「本当に無事でよかったよ、白蓮」
そう言って、笑顔で公孫賛の手をとる一刀。
「あ、ああ///ありがとう、一刀」
思いがけず手を握られて、真っ赤になりながら返事をする公孫賛。
荊州の騒乱が集結してから三日。
襄陽城の広間に、荊州に所属する将と文官が一同に会していた。全員の労をねぎらうためと、今後のことを話し会うためである。
「劉翔様、まずは御礼を述べさせていただきます。娘の璃々を自ら救い出してくださいましたこと、この黄漢升、本当に感謝いたします」
「おにーちゃん、ありがとう!!」
深々と頭を下げる黄忠と、その娘の璃々。
「頭を上げてください、黄忠さん。・・・正直言えば、全く打算がなかったわけでもないんですし」
頭を下げる黄忠に対し、申し訳なさ気に言う一刀。
「それでもですわ。危険を冒してまで城に潜り込み、見も知らぬものたちのために命を賭したのは事実ですもの」
そんな一刀に、笑顔で答える黄忠。
「そうじゃな。一刀兄がおらなんだら、妾たちはここに、こうしておらなんだも知れんのじゃ。胸を張ってよいのじゃぞ、一刀兄」
黄忠に続いて、袁術が一刀に言う。
「……いや、美羽と七乃さんにこそ、俺は謝らなきゃいけない。俺が余計なことをしなければ、そしてもっとうまくやれていれば、紀霊さんを死なせずに済んだかもしれない。二人とも、ごめん」
袁術と張勲に、頭を下げる一刀。だが、
「……ふざけないでください」
「え?」
張勲の言葉に思わず顔を上げる一刀。
「自分が余計なことをしなければ?もっとうまく出来ていれば?そんなものは自己満足の逃げ口上にすぎません。思い上がるのも、大概にしてください」
まっすぐに一刀を見つめ、その自己弁護に等しい台詞をたしなめる張勲。
「……」
一刀は二の句が告げなかった。張勲の言葉はまさしく正論だった。
「……ですから、二度と自分を卑下するようなことは言わないでください。紀霊さまも、うかばれませんから」
目に涙を浮かべ、それでも、笑顔を作って一刀に言う張勲。
「……そう、だね。今のはお兄ちゃんが完全に悪いね」
「ですな。主は女心というものが全くわかっておられぬ」
「そうね。女たらしのクセに、肝心なところはすさまじく鈍感だったりとかね」
立て続けに、一刀に非難の言葉を浴びせる、劉備、趙雲、賈駆の三人。
「ちょっと待て!!桃香はともかく、後の二人は言いがかりだ!!特に詠!!俺のどこが女たらしと?!」
その一刀の台詞に、
『はあ~~~~~~~~~~~』
と、その場の全員がため息をつく。
「な、なに?みんなして」
「一刀兄は心底鈍感なのじゃな。女装なんぞするくらいじゃから、女心も良く判っているかと思うたが」
「美羽!!それ、シー!!シーーーーーーッッ!!」
慌てて袁術の口をふさぐ一刀。
「じょ!女装ですと!?義兄上、まさか」
「へう~。一刀さんてそんな趣味があったんですか?」
「とうとう本性現したわね!この変態!」
女装、の言葉に、思いっきり引く関羽と董卓。そして一刀を罵倒する賈駆。
「そこ!思いっきり引かない!てか、俺は変態じゃない!!」
「女装趣味のあるやつを変態と呼んで何が悪いのよ!!この変態!!」
悲痛に叫ぶ一刀に、さらに容赦なく突っ込む賈駆。
「だから趣味じゃないっての!あれは潜入のために仕方なく……!!」
「その割りには、ずいぶんと手馴れていましたな」
弁明しようとする一刀に、趙雲が突っ込む。
「……一刀。はっきり言ったらどうだ?昔とった杵柄だと」
「白蓮!!」
「どういうことだ、白蓮」
公孫賛に華雄が問う。
「私塾に入ったばかりの頃な、一刀と桃香が良くやってたんだよ。入れ替わってのいたずらを、な」
「「う……」」
二人して顔を真っ赤にする、一刀と劉備。
「華琳や蓮華、それに麗羽のやつも被害にあってたっけな。……二人とも、水泳事件のこと、忘れていないだろうな?」
一刀と劉備を睨み付ける公孫賛。
「忘れてません!忘れてませんから、もう、勘弁してください、白蓮さん……」
なみだ目で訴える一刀と劉備であった。
「……あ。袁術ちゃんがかつてない顔色になってる」
「え?」
「……(ぴくぴく)」
一刀に口を押さえられたまま、顔を真っ青にし、白目をむいて痙攣している袁術。
「うわ!!ごめん!!」
「ぶはっ!!し、死ぬかと思ったのじゃ……」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫じゃ。……そういえば、川の向こうに手を振っているかかさまが見えたような気がするが」
(そ、その川って、三途の……?ぜんぜん大丈夫じゃないし)
「あの~。そろそろ本題に入りませんか?」
おずおずと手を上げていう諸葛亮。
「そ、そうだな。え~と、まずは」
「荊南諸城の扱いからいきましょうか」
一刀にそう提案する黄忠。
「そうだね。……まず、美羽の意見から聞こうか。現状、図らずも南郡の諸城は袁家の領地ということになってるけど、今後はどうしたい?」
袁術に問いかける一刀。
「妾としては、元の領主に城を還したいと思うておるがの。正直、妾たちだけでは南郡をすべて統治するのは、少々難しいしの」
まじめな顔で一刀に言葉を返す袁術。
「そっか。……朱里、各城の元城主さんたちはどうしてる?」
「それなんですが、皆さん、このまま袁術さんの下で働きたいと仰ってるんです」
「「は?」」
諸葛亮の言葉に、思わずあっけに取られる袁術と張勲。
「各城を落とすとき、紀霊将軍はでき得る限り、被害を出さないように苦心されました。陥落後は城主の方や民たちを手厚くもてなし、事情とともに謝罪をされてもいました」
黄忠が南郡攻略の際の様子を、一同に説明する。
「皆さん、紀霊将軍の最期を耳にされ、その忠心にいたく感銘を受けられたしょうでしゅ。はわわ」
「なので、紀霊将軍の分まで、袁術さんを支えて差し上げたいと、そうおっしゃってましゅた。あわわ」
かみながらも、交互に話す諸葛亮と龐統。
「……美羽、七乃さん。どうだろう?南郡の統治、引き受けてもらえないかな?」
「「……」」
一刀に問われ、顔を見合す袁術と張勲。
「……やってみたいのじゃ」
「美羽?」
「かかさまの望んだ為政者になるのが、妾の今の目標なのじゃ。民を愛し、民に愛される為政者になるのが」
一刀を見据え、はっきりという袁術。
「一刀兄。南郡は妾に任せてたも。必ずや、よく治めて見せるのじゃ!」
胸を張って言う袁術に、一刀はやさしく微笑み、
「わかった。……いいかい、沙耶」
隣に座る劉琦に確認する一刀。
「はい。袁術さん。貴女を荊州牧・劉琦の名の下、南郡の太守に任じます。……頑張ってね、美羽ちゃん」
太守の印綬を、にっこり笑顔で袁術に手渡す劉琦。
「御意、なのじゃ!」
笑顔で印綬を受け取る、袁術であった。
「さて、次はと」
「白蓮ちゃん、これからどうするの?」
劉備が公孫賛に問う。
「水蓮とも相談したんだが、このまま一刀の配下に加えてもらおうと思ってる。どうだろう、許してもらえるだろうか」
一刀に問う公孫賛。
「いいのかい?こっちとしては大歓迎なんだけど」
「ああ。よろしく頼む」
「こちらこそ。期待してるよ、白蓮。水蓮さん」
公孫賛と、その妹の公孫越に、微笑む一刀。そして、その笑顔で真っ赤になる二人。
「……やっぱり女たらしじゃない」
その様子を見て、なぜか不機嫌になる賈駆。
「詠ちゃん、なんで機嫌悪いの?」
「べ!別に機嫌悪くなんかなってないわよ!!ボクはただ……!!」
「……そっか(にこにこ)」
あせる親友を見て、優しい笑顔になる董卓だった。
「では、最後は私ですね。劉北辰様、この黄漢升、その幕下にお加えいただきたく思っております」
「もちろん喜んで。よろしくお願いします、黄忠さん」
「紫苑、ですわ。私の真名、お預けいたします」
そう言って、深々と礼をする黄忠。すると、一刀の目に飛び込んできたのは、
(う。桃香よりすごいんじゃないか、あれ)
目の前で、たゆんたゆんとゆれる黄忠の胸に、思わず目を奪われる一刀。
「……おにいちゃん、どこ見てるの?」
「……義兄上?鼻の下が伸びきってますが?」
「へう~~。一刀さん、フケツです」
「……やっぱり、一刀兄も大きいほうがいいのかの?」
一斉に、冷たい目を一刀に向ける一同。
「あ、あの、皆さん?目が、怖いんですけど?」
たじろぐ一刀。そこに、黄忠が一言。
「あらあら、仕方ないですわね。……ご主人様、よろしければ、今夜にでもお見せいたしますわよ?……もちろん、二人っきりで」
「是非!!……あ」
しまった、と。思ったときはもう遅かった。
「コンンンノ、スェッソウナシガーーーーーーーーー!!!!」
「アニヴエ!?オンドゥルラギッタンディスカーーー?!」
「こんのど変態!!天誅ーーーーーー!!」
「あんぎゃあああああーーーーーーー!!!」
三人の嫉妬神に、追いかけられる一刀。
「自業自得」
「さらば、一刀」
「安らかに永眠してください、一刀さん」
手を合わせて一刀の冥福を祈る、一同であった。なむ。
ちーーーーん。
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荊州の乱が終わって数日後。
襄陽の城に集まった、荊州の面々。
いろいろとお話中の様子をお伝えします。
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