No.165438

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第二十九話

狭乃 狼さん

第二十九話、荊州編・拠点イベントのラストです。

そして、次へと続くその取っ掛かり的話とともに、

お送りします。

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2010-08-13 11:14:04 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:15580   閲覧ユーザー数:13228

 「久しぶりね、朱里、雛里。二人とも、元気だった?」

 

 「うん。お姉ちゃんも元気で良かった」

 

 「は、はい。元気でしゅ!あわわ」

 

 襄陽城の一室。久々の再開を喜び合う、諸葛姉妹と、龐統がいた。

 

 「茉里は?」

 

 「今は新野に居るよ。近いうちにこっちに越してくる予定ではあるけど」

 

 「一人で暮らしてるの?大丈夫なの?」

 

 もう一人の妹である、諸葛均を心配し、妹に問う諸葛謹。

 

 「一人じゃないよ。黄さんが一緒に居るから」

 

 「黄?……まさか、月英?」

 

 その名を聞いたとたん、あからさまに不機嫌な顔をする諸葛謹。

 

 「う、うん。……もしかして、まだあのこと怒ってるの?」

 

 恐る恐る、姉に尋ねる諸葛亮。

 

 「……あたり前でしょ?絶対に許すことなんて出来ないわ!!あの子とは、今後も決して、意見が合うことはないわ!!」

 

 「はわわ。そりゃ、お姉ちゃんの言うことはわかるけど」

 

 「でしょ?!私は絶対認めない。よりによって、よりによって……」

 

 こぶしを握り締め、わなわなと震える諸葛謹。そして。

 

 「劉邦×韓信は無いでしょう!?かりに組み合わせは良いとしても、劉邦様が攻めだなんてありえない!!」

 

 そう力説する諸葛謹。

 

 「あわわ。で、でも、劉邦さまは総受は無いと思いましゅ。あわわ」

 

 諸葛謹の言葉に、そう反論する龐統。

 

 「そうだよね。劉邦さまはどちらかというと、表裏自由(リバーシブルの事と思われる)だよ、お姉ちゃん」

 

 「何言ってるの二人とも!!劉邦様は総受!!そして項羽さまに攻められる!!これしかないでしょうが!!」

 

 ぎゃあぎゃあと、不毛な論争を延々と続ける三人であった。

 

 

 

 一方その頃、中庭では。

 

 「雪蓮、あなた本気なの?」

 

 「一刀との事?本気も本気よ。……なあに?もしかしてやきもち?」

 

 周瑜の顔を覗き込む孫策。

 

 「べ、別にそういうわけではない。ただ私は、蓮華さまのお気持ちをだな」

 

 顔を赤くしたまま、そっぽを向いていう周瑜。

 

 「そうね。蓮華には悪いと思ってるわ」

 

 「なら」

 

 「でも仕方ないじゃない、惚れちゃったものは。母様だって同じよ。年も立場も関係ないのよ、色恋ってのは」

 

 真顔でそんなことをいう孫策。

 

 「だからと言ってだな」

 

 「後悔したくないじゃない?あの時あー言えば良かった、とか。あそこであーすれば良かった、とか。そんなこと考えながらなんて、死にたくないじゃない」

 

 周瑜の言葉をさえぎり、一気にまくし立てる孫策。

 

 「な、何を縁起でもないことを……!!」

 

 「そ~お?人間、誰だっていつかは死ぬんだもの。なら、最後の瞬間に悔いは残したくないじゃない」

 

 自分の言を諌める周瑜に、笑顔で言う孫策。

 

 「……話はわかった。けど、二度といわないで。……死ぬ、だなんて事」

 

 孫策に背を向け、そうつぶやく周瑜。

 

 「……うん。ごめんね、冥琳」

 

 「……わかってくれればいい」

 

 ぎゅ、と。周瑜の背に抱きつく孫策。そして、くすりと笑いをこぼす周瑜であった。

 

 

 

 場面は再び変わり、劉琦の私室。

 

 そこを今、一人の医者が訪れていた。

 

 「……どうですか?私の病、治癒の見込みはありそうですか?」

 

 衣服を直しながら、その医者に問う劉琦。

 

 「……すまん。……くそ!!医者の癖に患者を救えないとは、五斗米道継承者の名が聞いて呆れる!!」

 

 座したまま、床を思い切りたたきつける医者。姓名を華佗。字を元化という。漢中を発祥とする医術、五斗米道の継承者である。

 

 「……そう、ですか。……ありがとうございます、華佗さん。これで踏ん切りがつきました」

 

 「え?」

 

 死刑宣告を受けたに等しい答えを、医者の口から聞かされたというのに、劉琦は笑顔で華佗に礼を言った。

 

 「今日のことは他言無用でお願いします。……時が来たら、自分の口で皆に伝えますから」

 

 「……わかった。この華佗・元化の名にかけて、決して秘密は漏らさない」

 

 「ありがとうございます」

 

 それから暫くして、華佗は部屋を出た。

 

 「……強い女性(ひと)だ。先が長くないと知って尚、あんな毅然とした態度が取れるとは。……俺もまだまだ修行に励まねばな」

 

 そんな決意をする華佗。そこへ。

 

 「貴方が華佗ね?ちょっと良いかしら?診て欲しい患者が居るんだけど」

 

 華佗を呼び止める、一人の女性。

 

 「ん?あ、ああ。もちろん構わん。で、患者はどこだ?」

 

 「患者は二人。うちの部下の周公謹。そして、」

 

 言葉をいったん切り、そして、

 

 「……このあたしだ」

 

 にこりと笑顔で言う、孫堅であった。

 

 

 

 それから半月ほど後。

 

 襄陽の玉座の間に、荊州の将と文官、そして、柴桑に戻った孫堅たちの名代として、孫権と呂蒙、甘寧の姿があった。

 

 玉座には、数日振りに顔をみせた劉琦が座り、その隣に妹の劉琮も同席していた。

 

 「みなさん、わざわざ集まってもらって申し訳ありません。今日は大事な話を、皆さんに聞いていただかなければいけません」

 

 居並ぶ諸将を見渡し、話を始める劉琦。その顔は見るからにやせこけて居るが、その瞳には強い意志が見て取れた。

 

 「……それで、大事なお話って何?沙耶ちゃん」

 

 劉備が劉琦に問いかける。

 

 「……私は、父亡き後、皆さんのお力添えで、こうして荊州の牧を務めてこれました。本当に、皆さんには感謝しております」

 

 そう言って、一同に頭を下げる劉琦。

 

 「何だよいまさら改まって。今までやってこれたのは沙耶の人徳だよ。俺たちはほんのちょっと手伝っただけさ」

 

 笑顔で劉琦に語りかける一刀。

 

 「叔父上のお言葉、とてもうれしく思います。ですが、……先日、医師に見ていただきました。その結果ですが」

 

 一旦言葉を区切り、そして、

 

 「……私は、私の病は残念ながら、不治の物だそうです。もって後半年といったところだそうです」

 そう、笑顔で言う劉琦。

 

 『……』

 

 言葉を失う一同。

 

 顔をうつむけ、姉の横で涙を流し始める劉琮に、諸葛亮が気づく。

 

 「美弥ちゃんは知ってたんですね?」

 

 「……はい。昨日の夜、姉上から聞きました」

 

 涙をぬぐいながら、そう答える劉琮。

 

 「何でもっと早く言ってくれないんだよ?!華佗さんだって何も言ってなか……って、沙耶、もしかして」

 

 「はい。華佗さんには私が口止めしました。今日という日までに、あることをするために」

 

 「あること?」

 

 「伊籍さん、お願いします」

 

 「……はい」

 

 名を呼ばれた伊籍が、ひとつの箱を持ち、一刀の前に歩み出る。そして、一刀の前に跪き、その箱を両手でささげる。

 

 「い、伊籍さん?」

 

 「劉翔さま、どうぞお受け取りください。許の帝より送られてまいりました、新たな、荊州牧の印綬にございます」

 

 「……え?」

 

 伊籍の台詞が終わると同時に、その場に同席していた劉琦の家臣たち、そして、劉琮までもが、一刀に平伏した。

 

 

 

 「ちょ、あの、沙耶?これって一体、何の冗談?」

 

 動揺し、思わず劉琦に問いかける一刀。

 

 「冗談ではありませんよ、叔父上。許の帝に、体調の不良を理由として、すべての役職を返還する旨をお伝えしました。そして、私の跡に、一刀おじを推しました。みなにも、このことは承知してもらっています」

 

 そう言って、自らも玉座を立ち、一刀の前に回る劉琦。

 

 「けど!!跡継ぎならまだ美弥ちゃんがいるじゃないか?!確かに年は若いけど、そこは皆で……」

 

 「叔父上!!」

 

 「!!」

 

 一刀の言を、大声で遮る劉琦。その迫力に、思わず身を固くする一刀。

 

 「叔父上は孫堅さんに言われたそうですね。民のためなら、血縁による継承にはこだわらない、と」

 

 「う。そりゃ、確かにそういったけど」

 

 「能あるものが上に立つ。それこそが民のためになること。それを聞いて、私の決心は固まったんです」

 

 そこまで言って、一刀のまえにひざまずく劉琦。

 

 「叔父上。どうか私に代わって、荊州を良く治めてください。私の、最後のわがまま。どうか、お聞き届けください」

 

 頭を下げる劉琦。

 

 「……」

 

 一刀は何も言わず、ただ黙りこくった。すると。

 

 「お兄ちゃん」

 

 「義兄上」

 

 「お義兄ちゃん」

 

 「主殿」

 

 「ご主人様」

 

 「カズくん」

 

 「一刀兄」

 

 「一刀さん」

 

 「……一刀」

 

 「一刀」

 

 「一刀」

 

 一刀の名を呼びながら、劉備たちが次々と臣下の礼をとっていく。

 

 「皆……」

 

 それを見た一刀は、

 

 「……俺に、そんな才覚があるとは、正直自分では思ってない。でも、皆がこれからも、俺を支えてくれるというなら、俺はそれに応えたいと思う。だから」

 

 伊籍が差し出している箱を、受け取る一刀。

 

 「出来るだけの事はしてみたいと思う。……皆、これからも、よろしく頼みます」

 

 『はい!!』

 

 

 

 その日の夜、一刀の荊州牧就任を祝う宴が盛大に行われた。

 

 町の人々はその発表に驚いたが、それでも、一刀のことを諸手をあげて受け入れた。

 

 一時の平穏。

 

 そうでしかないことは誰もがわかっていた。

 

 そして、それが現実として突きつけられる報せが、それから数日後に届いた。

 

  

 

 河北の袁紹、官渡にて曹操に敗れ、行方不明となる。

 

 

 

 それを聞いた一刀は、ただ一言、悲しそうに呟いただけだった。

 

 「……そっか」

 

 と。

 

 


 
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