No.164717

真・恋姫無双 刀香譚 ~双天王記~ 第二十八話

狭乃 狼さん

第二十八話、荊州編その後、呉編です。

柴桑に戻った孫堅から、とんでもない事を言われた蓮華。

そして・・・・・・・。

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2010-08-10 10:55:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:16824   閲覧ユーザー数:13958

 「帰ってきて早々、何を考えているんですか!!」

 

 「いいじゃない。結構悪い話じゃないと思うけど?」

 

 孫家の居城、柴桑城の玉座の間。江夏から戻ってきた母・孫堅を、孫権は笑顔で出迎えた。だがその翌日、その母がとんでもないことを言い出した。

 

 「か、一刀とけ、結婚しろだなんて、そんな、そんなこと突然言われても……」

 

 真っ赤になって動揺する孫権。

 

 「私も反対です!!聞けばあの劉翔と言う男、相当な女たらしと言うではないですか!そんな男と蓮華さまが婚姻だなどと……!!」

 

 「思春、主家の縁談話に、家臣がしゃしゃり出るのかい?」

 

 猛烈に抗議する甘寧を、孫堅が睨み付ける。

 

 「い、いえ、その……」

 

 その迫力にたじろぐ甘寧。

 

 「蓮華、何もすぐに結婚しろとは言ってないよ。あたしだって、一度しか顔を見てない男の嫁に、大事な娘をやろうなんて思わないさ。けどね」

 

 一度言葉を切る孫堅。

 

 「孫家が今後、大陸で生き残るためには、確固たる同盟者が必要だ。その相手にあたしは劉北辰という男を選びたいと思う。けどその前に、一度じっくり話を聞きたい。そのために、お前と劉翔の婚約を、向こうに持ちかけるんだ」

 

 「……母様が向こうに直接乗り込むための、名分が要るというんですね?」

 

 「そういうことさ。……もっとも、気に入ったらその場で婚約ってことになるけどね」

 

 にやりと笑う孫堅。

 

 「堅殿。策殿ではだめなのか?」

 

 一人の女性が孫堅に問いかける。

 

 「もちろん雪蓮でもいいさ。事と次第によっちゃ、あたしでもいいしね」

 

 「ちょっ!母様?!」

 

 「文台さま、本気ですか?!」

 

 「堅殿、もすこし自分の年というものを」

 

 「……祭、年がどうしたって?」

 

 孫家の宿将にして、自身の親友である黄蓋に、にっこり笑顔を向ける孫堅。

 

 「あー、いや。なんでも」

 

 あわてて目線をそらす黄蓋。

 

 「冗談はそれぐらいにして、だ。まずは先触れの使者を出さないとね。ふ~む」

 

 居並ぶ諸将を見渡す孫堅。と、一人の女性にその視線が止まる。

 

 「よし。優里、荊州への使者、あんたに任す」

 

 「ふえ?私ですか?」

 

 名を呼ばれ、なぜか首をかしげる女性。

 

 「確かあっちには、あんたの妹がいたはずだね。久しぶりに顔を合わせてくるといいさ。頼んだよ、諸葛子瑜」

 

 「は、はい。承知いたしました~」

 

 喜々とした表情で答える諸葛謹であった。

 

 

 

 ところ変わって襄陽。

 

 「けほっ、けほっ」

 

 「大丈夫かい、沙耶」

 

 「……はい。すみません叔父上。この忙しいときにこの体たらくで……」

 

 一刀に謝る劉琦。

 

 「謝ることはないさ。後数日もすれば、大陸一の名医と呼ばれる人が着く。そうすればこんな病気、すぐに治るさ」

 

 笑顔で劉琦に答える一刀。そこへ。

 

 「失礼します。揚州よりの御使者が参られております」

 

 部屋に入ってきてそう告げる関羽。

 

 「わかりました。おじ上、お願いいたします」

 

 「うん。沙耶はゆっくり休んでて。行こうか、愛紗」

 

 「は」

 

 部屋を出て行く一刀と関羽。

 

 「……けほっ!けほっ!!……どうやら、私も永くない、かな。美弥はまだちいさいし、この先の世の中を生き残れる才覚があるかどうかは判らないし。……なら、私が為すべきは……」

 

 自身の手の平についた血を見ながらつぶやく、劉琦だった。

 

 

 

 一方玉座の間では。

 

 「お初にお目にかかります。孫文台の使者としてまかりこしました。姓は諸葛、名を謹。字を子瑜ともうします」

 

 「遠路ご苦労様です。私は劉翔、字を北辰にございます。本来ならば牧たる琦君がこの場に居らねばならないのですが、只今病にて臥せって居りますれば、私が名代としてお話を伺います」

 

 深々と頭を下げて挨拶をする諸葛謹に、そう返事をする一刀。

 

 「ご丁寧にありがとうございます。琦君には、ぜひご自愛をと、お伝えください。では、主君・孫文台よりの書状にございます。お目通しのほどを」

 

 文官を通じて、一刀に書状を手渡す諸葛謹。

 

 「……あの。これ、本気なんでしょうか?」

 

 「はい、いたって」

 

 書状に目を通した一刀が、思わず諸葛謹に問い、諸葛謹もそれに答える。

 

 「お兄ちゃん。孫堅さん、何を言ってきたの?」

 

 一刀に問いかける劉備。

 

 「……その、な。俺と、蓮華を、婚約させたいって」

 

 『……。ええええええええええええっっっっっ!!!!!!!』

 

 

 

 それから三日後。孫堅一行が襄陽を訪れていた。

 

 「洛陽以来だね。元気そうで何よりだ。まずは、先の江夏攻めについて、謝罪をさせてもらいたい。手前勝手に戦を仕掛けたこと、すまなかった。この通りだ」

 

 襄陽城の迎賓の間。いすに座ったまま、一刀に深々と頭を下げる孫堅。

 

 「……頭を上げてください。月-董卓さんから話は聞きました。貴女の考えはもっともだと思います。けど、家-というより、血筋だけにこだわるのは、正直どうかと俺は思うんです」

 

 「血縁による継承は危ういって言うのかい?」

 

 顔を上げ、一刀にとう孫堅。

 

 「血縁継承そのものを否定するわけじゃありません。実際、貴女のご息女、伯符さんや蓮華は優秀な人物ですし。ですが」

 

 「その子や孫まで、有能とは限らない、か」

 

 孫堅の後ろに立つ周瑜が、ポツリともらす。

 

 「そうね。漢室に限らず、これまでの王朝の歴史を見れば、劉翔くんの言うことも分かるわね」

 

 周瑜に続いて言う孫策。

 

 「……なるほど。じゃあ聞くけど、あなたの子が跡継ぎにふさわしくない人物だった場合、あなたはどうする?」

 

 一刀の目をまっすぐに見据え、問いかける孫堅。

 

 「……その下にいる兄弟が優れているならその子に。それでも駄目なら、優れた子を市井から探し出し、養子にして後を継がせます」

 

 『!!』

 

 一刀の口から出た言葉に、孫堅たちのみならず、劉備たち荊州側の者たちも、驚きを隠せなかった。

 

 「民を守るために、最も優れたものに後を任せる。当然のことでしょう?」

 

 そう言って、にっこりと微笑む一刀。

 

 そして、それを見て思わずどきりとする、孫堅、孫策、周瑜の三人。

 

 (な、なんだ?なんであたしはこんな小童の笑顔で……!!)

 

 (やば。蓮華に譲るのもったいなくなってきた)

 

 (ばかな?!わ、私がこんな、こんな感情を……!!)

 

 「あの、どうかしたんですか?」

 

 「「「!!い、いや、なんでも!!」」」

 

 一刀の一言で、はっとわれに返る三人。

 

 (……桃香、一刀の”あれ”、相変わらず見たいね)

 

 (うん。……本人無自覚の、”落としの笑み”。……あ、なんか腹立ってきた)

 

 ひそひそと話す劉備と孫権。

 

 

 

 「劉翔。はっきり言わせてもらうよ。あたしたちは荊州、いや、もっと端的に言えば、あんたとの同盟を望む。だから」

 

 ずい、と。一刀の方へ体を乗り出す孫堅。

 

 「あたしの婿になれ!!」

 

 『うぇぇぇぇええ~~~~~!?』

 

 大驚愕の一同。

 

 「ちょっと母様!そうじゃないでしょ!!」

 

 とんでもないことを言った母に詰め寄る孫策。

 

 「そうです文台様!劉翔と婚姻する話だったのは」

 

 「劉翔くんと結婚するのは私なんだから!!」

 

 『はいぃぃぃぃぃ?!』

 

 主君を諌めようとした周瑜の言をさえぎり、今度は孫策がそんなことを言い出す。

 

 「姉様まで何を言い出すんですか?!」

 

 「悪いけど蓮華。ここは譲らないわよ。ねぇ、劉翔くん。私のことは、これからは雪蓮、って呼んで。よろしくね、未来のだんな様!」

 

 そう言って一刀に抱きつく孫策。

 

 「待たんか雪蓮!言い出したのはあたしが先だよ!?劉翔、あたしの真名は蓮陽だ。今後はそう呼んでほしい。さ、そうと決まったら早速四人目を作ろうじゃないか!!」

 

 孫策とは反対側の腕にしがみつき、そんなトンデモ宣言をする孫堅。

 

 「よ、四人目、って!!姉様も母様も何を考えてるんですか!!」

 

 「そうです!!お兄ちゃんはわたしのです!!誰にも渡しません!!」

 

 「ちょっと!?劉備あんた、実の兄妹でしょうが!!」

 

 「関係ないです!!は、な、し、て、く、だ、さ、い!!」

 

 母と姉を叱咤する孫権と、一刀に背中から抱きつき、二人を引き離そうとする劉備。

 

 一刀はというと、

 

 「あの~、俺の意思は?無視?無視なんですか?」

 

 自身を置いてけぼりに進む騒動に(その原因が自身であることに気づかず)、複雑な表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 結局次の日、劉・孫同盟は締結される運びとなった。

 

 で、あれからどうなったかというと、

 

 「か~ずと。はい、あ~ん」

 

 「ほら一刀。これも美味だよ?はい、あ~ん」

 

 「か、一刀。こ、これもおいしいわ。ど、どう?」

 

 「お兄ちゃん。あたしのも、はい。あ~~~~ん」

 

 「義兄上。わたしも一つ作ってまいりましたので、ぜひ」

 

 「鈴々のもあげるのだ!!」

 

 「一刀さん。涼州から取り寄せた山菜で作ったんです。お一つどうぞ」

 

 「ちょっと月!そんなのこいつには勿体無いって!!」

 

 「一刀兄。妾のは蜂蜜たっぷりの料理じゃ!ぜひとも堪能してたも!!」

 

 「作ったのはわたしですけどね~~~~」

 

 「な、なあ、一刀?わたしのも一口どうだ?」

 

 「おい華雄!それはわたしの……!!」

 

 ……以上のような状況です。

 

 「は、はは、ははは。も、どうにでもしてくれ……」

 

 

 

 

 

 「馬鹿ばっかじゃの」

 

 「ですね」

 

 


 
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