとうな。二人があそこで押し込んでくれなかったら、俺たちは全滅してたかもしれない」
俺が怪我しなきゃ、もう少し楽に戦えてたのにな。ほんとに申し訳ない。
「それほどでもないの~」
「ならたいちょ、戻ったら飯でもおごってな?」
「さんせ~なの」
なんでそうなるんだよ。星、やっぱりこいつらは食い意地だけだと思う。
「お前らなぁ・・・・・・。まぁ良いか」
何だかんだで世話掛けてるし、これくらいなら、ねぇ。
「隊長! 二人ばかりずるいです」
喜んでいる二人をよそに、凪は少し怒り気味だった。
「分かった、分かった。凪も行こう、な?」
そう言って、凪の頭を撫でようとすると、
「あらあら、天の御遣い様は戦だけでなく、女の扱いもお上手なのかしら?」
戻ってきた黄忠さんに冷やかされた。
「ちょっ、黄忠さん?」
「そういえば、この前の軍議の後、夜に焔耶ちゃんを探してたみたいだし」
絶対この人、この状況楽しんでるよ。何か、目が光ってるし。
「隊長?」
沙和が詰め寄ってくる。
「だ、誰がそんなことを」
きっとこれはカマをかけてるんだ。あの場面は誰にも見られてないはず。
「星ちゃんが」
まさかの当事者かよっ。しかも、黄忠さんとすげぇ仲良くなってるし。
「せ、星のやつ、なんでそんな一部分だけ・・・・・・」
「いつの間に趙雲さんのことを真名で呼ぶようになったんですか?」
良い笑顔で、反対から凪が来る。
「へっ? やべっ」
「兵のみんなも飯に連れてこか?」
そして、真ん中から真桜が迫ってきた。
諦めよう。ここは謝るに限る。謝るしかない。
「勘弁して下さい」
周りで笑いが起こる。やれやれだよ、ほんとに。
「楽しそうだな」
厳顔さんが来た。確か、どこかの軍の人がきていたはずじゃなかったっけ?
「あら、桔梗。どうだったの?」
「いや、それがな・・・・・・」
歯切れの悪い返事が返ってきた。どうしたんだろう、なんからしくないな。
「お邪魔するわ」
厳顔さんの後ろから、小柄な女の子が入ってきた。
「こちらは?」
「私の名は曹孟徳。よろしく」
「そ、曹操!?」
この娘があの曹孟徳!? 信じられない。ってかみんなの反応が薄い。・・・・・・、そうか、まだ黄巾の乱の時代だからか。この頃はいち官僚に過ぎないもんな。
「あら、私の名前を知ってる者がいるとは意外だわ。貴方、名前は?」
「北郷一刀。よろしく」
名乗ると、曹操さんは少し考えた様子になった。
「北郷、そう。貴方が天の御遣い。ふふっ、なかなかの男じゃない」
なかなかの男って、どう受け取れば良いんだろうか。
「褒め言葉と受け取っておくよ。それで、どうして曹操さんがここに?」
「それがな、曹操殿も、こちらに派兵されていたようでな。結果的に、敗残兵を追撃してもらった形になったようだ。そこで挨拶をしようと思ってきてもらったんだが・・・・・・」
代わりに厳顔さんが答えてくれた。
「なるほど」
「戦ぶりは見せてもらったわ。この作戦を考えたのは貴方かしら?」
「いや、俺じゃない。こっちの程立さんと戯志才さんだ」
「どうもです~」
「二人とも可愛いわね。どう? 私のもとに仕える気は無いかしら。まだ大した力は無いけれど、私と共に覇道を歩んでみる気は無い?」
・・・・・・。
「・・・・・・」
「どうしたの、阿呆みたいな顔して」
「いやなんて言うか、展開が速すぎてちょっとついていけない」
会って一瞬で勧誘? 行動力ありすぎじゃないか? というか、行動力と言って良いのか?
「なによ、ぐだぐだ話しても時間の無駄使いで非効率的じゃない。で、どうなの? さっきの感じじゃ、まだ何処にも仕えてはいないみたいだけど」
むきになって反論してきた。ちょっと可愛いかも。
「いっ、いえ、あの、その」
戯志才さんは異様に緊張しながら、こっちを見てくる。そういえば、戯志才さんは曹操って分かった時、唯一反応してたっけ。
「もしかして、俺に遠慮してる? 気にしなくて良いよ。力を貸してくれる分には嬉しいけど、別に無理に居てもらおうとも思わない。何より、自分の気持ちに嘘を吐くのは駄目だ」
「そうなのですよ~。それに稟ちゃんは前から、曹操様のもとで力を発揮してみたい、とか言ってましたし~」
「あら、そうなの?」
程立さんの言葉を受けて、喜色を浮かべる曹操さん。
「は、はい」
鼻血を吹きださないか、かなり心配なんだけど。大丈夫かな?
「緊張しちゃって、可愛いじゃない。では戯志才、その才を存分に振るってもらうわ。貴女はどう?」
「風もそっちで働いても面白そうなんですが~、夢を見るんですよ~」
「夢?」
夢か。程昱って名乗る話のことかな。
「はい~。お兄さんに会う前の日から、太陽を持ち上げる夢をみるのですよ。これはきっとお兄さんを支えていけ、というお告げだと思うのですよ。と、いう訳でこれからは正式にお兄さんのもとで働くことにするのですよ」
「うぇっ、俺の方?」
「そうですよ~?」
「流れ的に、曹操さんのところに行くのかと思ったよ。じゃあ、これからもよろしく」
楽進、李典、于禁、そして程昱か。俺はほんとに上に立ち得る人なのかなぁ。
「では、これからは別々の道になりますね、風」
戯志才さんが悲しそうに呟く。星の話では二人は星が合流する前から旅をしていたらしい。だから、別れも一塩なんだろう。
「ぐぅ・・・・・・」
ここで寝ますか。
「起きなさい、風!」
怒りをこらえながら戯志才さんが起こす。
「おおっ」
いつもの様に怒るのかと思ったが、
「くすっ、こうやって風を起こすのも最後ですね」
と、微笑みながら、別れを惜しむ感じだった。
「そうですね~。曹操さんには後で鼻血の話をしておくので、これで安心ですね~」
「ふ、風!!」
ほんとに良い性格してるよ、この娘は。
「そうか、お前たちは仕えるべき主を見つけたか」
星と魏延さんがやってきた。
「星殿・・・・・・。ところで、星殿はどうなさるのですか?」
「ふむ、ある程度の目星は付いているのだが、もう少し旅を続けようと思う」
「そうですか」
そう言った、戯志才さんは少しさみしそうだった。
「あぁ。そこで曹操殿、貴方の軍に客将として着いて行ってもよろしいだろうか?」
「えぇ、構わないわ。優秀な者を拒む理由が無いもの」
曹操の元に趙雲か。やっぱりここは俺の知ってる三国志とは違うんだな。
「しかし、いきなりいなくなるかもしれませぬぞ」
「私が仕えるに値しないのならば、それも致し方無いでしょう」
「なれば、遠慮無く」
どうやら、これで三人の進路は決まったみたいだ。
「き、桔梗様」
「・・・・・・、どうした焔耶?」
「私は、甘えていたのでしょうか?」
「どうしてそう思うのだ?」
「先日、趙雲から私の弱さを指摘されました。そして今日、楽進が戦前に話していた、仲間への信頼。戦いの中で見た、于禁と李典の想い。北郷を形成する本質。それらに触れました」
「ほう」
「いずれも今の私には無いものだと思います。しかし、無くてはいけないものだと思います。それが無くて本当に戦っていると言えるのでしょうか?」
「そうか。ようやく気付いたようだな、焔耶。確かに今までのお前は甘えておったよ。いや、甘えていることすら分かって無かっただろうな」
「そう、ですね」
「これからどうするつもりだ? 北郷のもとに行くのか?」
「っ! どうしてそれを」
「馬鹿め。いつからお前と一緒に居ると思っておるのだ。儂に話しかけてきたときから分かっておったわ」
「し、しかし、よろしいのですか?」
「構わん、行け。お前はまだ若い。自分のすべきと思ったことはやってこい。それに、北郷ならきっとお前にとって良い影響を与えてくれるだろう」
「はい! ・・・・・・では桔梗様、お元気で」
「ふっ、貴様に心配されるほど老いてはおらんわ」
「焔耶! では、またな」
「良かったの、桔梗? 焔耶ちゃんを行かせてしまって?」
「良いも悪いも無かろう。ああでも言わんとあやつは行かぬ」
「そうじゃなくて。桔梗が淋しいんじゃないの?」
「ぬかせ」
「まったく、素直じゃないんだから」
この後、俺、曹操さん、厳顔さんの三人で話し合って戦後処理をしていった。
俺は辞退したのだが、二人の薦めによって襄陽の太守を任されることになった。
曹操さんが朝廷にかけあってくれて、後日正式に任命されるらしい。
それと、趙雲さんと旅をするか迷ったそうだが、魏延さんがうちの軍に来てくれた。
まぁ、とりあえず街に戻ったら、うちの三羽鴉に飯をおごらなくては。
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ほんとに遅くなりました
今回はかなりのスランプ(自分がスランプに陥る程、文章力があるとは思えませんがw)で、いつにも増して自信がありません
結構、意外な感じに人々が動いてくれた気がするのですが、どうでしょうかね?
恐らく、今回は消化不良の回になると思います
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