No.160195

真・恋姫†無双 ~天ハ誰ト在ルベキ~ 第伍話 カイコウ

桜花さん

今回は早いです
テスト前なので、やる気が出ましたね←
桔梗の喋りが祭さんと混じったので、萌将伝発売一日前に真をインストールし直して一応確認しましたwww
萌将伝はいろいろ言われていますが、取り敢えずやってから感想なりを言おうと思います
やらずには何とでも言える気がするので

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2010-07-24 02:39:56 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:4501   閲覧ユーザー数:3613

 こんな早くに開戦するはめになるとは思っていなかった。

 見積もりでは最短で明後日の予定だった。

 その為に今日まで強行軍気味でここまで来て、翌日に軽めの行軍・休養で英気を養い、一気にけりをつける。

 全く、どうしてこうなったのか。

 哨戒中の敵軍と遭遇、更に援軍まで呼ばれてしまうとは。

「やれやれ、どうしたものか」

 向こうはなかなかに質が良い兵士が揃っていた。

 こちらも質では引けは取らないが、如何せん強行軍でここまで来たもので士気が低い。

「奇襲・伏兵あたりで仕掛けられらば、流れがこちらに来るのだが・・・・・・な」

 独白と共に武器を左方に構える。

 その肩には『酔』と一文字書かれた肩当てがある。

「ぐわぁ」

「ぎゃあ」

 轟音が鳴り響き、襲いかかって来る敵を撃ち落とす。

 構えた武器は弓とも銃ともいえぬ、その名を豪天砲といった。

 倒れた敵兵の更に奥、左軍を見遣る。

 一人の女性が先陣を切っている。

 しかし、敵は彼女の周りには存在しなかった。一定の距離以内に入ると敵が倒れて逝く。

 金色の弓、颶鵬が放つ矢は寸分の狂いなく敵を射つ。

「流石は弓の名手、黄漢升といったところだな。紫苑にはこの程度の雑魚、相手にならん」

 安心してその様子を見ているとこちらの視線に気付いたようだ。

 真名に相応しい紫の髪をたなびかせ、紫苑は大丈夫とでも言うように笑みをみせた。

 あの様子では兵たちが恐慌状態になることは無いだろう。

「破ぁぁぁぁぁああぁ!!」

 逆の方向、右軍から咆哮が聞こえる。

 白と藍の髪をした女性が巨大な鉄棍棒、鈍砕骨を振るい、敵を屠っていく。

 名を魏延文長、真名を焔耶という。

 少々前に出過ぎと思わないでもないが、敵を殲滅していく姿は士気の底上げにつながる。

「いままで演習ばかりで、実戦は久々だからな。焔耶の憂さ晴らしされている敵兵が気の毒にも見えてくるわ」

 この間にも、死体の山が積み上がっていく。凄惨な光景に敵の足も竦んでいる。

「やれやれ、これでもう少し落ち着いていれば、一人前なのだが」

 良く言えばのりやすいのだが、悪く言えば安定感が無い。それに命令違反をすることもある。

 あの様子では、将と認めるのはまだまだ先のことになりそうだ。

「さて、今はあやつらのおかげで何とか保っているが、このままではちと厳しい。何か策を練らねばな」

(儂が奇襲をかけに行くか? いや、大将が戦闘中に本陣から消えるのは危険すぎる。紫苑も焔耶も抜けられる状況にはない。しかし、・・・・・・。)

「伝令、黄忠様から伝令!」

「どうした?」

 伝令? この場面で何か伝えることなどあるのだろうか?

「敵軍後方から謎の軍の奇襲。黄巾党は錯乱状態に陥っています」

「なんだと!?」

 この近くに黄巾党討伐に軍を回せる様な太守はいなかったはず。

「魏延様から伝令! 正体不明の軍による奇襲! 敵の戦線が乱れております」

「そちらもか! して、旗の文字は?」

「「十文字が切られた旗が掲げられておりました!!」」

 敵の攻勢が強まる瞬間に側面からの迎撃。相当な軍師がついていると見て良さそうだ。

「ふむ、十文字か・・・・・・。天の御遣い殿がこの辺りの自警団を率いているという話を聞いたことがある。旅の者の話では、その牙門旗は十文字であったはず」

 天の御遣い、か。試してみるのも一興。

「いかがなさいますか?」

「よし、全軍で突撃をかける。わしの軍が斉射を行う。それを合図に突撃せい。」

「御意」

「そしてこの戦闘後、御遣い殿の軍に会談を求める旨を伝える使者をだせ」

「はっ」

 ここで負けたらその御遣いにも会えんし、酒も飲めんしな。

「聞けぃ、皆の者! 現在我らの軍は劣勢にある。しかし、天の御使い殿が援軍をよこしなさった。おかげで敵は混乱しておる。これより、全軍で突撃をかける! 我ら厳顔隊の斉射をお見舞いしてやれぃ!!」

「どうも、お招きありがとうございます。北郷一刀といいます。よろしく」

 目の前には三人。

 しかし、その三人ともが相当の手練れだろう。

「わしがこの軍の総大将の厳顔、今回の戦いでは世話になったな」

 握手を求められたので、握り返す。

 いろんな意味で圧力が凄い。今の俺はどんな顔をしているのだろうか。

「いえ、感謝される程の事じゃありません」

「そうか。いきなりだが、一つ聞いても良いか?」

 なんだろう、この視線。 落ち着かないというか、不快感を感じるというか。

「構いませんよ?」

「では、不躾な質問で悪いのだが、天の御使いとはお主のことか?」

「桔梗!!」

 紫髪の女性が諌めるが、特に厳顔さんは意に介していない様だ。

「いや、いいですよ。どうせ聞かれると思ってましたから。何と答えれば良いか分かりませんが、一応はそうです。」

 正解かは分からないが、これが今の俺が言える全てだ。

「一応?」

「管・・・・・・輅さんでしたっけ? その人が言った人に当てはまるのは確かに俺ですが、俺自身は自分が御遣いとも特別な人とも思っていませんので。大した力もないただの男ですよ。ただ、現状を憂いて人々を救いたいのは事実ですね」

「ふむ、そうか」

 どうやら、俺の答えに納得してくれたみたいだ。

「あと一つお願いしたいのですが・・・・・・」

「なんだ?」

「出来れば、俺のことは御遣いと呼ばないで頂きたい。名前なら、何とでも呼んでも良いので」

「ほう? 分かった。一刀殿でよろしいか?」

 俺の意図するところを理解してくれたのか、理由も聞かず受け入れてくれた。

「ありがとうございます」

「この自然体さが御遣いたる所以かもしれんな。先程は疑って済まなかった」

 最初の質問の時に感じた不快感は既になくなっていた。

 今流れているこの大らかな空気こそが、厳顔さんの本質なんだろう。

「そういえば、紫苑たちを紹介していなかったな。こっちは黄忠。そして、それが魏延じゃ。よろしくしてやってくれ」

「黄忠です、よろしく」

 紫の髪の女性が頭を下げる。

 黄忠。三国志では弓の使いと手して名をはせていたな。老いてなお、ますます盛んなことを老黄忠と言うんだっけ。

 っても、全然老けてないじゃん。むしろ若い。向こうとは結構違っているのか?

「あら? ふふふっ、御遣・・・・・・、すみません、一刀さんとは仲良くしていけそうですわ」

「そ、そうですか?」

 あれ? なんか俺、黄忠さんの中で好感度が上昇してるんですけど。なんでだろ?

「魏延だ。お前らの力なんて借りなくても、問題なかったのに。余計なことしやがって」

 今度は独特の髪の色をした人が名乗った。

 子供の頃、どこかで見た気がする。えっと、確か有名な人の書いた医者の漫画だと思うんだけど。顔に傷が有って法外な医療費を吹っ掛ける。だめだ、思い出せない。

「焔耶! 控えろ!! すまぬな、一刀殿」

 魏延さんは逆に第一印象は悪かったみたいだ。

 反骨の相があると主君を裏切るとか言われてるっけ。

 でも、やっぱりそうは見えない。

 どちらかというと、何かに迷ってる? いや、探してる? そんな印象だった。

「いえ、大丈夫です。こちらも紹介しますね。こっちにいるのが楽進。うちの軍の副将です。そして後ろにいるのが、左から趙雲、戯志才、程立です。彼女らには客将として、力を貸してもらっています。あと、于禁と李典という将もいるのですが、今は戦後処理に当たってもらっています」

「人に恵まれるのは良いことですよ。人たらしの才でもあるのかしら?」

 笑顔の黄忠さんとは対照的に厳顔さんは真剣な表情をしている。

「戯志才殿と程立殿は軍略に詳しいように見受けたが、今回の奇襲はお二人の立案か?」

「はい、一刀殿に頼まれて私たちが策を練りました。それがどうかなさいましたか?」

「いや、奇襲後にわしの隊の斉射を見切ったように射程外に軍を引かれ、こちらの突撃に合わせて挟撃していた。おかげでこちらとしては斉射は巻き込まない様、気にせず斉射出来たのでな。その眼力には感嘆させてもらった」

「厳顔様と黄忠様の弓術は世に聞こえていますからね~。正直、下がり過ぎたと思ったら、射程ぎりぎりで驚いたのですよ~」

 程立さんが会話に参加していた。

 絶対この場面では寝ていると思ったのに。

「ふふ、褒めても何も出んぞ? ・・・・・・。一刀殿、一つ頼みがあるんだが、良いですかな?」

 今までとは口調の重さが変わった。

「はい、何でしょうか?」

 気を引き締めて聞き返す。

「これから、黄巾党の砦を潰しに行くのだが、共同戦線を張ってくれんか? この辺りの地理はあまり明るく無い上に、今回の戦いで予想以上の負傷者が出てしまって、今の兵力ではいささかか心もとなくてな」

「勿論、協力させてもらいます。元々、そのつもりでしたし」

「そうか、それは助かる」

 協力することが決まり、ほっとしたのかようやく厳顔さんは表情を緩めていた。

「戯志才さん達はどうする? 厳顔さんの軍に行くの?」

「いや、この殲滅戦の間は一刀殿のところにいるつもりです。いきなり、将が増えても混乱のもとになりますからね」

「そうか、わかった。頼りにさせてもらうよ」

 ちょっと安心した。俺たちにとっって初の大きな戦いで凪たちだけで不安ということは無いが、残ってくれてほんとに心強い。

「よいかな。この後はどう攻めるかなのだが、紫苑と話していたが、あまり上手い案が出なくてな」

「えぇ、そこでお二人に良い策があるなら、意見を聞きたいのだけれど」

 程立さんが口を開いたが、聞こえたのは本人の声ではなかった。

「桔梗様! 紫苑様! こんなやつらに聞かなくても、私があんな雑魚どもを倒してみせます!!」

 魏延さんが興奮しながら声高に主張する。

 だが逆に、厳顔さんの纏う空気は反対に冷たくなっていった。

「焔耶!! 貴様という奴は・・・・・・。天幕の外に出ておれ! 頭を冷やして来い!!」

 一喝。その場が水を打ったかの如く静まりかえった。

「し、しかし」

 なおも反論するが

「くどいっ!」

 一蹴されてしまう。

「・・・・・・、分かりました」

 苦虫を噛み潰したような顔で、ようやく紡いだ言葉と共にこの場を去ってしまった。

「申し訳ない。あやつはまだまだ未熟で、武で全てが何とかなると思っていてな。後で、わしが言って聞かせる故、ここはひとつ」

 魏延さんは本当にそう思っているのだろうか。少なくとも俺にはそう思えない。

「はい、別に構いませんよ」

 しかし、今考えるべきはそれじゃない。この後の戦いが最優先だ。

「厳顔殿。魏延殿があれでは作戦に支障が出るのではないか?」

「そうかもしれぬ。しかし、この戦がどれほど大事なものか、いくら馬鹿なあやつでも分かっておるはずだ」

 趙雲さんの問いかけに、厳顔さんは遠いところを見ながら応えた。

「そうですね。黄巾党を倒して、民を救う。もし負けたら・・・・・・」

「官軍が負けた。しかも、高名な将の厳顔、黄忠の率いた軍です~。この話が漢全土に広がったら、漢は終わりますね~」

 戯志才さんの言葉を程立さんが引き継ぐ。改めてこの一戦にかかる重みを確認させられた。

「ですね。私たちに負けは許されません」

 そこにいる全員が覚悟を決めた瞬間だった。

 皆が寝静まった深夜。いつも通り鍛錬をしていた。

「桔梗様も紫苑様もあいつらまるめこまれてしまって。私の武ならば、黄巾党なんてすぐ殲滅できる。あの北郷というやつ、大した力も持っていないくせに大将面していやがって」

 戦場に突然やってきて、いとも簡単にあの状況を打開してみせた。

 では、私には何が出来るのだろうか? 作戦なんて考えられるはずもない。なら、自らの武で打開するしかない。しかし、今回の戦いでは・・・・・・

「こんなところで何をしておられるのかな? 魏延殿」

 どこからか声をかけられる。聞いたことはある気がした。

「趙、雲?」

 木の枝に座っている人影に問いかける。

「おぉ、名前を覚えてもらったとは光栄の極み。して、どうなされたかな?」

 音も無く飛び降り、こちらに近づいてきた。

 絡まれたら一番面倒くさそうなやつに見つかってしまった。

「き、貴様には関係ないっ!」

「ふむ。大方、厳顔殿と北郷殿への不満とやるせなさに嘆いていた、といったところですかな」

「っ!!」

 核心を突かれた。あまりに的を射ていて何も言えない。

「やれやれ、図星か。あれだけ自分の武を誇っていたくせに、行動はずいぶんと女々しい。誰もいないところで不満を垂れているとはな」

「貴様っ・・・・・・」

 言いたいことを言ってくれる。

「やる気かな。良いだろう。ここで、『強さ』とは何かを感じるのも悪くは無いだろう?」

「言わせておけば、いい気になって。後悔することになるぞ!」

 人の気も知らずに・・・・・・。貴様に私の何が分かるというのか!

「後悔? はて、何処に味合わせてくれる者がいるというのか?」

「ほざけ!!!」

 上段から、鈍砕骨を振り下ろす。

「ほう、なかなかの一撃だな」

 受け止めながら、笑みを浮かべてくる。

「なめるなぁぁああぁ!」

 連撃で攻め立てる。

 相手の反撃は無い。受けるので精一杯の様だ。

「破ぁぁぁあぁ!」

 今こそが好機。

「喰らえぇぇええぇ!」

 このまま攻め続けて終わりにしてやる。

「やはり、こんなものか。まだやるのか?」

 興味が失せた、とでも言いたげにこちらを見てくる。

「ふざけるな! 防戦一方の貴様が何を言う!」

 趙雲を睨みつけるが、あろうことか溜め息を吐かれた。

「ここまでやってまだ分からぬか。ならば、一撃で終わらせてやろう」

 互いに一旦距離を取る。

「受け止められるか! この一撃を」

 今までよりも、数段早く重い一撃を放つ。確実に捉えた。

 ――――――はずだった。

「やれやれ」

 鈍砕骨の一撃を悠々と躱され、背後を取られた。

「馬鹿なっ。あれを躱せるなら、さっきまでの戦いは・・・・・・。まさかっ!」 

「ご明察。あえて受けていただけだが? 今の一撃も申し分ないが、まだまだ甘いな」

 その瞬間、腹部に衝撃を感じた。

「がふっ」

 体が崩れ落ちる。呼吸が苦しい。

 しかし、意識を失う訳にはいかなかった。

 それすらも見透かしているのか、こちらを向きながら喋り始めた

「唯一のとりえの武で負けたお主には追い打ちかもしれんが、言わせてもらうぞ。本当の『強さ』について考えているのか? 貴様は何の為に鍛錬しているのだ? 黄巾の屑どもはさておき、信念を持って明確に成すべきことが視えている人をお前が越せるはずがない。恐らく貴様では今戦っても北郷殿にすら勝てまいよ。いや、まず同じ土俵にすら立てておらんな」

「そんなこと・・・・・・」

「第一、貴様は厳顔殿の庇護のもとでただ暴れているに過ぎん。何も考えず、自分が好きなことを好きなようにしているだけだ。一切の責任を負わずにな」

「なっ」

「そんな餓鬼の遊びの中の戦闘なら、貴様は強い。漢の中でも上位に入るだろう。だがな、戦は遊びではない! さまざまな人がさまざまの想いを持って戦っている」

「わ、わかっている、そんなこと!」

「本当か? 私にはそう思えんな。誰しもが生きていく上で責任を負って生きている。特に戦場での指揮官ともなればなおさらだ。部下の死に責を持ち、主の命を守る責を持ち、自分を想う人ために生き残る責を持つ。まだ、軍を創って一月程度の楽進殿も、初めて戦に出たばかりの北郷殿ですら、己の責任を全うしようと努力している。その想いこそが、その気持ちこそが真の『強さ』となり得る!! ところが、どうだ貴様は? 餓鬼の喧嘩を繰り返しているだけではないか。そんな者が私一人で、黄巾党を倒せる? 北郷は大したことない? 馬鹿も休み休み言え!!」

「っ!」

「明日の戦い、自分の取る行動についてよく考えてみるといい」

 そう言い残して、趙雲は去って行った。 

「わ、わたしは・・・・・・」

 その口からはどんな言葉も生まれてこなかった。

「趙雲さん」

 兵糧置き場を過ぎたあたりで呼びとめられた。

「おや、北郷殿。いつからそこに?」

「俺も魏延さんと話がしたくてね。ほどんど最初から聞いてしまったよ」

「そうですか」

 やれやれ、聞かれてしまっていた様だ。我ながらに少し恥ずかしい。

「すまない」

 いきなり謝られてしまった。

「何を謝られているのですか?」

 盗み聞きとは思っていないので、怒るつもりもないのだけど、北郷殿らしい。

「俺が不甲斐ないせいで、趙雲さんに迷惑かけてしまったじゃないか」

 おや、私に迷惑をかけたと思っている? 予想外だったが、これはこれで北郷殿らしい。

「それは違いますぞ。私は私がしたいからやったまでで、北郷殿には関係ありませぬ。それに昔の私に似ておりましてな」

 伯珪殿のところにいた頃の思い出が浮かんでくる。

「昔の?」

「ええ、一人で旅していた頃でした。あの頃は私も自分が一番強い、だれにも負けないと思っておりまして」

 一人で敵軍に突っ込んだ挙句、敵の量に押し切られそうになったのを愛紗たちに救われた。

 あのときから本当の『強さ』を考え始めたのだったかな。

 その後、風と稟に会って、一緒に旅してここまできたのか。

「そうなんだ」

「だから、北郷殿は気にしないで下され」

 そう言うと、北郷殿は微笑していた。

「そっか。なら、ありがとうって言わせてくれないか。俺を認めてくれたことにさ」

 この言葉と一緒に。

「ふむ。なれば、その感謝ありがたく受け取りましょう」

 やはりこの方は凄い御仁だ。我が主はこの方なのかもしれない。

「ありがとう」

「ふふっ、ではこれにて」

 頬が熱くなって来たの隠そうとこの場を離れようとする。

「えっ、あぁ、ちょっと待って、趙雲さん」

 呼びとめられた。

 ・・・・・・、趙雲さん、か。この方にこう呼ばれるのは何故か淋しい。

「星で構いませぬよ」

 真名で呼んでもらいたかったのかな、私は。

「へっ? 良いのかい?」

 やれやれ、この方は本当に・・・・・・。

「えぇ、貴方は私の真名を預けるに値します故」

「分かった。じゃあ、趙雲子龍の真名『星』を預からせてもらう。ありがとう、星」

 しっかりと預かって頂いた。

 大事なところは分かっているのか、いつも鈍感過ぎるだけなのか。

「北郷殿はもしかして楽進殿たちの時も聞き返したのですかな?」

「う、うん。真名は大事なものだって聞いたからさ」

 確かにそれはそうなのだが、これだけは言っておいた方が良いかもしれない。

「はぁ、それは治した方が良いですな。北郷殿がやってることは、相手に見る目が無いと言っている様なものですぞ。大事なものなればこそ、素直に受け取るべきではないですかな?」

「えっ、そうなのか!? まずい、やっちまったよ、俺。と、とりあえず、ごめんなさい!!」

 これからも、真名を預ける人は苦労しそうだと思った。

「構いませぬ。そういう人だと分かっています故。そういえば、何故私を呼んだのですかな?」

 いつもと変わらない表情だが、真剣さが増している様にも見える。

「魏延さんはこれから先に進めるかな?」

 やはり、中身は北郷殿か。ここで愛の言葉でも囁けば、女などすぐにでも落ちるというのに。

「それは本人次第でしょう。ここで不貞腐れて全てを放棄するならば、もはやそこいらの盗賊と変わりませぬ。しかし、これが何かのきっかけなれば、化けるかもしれません」

 これは本音であった。これからもあの振る舞いが続くならば、きっと野垂れ死にがせいぜいであろう。

「そうか、なら何とかなりそうかな」

「そうですかな?」

 あまりに楽観的な言葉に、咄嗟に聞き返してしまう。

「これが何かのきっかけにならない訳が無いじゃないか。もし駄目そうなら、星の行動が無駄にならないように俺が頑張るさ」

 殊に人の気持ちを敏感に感じられる方だ。但し、恋事以外ではあるが。

「ほう、言いますな」

「うん、これくらいはしないと。そして、呼びとめたのはもう一つ言いたいことが有って」

「?」

 まだあるのか?

 明日の作戦で変更でもあったのだろうか。

「俺の覚悟を伝えたくてね。あの、俺さ、みんなの想いに応えられるように、俺の想いを伝えられるように、そしてもっと星から認められる様に頑張るよ。もっと『強く』なる」

「っ///」

 こ、この方は・・・・・・。

「じゃあ、明日も早いから俺は寝るよ。お休み、星」

 自らの覚悟を伝えると、そそくさと去ってしまった。

 全く、人の心をかき乱していなくなるとは。

「やれやれ」

 その言葉は相手に対する言葉だったのか、それとも自分に対する言葉だったのか・・・・・・。


 
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